米国ETF「VTI」の今後の見通しは?価格推移や主な取扱証券会社も

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VTIは米国のほとんど全ての銘柄をカバーしているため、このETFに投資することで米国株式市場全体に投資することができます。近年、米国株式市場が好調なため、投資家に人気のETFの一つです。

しかし、VTI ETF(以下VTI)の価格形成に歪みが生じています。それは、VTIが保有している全銘柄のうち、上位10銘柄の組み入れ比率が約22%(2021年7月末時点)にも上っているためです。これでは組み入れ比率が高い銘柄にVTIの価格が左右されるため、本来のメリットである米国市場全体に投資しているとは言い難い状況です。

そこで今回は米国のETFで人気の「VTI」の見通しについて解説します。

※この記事は2021年9月17日時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。

目次

  1. 米国における過去の利上げと株式指数の動向
  2. VTI ETFの概要と特徴
    2-1.VTIの概要
    2-2.VTIの特徴
  3. VTI の推移と見通し
    3-1.過去の推移
    3-2.今後の見通し
  4. VTIの主な取扱い証券会社
  5. まとめ

1 米国における過去の利上げと株式指数の動向

前回の利上げは2015年12月から2019年12月にわたり9回実施され、当初0.25%だった政策金利(FFレート)は最終的には2.5%に引き上げられました。

利上げが実施された2015年12月16日を基準(100)とし、米国主要株式指数の利上げ後の下落率を検証してみると、小型株や成長株で構成されているやナスダック指数、ナスダック100指数の下落率が大型株で構成されているS&P500やダウ工業平均を下回ったことが分かりました。

利上げ後の安値(終値)

2015年12月16日=100、()=下落率・%

項目 ナスダック指数 ナスダック100 S&P500 ダウ工業平均
利上げ後の安値 84.1(-15.9) 84.9(-15.1) 88.2(-11.8) 88.2(-11.8)

指数の終値が利上げ直前の水準を回復した時期は、ダウ工業平均やS&P500指数が2016年4月なのに対し、ナスダック指数とナスダック100指数は3ヵ月後の2016年7月でした。

2 VTI ETFの概要と特徴

では、VTI ETFについて解説していきます。

2-1 VTIの概要

VTIの正式名称はバンガード・トータル・ストック・マーケットです。この銘柄はCRSP米国総合指数に連動するように設計されています。CRSP指数は米国株式市場全体を投資対象とし、指数は時価総額ベースのウエートを基準に算出されています。

なお、時価総額は株価に発行している株式数を掛け合わせて求めます。

2-2 VTIの特徴

VTI ETFの特徴は、組み入れ銘柄数が2021年7月末時点で3,958銘柄と、S&P500より多い銘柄が指数算出の対象となっていることがあげられます。このためVTIを購入することは、米国株式全体に投資することになります。

3 VTIの推移と見通し

過去と今後についても見ていきましょう。

3-1 VTIの過去の推移

VTIの過去1年の騰落率は約41%と、S&P500指数の36.1%やダウ工業平均の28.6%を上回っています。過去5年の騰落率はS&P500指数に近いものの、過去1年の騰落率はナスダック指数やナスダック100指数に近い値となっています。

米国株式指数とVTIの騰落率 (%)

銘柄 過去1年 過去5年
ダウ平均 28.61 90.91
ナスダック 41.62 190.75
ナスダック100 41.42 223.95
S&P500 36.12 107.46
CRSP指数 41.01 127.68

3-2 VTIの今後の見通し

今後の株価動向をみるうえで重要なポイントとしては、FRBによるテーパリングの開始時期と政策金利の上昇時期が挙げられます。一方で、現在のVTIは金融緩和により特定銘柄に資金が集中しVTIの構造に歪みが生じたことから、今後のVTIの動きを予想するうえでは、組み入れ比率の高い銘柄(時価総額の大きな銘柄)の動きに注目することが大切です。

テーパリング開始の時期をみるうえで注目されていたジャクソンホール会議(2021年8月27日)の席で、FRBのパウエル議長が利上げ時期についてはまだ先との見解を示す一方、テーパリングについては「年内に資産購入ベースの縮小(テーパリング)を始めるのが適当」という考えを述べました(参照:JETRO ビジネス短信)。

テーパリングが開始されると金融緩和政策によって市場に潤沢に流れていた資金が徐々に減額されるため、株式市場にとってはネガティブな材料と考えられます。

一方、これまでの金融緩和政策により特定銘柄に資金が流入したことで、FAANG銘柄等の時価総額が大きくなりました。これによりVTIが保有している全銘柄(3,958銘柄)のうち、上位10銘柄の組み入れ比率が約22%(2021年7月末時点)にも上っています。

下表は上位10銘柄の組み入れ比率と時価総額及び騰落率です。上位にはおなじみのアップル、アマゾン、フェイスブック、アルファベットA及びB(FAANG銘柄)やマイクロソフトやテスラなどが組み入れられています。また、テスラはこの1年で株価が3倍以上に上昇、アルファベットやエヌビディアの株価も2倍近くになりました。成長株が指数を押し上げています。

VTI組み入れ比率上位10位:組み入れ比率、時価総額と騰落率

順位 組み入れ比率10位 組入れ比率(%) 時価総額(兆ドル) 1年の騰落率(%) 5年の騰落率(%)
1 アップル 5.14 2.55 37.64 507.33
2 マイクロソフト 4.77 2.26 49.95 464.47
3 アマゾン・ドット・コム 3.17 1.76 10.41 343.35
4 フェイスブック 1.89 1.06 38.75 187.11
5 アルファベットA 1.79 1.92 88.68 255.79
6 アルファベットB 1.65 1.92 88.68 255.79
7 テスラ 1.17 0.73 122.15 1,718.37
8 バークシャー・ハサウェイ 0.76 0.63 29.42 88.45
9 エヌビディア 1.02 0.57 91.94 1,390.65
10 JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー 1.02 0.47 64.15 172.52
合計 22.38 13.87

FAANG5銘柄の合計時価総額は800兆円を超え、ナスダック指数の時価総額の30%近くを占めています。そのため、これらの銘柄が何らかの要因で下落に転じてしまうと、米国株式市場全体に大きな影響が出ることが予想されます。

株価の割高割安を示す予想PERをみてみましょう。下記表はVTIの組み入れ比率の高い10銘柄と各指数の予想PERです。予想PERは各銘柄が属している指数や同業他社の予想PERと比較し割高、割安の判断する材料の一つです。予想PERが指数より高い場合は割高です。株価が調整局面を迎える場合は予想PERが修正されるため、株価が大きく下落するリスクが高いとされます。

19年12月末時点と2021年9月3日時点の予想PERと上昇率

指数 2019年12月末のPER(倍) 2021年9月3日時点のPER(倍) 変化率(%)
ダウ平均 19.3 19.1 -1.0
ナスダック指数 27.3 33.1 21.2
S&P500指数 19.7 22.3 13.2
CRSP指数 20.8 23.6 13.5
順位 組入れ比率10位 2019年12月末のPER(倍) 2021年9月3日時点のPER(倍) 変化率(%)
1 アップル 19.4 27.6 42.3
2 マイクロソフト 22.29 34.3 53.9
3 アマゾン・ドット・コム 36.1 48.9 35.5
4 FB 17.8 23.5 32.0
5 アルファベットA 18 24.1 33.9
6 アルファベットB 17.9 24.1 34.6
7 テスラ 37.9 139.2 267.3
8 バークシャー・ハサウェイ 19.4 23.57 21.5
9 エヌビディア 28.3 55.6 96.5
10 JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー 11.6 11.4 -0.1
平均上昇率 61.7

テスラの予想PERは139倍、エヌビディアが55.6倍、アマゾンが48.9倍と、ナスダック指数の約33倍を大きく上回っています。つまり、VTI組み入れ比率の高い銘柄には割高感があります。

新型コロナの感染拡大が始まった2019年12月末と2021年9月3日時点の主要株式指数とVTIの組み入れ比率上位銘柄の予想PERを比較してみましょう。2019年12月末時点の指数の予想PERはダウ工業平均が19.3倍、ナスダック指数が27.3倍、S&P500指数が19.7倍、CRSP指数が20.8倍でした。

その後、指数価格が上昇したため、2021年9月3日時点の予想PERはダウ工業平均を除き上昇しました。なかでも、ナスダック指数の予想PERは27.3倍から33.1倍に上昇しました。上位組み入れ10銘柄の上昇率は指数を大きく上回る結果となりました。

4 VTIの主な取扱い証券会社

取扱い証券はSBI証券、楽天証券、マネックス証券などです。これらの証券会社では、VTIを含む9銘柄の買付手数料が実質無料です。

なお、VTIは1株から購入でき、価格は2021年9月7日時点で233.28ドル(約2万5700円)です。

まとめ

米国のほとんど全ての銘柄をカバーしているVTIに投資することで、米株全体に投資することができます。しかしながら、これまでの金融緩和政策の結果、VTIの価格形成に歪みが生じており、組み入れ比率が高い銘柄にVTIの価格が左右される状況となっています。

組み入れ比率の高いFAANG銘柄等の動向に注目するほか、米国の金融政策とくにテーパリングの開始時期に注意しましょう。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。