目次
1 MSCI ESG格付けとは
MSCI ESG格付けとは、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)による投資銘柄に対するESG観点からの評価です。MSCIは、MSCIワールド・インデックスやMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスなど、様々な株価指数を算出・公表してきました。MSCI指数は、機関投資家や投資信託等により運用時のベンチマークとして採用されています。
その中でもMSCI ESG格付けは、MSCIグループ傘下のMSCI ESG Reserch社が企業の環境、社会、ガバナンスに関する取り組みを調査し、ESG関連のリスクや機会に対するエクスポージャーやマネジメント対策、ガバナンス力を分析。業種内の相対評価により、企業ごとにAAA~CCCの7段階で格付けを付与しています。
MSCIは世界で約8,500社、子会社を含む発行体数で見ると14,000社(2020年時点)を対象にESG格付けを付与しています。
ESG格付けの状況
日本でも複数の企業が、高いESG格付け評価を得ています。例えば、ソニーグループやHOYA、KDDI、ソフトバンク、富士通、SOMPOホールディングス、積水ハウス、味の素、ファナックなどが7段階評価で最も高いAAAを獲得しています(2024年6月時点)。
一方で、ESG格付け分布(2023年8月時点)を見ると、日本企業(MSCIジャパン Investable Market Indexの構成銘柄)におけるAAAの取得企業の割合は3.3%にとどまり、AAが14.7%、Aが22.2%、最も多いBBBが24.4%、BBが21.9%、そしてB及びCCCは13.6%でした。
これに対し、海外企業(MSCIコクサイIMIの銘柄)は、AAAが6.9%、AAが24.3%、Aが最も多い26%と、高い格付け評価を得る企業の割合が大きく、日本企業のESG格付けが全体的に低い傾向にあることがうかがえます。その一因として、コーポレートガバナンスや従業員エンゲージメント、取締役会の多様性確保における評価が見劣りしたためだとMSCIは指摘しています。
(※参照:MSCI「ESG 格付けメソドロジー」、「2024年6月時点(MSCI ESG格付け)」、「Market ESG Snapshot 2023, Japan」、「MSCI ESG Ratings」)
(※参照:野村証券「MSCI指数」)
2 MSCI ESG格付けが注目されている背景
従来の投資判断には、売上・利益や資産・負債など主に投資先の財務情報をもとに価値評価が行われてきました。しかし、気候変動や社会課題に対する意識が高まる中で、投資判断の軸として環境・社会・ガバナンスの観点からリスク・機会の評価を織り込むことが求められるようになりました。
ESG評価には、定量的・定性的に幅広い情報を収集し、科学的根拠に基づいた分析が求められます。例えば、環境では気候変動、資源、廃棄物、汚染、生物多様性など、社会では人権、強制労働、児童労働、製品・サービスの安全性など、またガバナンスでは企業倫理や役員報酬、役員の多様性、ロビー活動や税務戦略などが挙げられます。しかし、投資家自身が情報収集、分析、評価を行うにはリソースも限られてしまうでしょう。
こうした中、MSCI ESG格付けをはじめとした評価機関によるESG格付けは、機関投資家が投資先のESGリスクや投資機会を判断するための参考指標の一つとして用いられています。
(※参照:MSCI「ESG 格付けメソドロジー」)
(※参照:朝日新聞SDGs ACTION!「ESG格付け、投資家から注目される理由とは? 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【14】」)
3 MSCI ESG格付けの評価方法
MSCI ESG格付けの評価項目とスコア付与の仕組みについてご紹介します。
3-1 評価項目
MSCI ESG格付けは、環境・社会・ガバナンスの3つのピラーにおいて、10のテーマ、33のESGキーイシューから構成されています。環境・社会に関する評価は、指定された33項目のキーイシューから重要性の高いイシューを業種ごとに2~7項目を選定して評価します。
またガバナンスに関する評価は、全業種の全企業について、6つのキーイシューを評価します。キーイシューごとのベストプラクティスと各企業のプラクティスを比較し評価する仕組みです。
環境、社会、ガバナンスのテーマ、キーイシューは次の通りです。
環境
- テーマ①気候変動:炭素排出、気候変動保険リスク、環境配慮融資、製品カーボンフットプリント
- テーマ②自然資本:生物多様性と土地利用、責任ある原材料調達、水資源枯渇
- テーマ③汚染・廃棄物管理:家電廃棄物、包装材廃棄、有害物質と廃棄物管理
- テーマ④環境市場機会:クリーンテクノロジー、グリーンビルディング、再生可能エネルギー
社会
- テーマ①人的資本:労働安全衛生、人的資本開発、労働マネジメント、サプライチェーンと労働管理
- テーマ②製品サービスの安全:製品化学物質安全、安全な金融商品、プライバシー&データセキュリティ、製品安全品質、責任ある投資
- テーマ③ステークホルダーマネジメント:地域との関係、紛争メタル
- テーマ④社会市場機会:金融へのアクセス、ヘルスケアへのアクセス、健康市場機会
ガバナンス
ガバナンスについては、各項目のベストプラクティスと自社の状況を対比して評価されます。
- コーポレートガバナンス:取締役会構成、報酬、オーナーシップと支配、会計リスク
- 企業行動:企業倫理、租税回避
(※参照:MSCI「ESG 格付けメソドロジー」)
3-2 スコア付けの仕組み
MSCI ESG格付けのスコア体系は、様々な補助的なスコアが付与されるため複雑ですが、基本的には評価対象となるキーイシューについて10段階で評価する仕組みです。10が最高点で、5が平均的、最低が0です。
環境・社会については、「リスクベース(ESGリスクに対し十分なマネジメント対策を有しているかどうか)」と「機会ベース(ESG観点でポジティブな影響をあたえうる製品・サービスへの市場ニーズに対応しポジショニングを構築しているかどうか)」に分けてスコア付けを行います。
ガバナンスについては、各キーイシューについて10段階で絶対値のスコア付けを行うと共に、自国市場およびグローバルにおけるパーセンタイル順位をつけて点数付けをしています。
以上によって算出されたスコアと、補助的なスコアを組み合わせたうえで、その企業の加重平均キーイシュースコアを割り出します。そのうえで、業種内の企業での相対比較とするために水準を調整して、最終的なスコアと格付けが付与されるのです。
(※参照:MSCI「ESG 格付けメソドロジー」)
4 ESG格付けの課題
ESG格付けは、投資判断にESG観点を取り入れ、ESGに対してより積極的に取り組んでいる企業への投資を促す効果が期待されています。
その一方で、MSCIに限らず格付機関によるESG格付けは、発行体からの依頼により行われるのではなく、格付機関が企業を選定し評価しています。格付機関により評価企業数は異なるものの、一定程度の時価総額を持つ企業に対して評価が行われる傾向にあります。そのため、時価総額の大きくない企業に関する格付情報が得られない場合もあるでしょう。
ESG投資の観点からESG格付けの重要性を考えると、今後格付けの対象が時価総額の大きくない企業にも広がることが望まれます。また、格付け情報を利用する投資家も、それぞれの格付機関がどのような企業を対象とし、どのように評価を行っているか、特徴を踏まえながら参照することが望ましいでしょう。
(※参照:大和総研「ESG 格付の評価向上は株価に影響する?」)
5 まとめ
MSCI ESG格付けは、MSCIグループが行っているESG観点からの企業評価です。環境や社会課題への関心が高まりを受けて、投資判断の軸として参照されるようになりました。ESG投資を促す指標の一つとして、今後さらに活用されることが望まれます。
サステナブル投資の考え方・手法・商品などに関連する用語一覧
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企業活動に関するサステナビリティ用語
- LCA(Life Cycle Assessment)
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- コーポレートガバナンス・コード
- コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)
伊藤 圭佑
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