トルコリラは数十年にわたり下落基調にあります。背景の一つには、高いインフレ率が挙げられます。しかし最近は、トルコリラ反転の兆しも見え始めてきました。
本稿では、トルコリラの回復や、その背景について説明します。
※2024年4月24日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- トルコリラの推移
- トルコリラ低迷の要因
- トルコリラ反転の要素
3-1.金融政策の転換
3-2.株高
3-3.相次ぐ企業の増配
3-4.2024年最低賃金引上げは1月の1回 - トルコリラのリスク
4-1.エルドアン大統領の政策転換
4-2.外貨準備の枯渇 - まとめ
1.トルコリラの推移
トルコでは、経済政策の失敗により何度も金融危機を起こしてきました。1994年のリラ暴落時、2000年と2001年の通貨危機の際には、IMF(国際通貨基金)の金融支援を受けました。2005年1月には100万分の1のデノミが実施され、一時はリラが回復したものの、その後の政治混乱、リーマンショック、高インフレ、財政赤字拡大などが原因で下落し現在にいたっています。
デノミ実施時77円台だったリラ円は、2024年4月24日時点では4.7円前後で推移しています。
2.トルコリラ低迷の要因
トルコリラ低迷の要因としては、経済政策の失敗、財政赤字、貿易赤字の拡大などに加え、エルドアン大統領独自の経済理論が挙げられます。
一般的な経済原則では、インフレは貨幣価値の下落に繋がるため、利上げをし、通貨下落を抑えます。エルドアン大統領は、インフレに対し、利上げではなく利下げこそがインフレ抑制につながると公言しています。エルドアン大統領の政策によって、インフレ率が約50~80%台と高騰していた2022年から2023年にかけて、政策金利を14%から数回に分けて8.5%に引き下げたため、リラが下落しました。
政策金利、消費者物価、実質金利、リラ円
項目\年月 | 2019年1月 | 2020年1月 | 2021年1月 | 2022年1月 | 2023年1月 | 2024年1月 |
---|---|---|---|---|---|---|
政策金利(%) | 24 | 11.25 | 17 | 14 | 9 | 45 |
消費者物価指数 | 20.35 | 12.15 | 14.97 | 48.69 | 57.68 | 64.86 |
実質金利(%) | 3.65 | -0.90 | 2.03 | -34.69 | -48.68 | -19.86 |
リラ円 | 20.93 | 18.11 | 14.30 | 8.55 | 6.92 | 4.81 |
3.トルコリラ反転の兆し
最近では、トルコリラが反転する兆しが見えてきました。背景には金融政策の転換や株高などが挙げられます。ここでは反転の兆しについて解説します。
3-1.金融政策の転換
リラ反転の要素として、金融政策の転換が挙げられます。
インフレ率が上昇する過程において利下げを実施してきたエルドアン大統領ですが、2023年5月の大統領選挙で再選後に金融政策を転換しました。選挙で再選を果たしたものの、選挙戦においては、長引くインフレと通貨リラ安に対する国民の不満が、エルドアン大統領の支持率低下に繋がったためです。
政策転換後、政策金利は8.5%から数回にわたり引き上げられ、2024年4月時点では50%に引き上げられました。
3-2.株高
リラ反転の要素としては、株高も挙げられます。トルコでは、現預金は高インフレにより貨幣価値が目減りしてしまうことから、株式市場へ資金が流入しています。トルコの代表的な株式指数であるイスタンブール100指数は、史上高値を更新しています。年初来の上昇率は31.37%*となりました。
米国市場で取引されているトルコETFの上昇率は18.24%と、インドの6.02%、イタリアの6.01%を大きく上回っています。
株高が続けば、海外からの資金流入により通貨にはプラス材料です。
*2024年4月12日時点
3-3.相次ぐ企業の増配
トルコ企業の株高をけん引する要因として、企業の増配が挙げられます。配当金の増額は株価上昇に繋がります。海外投資家のトルコ株投資は、トルコリラ買いに繋がるためリラ高に繋がります。
増配したトルコ企業をチェックしてみましょう。
企業名 | 事業内容 | 増配 |
---|---|---|
ドーシュ・オートモーティブ・サービス・べ・ティジェレット | 自動車輸入・販売とアフターサービスを手掛ける | 1株当たりの配当金が、前回の5.68リラから7.2倍の40.90リラに増配。 |
コチ・ホールディング | 自動車製造から金融まで幅広い事業を運営 | 1株当たりの配当金は8リラと、前年1.733リラの4.6倍の8リラを支払うと発表。 |
タークセル | 携帯電話会社 | 配当金を、昨年比約2.8倍の2.85リラを支払うことを公表。 |
コカコーラ・アイセック | 飲料メーカー | 配当金を前年比2.67倍の7.86リラに増配。 |
3-4.2024年最低賃金引上げは1月の1回
近年のインフレ率高止まりの要因として、最低賃金の引き上げが挙げられます。
最低賃金は、物価高騰を背景に2023年の1月と7月、さらに2024年1月に引き上げられました。賃金上昇率は2023年1月に55%上昇(1日当たり333.6リラ)、同年7月に34%上昇(同447.15リラ)し、2024年1月には49%上昇(同666.75リラ)しました。2024年1月の最低賃金は、2023年1月対比で約2倍に跳ね上がったことになります。
参照:ジェトロ「2024年の最低賃金は49%増」
今後は、インフレ率が収まる可能性があります。2024年の賃金上昇は1度のみとされているため、2025年1月以降は賃金上昇によってかさ上げされていた部分が払しょくされることになりそうです。
4.トルコリラのリスク
4-1.エルドアン大統領の政策転換
リスクとしては、金融政策の転換が挙げられます。
2024年4月現在、エルドアン大統領は高インフレ率を押さえようと金融引締策をとっています。しかし、インフレ率が下がる気配が見えません。エルドアン大統領は、利上げではなく利下げこそがインフレ抑制につながると公言しているため、金融引締政策を転換する可能性は捨てきれません。
4-2.外貨準備の枯渇
外貨準備高の枯渇も、リラ下落のリスクに繋がります。
中央銀行は、為替市場でドル売りリラ買いを行い、リラの下落を押さえています。そのため、外貨準備高が減少傾向にあります。2024年3月の外貨準備高は687.4億ドルと、2024年1月の919.9億ドルから232.2億ドル減少しています。リラ下落が続き外貨準備が枯渇してしまうと、リラ安が進むことになります。
5.まとめ
トルコリラは、経済政策の失敗や財政・貿易赤字を背景に、長期に渡って下落しています。しかし、エルドアン大統領の金融政策転換や、企業の相次ぐ増配により、海外投資家がリラ買いに動く可能性が出てきました。インフレの一因である最低賃金の引き上げ効果は払しょくされるため、 2025年1月以降にはインフレ率が下がる可能性があります。
トルコリラに反転の兆しが見えてきたと言えるでしょう。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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