投資信託(ファンド)には、“分配金あり”と“分配金なし”の2種類があります。分配金とは株式でいう配当金、債券でいうクーポンに相当するものです。分配金の頻度は、毎月のものから年1度のものまでファンドによりさまざまです。
“分配金なし“の投資信託は、分配金を再投資(複利運用)することで、長期的に大きな資産を築くことができる可能性が高まります。配当金の1,000円を30年3%で複利運用すると30年後には2,427円になります。このように、毎回の分配金を受け取らずに運用することで、将来大きな資産を形成することができるというわけです。
今回は、分配金の仕組みや“分配金あり”ファンドのメリット・デメリットをみていきましょう。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定会社・特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 分配金の仕組み
- 分配金の種類
2-1.普通分配金
2-2.特別分配金 - 分配金ありファンドのメリット
3-1.定期的に分配金が支払われる
3-2.自身で複利運用ができる - 分配金ありファンドのデメリット
4-1.複利効果を享受しづらい
4-2.基準価格は分配金支払いごとに下落傾向
4-3.分配金は課税対象 - まとめ
1.分配金の仕組み
投資信託の分配金の原資は、投資信託が投資をしている株式や債券の売買に伴う利益(キャピタルゲイン)と、株式の配当金や債券の利息(インカムゲイン)です。これらが投資信託を購入している投資家に分配されます。運用成績が良いファンドほど分配金が多く支払われますが、運用成績が悪いと減額されるため、分配金額は常に一定ではありません。
2.分配金の種類
分配金には普通分配金と特別分配金の2種類があります。それぞれ見ていきましょう。
2-1.普通分配金
普通分配金とは、キャピタルゲインとインカムゲインの合計が原資となり支払われる分配金です。投資信託が投資している株式や債券の価格は常に変動しているため、それらの資産を売買したことにより利益を得ることができます(キャピタルゲイン)。また、株式や債券を保有しているため、定期的に配当金や利息を受け取ることができます(インカムゲイン)。普通分配金は課税対象のため、所得税と住民税が課税されます。
2-2.特別分配金
特別分配金は、運用成績に関係なく投資信託の元本が取り崩されて支払われる分配金です。元本が払い戻されるため元本払戻金とも呼ばれています。毎月分配型のように分配金の支払い頻度が高い投資信託ほど、特別分配金が支払われるケースが多い傾向にあります。
元本を取り崩すため、投資信託の価格である基準価格は分配金支払い時に下落します。税制上は、分配金の原資が元本の取り崩しのため非課税です。
3.分配金ありファンドのメリット
メリットは以下の通りです。
3-1.定期的に分配金が支払われる
分配金ありのファンドのメリットは、定期的に分配金が支払われるため、投資している実感を得られると同時に、お小遣い程度のお金を定期的に受け取ることができる点です。分配金で普段より少し贅沢なランチをとることもできます。また、年金受給者が「毎月分配型のファンド」に投資することで、年金の上乗せのように利用することが可能です。
3-2.自身で複利運用ができる
分配金を積み立て、ある程度まとまった時点で株式や投資信託に投資をすることで、複利運用ができます。“分配金なし”の投資信託においても再投資を選択することができますが、同じ投資信託に再投資するため、銘柄の選択余地はありません。
分配金ありのファンドでは、分配金を積み立てることで、自身の投資スタンスにあった運用が可能です。
4.分配金ありファンドのデメリット
一方、以下のようなデメリットもあります。
4-1.複利効果を享受しづらい
“分配金あり”ファンドのデメリットは、自ら分配金を貯めて他の投資に費やさない限り、複利効果を享受できないことです。
運用期間が長ければ長いほど、分配金を受け取らずに再投資することで将来的に大きな資産を築きあげることができます。複利効果について例を挙げてみてみましょう(下記表参照)。
利回り\投資年数 | 5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 | 40年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5% | 1.03 | 1.05 | 1.08 | 1.10 | 1.13 | 1.16 | 1.19 | 1.22 |
1.0% | 1.05 | 1.10 | 1.16 | 1.22 | 1.28 | 1.35 | 1.42 | 1.49 |
3.0% | 1.16 | 1.34 | 1.56 | 1.81 | 2.09 | 2.43 | 2.81 | 3.26 |
5.0% | 1.28 | 1.63 | 2.08 | 2.65 | 3.39 | 4.32 | 5.52 | 7.04 |
10.0% | 1.61 | 2.59 | 4.18 | 6.73 | 10.83 | 17.45 | 28.1 | 45.26 |
15.0% | 2.01 | 4.05 | 8.14 | 16.37 | 32.92 | 66.21 | 133.18 | 267.86 |
20.0% | 2.49 | 6.19 | 15.41 | 38.34 | 95.4 | 237.38 | 590.67 | 1469.77 |
例えば、分配金1,000円を複利利回り(年1回)0.5%で5年間運用すると1,030円(1,000円×1.03)、40年後には1,220円(1,000円×1.22)になります。利回りが高いほど、期間が長いほど、金額が増えることが分かります。また年率20%で40年連続運用した場合は、1,000円が146.97万円(1,000円×1,469.77)となります。運用成績は市場動向により浮き沈みがありますが、世界経済が成長過程にあればプラス成長が期待できます。
分配金ありのファンドでは、分配金なしのファンドに比べてこのような複利効果を期待しづらく、自身で再投資をつど行う手間がかかる点には注意が必要です。
4-2.基準価格は分配金支払いごとに下落傾向
分配金が支払われると基準価格は下落します。例として下記表は、毎月分配型の三井住友DS-グローバルAIファンド(為替ヘッジあり予想分配金提示型)の分配金支払い日の基準価格と前日比を表にまとめたものです。
直近では2021年3月25日に分配金が500円支払われました。基準価格は前日比963円のマイナスです。分配金の支払いがなければ基準価格の下落は463円だったことを示しています。表からもわかるように、分配金支払い日の基準価格は全て前日比マイナスです。なお、3月25日の分配金500円は元本から支払われたため、全額が特別分配金だったことが分かります。
決算日 | 分配金(円) | 決算日基準価額(円) | 前日比(円) | 前日比と分配金の差額(円) |
---|---|---|---|---|
2021年3月25日 | 500 | 14,737 | -963 | -463 |
2021年2月25日 | 500 | 16,947 | -326 | 174 |
2021年1月25日 | 500 | 16,815 | -455 | 45 |
2020年12月25日 | 500 | 16,128 | -574 | -74 |
2020年11月25日 | 500 | 15,209 | -346 | 154 |
2020年10月26日 | 500 | 14,154 | -358 | 142 |
2020年9月25日 | 400 | 12,918 | -430 | -30 |
2020年8月25日 | 500 | 13,612 | -489 | 11 |
2020年7月27日 | 400 | 13,034 | -895 | -495 |
2020年6月25日 | 400 | 12,438 | -737 | -337 |
2020年5月25日 | 200 | 11,697 | -83 | 117 |
2020年4月27日 | 100 | 10,543 | 45 | 145 |
2020年3月25日 | 0 | 9,214 | 678 | 678 |
4-3.分配金は課税対象
分配金には所得税と地方税が課税されます。“分配金あり”のファンドにおいても、分配金を受け取らずに再投資することも可能です。この場合、課税後の金額が再投資されます。
“分配金なし”ファンドの場合、そもそも分配金が支払われないため、保有期間中には税金がかかりません。そのため、“分配金あり”ファンドは課税されるぶん、複利効果が薄れることになります。
まとめ
投資信託の分配金には、運用益や配当金・利息が原資となり支払われる普通分配金と、投資信託の元本を取り崩して支払われる特別分配金の2種類があります。特別分配金が支払われると、基準価格が減少するため、複利効果が薄れてしまいます。そのため、分配金の源泉が何かを理解した上で、分配金を受け取るようにしましょう。
“分配金あり”ファンドは、複利効果が薄れるため、将来の年金原資など長期的な資産を構築する場合には向いていません。一方で、分配金を生活費に充当するといった場合には向いているファンドです。まずは、自分の運用スタイルが短期かそれとも長期なのか、目的にあったファンドを選ぶようにしましょう。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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