アセットアロケーションとは、投資家のリスク許容度や目的に応じて、ポートフォリオ内の各資産の割合を調整しながら、リスクを抑えつつ収益を目指すための運用戦略です。主な運用商品は、国内外の株式や債券、オルタナティブ(REIT、金等)です。
株式と債券には矛と盾の関係があるなど、運用商品によってそれぞれ値動きに特徴があり、それらをうまく組み合わせることで上手な資産運用が可能になります。今回は証券ストラテジストである筆者が、資産の配分(アセットアロケーション)を決めるポイント5つについて解説します。
目次
- 年齢に応じた運用商品を選択する
1-1.20代から30代は攻める
1-2.40代以降は徐々に守りを固める - リスクを理解する
2-1.株式投資のリスク
2-2.債券投資のリスク - 中央銀行の政策に注意を払う
3-1.米連邦準備制度理事会(Federal Reserve Bord、FRB)の金融政策が重要
3-2.金融政策と株価の関係 - ファンダメンタルズを調べる
4-1.人口構造を知る
4-2.教育レベルや宗教、政治 - プロのアセットアロケーションを参考にする
- まとめ
1.年齢に応じた運用商品を選択する
資産の配分を決める際に、ライフステージ・年齢にあった運用商品を選び、またライフステージの移行にあわせ商品を変更していくことがポイントとなります。
1-1.20代から30代は攻める
投資を始める年齢が若ければ若いほど運用期間が長くなり高収益が期待できます。仮に20歳で投資を始めると、65歳まで45年の投資期間があります。その期間を利用し、国内外の株式に投資することで将来高いリターンが期待できます。運用にあたりリスクが伴いますが、運用期間が長いため失敗しても回復の期待が持てます。
1-2.40代以降は徐々に守りを固める
40代、50代では、生活費や教育費の負担が増えるため、運用商品を比較的リスクが低いものにシフトさせましょう。50代半ば以降は元本割れのリスクを避けるため、運用の中心を債券にし、元本を守りましょう。
株式を組み入れる場合は小型株や新興諸国の株式を避け、比較的リスクの低い国内と先進国の大型株を選択するようにしましょう。
2.リスクを理解する
リスクとリターンは表裏一体のため、各商品のリスクを把握しておくことでリスクを減らすことができます。高いリターンが期待できる商品には高いリスクが潜んでいます。株式、債券それぞれのリスクについてみていきましょう。
2-1.株式投資のリスク
株式は国や規模によってリスクが異なります。下記に、リスクが低い順に明記しました。
- 国内の大型株
- 国内の中小型株
- 先進国の大型株
- 先進国の中小型株
- 新興国の大柄株
- 新興国の中小型株
外国株については、為替のリスクが加わるため国内よりもリスクが高くなります。特に新興国については、為替のリスクが株式よりも高い場合があります。
ここで、過去10年の先進国と新興国の株式主要指数の運用成績をみると、新興国も先進国も現地通貨建ての成績はプラスでしたが、円に換算した場合は、新興国株式の成績はマイナスが目立ちました。通貨の下落が株式の上昇を打ち消してしまったためです。外国株に投資する場合は、先進国を中心に組み入れた方がリスクを回避できます。
【過去10年の先進国と新興国の株式主要指数の運用成績】
項目 | 国 | 通貨 | 株式(現地) | 株式(円換算) |
---|---|---|---|---|
新興国 | ブラジル | -63.9% | 45.7% | -47.4% |
トルコ | -76.9% | 106.8% | -52.2% | |
南アフリカ | -51.5% | 106.1% | +0.1% | |
メキシコ | -32.3% | 21.7% | -17.6% | |
インド | -28.9% | 120.6% | 56.9% | |
先進国 | 米国 | 14.3% | 204.0% | 247.3% |
カナダ | -9.0% | 41.6% | 28.8% | |
英国 | -6.9% | 12.3% | 4.5% | |
スイス | 30.0% | 53.3% | 99.3% | |
ユーロ(独) | -5.6% | 113.0% | 101.0% |
※データは2009年12月末から2020年8月18日のもの
※出典:Bloombergのデータを基に算出
なお、株式は大型株と中小型株に分類されています。大型株は会社の規模が大きく、業績も比較的ブレの少ない企業が大半を占めています。
大型株は時価総額が大きいため、大きなリターンが期待できない傾向があります。一方、中小型株は大型株と比較して、時価総額が小さく流動性が低いため、値動きが大きいという特徴があります。中小型株は大型株よりもハイリスクと言えます。
2-2.債券投資のリスク
債券は株式に比べるとリスクは低いのですが、デフォルトリスクが伴います。デフォルトリスクは債務不履行リスクと言われ、デフォルトすると元本が大きく棄損します。
社債は投資適格債とハイイールド債に分類されます。投資適格債は格付けがBBB以上の企業が発行する社債で、ハイイールド債は格付けがBB以下の社債を指します。格付け会社のムーディーズによると、5年間のデフォルト率は投資適格債の1%未満に対し19%です。この点から、ハイイールド債は長期投資には向かない債券です。
債券は守りの商品です。長期運用には国債や投資適格債が適していると考えられます。
3.中央銀行の政策に注意を払う
中央銀行の政策を注視することも大切です。政策金利が上がると株価が下がるリスクが高まるので、株式のウェートを減らす必要があります。
政策金利が上昇すると債券の利回りが上がり、それに伴い企業の資金調達コストが増加します。これは企業のデフォルトリスクの高まりに繋がり、株価が下落するのです。
3-1.米連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board、FRB)の金融政策が重要
中央銀行の中でも、特に米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board、FRB)の政策決定や、FRB理事等の発言には注意が必要です。
米国は世界一の国内総生産(GDP)を誇っています。IMFによると2019年の米国のGDPは約2,300兆円です。これは日本のGDP(約550兆円)の4倍の規模です。そのため、FRBが金融政策を変更すると、その影響は米国だけにとどまらず、世界経済に及びます。
3-2.金融政策と株価の関係
現在、世界中の中央銀行が低金利政策をとっています。中央銀行は市場に資金を供給し、資金の一部が株式市場に流れています。金融政策の変更は株価の下落の可能性を秘めています。
4.ファンダメンタルズを調べる
世界経済情勢を把握し、今後の市場の動きを見極めることも大切なポイントです。各国の経済成長率や物価上昇率、プライマリーバランスなどのマクロ経済指標を参考に、今後の経済を見通すことが必要です。
また、見逃しがちな指標である人口構造、教育レベルや宗教・政治システムなどにも目を向ける必要があります。
4-1.人口構造を知る
投資をする際にその国の人口構造を知ることは大切な要素です。人口ピラミッドが三角形(△)に近いほど労働人口が多いため、成長期待が高い国と言えます。成長期待が高い国には世界の投資家からの資金流入が期待できます。
4-2.教育レベルや宗教、政治
また、経済成長に大きく影響する生産性の面からみることも大切です。人口が多くても教育水準が低いと国民の生産性が低くなり、成長の足かせになってしまいます。さらに、政治システムや宗教を知っておくことで、政治的混乱やテロの発生等をある程度予想することができます。
5.プロのアセットアロケーションを参考にする
アセットアロケーションを決める際、迷ったり悩んだりしたら、プロの資産配分を参考とするのもポイントです。
アセットアロケーションの一例として、日本の年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2020年6月時点のアセットアロケーションをみてみましょう。
- 国内債券が26.33%
- 外国債券が21.81%
- 国内株式が24.37%
- 外国株式が27.49%
株式と債券の運用比率は、債券が48.14%、株が51.86%。株と債券、国内資産と海外資産の割合はほぼ50%となっています。資産配分に悩んだら、GPIFを参考にするのも選択肢の一つです。
まとめ
投資は早く始めればそれだけ時間を味方につけることができますが、ライフステージ・年齢にあった運用商品を選び、ライフステージの変化に合わせて資産配分を変えていくことが重要です。
また、リスクの高い商品にどれくらい配分するかも大切です。リスクを怖がり債券のみ運用すると「インフレに伴う貨幣価値の低下」の影響を大きく受けることとなるため、株式を組み合わせることでリスクを回避しましょう。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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