日本銀行(日銀)が2022年2月14日に指値オペを実施しました。10年国債利回りの上昇がとまらず、日銀が許容する10年国債利回り変動幅の上限(0.25%)に接近していたためです。
今回の指値オペは、日銀が10年国債(363回債、364回債、365回債)の3銘柄を利回り0.25%で無制限に購入するというものです。入札結果は10年国債の市場金利が0.25%より低い水準で推移していたため、実際の応札はありませんでしたが、日銀の上限金利0.25%を死守するという意思を伝えるというアナウンスメント効果があったと思われます。
今回は、日銀が指値オペを行った背景や、今後の金利、株価の動向について解説します。
※2022年2月21日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
- 指値オペの背景
1-1.FRBの金融政策転換
1-2.日本国債の金利動向 - 日銀の金融政策
2-1.マイナス金利政策
2-2.イールドカーブ・コントロール(YCC) - 指値オペの影響
3-1.債券市場
3-2.株式市場 - まとめ
1 指値オペの背景
今回の指値オペの背景としては、米国金融政策転換による米国債利回り上昇を受けた日本の国債金利上昇が挙げられます。
FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策と日本国債の金利動向について、それぞれ見ていきましょう。
1-1 FRBの金融政策転換
米国では、金融政策が緩和策から引き締め策に転換しました。原油価格や賃金の上昇を受け、消費者物価の上昇に歯止めがかからないことや、経済が回復基調にあることが要因です。
FRBは、新型コロナ感染拡大に伴う経済の失速を補うため、金融緩和政策をとってきました。政策金利を0~0.25%に切り下げ、ゼロ金利政策をとると同時に、米国債やMBS(住宅担保ローン債権)を買い入れ、市場に資金を供給する量的緩和を実施してきました。
その効果もあり企業業績や失業率が改善し、2021年12月のFOMCでは、2022年3月に量的緩和政策を終了することが決まりました。
利上げ時期については、FRBのタカ派メンバーから量的緩和が終了次第すぐに利上げを開始すべきという意見も上がっています。市場では、2022年3月にFRBが0.5%の利上げを実施するということがコンセンサスとなっています(参照:Bloomberg「3月の米0.5ポイント利上げ確率50%超-予想上回る高インフレで」)。
政策金利に連動する2年国債の利回りは、2021年12月下旬の0.7%台から1.5%台に上昇しているため、市場は利上げ幅にもよりますが、2~3回程度の政策金利上昇を織り込んでいます。
1-2 日本国債の金利動向
日本国債の利回りは、米国債利回りの上昇を背景に、上昇基調にあります。日銀は2016年1月にマイナス金利政策を導入しました。導入後は国債利回りがマイナスに転じ、超長期国債(期間が10年を超える国債)がマイナス利回りで取引されたこともありました。
現在では国債金利は上昇基調にあり、年限の長い国債から利回りがプラスに転じています。2022年2月16日時点では、期間が3年未満の国債のみがマイナス金利となっています。
2 日銀の金融政策
日銀は、物価の安定を目的とし、金融政策を決定・実行しています。金融政策とは、オペレーション(公開市場操作)などの手段を用いて、金融市場をコントロールすることです。現在、日銀がとっているマイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール(YCC)について、みていきましょう。
2-1 マイナス金利政策
日銀のマイナス金利政策は、民間金融機関が日銀の当座預金に預ける際の金利が、一定の金額を超えた部分にマイナス0.1%を適用しています。マイナス金利政策の背景には、マイナス金利政策を導入することで、金融機関からの民間企業への貸出を促す目的があります。
2-2 イールドカーブ・コントロール(YCC)
イールドカーブ・コントロールとは、長期金利と短期金利の誘導目標を設定し、イールドカーブを適切な水準に維持することです。日銀の10年国債の変動許容上限は0.25%です。今回のように10年国債利回りが変動許容上限の0.25%以上に上昇する可能性がある場合、日銀が指値オペを実施し、利回りが適切な水準を維持するように誘導します。
3 指値オペの影響
指値オペを受け、債券市場では10年国債利回りの上昇に歯止めがかかりました。一方、株式市場への影響は、債券市場ほどありませんでした。
今回の指値オペを受け、今後の債券市場と株式市場の動きを予想しました。
3-1 債券市場
日銀が10年国債の上限0.25%で指値オペを実施したため、債券市場では日銀による0.25%以上に10年国債利回りを上昇させない、という強い姿勢・アナウンスだと受け取った感があります。
米国債利回りが上昇基調にあるなか、日銀が10年国債の変動許容上限0.25%を死守すればするほど、ドル高が進む可能性が高く、将来のインフレ圧力につながる可能性があります。
足元でのインフレ状況をみてみると、日本の生産者物価は上昇が目立っていますが、消費者物価は低い水準で推移しています。2022年1月の生産者物価指数は年率で8.6%という高水準ですが、消費者物価指数は景気の低迷などを背景に年率0.8%(2021年12月)と低い水準となっています。
これは、企業がコスト増加分を製品価格に転嫁せずに企業努力で抑えているためです。しかし、日米金利差の拡大に伴う円安や、原材料価格や原油価格の高騰を受けて、輸入価格が上昇傾向にあることから、将来的にインフレ傾向となる可能性もあります。
インフレになると国債利回りが上昇するため、日銀が0.25%で国債を買い入れ続けることが困難となります。仮に10年債利回りが0.25%を超える水準に上昇した場合、日銀が0.25%で際限なく国債を買い入れることができるのかには疑問が残ります。
また、買い入れをやめてしまうと、金利が急騰するリスクがあります。国債ではありませんが、2015年1月に為替市場でスイスフランショックが起きました。スイス国立銀行は、1ユーロ=1.2スイスフランを上限とする無制限買入を2011年以降実施してきました。しかし、2015年1月に突然為替介入政策の撤廃を発表。これを受けスイスフランが1ユーロ=1.0を下回る水準まで急騰しました。同様のことが日本国債に起きる可能性があります。
3-2 株式市場
日銀の指値オペは、金利上昇を抑える効果があるため、株式市場にはプラス材料です。金利の上昇は、企業のコスト増につながるためです。しかし、今後は消費者物価上昇により、日銀が政策転換を迫られるかもしれません。日銀の政策転換が国債金利の急騰を招く恐れがあるのです。そのとき、株式市場はグロース株を中心に下落する可能性があります。
今回の指値オペにより10年国債利回りの上昇はいったん収まりましたが、金利低下にはつながらない状況です。
まとめ
今回の日銀の指し値オペで、10年国債金利の上昇はいったん止まりました。しかし、米国の金融政策の転換や、日本のインフレ圧力などが金利の押し上げ要因となります。
日銀が今後、10年債の変動許容上限を0.25%から徐々に引き上げる可能性もあります。日銀が0.25%に固執しすぎると、金利が急騰する可能性があるためです。
市場では、今後、10年債が0.25%に近付いた時点で、日銀が指値オペを実施するかどうかに注目しています。
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藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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