新型コロナウイルス感染拡大により、各国政府および中央銀行は大規模な政策対応に迫られ、必要不可欠な支援策を実施した結果、世界中で大規模な政府債務が発生している。これらを今後どのように返済していくのか。英運用大手シュローダーは投資家向けレポート「グローバルインサイト」(日本語版は9月29日公開)で、グローバル・マルチセクター債券チームストラテジストジェイムス・ ビルソン氏の「政府債務への取り組みがこの先の債券および通貨市場に大きく影響する」という見解を紹介している。
ビルソン氏は「短期、中期、長期での経済および市場に対する影響を考慮することが重要」と前置きし、「金融政策においては、現行のフレームワークそのものに変化が生じる可能性がある。具体的には、最終的に金融政策と財政政策のバランスに変化を生み、金融政策に比べ財政政策の重要性が、今後より高まる」と見る。このことは、非公式だが段階的に現代貨幣理論(MMT)の考え方や概念を導入していくことを意味しており、特に先進国においてこうした状況になっていく可能性が高い。
MMTは「一国の財政は家計の予算管理や企業のバランスシートと同様に管理する必要がある」という考え方に本質的に反するとビルソン氏は指摘する。MMTは「政府は収支を合わせる必要はない」と主張している。通貨発行権を持つ国は債務返済に充てる貨幣を際限なく発行できるため、デフォルトに陥ることはないが、貨幣発行を行った結果、インフレ率は上昇する。「このインフレが過度な政府の支出増加や減税を抑制する役割を果たすことになるというのがMMTの考え方。財政赤字を無視してよいという考えは、政治的に様々な弊害が生じる可能性があるため、現時点では公的な政策として採用される可能性は低い」という見立てだ。
収束を前提に、市場では楽観的な予測も出ている。中期的に生産性の向上により経済成長が促進され、公的債務の減少につながるというものだ。ただし、ビルソン氏は「残念ながら当チームの基本シナリオでは楽観シナリオは想定しておらず、今後生産性向上は比較的小幅に留まり、経済成長は過去対比低水準な状況が継続する」と否定的な見方を示す。その場合、高水準の政府債務に対応する選択肢は①債務帳消し②インフレーション③金融抑圧④財政再建の4つに絞られる。ただし「先進国で債務帳消しの可能性はほぼないため、政治的な選択としては残り3つをどのように組み合わせるか」が現実的な選択といえる。
このうち、財政再建については「世界金融危機の時と比べて増税が占める割合が増加することはほぼ確実」としたうえで、「政治家および有権者にとっての政治的な選択肢を分析する上で、MMTは有効」と評価。同社ではMMTを「財政赤字が際限なく増加することを示唆するものではなくインフレ上昇圧力が高まることが最終的に政策へのけん制になる」と捉えており、「継続的な財政出動による景気刺激策と低金利政策の組み合わせが可能なだけでなく、望ましい方策」と推す。
政治的な選択肢は、各国の財政政策における差異を生む。同社は、この状況によって市場のボラティリティ(変動性)が高まり、特に通貨市場や債券市場での国別選択における投資機会が多く発生すると予測。特に債券市場では「長期、超長期のセグメントにおいて各国間の利回り格差が大きく変化する可能性」を指摘。「今後は、政策金利について考える時間と同じだけの時間を予算に関する決定に対して費やすことが極めて重要となってくる」と締めくくっている。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE 編集部 投資信託チーム
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