世界各国で利上げ気運が高まってきています。とくに米連邦準備制度理事会(FRB)が3月から利上げを開始したことが、株式市場に大きな影響を与えています。この記事では欧米主要国や日本の利上げが、株価にどのような影響を与えるのかについて解説します。
※2022年5月23日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
1.米国では2022年3月から利上げ開始
米連邦準備理事会(FRB)は2022年3月15、16日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を現行の0.00~0.25%から0.25~0.50%に引き上げることを決定しました。2020年3月から続いていたゼロ金利政策が解除されたのです。
そして、5月3、4日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利を0.5%引き上げたほか、6月から残高が積み上がった債券の残高圧縮を始めることを決定しています。
米国の消費者物価(CPI)は前年比で約8%上昇し、過去40年間で最も高いインフレ率となっています。また、FRBの資産保有額は新型コロナウイルス蔓延前(2020年2月)から4兆ドル以上積み上がっており、コストプッシュ型インフレの抑制と雇用の最大化という難しい政策バランスを取ることが求められているのです。
「コストプッシュ型インフレ」とは、生産コストの上昇によって起こるインフレーションです。原材料や資源の価格上昇による「資源インフレ」、賃金が高騰する「賃金インフレ」などがあります。いわゆる供給サイドの要因によるインフレで、輸入物価の上昇など、原因が国内にとどまらない場合、対策が難しくなるのです。
2.米国の利上げによる日本経済への影響
米国の利上げによって、日本経済への影響も懸念されます。米国の金利が上昇すれば、ドルを保有することで金利収入が増えるので、ドル高・円安になりやすくなるからです。
実際、最近では円は売られています。4月28日に円相場は一時1ドル131円台まで下落し、2002年4月以来20年ぶりの円安水準となりました。円安は日本経済にとって輸出しやすくなるというメリットがありますが、一方で輸入コストを上昇させます。
原材料の高騰に円安が加わり、輸入物価(円建て)の上昇率はすでに前年比40%前後の高水準で推移しており、徐々に小売価格に転嫁されつつあるのです。食料品など生活必需品の値上げが目立つため、家計への悪影響を通じて日本経済への影響に注意が必要です。
6月以降のFOMCの日程は、以下の通りです(参照:FOMC)。
2022年度のFOMCの日程
- 6月14 〜 15日
- 7月26日 〜 27日
- 9月20日 〜 21日
- 11月1日 〜 2日
- 12月13日 〜 14日
3月、5月の利上げも含め、2022年度中に7回の利上げが想定されています。そして、利上げ回数よりも利上げ幅(0.25%、0.5%)がどの程度になるかがマーケットでの最大の関心になっています。
インフレ抑制のためには利上げが必要というのがFRBの多数意見で、景気後退もある程度容認しているといえます。ですから、今後も米長期金利には上昇圧力がかかり、米国株式市場の上値を抑える可能性があります。そして、大幅な利上げにより2023年にかけて米国の経済成長へのブレーキは強まる恐れがあるので注意が必要です。
3.欧州でも利上げ気運が高まる
欧州でもインフレ対策として、利上げ気運が高まっています。英国のイングランド銀行(中央銀行)は3月17日に政策金利を年0.25ポイント引き上げ、0.75%にすると発表しました。
イングランド銀行は、労働市場の逼迫や物価上昇の継続を踏まえて、3会合連続(2021年12月、2022年2月)の利上げを決定したのです。3会合連続の利上げは20年ぶりとなります。
イングランド銀行(中央銀行)は、2021年12月に政策金利を0.15ポイント引き上げ、年率0.25%にすると発表しました。新型コロナウイルスの感染拡大以降、利上げによる金融政策の正常化を決定したのは、日米欧の主要中央銀行では初めてでした。また、イングランド銀行が金利を引き上げるのは、2018年8月以来、3年4カ月ぶりのことです。
そして、イングランド銀行は5月5日に政策金利を0.25%引き上げて年1%にすると発表。4会合連続の利上げで、米金融危機以来の政策金利の高さになりました(参照:JETRO「イングランド銀行が4会合連続で利上げ、13年ぶりに年1%に」)。
4.ECB(欧州中央銀行)の利上げは7月以降か
ECB(欧州中央銀行)はまだ利上げをおこなっていませんが、FRBやイングランド銀行が利上げを行い、ECBのラガルド総裁は記者会見でインフレに対する警戒感を強めた発言をしています。そして、ECBが年内2回の利上げに動くとの観測が浮上し、ドイツなどユーロ圏国債の利回りは上昇(債券価格は下落)しました。金融緩和終了のうねりは、欧米で勢いを増しているのです。
すでに短期金融市場では、7月に利上げが始まり、9月の利上げも実施されると予想しています。
5.日本の利上げは当面ない見通し
利上げ観測が強まる欧米と対照的に、日銀がすぐに本格的な利上げに踏み切る可能性は低いと筆者は考えています。日本の消費者物価上昇率も、今春には日銀の目標値である2%前後に達する可能性が高くなっています。携帯電話の通信料引き下げの影響が弱まり、原油高や円安による上昇圧力も加わるからです。
ただ日銀は、強い需要に引っ張られた「良い物価上昇」ではないので、金融引き締めは適切でないとしています。
しかし、円安が加速し、家計部門の物価上昇による負担がさらに増加した場合、日銀だけでなく政府を含む当局がどのように対応するかが注目されます。人々の物価期待が大きく変化したり、賃上げの機運が強まったりすれば、金融政策の判断も変わってくるかもしれません。
金利上昇は株価にマイナスの影響を与え、日本の株式市場の上値を抑える要因になるので注意が必要です。
まとめ
インフレ懸念が強まる中、世界各国で利上げ気運が高まっています。ただ、日銀が本格的な利上げに踏み切る可能性は低いので、金利差から円安傾向は続きそうです。また、金利の急上昇は株価の上値を抑える要因となるので、今後も各国の利上げスピードに警戒が必要です。
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山下耕太郎
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