普段のカード払いで社会貢献ができる。“背中をそっと押す”クレジットカードを提供するナッジ株式会社【代表インタビュー】

経済産業省では「キャッシュレス・ビジョン(2018年4月策定)」に基づき、「キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度。将来的には世界最高水準の80%を目指す」という目標を掲げています。

最新の経済産業省のデータでは2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%(126.7兆円)と堅調に推移しています。そして、その同比率において、決済額ベースで最も伸びているのが「クレジットカード」です。

今回はそんな日本のキャッシュレス化を牽引しているクレジットカードにおいて、とくにZ世代に支持されているクレジットカード「Nudge(ナッジ)カード」を展開するナッジ株式会社 代表取締役 沖田 貴史さんにインタビューを実施。

従来のクレジットカードの枠にとらわれない、「推しを応援できる」「社会貢献ができる」といったユニークなNudgeカードに込められた思いについてお話を伺いました。

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話し手:ナッジ株式会社 代表取締役 沖田 貴史さん

一橋大学在学中に、電子決済大手ベリトランスを共同創業し2004年上場。2012年econtext ASIA社を共同創業し、翌年香港市場に上場。2015年までベリトランスにて代表取締役を務めた後、2016年にSBI Ripple Asia株式会社代表取締役に就任し、ブロックチェーン技術の日本・アジアでの実用化に貢献する。その間、米国Ripple社、インドネシアtokopedia社などのユニコーン企業の役員も歴任。2020年2月にひとりひとりのアクションで、未来の金融体験を創る「ナッジ株式会社」共同創業する。主な公職に、金融審議会専門委員、SBI大学院大学経営管理研究科教授など。日経ビジネス 2014年日本の主役100人に選出。

ナッジ株式会社を設立した理由・背景は何でしょうか。

主に2つあります。1つ目は長年、Fintech(フィンテック)領域、とくに決済分野に携わる中で“日本のキャッシュレス化の遅れ”に忸怩たる思いを持っていたことが挙げられます。一時期ガラケーの時代は、日本が決済分野において世界をリードしていた瞬間もあっただけに、Fintech業界に身を置いていた人間としては、海外でキャッシュレスが進んでいる現状に対して、単純に悔しい思いをしていたんですね。未来の金融体験をユーザーや提携先と一緒に創造して、日本のキャッシュレス化を推進したいと考えました。

2つ目は、キャッシュレス化が進まない日本において、評論家ではなく実務家=起業家として貢献したいと考えたためです。私は大学院で講義を受け持っていたのですが、常々学生に対しては「評論家になるのではなく、社会をより良くするために自らアクションを起こしましょう」と伝えてきました。この私自身の言葉を胸に、「起業家として日本のキャッシュレス推進に寄与する行動を起こそう」と決意し、2022年2月にナッジ株式会社を設立しました。

数ある決済手段の中でも、クレジットカードを選んだ理由は何でしょうか。

一言でいうと、クレジットカードが最も将来性があると考えたためです。中国はQRコード決済比率が突出していますが、世界のキャッシュレスの主流はクレジットカードです。人によっては「時代はコード決済じゃないの?」と思われるかもしれません。たしかにキャッシュレス決済に占める割合の伸び率を見ればコード決済が1番ですが、決済額ベースではクレジットカード決済が最も伸びています。

プリペイドカードも考えたのですが、プリペイドカードはチャージ金を使い切れないケースも多く、良質な顧客体験提供の観点から見送りました。

正直、資金調達時には金融機関の方々から「物理的なカードではなく、スマホで完結させないのですか」というような声をいただいた事もあります。ただ、やはり日本含め世界の潮流を考えれば、私にとってはクレジットカードが第一選択肢でした。
ナッジ 沖田 貴史さん

社名・サービス名の「ナッジ」に込められている想いをお聞かせ下さい。

社名およびサービス名の「ナッジ」とは、ノーベル賞を受賞した「行動経済学」の言葉で、「そっと後押しする」という意味です。

「やった方が良いことだとは思っていても、なかなか腰が上がらないこと」や「やりたいと思っていつつ、なかなか実行できないこと」に対して、“そっと背中を推したい”という願いを込めて「ナッジ」と名付けました。

とくに金融領域においては「資産運用はした方が良さそう」「現金よりキャッシュレスの方が色々楽だしお得」など、合理的だと分かっていることも、実際にはなかなか重い腰が上がらないことも少なくありません。人によってはキャッシュレスや投資に対して、「怖い」と感じている人も多くいらっしゃいます。

一方で、それら金融サービスを使わないことで、膨大な機会損失も起こり得ます。そこで、新たな金融体験への“背中をそっと押す存在”となるために、ナッジという社名・サービス名をつけました。

若年層の方向けに金融サービスをご提供される上で、大切にしていることを教えて下さい。

どのカード会社もそうですが、セキュリティや機能面での安心・安全が大前提です。その上で、Z世代にファーストカードとして選ばれることの多いNudgeカードの場合、“利用者に安心感を持ってもらう工夫”を重視しています。

例えばクレジットカード利用に関して「お金を使い過ぎるのが怖い」という声があります。その点、Nudgeカードではアプリ画面上で使った分だけゲージが減るというインターフェースを利用しているため、どれだけお金を使ったのか一目で分かります。

決済通知画面

決済通知画面

また、Nudgeカードでは、カード利用時に「□□で○○円決済しました」というように、決済通知が届きます。仮に利用した覚えのない通知が届いた際には、アプリからボタン一つで調査依頼をかけることもできます。つまり、不正利用にすぐに気付き、すぐに対応を依頼することができるんですね。そのほか、Nudgeカードを無くした場合にはいつでもアプリからボタン一つでカード利用を停止することも可能です。

このようにNudgeカードではクレジットカードとしてのセキュリティ・機能面の安全性はもちろん、より安心感を持って使っていただける機能を多く搭載しています。

「推し活」ができるクレジットカードを運営する上で、難しい点などあれば教えてください。

クレジットカード利用者が応援したいと思えるような、プライスレスな魅力的な特典設計にはいつも頭を使います。

その中でも例えば、主に県立岐阜商業高校の生徒により運営されている、株式会社GIFUSHOを応援する「GIFUSHO」カードでは、特典として同校の応援部の応援動画やブラスバンドの演奏動画といった、ここでしか手に入らないプライスレスな特典を用意できました。同校では野球部をはじめとする部活動が盛んで、OBやOGなどファンが多くいるので、彼らにとって大きな価値がある特典となりました。

また、北海道十勝地方北部に位置する「上士幌町(かみしほろちょう)」と協定を結んで開設した「上士幌町クラブ」では、利用特典として「熱気球のフリーフライト体験」を提供しています。これは通常は提供していない体験サービスであり、この特典もまたプライスレスと言えます。

「上士幌町クラブ」

「上士幌町クラブ」

魅力的な特典を設計することで、クレジットカード利用者は推しから嬉しい特典がもらえ、連携先のパートナー企業・自治体等もより多く金銭的なリターンがもらえる。互いにWin-Winの関係とするために、引き続き魅力的な特典設計には注力していきたいですね。

Nudgeカードは、クレジットカードの利用金額の一部が様々な企業や個人、自治体や社会貢献団体に還元される仕組みを採用しています。その中でも自治体と連携して、社会貢献ができる仕組みを作ったきっかけは何だったのでしょうか。

とある方より、“カード利用するだけで、推しを応援できる”という仕組みについて、「ふるさと納税みたいですね」と言われたことがキッカケです。その言葉を受け私も「たしかにそうだ」と思いました。

私は石川県小松市の高校の出身ですが、高校卒業後は地元を出たため、(ふるさと納税はしているものの)高校生まで育ててくれた小松市含め地元に直接的な金銭の恩返しはほとんどできていません。そこでNudgeカードを使って地元貢献ができる取り組みを進めようと考えました。その第一弾として、まずは地元自治体である石川県小松市と協定を結び、クレジットカード利用金額の一部が小松市へ届き、小松市からは利用額に応じて小松市オリジナルグッズ等がカード利用者に送られる仕組みを整えました。こうした自治体との連携はその後、先述した北海道上士幌町や福島県楢葉町などとも進めています。

そのほか、2022年8月には、広島県東広島市入野財産区及び賀茂地方森林組合と協定を結び、カード利用額の一部を東広島市の森林の植樹活動の支援に充てられるようにしました。アプリ上では対象ユーザーの決済額が苗木の本数として換算され、視覚的にどれくらいの植樹に貢献しているのか、分かりやすく示す工夫もしています。森林組合の方々もこの取り組みについて、「補助金に頼る森林保護活動の現状を何とか変えたい」と思っていたようで、「面白いね!」と前向きにご協力いただきました。

2023年には「Nudgeカード 絵画コレクション」の提供も開始されています。このサービスの開始のきっかけや意図などについて教えてください。

私はよく「行動変容を起こすためには、その人の気持ちがスパイク(急上昇)する必要がある」と言っています。ナッジで言えば、現金派がキャッシュレスデビューをしてもらうためには、その人の気持ちを大きく揺さぶる何かを起こす必要があると考えています。

「Nudgeカード 絵画コレクション」もその仕掛けの一つで、「有名な絵画のクレジットカードを使いたい」と思っていただき、その人のクレジットカードデビューの背中をそっと後押ししたいという想いで作成しました。「Nudgeカード 絵画コレクション」はゴッホやクロード・モネなどの世界的に有名作家の絵画がクレジットカードのデザインになっています。どの絵画デザインでも、とても美しいと感じていただけると思います。

Nudgeカード 絵画コレクション

Nudgeカード 絵画コレクション

金融サービスを通じて沖田さんが実現したい「未来の金融体験」は何でしょうか。

私が考える未来の金融体験とは「楽しく“自然と”金融サービスを使っている」という体験です。“自然と”というのは、ユーザーが“「よし!今金融サービスを使っているぞ!」という感覚を持たずに金融サービスを使っている”という状態です。

今は「投資をする」「保険に申し込む」といった金融行動が、日常生活においてまだ特別な行為であるという認識があるかと思います。しかし、例えばカーシェアリングの料金には自動車保険料が含まれていますが、恐らくカーシェアリング利用者は「自分が保険に申し込んでいる」という感覚はないと思います。このように預金や振り込み、投資、保険などあらゆる金融行動が日常生活とシームレスにつながって溶け込んでいる。つまり、「自然と金融サービスを使っている」というのが私が考える金融体験になります。Nudgeカードもそんな未来の金融体験の実現に貢献したいと考えています。
ナッジ 沖田 貴史さん

編集後記

クレジットカード選びというと「ポイント還元率の高さ」を重視して選ぶ人が多いのではないでしょうか。もちろん、ポイント還元はクレジットカードの大きな魅力です。一方、Nudgeカードは“推しを応援できる”というユニークなクレジットカード。推しには芸能人やスポーツ選手だけでなく、自治体やNPO法人など、ソーシャルグッドに関する組織も含まれます。普段通りにカード利用するだけで社会貢献も可能な、従来の枠を超えるユニークなクレジットカードと言えるでしょう。

また取材を通して感じたのが、ナッジの徹底的なユーザー目線。利用者に安心感を感じてもらうための決済通知機能を始め、Nudgeカードには様々な安心を提供する機能が搭載されています。こうしたユーザー目線こそが、沖田さんが目指す「楽しく“自然と”金融サービスを使っている」という未来の金融体験への第一ステップなのではないかと想像しました。

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庄子 鮎

証券会社および求人広告会社を経て、2019年よりフリーライターに。証券会社時代では営業職に従事し、主に株式や投資信託、債券の販売を経験。また現在、投資家でもあり、FX・日本株・米国株などへ投資をしている。"どういう表現でどこまで説明すれば、より分かりやすくなるか"を意識し、解説していきます。