世界の株式市場において、もっとも重要な経済指標の1つが「米国雇用統計」です。米国雇用統計では、世界経済の中心である米国の雇用情勢が毎月発表されます。この記事では、米国雇用統計の見方と、日本の株式市場に与える影響について解説します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2021年9月時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
目次
1.米国雇用統計とは
米国経済は、世界のGDP(国内総生産)の約20%を占め世界最大。そして、その米国経済の約70%を個人消費が占めています。つまり、米国経済が良くなるかどうかは、個人消費にかかっているのです。雇用情勢を表す米国雇用統計は、個人消費を占う上で重要な指標といえます。雇用統計は米国の経済を表すもので、株式市場にも大きな影響を与えるのです。
米国雇用統計は、原則、毎月第1金曜日に発表されます。ただ、発表時間は夏時間と冬時間で以下のように異なるので注意が必要です。
- 夏時間:日本時間 21時30分
- 冬時間:日本時間 22時30分
2.米国雇用統計と政策金利
米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)は、金融政策の決定において「米国雇用統計」を重視しています。雇用統計は、米国景気の予測だけでなく、FRBの金融政策の方向性を判断するうえでも大切なことから、経済統計の中でも最も重視される経済指標の1つになっているのです。
雇用統計が改善すると、賃金が上昇して個人消費が増加します。すると景気が改善して物価が上昇するインフレが加速するので、FRBは政策金利を引き上げて過熱感を抑えようとするのです。
一方、雇用統計が悪化すると賃金が低下して個人消費が減少します。すると、景気が悪化してインフレ率が低下するので、FRBは政策金利を引き下げて景気を回復させようとするのです。
3.米国雇用統計はテーパリングにも影響を与える
最近の雇用統計は、FRBがテーパリング(量的緩和の縮小)をいつ始めるのかを占う指標として、とくに注目されています。株式市場では、FRBによるテーパリングに備え始めているのです。
FRBは「雇用の最大化」と「物価の安定」という2つの使命を持っています。そして、緩和から出口に向かう条件は整いつつあります。今年になってから力強い雇用情勢となっているので、FRBはテーパリングを年内に発表、来年初めに開始するとの予想が増えているのです。
テーパリングが行われれば金利は上昇し、株価は下落します。ただ、FRBはマーケットの対話を重視しており、テーパリングに関してある程度織り込んだ動きとなっているのです。市場予想の範囲内のテーパリングであれば、株式市場に与える影響は軽微であると考えています。
4.米国雇用統計が株式市場に与える影響
米国雇用統計は、世界の株式市場にも大きな影響を与えます。米国雇用統計の内容が良ければ景気もいいと判断されるので、株は買われやすくなります。一方、米国雇用統計の内容が悪ければ景気は悪化していると判断できるので、株は売られやすくなるのです。
米国雇用統計では10数項目の統計が発表されますが、その中でも重要視されているのが「非農業部門就業者数」と「失業率」です。「非農業部門就業者数」は、農業以外の事業をしている企業の給与支払帳簿をもとに集計されています。前月に就業している人に対し、何人増えたか減ったかを表しています。そして「失業率」とは、米国内の失業者を労働人口で割って算出したものです。
米国雇用統計では、事前に予想値が発表されます。米国雇用統計の結果が事前の予想通りだった場合、株式市場はあまり変動しません。しかし、発表された値が予想値と大きく異なった場合、株式市場が大きく動く可能性があるので注意が必要です。
5.日本株への影響
米国雇用統計が発表されるのは、原則、毎月第1金曜日です。そして、その結果は翌週月曜日の日本株にも大きな影響を与えます。米国雇用統計の内容が良ければ米国株式市場が上昇するので、月曜日の日本株も高く始まる傾向があります。一方、米国雇用統計の内容が悪ければ、米国株式市場が下落するので、月曜日の日本株は安く始まる傾向にあるのです。
6.2021年8月の米国雇用統計での株式市場の動き
8月6日(金)に発表された米国雇用統計では、非農業部門就業者数が943,000人増と市場予想の85万人を上回りました。宿泊や外食などサービス業の雇用が増え、幅広い業種に賃金上昇が広がってきており、非常に強い内容となったのです。
雇用統計の内容を好感したNYダウは、前日比144.26ドル上昇の35,208.51ドルで取引を終了。過去最高値を更新しました。また、機関投資家の多くが運用指標にしているS&P500種株価指数も続伸。前日比7.42ポイント高の4,436.52で取引を終了し、過去最高値を更新しました。
そして、雇用統計を受けた翌週の日本株式市場は、上昇で始まりました。米国雇用統計の内容が市場予想を上回り、米国経済が回復するとの見方から、日本株にも買いが入ったのです。10日(火)の日経平均株価は27,888.15円で取引を終了し、68.11円の上昇となりました(9日の月曜は祭日で休場)。
ただ、米国株式市場に比べると上昇幅は限られました。米国雇用統計を受け、28,128.61円の高値をつけましたが、国内の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて上値の重い展開になったのです。このように、朝方は米国株式市場の影響を受けて高く始まっても、国内要因により上値が重い展開になることもあるので注意してください。
まとめ
米国雇用統計は、もっとも注目度の高い経済指標の一つです。米国経済の動向を把握できるだけでなく、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策にも大きな影響を与えるからです。そして、日本の株式市場にも影響を与えるので、毎月チェックするように心がけると良いでしょう。
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山下耕太郎
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