投資信託の運用方法は、投資目的によって変わってきます。これは、投資信託の運用期間や方法によって期待収益率が違うためです。老後資金のためなら長期運用、生活資金のためなら短期運用、リスク分散のためなら資産配分(アセットアロケーション)というように、目的に合わせた運用をすることで、収益率を高めることができます。
これら3つの目的にあったおすすめの運用方法を金融ストラテジストの筆者が解説します。
※2020年8月時点の情報に基づき執筆しています。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 老後生活資金のための運用方法
1-1.リスク許容度が大きい人
1-2.リスク許容度が小さい人 - 生活資金、金銭的に余裕のある生活をするための運用方法
- リスク分散のための資産配分を行う
3-1.資産分散
3-2.地域分散
3-3.通貨分散
3-4.時間分散 - まとめ
1.老後の生活資金のための運用方法
「2019年投資信託に関するアンケート調査報告書」(投資信託協会発表)では、投資信託の購入目的の第1位は「老後の生活資金」でした。年代別でも老後資金を目的とする人が多く、老後への不安が高いことがわかります。
老後資金形成のためには「つみたてNISA」が向いています。つみたてNISAは、長期にわたり少額から積立運用ができる非課税制度です。2037年までは、新規投資額で毎年40万円を上限に一定の投資信託を購入でき、2037年中に購入した投資信託についても2056年まで利益に対して非課税となります。
2020年からつみたてNISAを始めた場合、積立金の最大額(元金)は2037年までの17年間で680万円にもなります。長期間投資することで資産が増える可能性があるため、早期に開始した方が有利です。
一方で、つみたてNISAで運用する金融商品にはリスクがあることには注意が必要です。元本が保証されておらず、期待通りの運用益が得られる保証もありません。そのため、一般的に高齢者の方はリスクが低い債券重視の運用、20代から40代の方は株式を中心に運用されると良いでしょう。
ただ、個々人によって、リスク許容度(収益がマイナスに振れた場合にどの程度までなら容認できるか)が違うため、年齢・年代ではなくリスク許容度別に運用方法を変えることが大切です。リスク許容度が大きい人、小さい人に分け、それぞれにあった運用方法や適した銘柄を紹介します。
1-1.リスク許容度が大きい人
リスク許容度が大きい人は、収益がマイナスに振れた場合でも大きく構え、ハイリスクハイリターンのスタンスで投資可能な人です。こうした人は、株式アクティブファンドを中心に銘柄を選ぶのが良いでしょう。
つみたてNISA対象のアクティブファンドは国内株式が6銘柄、海外株式が4銘柄です。これらのファンドの5年シャープレシオ(運用効率の高さを示し、大きいほど良い)を比較すると、国内株式ファンドは1位が“ひふみ投信”の0.48、2位が“年金積立Jグロース”の0.22、3位が“コモンズ30ファンド”の0.19となっています。海外株式では1位が“フィディリティ・欧州株・ファンド”の0.38、2位が“eMAXIS NYダウインデックス”の0.33、3位が“セゾン資産形成の達人ファンド”の0.30でした。
それぞれのファンドの対象銘柄は“ひふみ投信”が国内中型グロース、“年金積立Jグロース”と“コモンズ30ファンド”が国内大型グロースです。“ひふみ投信”と“年金積立Jグロース、”もしくは“コモンズ30ファンド”を組み合わせることで国内中型株と大型株をカバーすることが出来ます。これを柱に米国株や欧州株のファンドを組み合わせることで、円のリスクを回避することができます。
1-2.リスク許容度が小さい人
リスク許容度が小さい人は、リスクが大きい株式投資を避け債券に投資する傾向があります。しかしながら、インフレリスクの点からみると、金融ストラテジストとしては債券のみの投資はおすすめできません。
債券は、元本の棄損リスクは小さいのですが、インフレによる貨幣価値の低下を避けることができません。今の100円は30年後も額面上は100円のままです。しかし、100円で買えた商品が30年後に200円になっていたら、貨幣価値が半減したことになります。
株式はインフレに強い性質があります。老後の生活資金を目的とした場合、インフレリスクを回避するために株式に投資する必要があります。 そこで、リスク許容度が小さい人は「バランス型ファンド」を選ぶことでリスク分散をすることができます。
国内株式と国内債券に外国株式、外国債券を加えた4つの資産に分散している銘柄を選びましょう。つみたてNISA対象のバランスファンドのうち、4資産が対象のファンドは17銘柄です。シャープレシオは、DCニッセイワールドセレクトファンド(安定型)が3年0.76、ダイワ・ライフ・バランス30が3年0.41と好成績でした。
2.生活資金、金銭的に余裕のある生活をするための投資方法
前述の「2019年投資信託に関するアンケート調査報告書」では、投資目的の第3位が「金銭的に余裕のある生活をするため」でした。回答の世代別順位をみると、1位が20代(29.2%)で、2位が30代(24.3%)、3位40代(20.3%)、4位50代(19.9%)、5位60代(18.3%)、6位70代(15.8%)と、若い世代ほど高くなっています。
この結果から、短期売買の需要が根強く、運用対象商品としては値動きが大きい商品が適していると言えます。短期売買中心の運用で、うまくいけば早期に利益を積み上げられます。例としては、日経レバレッジ投信など投機色の強い銘柄があげられます。また、まとまった資産があれば、毎月分配型のファンドを購入することで生活費を補うこともできます。
ただし、短期売買で利益を狙う方法は損失のリスクも高い点には注意が必要です。加えて、毎月分配型ファンドでは複利効果が期待しにくいため、中長期的に資産を増やすための運用としては適していないという注意点もあります。
3.リスク分散のための資産配分を行う
投資目的理由の上位に「リスク分散」があります。具体的な分散方法には資産分散、地域分散、通貨分散、時間分散があります。これらを組み合わせることで資産の抱えるリスクを分散させることができます。
3-1.資産分散
資産を多様化することでリスクを回避することができます。例えば株式と債券を組み合わせることで、株式の下落時に債券価格が上昇する傾向が強いため損失額を減らすことができます。
3-2.地域分散
資産を一つの国・地域に限定しないで、複数の国・地域に投資することでリスクを回避することができます。
経済成長は各国様々です。米国や欧州、新興諸国等、複数の国・地域に投資することで資産の成長が期待できます。なお、地域分散は政治不安・テロ・災害など不測の事態から資産を守ることもできます。
3-3.通貨分散
海外に投資する場合、リスクは価格変動と為替変動の2つがあります。このリスクを和らげるために、複数の通貨に投資することで為替の変動による損失を抑えることができます。米ドルだけではなく、ユーロやカナダドル、英国ポンドなどに投資することでリスクを低減することができます。
3-4.時間分散
金融商品の購入時期を分散させる投資方法です。相場は日々変動するため、価格が高い日もあれば安い日もあります。継続的に購入する場合、同じ商品の購入時期を分散させることで平均購入単価を抑えることができます。
まとめ
自身の投資目的にあった運用方法を選択することで、より効率的に資産を増やすことができます。ただ、投資目的だけではなく、自身の収入や余裕資産のほか、家族構成や性格といった「環境」を理解・分析したうえで、自身のリスク許容度に応じた投資を心がけることが大切です。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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