平均インフレ目標政策(AIT)導入は投資家に何をもたらすか?シュローダー・レポート

資産運用のシュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社は9月24日、「平均インフレ目標政策(average inflation targeting: AIT)導入が投資家に意味することは?」と題したレポートの日本語版を公開した。米連邦準備制度理事会(FRB)がAITの導入を公表したことを受け、金融政策の新たな枠組みが債券市場にどのような影響をもたらすかを考察している。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で市場環境の先行き不透明感が強く漂う中、8月27日から28日に米国で開催された国際経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)は市場の注目を集めた。各国中央銀行はコロナ禍による市場・経済への影響を軽減させ、金融市場の安定性を維持するため様々な政策を実施してきました。そんな中、同会議における講演で、FRBは、金融政策の新たな枠組みを公表した。

AITは、インフレ率が一時的にも2%を上回ることを許容するもの。公表された内容は、一定期間はインフレ率が2%を上回ることを許容し、インフレ率の平均が2%程度を達成することを目標とするもの。パウエルFRB議長は「数式に縛られたものではなく、フレキシブルなアプローチ」と説明した。

シュローダーは「これは過去20~30年間にわたり実施されてきた『正統な』政策に変化をもたらすことになる」という見解を示す。これまで、中央銀行は固定されたインフレ目標を設定しており、インフレ率がインフレ目標を上回った場合は利上げ、下回った場合は利下げを実施することで対応し、インフレ率が目標を上回ることは原則として許容してこなかったためだ。

固定されたインフレ目標は、1990年代にニュージーランドで導入された。安定的なインフレは、経済拡大に最も適した水準と整合的であるという考え方に基づいており、数々の危機を経ながら、90年代に正式な導入に至った。また、英国では92年のポンド危機を経て「インフレ・ターゲティング」 が導入された。その後、イングランド銀行は、98年にインフレ・ターゲット2.5%を達成するための金融政策運営について政策金利の決定などの権限を与えられた経緯がある。FRBについては、2012年に2%のインフレ目標が導入されている。

一方、2007年~2008年の世界金融危機以来、中央銀行は量的金融緩和などの非伝統的な金融政策を実施しており、金利はゼロ付近まで低下する国々もみられ、大幅に低下した。この間、世界経済は堅調な推移を辿り、米国の失業率は新型コロナウイルス感染が拡がる以前までの約2年間は約50年ぶりの低水準で推移、米国経済は過去最長となる景気拡大となった。「金融政策は物価の安定、低い失業率、経済成長の維持を促進した」と同社は総括している。

しかし、経済成長および低い失業率を達成したにもかかわらず、インフレ率は目標を下回って推移してきた。背景には様々な要因があるとされるが「従来の金融政策の枠組みは、より高いインフレ率や経済成長を促すという点で限界に達した」という見方を強める。

そして今、AIT導入が投資家に意味することとはなんだろうか。シュローダーの見解は「AITの導入は予想されていたとはいえ重要な変化。従来の金融政策の枠組みはフレキシビリティに欠け、インフレ率は異様に長い間、低水準で推移してきたため、今回のAIT導入はその修正を企図した」と指摘する。

世界金融危機以降、家計は債務の削減に努め、貸し手はより慎重な姿勢をとってきたため、低金利はそれほど有効ではなくなっている。FRBによるAITの導入は、インフレ期待を押し上げ、労働者がより高い賃金を目指し、インフレ上昇につながる可能性もある。ただし、現段階では労働者によるこのような行動がとられる可能性は低いという見方だ。

AIT導入を受けた当初の市場の反応として、米国債について、より長期の国債利回りが短期国債の利回りの上昇幅を上回って上昇する「ベア・スティープニング」がみられた。8月、長期的に経済成長率やインフレ率が上昇するという市場期待に伴い、超長期債を中心に金利が上昇した。これについて、シュローダーは「より長期の国債利回りの上昇が、短期国債利回りの上昇よりも続く(スティープニング)可能性は高い」と予測。そのうえで①国債発行の量(より長期の国債に偏る可能性)②需給ギャップ(新規の発行が需要を上回る)③FRBはインフレ上昇を見越して利上げ実施は行わず、実際にインフレ上昇がみられるまで待つ④FRBはイールドカーブ・コントロールを最後手段として残すという4点に注視する。

一方、より長期な国債利回りの上昇圧力には「インフレ率が実際に上昇し始めた場合にのみ維持される可能性が高い。これには緩和的な金融政策だけではなく、公的支出の増加を通した財政政策などの刺激が必要」と指摘。これまでとの違いは「経済が回復し、インフレ率が上昇するまでは経済が過熱することを許容され、緩和的な金融政策がより長期に亘り維持される。金利は、従来の金融政策の枠組み下における推移よりも、より長期間、より低水準で推移する」と経済再開を前提としている。

レポートは関連企業のこうした動きを紹介しながら「米10年国債の平均利回りは過去10年間で2.2%となっており、この水準に戻るとするならば、足元での0.75%程度の水準を考慮すると、投資家は今後の動きに注意する必要がある」としめくくった。

【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社

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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム

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