将来のために資産形成を考えている人にとって、NISA(少額投資非課税制度)とiDeCo(個人型確定拠出型年金)は強い味方です。どちらの制度も多くの人が活用できるので、可能であれば併用も検討したいところです。この記事ではNISAとiDeCoの違いや併用のメリットとデメリット、両制度の使い分けについて解説します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定サービスの利用を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年5月時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
目次
- NISAとiDeCoの違い
1-1.NISAとは
1-2.iDeCoとは
1-3.一般NISA・つみたてNISA・iDeCoの比較
1-4.iDeCoとNISAの制度改正 - NISAとiDeCoを併用するメリット
2-1.非課税で多くの資産を作れる
2-2.多様な活用方法が選択可能 - 運NISAとiDeCoを併用するデメリット
3-1.多くの資金が必要
3-2.損失を被る可能性がある
3-3.iDeCoよりマッチング拠出が有利なケースに注意 - 状況別NISAとiDeCoのおすすめの使い分け方
4-1.子育て世代の人
4-2.自営業・フリーランス
4-3.生涯独身で過ごす予定の人
4-4.株式投資などの経験者
4-5.まとまった資金を有効活用したい人 - まとめ
1.NISAとiDeCoの違い
NISA(少額投資非課税制度)とiDeCo(個人型確定拠出型年金)は、目的の異なる別々の制度です。それぞれがどのような制度か基本を押さえておきましょう。
1-1.NISAとは
NISA(少額投資非課税制度)は国民に投資を普及させるために、運用益を非課税にする制度です。20歳以上の人が口座開設できるNISAには、一般NISAとつみたてNISAがあります。
一般NISA
一般NISAは株式や投資信託への投資で得た運用益が非課税になる制度です。通常の投資では、分配金・配当金・売却益などに20.315%の税金がかかります。一般NISAでは2023年までは毎年120万円を限度として最長5年間、最大600万円までの元本から得た利益が非課税になります。
一般NISAの投資対象には上場株式や投資信託、ETF、REITなどがあり、個別銘柄への投資をしたい投資経験者に適しています。
つみたてNISA
つみたてNISAは少額からの資産形成を支援する、積立投資に特化した非課税投資制度です。つみたてNISAでは毎年40万円を限度として、最長20年間、最大800万円までの元本から得た運用益が非課税になります。
つみたてNISAの投資対象は金融庁が選定した投資信託などであり、どちらかというと初心者向きの制度です。
1-2.iDeCoとは
iDeCo(個人型確定拠出型年金)は、公的年金の上乗せのために税制優遇が受けられる私的年金制度です。目的が老後資金準備に限られるため、原則として60歳まで引き出しができません。その分、掛金拠出時、運用中、受取時に税制優遇が受けられます。
iDeCoの掛金は、加入者の属性ごとに以下のように上限が決められています。
- 自営業者、農業者など:6万8,000円
- 勤務先に企業年金のない会社員:2万3,000円
- 勤務先に企業型確定拠出年金のある会社員:2万円
- 勤務先に確定給付型年金のある会社員、公務員:1万2,000円
- 専業主婦(夫):2万3,000円
1-3.一般NISA・つみたてNISA・iDeCoの比較
それぞれの制度の違いを表にまとめました。
項目 | 一般NISA | つみたてNISA | iDeCo |
---|---|---|---|
投資期間 | 非課税で保有できる期間は最長5年 | 非課税で保有できる期間は最長20年 | 60歳まで |
投資方法 | 通常買付・積立投資 | 積立投資 | 積立投資 |
年間非課税投資額 | 120万円 | 40万円 | 加入者属性ごとに異なる |
最低投資金額 | 金融機関ごとに100円から1万円程度 | 5,000円 | |
投資対象 | 国内外の上場株式・REIT・ETF・株式投資信託 | 金融庁が選定した一定の投資信託・ETF | 定期預金・保険・投資信託(金融機関ごとに内容が異なる) |
税制優遇 | 運用益に対して非課税 | ・掛金全額は所得控除の対象 ・運用益に対して非課税 ・受取時も所得控除の対象 |
|
資産引き出し | いつでも可能 | 原則として60歳まで不可 |
どの制度も金融機関ごとに取扱商品が異なります。なるべく多くの選択肢があるネット証券などの金融機関を選ぶとよいでしょう。
1-4.iDeCoとNISAの制度改正
iDeCoやNISAでは随時改正が行われるため、確認が必要です。
2022年のiDeCoの改正
2022年にはiDeCoに関して、以下の3つの制度改正が行われます。
- 2022年4月1日:受給開始年齢の延長
- 2022年5月1日:加入できる年齢の拡大
- 2022年10月1日:企業年金加入者のiDeCo加入の条件緩和
2024年からの新NISA
現行の一般NISAは2023年までで終了し、2階建ての新NISAに改正されます。新NISAの非課税投資期間は、現行と同様に5年です。現行の一般NISAと異なる部分は以下のとおりです。
項目 | 1階部分 | 2階部分 |
---|---|---|
年間の非課税投資枠 | 20万円 | 102万円 |
投資対象 | つみたてNISAと同様 | 現行の一般NISAの対象から一部を除いた商品 |
投資方法 | 積立投資 | 通常買付・積立投資 |
2.NISAとiDeCoを併用するメリット
NISAとつみたてNISAはどちらか一つを選択しなければなりませんが、NISA、つみたてNISAとiDeCoの併用は可能です。
2-1.非課税で多くの資産を作れる
NISAとiDeCoを併用する最大のメリットは、運用益に課税されずに資産形成ができる枠が広がる点です。
一般NISAとつみたてNISAにはそれぞれの非課税限度額があり、iDeCoには加入者の属性ごとに掛金の限度額があります。NISAとiDeCoを組み合わせることにより非課税で投資できる金額が増え、効率的な資産形成が期待できます。
たとえば、勤務先に企業年金のない会社員の方が、毎月iDeCoを23,000円、つみたてNISAを33,000円ずつ積み立てるとします。20年間3%で運用したと仮定すると、1,344万円の元本は約1,840万円になります。
通常の投資であれば運用益の約496万円に対し、約101万円の税金がかかります。しかし、NISAやiDeCoを利用すれば課税されず、全額が手元に残るというわけです。
運用成績が保証されているわけではありませんが、堅実に運用して利益を得られれば非課税のメリットが享受できる制度なのです。
2-2.多様な活用方法が選択可能
NISAは国民の投資による資産形成を支援する制度であり、iDeCoは老後資金作りに特化した制度です。それぞれの特性を生かし、自分のライフプランに合った活用ができます。
iDeCoは老後資金に特化した制度なので、ライフステージごとに可能な積立額で公的年金の上乗せ分を運用するとよいでしょう。
一方、NISAは運用スタイルや目的によって一般NISA、つみたてNISAを選択することになります。株取引で値上がり益を狙いたい人なら一般NISA、運用に手間を掛けたくない人ならつみたてNISAなど、自分に合った投資が可能です。
3.NISAとiDeCoを併用するデメリット
NISAとiDeCoの併用には致命的なデメリットはあまりないといえます。しかし、以下のような注意点を押さえておきましょう。
3-1.多くの資金が必要
NISAとiDeCoを併用して十分な非課税メリットを享受するには、多くの資金が必要になります。NISAは資産の換金が自由にできますが、iDeCoは60歳までは引き出せないので注意が必要です。それぞれの限度額いっぱいに投資できれば、まとまった資産形成が期待できます。
しかし、非課税投資にお金を回しすぎて、生活に困るようでは本末転倒です。両制度の併用の際には目的や目標を明確にし、家計を見直し、持続可能なプランを立てましょう。
3-2.損失を被る可能性がある
iDeCoの運用商品には元本確保型もありますが、その他の商品を購入すると値下がりするリスクがあります。NISAとiDeCoを併用して多くの資金を投じた場合、タイミングによってはすべての商品が値下がりして元本割れの状態になる可能性があるのです。
NISAやiDeCoでは短期的な値動きに一喜一憂せず、長期的な資産形成のための目線で、冷静な判断が求められます。
3-3.iDeCoよりマッチング拠出が有利なケースに注意
勤務先に企業型確定拠出年金がある人は、iDeCo以外にマッチング拠出という選択肢があります。マッチング拠出とは事業主の掛金に、加入者(従業員)が上乗せして拠出できる制度です。マッチング拠出とiDeCoでは掛金上限が異なり、掛金を多くしたい場合にどちらが有利になるかはケースバイケースです。
iDeCoかマッチング拠出かを検討する場合、掛けられる金額の他に、運用できる商品のラインナップも比較する必要があります。また、iDeCoでは国民年金基金連合会への手数料がかかりますが、マッチング拠出には加入者の手数料負担はありません。自分にとって有利な制度を選びましょう。
4.状況別NISAとiDeCoのおすすめの使い分け方
以上の内容を踏まえ、個人の状況別のNISAとiDeCoの使い分け方の例を紹介します。
4-1.子育て世代の人
30代・40代の子育て世代の人は、教育や住宅購入などのライフイベントが多く、資金の振り分けに悩むこともあるでしょう。
運用に回すお金があまりない場合、iDeCoは最低限の掛金にとどめるのが無難です。iDeCoを始めると脱退や掛金のストップができません。しかし、最低の掛金でも積立を続ければ、リタイア後には助けになるでしょう。
教育費の準備であれば、つみたてNISAが適しています。たとえば、中学生の子どもまでが受けられる児童手当を生まれてから積み立てると、子ども1人あたり約200万円になります。この児童手当をつみたてNISAで運用できれば、子どもの進学資金として活用できるでしょう。
教育資金準備が終わってからは、つみたてNISAとiDeCoで老後資金準備が可能です。
4-2.自営業・フリーランス
自営業・フリーランスの方には厚生年金がないため、公的年金の上乗せを検討することが必要です。公的年金の上乗せ制度には、iDeCo以外に国民年金基金や小規模企業共済もあります。
しかし、インフレリスクに対応できる制度はiDeCoだけなので、他の制度を併用するとしてもiDeCoをメインにするとよいでしょう。自営業者のiDeCoの掛金上限は1カ月68,000円です。必要性が高いので、家計を見直してできるだけ多く掛けることも検討しましょう。
子どもがいる人は教育資金準備のために、また老後資金準備に専念できる人も、つみたてNISAが利用しやすいでしょう。また、会社員の方が将来起業を目指すなどの場合の資金準備にもつみたてNISAを活用できます。
4-3.生涯独身で過ごす予定の人
ライフスタイルや価値観の変化に伴い、生涯独身で過ごす人が増えています。誰にも頼らずに自分ひとりで生きていくには、早くからの老後資金準備が重要です。そのために、iDeCoを上限額まで掛けるのは有効です。
差し迫ったライフイベントがなく余裕資金があれば、つみたてNISAでも公的年金の上乗せを検討するとよいでしょう。
4-4.株式投資などの経験者
つみたてNISAは投資の初心者や、投資に時間をかけられない人にも利用しやすい制度です。一方、一般NISAは株式投資などの経験者で、中期で積極的に利益を狙いたい人にも適しています。運用益が大きいほど、NISAの非課税メリットも大きくなるからです。
メインの投資が株式投資などの場合でも、長期での老後資金準備は必要です。iDeCoは積立設定をしておけば自動的に商品の買付が行われるため、メインの投資の妨げになりません。ライフプランを立てて、無理なく続けられるiDeCoの掛金を設定しましょう。
4-5.まとまった資金を有効活用したい人
つみたてNISAはまとまった資金がなくてもできますが、余裕資金でリスクがある運用をしたい人は一般NISAが選択肢となります。その場合、老後資金の準備はiDeCoの長期投資、一般NISAではまとまった資金で大きな運用益を狙うという使い分けが有効です。
病気やけがなどのアクシデントがあってもiDeCoを続ける余裕のある人は、一般NISAとの併用に向いています。
まとめ
NISAとiDeCoの非課税投資は、可能な限り有効活用したい制度です。併用するなら、老後資金を無理のない金額をiDeCoで積み立て、目的に応じて一般NISAとつみたてNISAを選択するとよいでしょう。
iDeCoの資産は60歳まで引き出せないため、積立額は慎重に検討が必要です。両制度の併用には家計の見直しをしたうえで、計画的に活用しましょう。
松田 聡子
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