最近、世界中の中央銀行が金融引き締めに移行していますが、共通している要因は物価の高騰です。米FRBにしても雇用と物価の安定という2大責務がありながら、物価の上昇が中銀の想定レンジを大きく超えてしまっているため、どうしても物価抑制の方に比重を置かなければならない状況です。
この記事では、米CPIについて詳しく解説していきます。
※本記事は2022年2月10日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- CPIとは
- 為替レートと物価の関係
- CPIと金融政策の関係
3-1.デマンドプル型
3-2.コストプッシュ型 - 直近の米CPI上昇の背景4つの上昇要因
- 今回のCPIの注目点と相場の織り込み度合い
- CPIを受けた相場展開予想
1.CPIとは
英語表記「Consumer Price Index」の略で「消費者物価指数」のことです。消費者が購入する各種消費やサービスの小売価格の変動を調査・算出した経済指標です。米国の場合、米労働省が衣料や食料品など約200項目の品目の価格の変化を調査して指数化し、毎月中旬に公表しています。消費者が購入するモノやサービスなどの物価の動きを把握するための指標で、インフレ率を分析するための最重要指標として、市場関係者からも注目されています。
なお、消費者物価指数の中から、変動の激しいエネルギー関連数値や食料品目を取り除いたものを「消費者物価コア指数」といいます。一般的に、生産者物価指数(PPI)が売り手側の価格を表すのに対し、消費者物価指数(CPI)は買い手側の価格を表し、通常PPIがCPIに先行します。コロナショック後の米国でも、概ねPPIの水準が高く、後からCPIが追いかけていく形になっています。
為替レートと物価の関係
この項目では、為替レートの概要について解説します。
2-1. 物価から求められる為替レートの理論値
例えば、日本とアメリカで全く同じハンバーガーを購入できるとします。
1ドル=100円の場合
日本では100円で1個のハンバーガーを買うことができ、アメリカでは1ドルで1個のハンバーガーを買うことができます。
日本の物価が上昇し、日本のハンバーガーが120円になった場合
日本では120円を出さないと1個のハンバーガーを買うことはできませんが、アメリカでは1ドルで1個のハンバーガーを買うことができます。
全く同じハンバーガーという前提ですから、120円と1ドルが同じ価値ということになります。つまりハンバーガーの価値からみた場合は、1ドル=120円の為替レートが妥当な水準ということになります。
これは、日本の物価が上昇したことで通貨“円”の価値が低くなった(100円で買えていたのに120円払わないと買えなくなった)ということで、為替は「円安」になりましたということですが、これがいわゆる「ビックマック指数」の考え方です。
2-2. 実際のインフレと通貨の関係
理論的には、国内の物価が上昇したら「通貨安」、国内の物価が下降したら「通貨高」になると言われていますが、果たして実際の経済活動の中でそのようになるのでしょうか。各国の貿易形態や経常収支バランスにもよりますが、大まかな流れを解説します。
インフレには、良いインフレと悪いインフレがあるといわれています。良いインフレは、景気が良くて物価が上がるインフレです。景気が良いと、モノがよく売れますから、需要が供給を上回り、モノの値段が上がりインフレになるのです(デマンドプル型インフレ)。したがって、景気が良ければその国に金が流入して通貨高になることもあります。
一方、悪いインフレは、例えば原材料の値上がりなどで、モノを作るための費用が高くなり、その結果、モノの値段が上がるインフレです(コストプッシュ型インフレ)。この場合、決して景気が良いわけではなく、相対的な通貨の減価により通貨安になる可能性があります。特に、輸入比率が高い国は、通貨安により輸入材料の値段が上がれば、その分、企業のコストは増え利益は減ります。
もし、国内の給与が増えていないなかで、企業が利益を上げるために商品の値段を上げると、生活は圧迫されてしまいます。そうなると国内景気が更に悪化して通貨は売られていきます。2022年現在、一部の国が悩まされているのは、物価上昇がコストプッシュ型の悪いインフレの可能性があるからです。
3.CPIと金融政策の関係
3-1.デマンドプル型
一般的に物価上昇が起こるときは、お金の価値が下がっている状態であると言えます。特にデマンドプル型の場合、消費者はお金を持つよりも物を持つほうが価値を見いだせるため購買意欲が高まると考えられ、資金需要が高まる一方で貯蓄など資金の供給は減っていくと考えられます。したがって、金融政策は、購買意欲とインフレを抑えるために、物価上昇時には金利を引き上げる必要が出てきます。
3-2.コストプッシュ型
一方で、コストプッシュ型の場合、何らかの外部要因で景気回復を伴わず物価だけが上がってしまう状態になります。今回の場合、新型コロナウイルス感染症の蔓延による人手不足が発端となりエネルギー不足・物不足と繋がっていきました。こういったケースの場合、金利を引き上げたところで、エネルギー市場に入り込んでいる一部の投機マネーの流入抑制には繋がりますが、根本的な解決にはなりません。
4.直近の米CPI上昇の背景に4つの上昇要因
米CPIは先進国では唯一世界国別加重平均CPIを上回っており、世界の物価上昇を牽引している存在ということになります。中身を見ると、主な上昇要因は以下の4つがあります。
- エネルギー
- 輸送
- 住居
- 食料品
この4つで、コロナショック前の水準と比較して急上昇しているのは、エネルギー・輸送・食料品の3つです。住宅は、コロナ禍からの上昇幅は狭いですが、CPIに対する寄与度が高いため、仮に今後コロナウイルスがただの風邪として扱われるようになったとしても住宅費の上昇部分だけは根強く残ることになり、これだけでも1.4%程度の上昇となります。
巷では供給制約と言われ、コストプッシュ型の悪いインフレの部分が語られることが多いですが、エネルギーは大きく関わっています。そして、輸送と食料品も感染拡大によるエネルギー高に加えて人手不足からくる供給制約も関係するため、この部分もある程度の割合でコストプッシュ型と言えるかもしれません。ただ、米国の場合、他国と比較しても雇用市場が圧倒的に強く、豊富な求人とそれに見合う賃金上昇が見られます。
住居もそうですが、家庭用品などの購買意欲が強く、デマンドプル型のインフレ部分も相応に含まれているため、ある程度金融引き締めの効果が見込まれています。
5.今回のCPIの注目点と相場の織り込み度合い
前回約40年ぶりの高水準となったCPIと比較すると、前提となるエネルギー価格は上昇しているため、これまで物価を牽引してきたエネルギー価格と食品価格はどちらも更に上昇すると思われます。その他の、上昇要因である中古車や住宅費は、どちらも横ばいになりそうなので、前年比+7.3%予想となっています。
もし波乱要因があるとすれば、オミクロン株の感染拡大の影響をどの程度受けているのか分かりにくい宿泊費や航空運賃です。2021年夏頃、デルタ株が蔓延した際には、これらの項目が大きくマイナスとなり全体の数字を押し下げたことがありましたので要注意です。
しかも、先週の予想を大幅に上回った米雇用統計以降、今回のCPIが予想通りの結果となれば3月の利上げ幅は0.50%となることが40%程度織り込まれた状態となっていますので、サプライズがあるとするならば、ネガティブサプライズでしょう。
6.CPIを受けた相場展開予想
CPIが予想を上回った場合、先週のECB・BOE以降に進行したUSDショートポジションが元に戻るレベル、ドルインデックスでいうと(2022/2/9現在の95半ば)96台前半までの上昇になると思います。この際、FRBを中心とした世界中の中銀の引き締めが意識されるため、株も上値が重くなるため、新興国通貨が最も売られやすくなると予想します。
一方CPIが予想を下回った場合の方が、インパクトは大きく、ドルインデックスでいうと94台半ばまでの下落となりそうです。この場合、短期的ですが、FRBの引き締めスピード後退により株が上昇すると思われますので、先日タカ派転したECBを元にEURを買ったり、相対的にハト派であるRBAを元にAUDショートが溜まっていることもあるため、AUDを買うのが良いでしょう。
ただ、長期的にトレードする方は、今回のCPIが弱かったとしても、単月の結果でFRBの引き締めペースが変わるとは思えず、3月の利上げ幅は0.25%になったとしても、その後の全会合での利上げの可能性は残っているため、USD買いのチャンスを探っても良いと考えます。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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