国による資産形成のための制度に“つみたてNISA”と“IDeCo”があります。積立を始めたいけれど、どちらを選んだらよいのか迷っているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ積立ですが異なる制度で、それぞれメリットとデメリットがあります。積立をはじめる前に制度や仕組みを理解し、自分にあった積立を始めましょう。そこで、今回はつみたてNISAとiDeCoを徹底比較し、資産額のシミュレーションもしてみます。
※この記事は2021年4月5日時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
目次
- つみたてNISAとは
- つみたてNISAのメリット
2-1.最長20年間、非課税でつみたて
2-2.いつでも現金化できる
2-3.最低100円から投資可能
2-4.積立頻度は自身で決めることができる - つみたてNISAのデメリット
3-1.指定された銘柄のみ投資可
3-2.スポット買付はできない
3-3.非課税投資枠の繰越ができない
3-4.他の口座との損益通算は不可 - iDeCoとは
- iDeCoのメリット
5-1.最大40年加入可能
5-2.運用益や分配金が非課税
5-3.所得税・住民税が軽減される
5-4.受取方法を選択できる - iDeCoのデメリット
6-1.費用が高い
6-2.60歳になるまで出金不可
6-3.対象商品は金融機関が用意した銘柄のみ - つみたてNISAとiDeCoの相違表
- 資産額シミュレーション
- まとめ
1.つみたてNISAとは
つみたてNISAとは、2018年1月に始まった長期・積立・分散投資を支援するための国の制度です。つみたて期間は最長20年で、非課税枠の上限が毎年40万円のため最大投資金額は800万円(20年×40万円)となります。分配金や譲渡益は非課税です。
運用対象銘柄は金融庁により決められており、現時点の対象は193本(投資信託:186本、上場投資信託(ETF):7本)です。投資する銘柄は上限金額の範囲内(月33,333円)であれば1銘柄に絞らずに複数の銘柄を選ぶことも可能です。投資最低金額は証券会社によってまちまちですが、100円から積立ができるネット証券もあります。
2.つみたてNISAのメリット
つみたてNISAのメリットは以下の通りです。
2-1.最長20年間、非課税でつみたて
つみたてNISAは20歳以上の方なら、何歳から始めても最大20年間は分配金や譲渡益が非課税で投資信託を積み立てることができます。年齢に関係なく始められる仕組みです。
2-2.いつでも現金化できる
つみたてNISAはいつでも売却し、現金化することができます。急にお金が必要となってしまった場合、投資信託を売却し現金化できるのは強みです。
2-3.最低100円から投資可能
つみたてNISAはネット証券では100円から始めることができます。少額から始め、慣れてきたら徐々に金額を増やしていきましょう。月に最大で33,333円積立ができます。
2-4.積立頻度は自身で決めることができる
積立の頻度や金額(月33,333円以内)は自身で決めることができます。頻度は「毎週」、「2週間に一度」、「毎月」など自由に設定が可能です。
3.つみたてNISAのデメリット
一方で以下のようなデメリットもあります。
3-1.指定された銘柄のみ投資可
つみたてNISAは金融庁が許可した銘柄のみが対象です。インデックスファンドを中心に、投資初心者にも購入しやすい銘柄が多く揃えられていますが、銘柄選びの自由度は通常の投資信託に比べれば劣ります。
3-2.スポット買付はできない
積み立てている銘柄が急落した場合でも、次の積立機会を待たずに安い価格で追加購入することはできません。
3-3.非課税投資枠の繰越ができない
非課税投資枠は毎年40万円に設定されていますが、その年に非課税投資枠が残っていた場合には繰越すことができません。
3-4.他の口座との損益通算は不可
NISAやつみたてNISAで発生した損失は、他の口座の利益との損益通算や、繰越することはできません。
4.iDeCoとは
iDeCoとは、国が推進している個人年金制度で、日本在住で20歳以上60歳未満(2022年5月以降は65歳未満)の方が加入できます。積立金額は、下限が6万円(月額5,000円)で決められていますが、上限額は職業により異なります。会社員は、場合によっては加入できないこともあります。
年間のつみたて上限金額は、①勤務先に企業年金がない場合は月額2.3万円(年額27.6万円)、②企業型確定拠出型年金(支払われる年金額は運用成績次第)に加入している会社員が月額2万円(年額24万円)、③確定給付企業年金(支払われる年金額が決まっている年金)と企業型確定拠出年金に加入している会社員が月額1.2万円(月額14.4万円)、④確定給付企業年金の加入している会社員が月額1.2万円(年額14.4万円)、自営業者が月6.8万円(国民年金基金との合計額、年額81.6万円)です。
5.iDeCoのメリット
iDeCoのメリットは以下の通りです。
5-1.最大40年間加入できる
iDeCoは20歳から60歳未満の40年間加入できます。満了時の受取方法を一時金として受け取る場合、所得税の控除額は合計で2,200万円(800万円+70万円×(運用期間-20年))です。
積立開始から20年以降の所得税控除額は70万円となるため、運用期間が20年を超えると控除額が増える仕組みです。運用益も運用期間が長ければ長いほど高くなるため、加入年齢が若ければ若いほど有利な制度と言えます。
5-2.運用益や分配金が非課税
つみたてNISAと同様、運用益や分配金は非課税です。
5-3.所得税・住民税が軽減される
iDeCoは積立金額が所得から控除されるため、所得税・住民税が軽減されます。軽減される金額は所得によって異なります。課税所得400万円の会社員が月額2.3万円(年間27.6万円)を積み立てた場合の軽減額は、82,800円です。計算式は、27.6万円×(20%(所得税)+ 10%(住民税)です。
課税所得 | 所得税 | 住民税 | ¥12,000/月 での軽減額 |
¥23,000/月 での軽減額 |
¥68,000/月 での軽減額 |
---|---|---|---|---|---|
195万円以下 | 5% | 10% | ¥21,600 | ¥41,400 | ¥122,400 |
195万円超330万円以下 | 10% | ¥28,800 | ¥55,200 | ¥163,200 | |
~695万円以下 | 20% | ¥43,200 | ¥82,800 | ¥244,800 | |
~950万円以下 | 23% | ¥47,520 | ¥91,080 | ¥269,280 | |
~1800万円以下 | 33% | ¥61,920 | ¥118,680 | ¥350,880 | |
~4000万円以下 | 40% | ¥72,000 | ¥138,000 | ¥408,000 | |
4000万円超 | 45% | ¥79,200 | ¥151,800 | ¥448,800 |
5-4.受取方法を選択できる
iDeCoの満了時、受取方法は3つあります。
- 一時金での受け取り(退職所得控除の対象)
- 年金での受け取り(公的年金等控除の対象)
- 一部を一時金、残額を年金での受け取り
①を選択した場合は退職所得控除の対象となり、積立期間が20年以下の場合は40万円×積立期間が、20年以上の場合には、800万円+70万円×(積立期間-20年)が対象とります。40年間積み立てた場合の控除額は2,200万円になります。
②の年金として受け取る場合は他の公的年金と併せて公的年金控除が適用されます。収入金額が330万円未満の場合、65歳以上の控除額が多くなります。
6.iDeCoのデメリット
対して、以下のようなデメリットもあります。
6-1.費用が高い
iDeCoの費用として、まず加入時に2,829円(税込)が必要です。その他の費用としては、毎月最低171円(年間2,052円、税込)が必要です。この毎月の費用は金融機関により異なり、月に629円(年間7,548円、税込)必要な会社もあります。そのため、口座を作る前に毎月の費用を調べることをおすすめします。
積立額が1万円の場合、年間費用は積立金の1.71%(2,052円÷120,000円)と、10年国債の金利0.1%を大きく上回ってしまいます。
6-2.60歳になるまで出金不可
iDeCoは、積立の途中でも売却することはできますが、60歳以降にならないと現金を引き出すことができません。そのため、積立金額は無理のない範囲内で設定しましょう。
6-3.対象商品は金融機関が用意した銘柄のみ
iDeCoの対象銘柄は金融機関が用意した銘柄のみとなり、金融機関によって銘柄が異なります。基本的にどの金融機関もバランス良く商品をラインナップしていますが、事前に調べておくと良いでしょう。
7.つみたてNISAとiDeCoの相違表
つみたてNISAとiDeCoの違いを表にまとめると以下の通りです。
項目 | つみたてNISA | iDeCo |
---|---|---|
対象年齢 | 20歳以上 | 20歳以上 |
途中売却 | 〇 | 〇 |
運用益 | 非課税 | 非課税 |
運用期間 | 20年 | 20歳から60歳未満、最長40年(2022年以降 最長45年) |
非課税枠 | ¥8,000,000 | 人によって異なる |
年間積立額(年間) | ¥400,000 | 人によって異なる |
月積立額(最大) | ¥33,333 | ¥68,000 |
最低投資金額 | ¥100 | ¥5,000 |
所得税控除 | 無し | 〇 |
積立頻度 | 日々、毎週、毎月、個人で決める | 毎月、毎月+ボーナス時割り増し、年払いも |
資金の引出し | いつでも可 | 60歳までできない |
投資対象 | 金融庁指定の投資信託やETF | 金融機関が選択した投信、定期預金、保険 |
満期時 | ①特定口座に移管し運用を継続 ②売却し、現金化する |
一時金か年金、組合せから選択(一時金は退職所得扱い) |
8.資産額シミュレーション表
積立期間は長ければ長いほど複利効果が大きくなるため満期時の資産額が増えます。下記表は毎月の積立金額を利回りごとに10年、20年、30年、40年運用した場合の満期時の金額(単位:万円)を示しています。
毎月5,000円を10年間積み立てた場合、総投資額は60万円です。満期時の金額は、利回りが1%の場合63万円、10%なら101万円、20%ならば172万円です。
(注意:現実には毎年の運用成績が異なるため、下記表のような単純な結果にはなりません)
10年
利回り | 1% | 3% | 5% | 10% | 15% | 20% | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
毎月積立金額 | 総投資額 | ||||||
0.50 | 60 | 63 | 70 | 77 | 101 | 132 | 172 |
1.00 | 120 | 126 | 140 | 155 | 201 | 263 | 344 |
1.50 | 180 | 189 | 210 | 232 | 302 | 395 | 516 |
2.00 | 240 | 252 | 280 | 310 | 403 | 526 | 689 |
2.50 | 300 | 379 | 419 | 465 | 604 | 789 | 1,033 |
3.33 | 400 | 421 | 466 | 517 | 672 | 877 | 1,148 |
20年
利回り | 1% | 3% | 5% | 10% | 15% | 20% | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
毎月積立金額 | 総投資額 | ||||||
0.50 | 120 | 133 | 164 | 204 | 362 | 664 | 1,238 |
1.00 | 240 | 266 | 328 | 407 | 724 | 1,327 | 2,476 |
1.50 | 360 | 398 | 491 | 611 | 1,086 | 1,991 | 3,714 |
2.00 | 480 | 531 | 655 | 815 | 1,448 | 2,654 | 4,952 |
2.50 | 600 | 664 | 819 | 1,019 | 1,810 | 3,318 | 6,190 |
3.33 | 800 | 886 | 1,092 | 1,358 | 2,413 | 4,424 | 8,254 |
30年
利回り | 1% | 3% | 5% | 10% | 15% | 20% | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
毎月積立金額 | 総投資額 | ||||||
0.50 | 180 | 210 | 290 | 409 | 1040 | 2816 | 7838 |
1.20 | 432 | 504 | 696 | 982 | 2495 | 6758 | 19000 |
2.30 | 828 | 965 | 1,334 | 1,883 | 4782 | 13000 | 36000 |
40年
利回り | 1% | 3% | 5% | 10% | 15% | 20% | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
毎月積立金額 | 総投資額 | ||||||
0.50 | 240 | 295 | 460 | 744 | 2797 | 12000 | 49000 |
1.20 | 576 | 708 | 1,103 | 1,786 | 6714 | 28000 | 117000 |
2.30 | 1,104 | 1,357 | 2,115 | 3,424 | 130000 | 53000 | 224000 |
まとめ
つみたてNISAとiDeCoはともに積立制度ですが、それぞれ性質が異なっています。
iDeCoは私的年金であるため、満期時一時金として受け取る場合には退職所得としての扱いとなり、最大2,200万円が所得から控除されます。毎月2.3万円を10%で40年運用できれば満期時には1.3億円を受け取ることができる計算となります。また、NISAより長期間の運用が可能なため、若い方はiDeCo制度を利用する価値があります。
一方、つみたてNISAは、資金が必要な時に自由に引き出すことができるという利点があります。両制度の長所と短所を良く理解した上で、自身の目的にあわせて制度を選択し、賢く積立を始めましょう。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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