インドでは経済成長に伴い、所得が増加傾向にあるため、消費支出が伸びています。インドの株式市場では消費関連銘柄が上昇基調にあるものの、外国人投資家はインド株へ直接投資ができないため投資信託を通じて投資する必要があります。
本稿はインド消費関連ファンドのうち、イーストスプリング・インド消費関連ファンドについて、投資のプロである筆者が解説します。
※年初来騰落率・株価は全て4月5日時点です。
※2024年4月22日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- イーストスプリング・インド消費関連ファンドとは
- ファンドの騰落率
- 保有銘柄TOP10
3-1.バーティ・エアテル(BHARTI)
3-2.サン・ファーマシューティカル・インダストリーズ(SUNP)
3-3.ICIC銀行(ICICIBC)
3-4.ヒンドゥスタン・ユニリーバ(HUVR)
3-5.マルチ・スズキ・インディア(MSIL)
3-6.アベニュー・スーパーマーツ(DMART)
3-7.HDFC銀行(HDFCB)
3-8.ゴドレジ・コンシューマー・プロダクツ(GCPL)
3-9.TVSモーター(TVSL)
3-10.エンバシー・オフィス・パークスREIT(EMBASSY) - まとめ
1.イーストスプリング・インド消費関連ファンドとは
イーストスプリングは、英国プルデンシャルグループの一員で、アジアを拠点とするグローバル投資の運用会社です。
イーストスプリング消費関連ファンドは、インド市場上場の消費関連株式を対象としたファンドで、2024年2月末時点での純資産額は1,962.9億円(前月比188.7億円増)です。ファンドの組入銘柄数は78で、業種別では自動車・自動車部品、医薬品・バイオテクノロジー、銀行の3業種が全体の約44%を占めています。
手数料は、購入時手数料が3.3%(最大)です。信託報酬は、投資対象とする投資信託証券の手数料0.6%を加え1.9497%程度(税込み)です。
2.ファンドの騰落率
運用成績は、1年間で44.8%、3年間では89.0%と高成績を残しており、SBI証券によるといずれの期間においてもカテゴリ平均を上回っています。
年初来騰落率は13.91%です。これはインドの代表的な株式指数であるセンセックス指数の2.78%やNifty50指数の3.60%を大きく上回っています。
3.保有銘柄TOP10
ここでは、ファンドが投資している上位10銘柄を解説します。
同ファンドは2024年2月末時点で78銘柄に投資しており、最大の投資先はバーティ・エアテルとサン・ファーマシューティカル・インダストリーズの6.6%です。ポートに占める上位10銘柄の割合は、ファンド全体の41.7%を占めています。10銘柄の中で年初来騰落率が最も高い銘柄はサン・ファーマシューティカル・インダストリーズの28.48%で、次がマルチ・スズキ・インディアの20.57%。最も低い銘柄はヒンドゥスタン・ユニリーバのマイナス14.90%です。
3-1.バーティ・エアテル(BHARTI)
バーティ・エアテルは電気通信事業会社で、インドのみならずアフリカ、バングラデシュ、スリランカなどで事業を展開しています。2022~23年の売上高は前年比19%増の1.39兆ルピー(約2.5兆円)、純利益は同19.7%増の約8,470億ルピー(約1.5兆円)と、売上高、利益ともに順調に伸びています。
株価は1,191.00ルピー、予想PERは59.43倍、時価総額は7兆428億ルピー(約12.6兆円)です。
参照:バーティ・エアテル「Integrated Report and Annual Financial Statements 2022-23」
3-2.サン・ファーマシューティカル・インダストリーズ(SUNP)
サン・ファーマシューティカル・インダストリーズは国際的な医薬品メーカーで、糖尿病や心臓病のほか、精神科、神経科向けのジェネリック薬を製造販売しています。2023年度の売上高が4,452億ルピー(前年比12.4%増)、純利益が847.3億ルピー(同58.9%増)でした。利益増加の要因は、特別損失の減額です。
株価は1,609.85ルピー、予想PERは40.79倍、時価総額は3兆8,600億ルピー(約6.9兆円)です。
参照:サン・ファーマシューティカル・インダストリーズ「Independent Auditor’s Report」
3-3.ICIC銀行(ICICIBC)
ICIC銀行は、インド全土に支店網を有する商業銀行です。預金額は毎年増加傾向にあり、2023年3月時点では11.8兆ルピーと2019年3月比で80%増、前年比では10%増加しました。
株価は1,083.40ルピー、予想PERは18.34倍、時価総額は7兆6,082億ルピー(約13.6兆円)です。時価総額は、三井住友フィナンシャルグループ(約11.5兆円)を上回る規模です。なお、同社は米国ADR市場に上場しており、日本から投資可能な銘柄です。
参照:ICIC銀行「Independent Auditor’s Report」
3-4.ヒンドゥスタン・ユニリーバ(HUVR)
ヒンドゥスタン・ユニリーバは石けん、洗剤、加工食品などの製造・販売を手掛けています。2022年の売上高は5,033億ルピー(前年比11.0%増)、純利益は881.8億ルピー(同10.8%増)と好調です。
株価は2,266.95ルピー、予想PERは50.69倍、時価総額は5兆3,264億ルピー(約9.5兆円)です。時価総額は、花王の約2.67兆円を上回っています。
参照:ヒンドゥスタン・ユニリーバ「HUL Annual Report 2021-22」
3-5.マルチ・スズキ・インディア(MSIL)
マルチ・スズキ・インディアは、日本のスズキとインド国営会社の合弁会社で、小型車を中心に製造・販売をしています。2023年12月時点では、インド国内での乗用車シェアは1位で、約40%を占めています。
参照:マークラインズ「自動車生産台数速報 インド 2023年」
インドの自動車市場は経済成長とともに拡大傾向にあり、2023年の年間販売台数は500万台乗せとなりました。同社は市場規模拡大にともない、生産能力を2030年までに現在の225万台から400万台に拡大する計画です。2022年度の売上高は1.19兆ルピー(前年比32.90%増)、純利益が827億ルピー(前年比97.27%増)と好調でした。
参照:ジェドロ「マルチ・スズキ、SMGの株式を100%取得、生産能力の増強へ」
参照:マルチ・スズキ・インディア「SEBI Standalone and Consolidated FY2022_23」
株価は12,421.60ルピー、予想PERは29.50倍、時価総額は3兆9,054億ルピー(約7.0兆円)です。時価総額はスズキの約3.3兆円を大きく上回っています。
3-6.アベニュー・スーパーマーツ(DMART)
アベニュー・スーパーマーツは、インドのスーパーマーケットの運営会社です。
2022年度の業績は好調で、売上高が前年度比38.19%増の4,296.8億ルピー、純利益は同59.36%増の237.8億ルピーです。インドでは、所得の伸びを背景に消費が拡大傾向にあり、同社の業績を押し上げています。
株価は4,619.25ルピー、予想PERは113.84倍、時価総額は3兆59億ルピー(約5.4兆円)です。時価総額は、イオンの約3.0兆円を大きく上回っています。
参照:アベニュー・スーパーマーツ「DMART」
3-7.HDFC銀行(HDFCB)
HDFC銀行は、インドの商業銀行です。子会社を通じて保険、投資信託などの金融サービスを提供しています。
業績は好調で、預金残高は2022年度比20.79%増の24.66兆ルピー、純利益は同19.33%増の4,410億ルピー(約7,940億円)となっています。
参照:HDFC銀行「Integrated Annual Report 2022-23」
株価は1,549.55ルピー、予想PERは21.93倍、時価総額は11兆7,718億ルピー(約21兆円)です。時価総額は、日本の銀行業では1位の三菱UFJフィナンシャルグループと同規模です。なお、同社は米国ADR市場に上場しており、日本から投資可能な銘柄です。
3-8.ゴドレジ・コンシューマー・プロダクツ(GCPL)
ゴドレジ・コンシューマー・プロダクツは、化粧品類や化粧石けんを製造する家庭用品メーカーです。
2023年度の売上高は前年度比9.04%増の1,348億ルピー、純利益は同4.53%減の170.2億ルピーでした。インドやアフリカで売上を伸ばしています。インドの売上高は前年比10.29%増の766.7億ルピー、アフリカは同11.96%増の341.4億ルピーでした。
参照:ゴドレジ・コンシューマー・プロダクツ「Quarterly Results Q42023」
株価は1,210.10ルピー、予想PERは62.00倍、時価総額は1兆2,377億ルピー(約2.2兆円)です。
3-9.TVSモーター(TVSL)
TVSモーターは、インドの二輪自動車メーカーで、インド5大バイクメーカーの一社です。
インドでは、人口増とともにバイク市場が拡大傾向にあり、市場規模は2023年の約2,991億ドルから2029年には約3,474億ドルに達すると予想されています。渋滞が頻発しており、小回りのきくバイク需要が高まっています。特にEVバイクの需要が増加傾向にあります。
参照:mordorintelligence.com「インド二輪車 市場規模」
同社の31期(2022年~2023年)の売上高は前期比31.67%増の3,211.19億ルピー、純利益は同79.16%増の130.94億ルピーでした。
参照:TVSモーター「STATEMENT OF STANDALONE FINANCIAL RESULTS FOR THE QUARTER AND YEAR ENDED 31ST MARCH 2023」
株価は2,069.40ルピー、予想PERは46.69倍、時価総額は9,831億ルピー(約1.7兆円)です。時価総額は、ヤマハ発動機の1.5兆円を上回っています。
3-10.エンバシー・オフィス・パークスREIT(EMBASSY)
エンバシー・オフィス・パークスREITは、インド初の上場REITで、主に商業施設やオフィスに投資をしています。2023年度の売上高は前期比15.34%増の356.36億ルピー、純利益は43.0%減の50.59億ルピーでした。
参照:エンバシー・オフィス・パークスREIT「embassy reit annual report fy 2022 23」
株価は374.54ルピー、予想PERは46.10倍、時価総額は3,550億ルピー(約6,390億円)です。
4.まとめ
イーストスプリング・インド消費関連ファンドの年初来騰落率は12.91%で、インドの主要株式指数であるセンセックス指数(1.05%)やNifty50指数(1.80%)を大きく上回っています。ファンドが投資している保有高上位10銘柄で、最も年初来騰落率が高い銘柄は国際的な医薬品メーカーであるサン・ファーマシューティカル・インダストリーズの28.1%です。
インドの消費関連ファンド上昇の背景には、購買意欲旺盛な若年層が人口構造の中心であることに加え、所得が伸びていることが挙げられます。今後もインド消費関連銘柄は、上昇期待が高いセクターになりそうです。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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