インドの経済発展は目覚ましく、世界中がインドの経済成長に期待しています。インド株式市場には世界中から資金が流入し、株価は上昇傾向にあります。
2024年に入ってからはインフラ関連銘柄の上昇が目立っており、インフラ関連ファンドの多くはセンセックス指数やNifty50指数を大きくアウトパウォームしています。
本稿では、投資のプロである筆者が、インフラ株式ファンドの中から、HSBCインド・インフラ株式オープンについて解説します。
※株価は全て2024年5月16日時点です。
※2024年4月30日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- インドのインフラ事情
- HSBCインド・インフラ株式オープンとは
- インドのインフラ環境と取組
- 騰落率
- 保有銘柄TOP10(2024年1月末時点)
5-1.ラーセン・アンド・トゥブロ
5-2.リライアンス・インダストリーズ
5-3.インド石油天然ガス公社
5-4.バーティ・エアテル
5-5.インド国営火力発電所(ナショナル・サーマルパワー)
5-6.DLF
5-7.ウルトラ・テック・セメント
5-8.ジンダル・ステンレス
5-9.バーラト・エレクトロニクス
5-10.パワー・グリッド・コーポレーション・オブ・インディア - まとめ
1.インドのインフラ事情
経済成長の著しいインドですが、インフラ整備が遅れています。例えば、鉄道、地下鉄などの交通網は東京のようには整備されていません。移動手段はタクシーやトゥクトゥクが一般的です。
デリーやムンバイなどの大都市では、渋滞が当たり前で、タクシーやトゥクトゥクで5キロ移動するのに1時間かかることもあります。歩道はデコボコで、一部のエリアを除き人が歩くように整備されていません。また、下水道の整備も遅れており工場や家庭の廃水は河川に垂れ流しになっています。
インドの街中の様子
※写真は全て筆者撮影。
2.HSBCインド・インフラ株式オープンとは
HSBCインド・インフラ株式オープンは、インドの証券取引所やADR(米国預託証書)やGDR(グローバル預託証書)に上場するインドのインフラ関連銘柄に投資するファンドです。設定は2009年10月です。
運用はHSBCグローバル・アセット・マネジメント(シンガポール)リミテッドがファミリーファンド形式でおこなっています。決算は年1回、信託報酬は税込で年2.09%以内に設定されています。
純資産額は、インドの好調な経済成長を受けて増加傾向にあり、2023年6月に114億円でしたが、2024年2月末時点で1,249.7億円に増加しました。
3.インドのインフラ環境と取組
モディ首相は主要政策の一つにインフラ整備を挙げています。2019年5月の第2次モディ政権発足時には、2024年度までにインフラ整備に100兆ルピー(約180兆円)規模の投資を行う計画を公表しました。インフラ輸送網(道路、鉄道、空港、港湾等)の統合的な整備がすすめられています。
参照:マネックス証券「HSBC インド・インフラ株式オープン」
2024年1月にはインド最長のムンバイ湾横断道路が完成し、ムンバイ市とナビムンバイ市間の移動時間が大幅に短縮されました。また、ムンバイとアーメダバードを結ぶ高速鉄道(総延長508キロ)のプロジェクトが進行中、火力発電所建設など様々なインフラ整備も行われています。
4.騰落率
HSBCインド・インフラ株式オープンのトータルリターンは1年間で68.66%、3年間では34.80%です(基準日2024年4月1日)。SBI証券のデータによると、リターンはカテゴリ平均(1年44.07%、3年22.46%)を大きく上回っています。
5.保有銘柄TOP10(2024年2月末時点)
同ファンドは2024年2月末時点で55銘柄に投資しています。最大の投資先はラーセン・アンド・トゥプロの9.6%、次がリライアンス・インダストリーズの8.9%で、ポートに占める上位10銘柄で全体の46.9%を占めています。
ここでは、保有比率が高い10銘柄の概要を解説します。なお、10銘柄の中で年初来騰落率(4月1日時点)が最も高い銘柄はインド石油ガス公社の33.55%、次が不動産開発会社のDLFで30.54%、最も低い銘柄はウルトラ・テック・セメントのマイナス5.23%です。なお、10銘柄の単純平均は16.37%です。
5-1.ラ-セン・アンド・トゥブロ
ラーセン・アンド・トゥブロは、大規模建設プロジェクトの請負や、海外重機メーカーの代理店業務を手掛けています。
2023年度の売上高は前年比17%増の約1.8兆ルピー(約3.2兆円)、純利益は同20%増の約1,050億ルピー(約1,890億円)です。
参照:ラ-セン・アンド・トゥブロ「L&T Integrated Annual Report 2022-2023」
株価は3,838.00ルピー、予想PERは40.18倍、時価総額は5兆2,760億ルピー(約9.4兆円)です。同社は、日本のIHIと合弁でムンバイ湾横断道路を建設しました。
5-2.リライアンス・インダストリーズ
リライアンス・インダストリーズは、大手財閥リライアンスの中核企業で、石油開発や石油化学製品の製造を手掛けています。
2023年年間売上高は約9.74兆ルピー(約17.5兆円)、同純利益は約7,360億ルピー(約1.3兆円)です。インドの経済成長とともに売上高や純利益は上昇傾向にあり、10年前比では売上高が2倍、利益が3.2倍に増加しています。直近で見ると、2022年対比の成長率は、売上高が23.5%増、利益は11.3%増と、インドのGDP成長率6.3%(世銀予想)を大きく上回っています。
参照:リライアンス・インダストリーズ「Financial Reporting」
株価は2,969.55ルピー、予想PERは28.07倍、時価総額は20兆923億ルピー(約36.2兆円)です。
5-3.インド石油天然ガス公社
インド石油天然ガス公社はインド政府が発行済株式の約59%を保有しており、世界中で原油・天然ガスの探査や生産をおこなっています。
2024年度第3四半期の売上高は、前年同期比2.2%増の1.65兆ルピー(約3兆円)、純利益は同7.9%増の1,074億ルピー(約1,930億円)です。
参照:インド石油天然ガス公社「ONGC declares results for Q3 FY’24」
株価は269.90ルピー、予想PERは7.25倍、時価総額は3兆3,954億ルピー(約6.1兆円)です。
5-4.バーティ・エアテル
バーティ・エアテルはニューデリーに本社をおき、インドのみならずアフリカ、バングラデシュ、スリランカなどで電気通信事業を展開しています。
2022~23年の売上高が前年比19%増の1.39兆ルピー(約2.5兆円)、純利益は19.7%増の約8,470億ルピー(約1.5兆円)と、売上高、利益ともに順調に伸びています。
参照:バーティ・エアテル「Annual Financial Statements」
株価は1,217.35ルピー、予想PERは60.75倍、時価総額は7兆2,042億ルピー(約12.9兆円)です。
5-5.インド国営火力発電所(ナショナル・サーマルパワー)
ナショナル・サーマルパワーはインド政府を取引先とし、インド各州政府に電力を供給する公営企業で、政府が発行済株式の約51%を保有しています。
2022年度(47期)の売上高は約1.7兆ルピー(約3.1兆円)、純利益が約1,700億ルピー(約3,060億円)です。前年比では売上高が34.44%増、利益が5.6%増加しました。
参照:ナショナル・サーマルパワー「INTEGRATED ANNUAL REPORT 2022-23」
株価は342.35ルピー、予想PERは17.51倍、時価総額は3兆3,197億ルピー(約5.9兆円)です。
5-6.DLF
DLFはインド最大の不動産デベロッパーで、住宅や商業施設向けの開発を手掛けています。
2023年第3四半期の売上高は、約164億ルピー(約295億円)で前年同期比約1.8%増加しました。同期の純利益は26.2%増の65.5億ルピー(約118億円)です。居住用物件が好調で、利益を押し上げました。
参照:DLF「DLF Limited」
株価は948.25ルピー、予想PERは87.75倍、時価総額は2兆3,472億ルピー(約4.2兆円)です。
5-7.ウルトラ・テック・セメント
ウルトラ・テック・セメントは、セメントやセメント関連の製造・販売を行っています。
2023年度第3四半期の売上高は、前年同期比7.8%増の1,688億ルピー(約3,040億円)、純利益が65%増の181億ルピー(約325億円)と好調でした。
参照:ウルトラ・テック・セメント「Statement of Unaudited Consolidated Financial Results for the Three Months and Nine Months Ended 31/12/2023」
株価は9,954.40ルピー、予想PERは39.40倍、時価総額は2兆8,738億ルピー(約5.1兆円)です。
5-8.ジンダル・ステンレス
ジンダル・ステンレスはインド大手のステンレス鋼製品メーカーで、さまざまな規格の鋼板を製造しています。
業績は好調で、2023年上半期(2023年4~9月末)の売上高が前年同期比18%増の約2,005億ルピー(約3,610億円)、純利益は同75%増の約150億ルピー(約270億円)でした。一株当たり利益は、同78%増の18.46ルピーに成長しました。
参照:ジンダル・ステンレス「Financials」
株価は719.55ルピー、予想PERは18.95倍、時価総額は5,925億ルピー(約1.0兆円)です。
5-9.バーラト・エレクトロニクス
バーラト・エレクトロニクスは、電子機器やシステムを、防衛部門や日防衛市場向けに製造・販売しています。
2023年第3四半期(2023年10-12月期)の売上高は432.95億ルピー(前年同期比2.8%増)と小幅な伸びでした。しかし、利益はファイナスコストの削減などから前年同期比40%増の85.95億ルピーでした。
参照:バーラト・エレクトロニクス「Investors」
株価は211.10ルピー、予想PERは42.94倍、時価総額は1兆5,5431億ルピー(約2.77兆円)です。
5-10.パワー・グリッド・コーポレーション・オブ・インディア
パワー・グリッド・コーポレーション・オブ・インディアは国営の送電会社で、州間送電システム、電気通信、コンサルティングなどを手掛けています。
2023年第3四半期(2023年9~12月末)の売上高は、前年同期比2.5%増の1,189億ルピー(約2,140億円)、純利益は10.5%増の402億ルピー(約723億円)です。
参照:パワー・グリッド・コーポレーション・オブ・インディア「Quarterly Results」
株価は280.15ルピー、予想PERは16.46倍、時価総額は2兆6,056ルピー(約4.6兆円)です。
6.まとめ
経済成長の著しいインドですが、インフラ整備が遅れています。日常的な渋滞、下水整備の遅れ、鉄道網や道路整備の遅れなど多くの課題があります。そのため、インフラ関連企業への投資が増加傾向にあります。2024年に入り、インフラ関連銘柄の上昇が目立ち、関連ファンドの騰落率がインドの代表的指数であるセンセックス指数やNifty50を上回っています。
日本からはインド株を直接購入できませんが、ファンドには投資ができます。今回紹介したHSBCインド・インフラ・株式オープンは、SBI証券などでは100円から投資可能です。利用の開始を検討してみてはいかがでしょうか。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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