ロシアのウクライナ侵攻などを背景に景気後退やスタグフレーションの長期化が見込まれる中、資産運用大手のシュローダーは「経済成長の減速とインフレ率の上昇は株式と債券の両市場にとってマイナス要因。しかしこの局面で、グローバル株式の投資家にとって絶好の投資機会が生まれているともいえる」と説く。シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社が7月12日発表した「スタグフレーションの時代における投資機会」の日本語版から紹介する。レポートはグローバル株式・ 米国株式ヘッド兼CIOのアレックス・テダー氏。
ウクライナ侵攻は、エネルギーとコモディティの価格高騰や、世界同時株安、株価変動の大きさ(ボラティリティ)の上昇を招いた。欧米でリセッション(景気後退)が強く懸念され、物価が上昇し続ける一方で、実質的な経済成長がみられないスタグフレーションが長期化するリスクも高まっている。どちらにしても企業利益にはマイナスの影響が予想され、今後数ケ月以内にコスト上昇圧力が顕在化し、収益成長が減速し始めるため、マージンが圧迫される可能性が高い。
このような環境で、同社運用チームは「企業の価格決定力」に注目している。同社は企業の価格決定力に、気候変動などの長期的な成長要因は市場で見過ごされているが、忍耐強く、そのような構造的な成長要因に着目する投資家にとっては多くの投資機会が広がっている」という。
ハイテク株の多いナスダック総合株価指数は、5月は既に「弱気相場」に突入した。「弱気相場では通常、ニュースフロー次第で、ある時は大幅に上昇する可能性がある一方、大幅なドローダウンが見られる可能性もあるなど、高ボラティリティの展開となることが予想される。特に、米国では7月中旬に開始される4-6月期決算発表のタイミングでその傾向が顕著になる可能性がある」と同社。
22年の株式市場のスタイル・ファクターでは、「バリュー」株(株価が本質的価値を下回って取引されている銘柄)が最も良いパフォーマンスとなっている。バリュー銘柄には、エネルギーや素材の企業だけでなく、銀行や保険会社も含まれており、金利上昇により、ローンや債券ポートフォリオなどからの金利収入の増加が見込めることが好感されている。
それとは対照的に、「グロース」銘柄(市場平均を上回るペースで売上高と利益の成長が見込まれる企業)のパフォーマンスが低迷している。これについては「グロース銘柄のアンダーパフォームは当然と考えられる一方で、負債水準が低位であり、信頼性が高く、高収益の企業を表す『クオリティ』のファクターが著しくアンダーパフォームしていることについて注目すべき」と同社。クオリティ銘柄の約40%はハイテク企業だが、その多くはマイクロソフト、グーグル、アドビ、インテュイット、テキサス・インスツルメンツなど、強固なバランスシートを有し、キャッシュフロー生成力のある大手企業。その他のクオリティ銘柄は、ジョンソン・エンド・ジョンソン、イーライリリー、ビザ、コカ・コーラなどの大型でディフェンシブ性を有する複合企業だ。この分野のドローダウンの大きさ(下落率平均-20%)を考慮すると「今後6~12ケ月間で回復する可能性が高い」と同社は見る。
米国では、インフレ率と失業率が両極化しているが、過去をふりかえれば両極化が起こるたびに、1年半以内に景気後退が起こり、その後に比較的安定した経済成長期が続く。これも「今後景気後退に陥る可能性は高いが、その後世界経済が比較的速やかに正常化する可能性がある」(同社)ことを示唆している。
しかし、消費者にとっても企業にとっても、インフレのまん延と金利上昇の組み合わせが(長期間にわたる低利融資の後で)、既にマイナスの影響を及ぼしている。「個人消費から設備投資に至る多くの分野で「需要破壊」が顕在化している。このような環境では、多くの企業にとって値上げを実施することは困難であり、失望的な業績結果になると予想される」と同社は説く。
同社運用チームは、需要を損なうことなくコストの増加分を価格に転嫁する能力である価格決定力に着目している。「価格決定力が総じて非常に強い業界がある。例えば、ヘルスケアは技術革新が進む分野で、多くの企業が1つかそれ以上のユニークな製品を持っていることから、製品価格を維持し利益を伸ばすことが可能といえる。その他、情報技術、特にソフトウェアだけでなく最先端の半導体製造装置の分野でも、個別のフランチャイズ契約が求められ、困難な時期にもこれらの企業は好業績の可能性を持つ」という理由だ。
レポートは「足元の市場の混乱を見抜く能力と忍耐力を有する投資家にとっては、投資の好機が広がっている。このような構造的な成長がある分野への投資によって長期的に得られるリターンは計り知れない」と、長期的な視野の重要性を示し、考察を締めくくっている。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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