米国株の今後の見通しは?株価推移、注目銘柄、イベント等【2021年9月】

※ このページには広告・PRが含まれています

米国株の今後を見通すうえで、重要なポイントは利上げ時期です。現在、FRBは量的緩和政策として、毎月米国債を月800億ドル、MBS(住宅ローン担保証券)を400億ドル購入しています。そのため、テーパリングの開始は少なからず資本市場に悪影響を与える可能性があります。

年内のFOMCは9月23日、11月4日、12月12日に予定されています。市場ではテーパリングは11月のFOMCで決定され、12月に開始されるとの見方が有力です。

そこで今回は米国株の今後の見通し、注目銘柄の動向について解説します。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※この記事は2021年9月10日時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。

目次

  1. 米国株の今後を見通すポイント
    1-1.新型コロナの感染状況
    1-2.インフレ率の推移
    1-3.利上げ時期と利上げ幅
  2. 変化に注意すべき点
    2-1.2年国債の水準とイールドカーブ
    2-2.ハイイールド債
  3. 米国株価の推移
  4. 注目の米国株銘柄
    4-1.FAANG・テスラ
    4-2.グロース株
  5. まとめ

1 米国株の今後を見通すポイント

米国株の今後を占ううえで、重要なポイントは利上げ時期です。利上げ時期を判断するうえで重要な要素としては、新型コロナの感染状況、インフレ率、雇用者数、住宅価格動向などが挙げられます。

1-1 新型コロナの感染状況

FRBや米国政府は、新型コロナ感染の再拡大による経済活動の失速を懸念しています。

2020年のコロナショックにより急激に落ち込んだ米国経済は、ワクチン接種率の高まりや金政策により概ね回復基調にあります。しかしながら足元では、新型コロナの感染再拡大に伴う飲食業を中心とした採用手控えの動きが広がるなど、不安材料も出てきています。2021年9月3日に発表された*非農業部門就業者数が前月比23.5万人増と、市場予想の73万人増を大幅に下回りました。

米国では、デルタ株など変異株によりコロナ感染が拡大傾向にあり、感染拡大が収まらない限り利上げには踏み切ることができません。9月3日時点の感染者数は先週比2.26%増の39.67万人と全世界の増加率1.45%を上回っています。

*非農業部門就業者数は農業部門を除いた産業で働く雇用者数のことで、米国の雇用情勢を表す指標として失業率同様に注目度が高い数字です。

1-2 インフレ率の推移

経済が過熱しているかどうかを見るうえでは、インフレ率の推移が注目されます。2021年8月11日に発表された7月米国消費者物価(CPI)は前年同月比5.4%と13年ぶりの高水準となり、高止まっています。

ただ、前月比でみると上昇率は縮小しており、供給要因が解消すればインフレ率上昇が鈍化するというFRBの見解を裏付ける結果とも言えます。今後のCPI前月比の結果や、FRB議長の発言などに注目することが大切です。

一方で、足元でコロナ感染拡大の影響や金融緩和を背景として、住宅価格が大きく上昇しており、金融引き締めの必要性が高まっています。8月31日に発表された6月のS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数(主要20都市)は前年比19.1%上昇し、上昇率が過去最高を記録しました。

1-3 利上げ時期と利上げ幅

米国株の今後をみるうえでは、政策金利の利上げ時期に加え、利上げ幅に注目することも重要です。

現在のFRBのインフレターゲットは2%です。基本的に政策金利はインフレ率を上回る必要があるため、FRBが金融引き締めを進めれば、FF金利は最終的には2%以上に設定されることになりそうです。利上げ時期については、コロナ終息が鍵となるでしょう。

2 変化に注意すべき点

市場はFRBの金融政策を先読みし動きます。先行指標として2年国債の水準、10年国債と2年国債の金利差や、ハイイールド債の動きに注意しましょう。

2-1 2年国債の水準とイールドカーブ

前回の利上げは2015年12月から2018年12月にわたり9回実施され、政策金利(FFレート)は0.25%から2.5%まで上昇しました。2年国債は2013年前半にはFFレート(0.25%)を挟んで推移していましたが、同年半ばから継続的に政策金利(0.25%)を上回りました。

2年国債の利回りは2020年7月下旬から8月上旬にかけて0.1%台前半で推移していましたが、現在では0.2%台に上昇しています(2021年9月時点のFFレートは上限目標が0.25%です)。

また、*イールドカーブの形状にも注意しましょう。政策金利は0.25%刻みで操作されることが多いため、FFレートが0.25%引き上げられた場合、政策金利の上限目標が0.5%に上昇します。国債とFFレートの関係をみると、期間の短い国債ほどFFレートに連動します。

10年国債よりも2年国債の利回りの方がFF金利と連動性が高いことを示しています。そのためFFレートが0.25%上昇すると、2年国債の利回りもほぼ0.25%上昇します。このことから、市場が利上げを意識し始めると2年国債利回りが上昇し、10年国債との金利差が縮小する現象が起きます(フラットニング)。

一般的にフラットニングは10年国債の利回りが低下して起きますが、一旦利上げが始まると2年国債金利の上昇が進み10年債と2年債の金利差(スプレッド)は縮小します。利上げ時期を推測するには、2年債利回りの推移や10年債と2年国債の金利差(スプレッド)に注意しましょう。

*イールドカーブ:縦軸に国債や債券の利回り、横軸に償還までの年数をグラフ化したもの。

2-2 ハイイールド債

本格的な利上げが始まると、*ハイイールド債が売られ金利が上昇する傾向があります。債券市場にはサイクルが存在します。利下げが始まると、まず国債や国債との連動性が高い投資適格債(格付けがBBB以上)の銘柄が買われ利回りが低下し、徐々にハイイールド債に流れハイイールド債の利回りが低下します。利上げ時にはこの逆回転が始まります。

ハイイールド債は炭鉱のカナリアとも呼ばれ、金利動向を先行すると言われています。ハイイールド債を発行している企業は高い利回りで資金調達しているので、利上げによる調達コストの上昇が本業の業績を圧迫するためです。

ハイイールド債の動向をみるには、ハイイールドETF(ティッカーHYG)の動きを観測するようにしましょう。このETFの下落が潮目変化となる可能性があります。

*ハイイールド債:ジャンク債ともよばれ、格付けがBB以下の債券を指します。倒産の確率が投資適格(BBB以上)の銘柄より高いため、利率が高く設定されています。

3 米国株価の推移

テーパリングは株式市場にとっても債券市場にとっても売り材料となります。資金の流通量が減るためです。金利上昇により、借入依存度の高い企業は資金繰り悪化が懸念されるため、株価の売り材料となりそうです。一方で、資金に余裕のある企業や銀行は、金利上昇による恩恵が受けられる可能性があるため、株価は堅調な動きとなりそうです。

4 注目の米国株銘柄

注目銘柄は、時価総額が巨大化したFAANG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、アルファベット)やテスラです。FAANG5銘柄の時価総額は、2021年9月3日時点で約832兆円です。この金額はナスダック指数の2,825兆円の約30%に相当します。

4-1 FAANG・テスラ

FAANGの5銘柄やテスラはS&P500指数にも組み入れられています。S&P500指数は時価総額加重平均法のため、これら6銘柄の動きが指数に与える影響は大きいと言えます。

各銘柄の*予想PERはフェイスブックが28倍、アップルが30倍、アマゾン60倍、ネットフリックス57倍、アルファベット37倍、テスラ372倍と、S&P500指数の22倍と比較し割高です。FAANGやテスラの株価が米国の主要株価指数に与える影響は大きいため、動きが注目されます。

*予想PER:株価が予想EPS(一株当たり予想利益)の何倍まで買われているかという指数で低いほど株価が割安とされます。相対的な指標で、同業他社や指数と比較し使われることが多い指数です。

4-2 グロース株

政策金利の上昇は*グロース株にとってネガティブな材料です。金融緩和時には市場金利が抑えられているため、比較的低コストで資金調達が可能です。しかし、金利が引き締められると、企業によっては資金調達コストが大きく上昇する可能性があります。

特に*自己資本比率の低い企業の株価にとっては、金利上昇による企業業績悪化が懸念されます。

*グロース株:売上高や利益が毎年伸びている成長株のことです。企業が成長過程にあるため株価が割高に買われる傾向があります。
*自己資本比率:会社の安全性を示す指標で、総資産に占める自己資本の割合です。高いほど財務上の安全性が高いとされます。

まとめ

FRBのテーパリングの足音が近づくなか、FAANGやテスラの株価に視線が集まっています。これらの銘柄は時価総額が巨大でS&P500指数やナスダック指数へ与える影響が大きいためです。コロナ禍の金融政策で株価が順調に上昇してきましたが、こうした銘柄の割高修正により今までのような上昇は期待できなくなるかもしれません。

The following two tabs change content below.

藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。