英国(イギリス)の金融教育と日本の金融教育との違いや共通点は?

2022年4月から、日本においても高校で金融教育が義務化されました。その一方で、まだ始まったばかりの日本の金融教育の課題は少なくありません。

英国(イギリス)は2010年代より金融教育を国家戦略として実施しており、マネー・ペンションサービス(MaPs)の設置、労働年金省や教育省といった省庁やNPO団体・非政府組織、銀行を含めた民間企業との連携などが行われています。

この記事では金融教育の先進国である英国と日本の金融教育を比較し、今後の課題を考えていきます。

目次

  1. 金融教育が必要とされる理由
    1-1.経済社会の変化に対応するため
    1-2.ライフプランの実現のため
    1-3.消費者トラブルに巻き込まれないために
    1-4.社会全体の活性化のために
  2. 英国の金融教育の特徴
    2-1.国家戦略と金融ウェルビーイング
    2-2.金融教育を推進する組織
    2-3.金融教育の内容
    2-4.効果の検証と改善のサイクル
  3. 日本の金融教育の特徴
    3-1.金融教育の国家戦略
    3-2.金融教育を推進する組織
    3-3.金融教育の内容
    3-4.効果測定
  4. 日本と英国の金融教育の比較
    4-1.日英の金融教育の違い
    4-2.日英の金融教育の共通点
  5. 家庭でできる金融教育の具体例
    5-1.お小遣いの管理
    5-2.買い物体験
    5-3.ボードゲームを楽しみながら
    5-4.ニュースや新聞で経済情報に触れる
  6. まとめ

1.金融教育が必要とされる理由

日英の金融教育を比較する前に、なぜ金融教育が必要とされるのかについて確認しておきましょう。

1-1.経済社会の変化に対応するため

金融教育はこれからの経済社会の変化に対応するために必要です。現代社会は技術の進化、グローバル化、そして経済の変動性が高まっているため、個人がこれらの変化に柔軟に対応できる知識とスキルが求められています。

たとえば、デジタル通貨の登場やオンライン取引の普及は金融の世界を急速に変化させています。このような新しい金融技術に適応するためには、経済環境の理解や取引方法の知識が必要です。

金融教育により得られる知識やスキルは経済社会の変化に適切に対応し、個人の経済的安定を守るために重要な役割を担っていると言えるでしょう。

1-2.ライフプランの実現のため

金融教育は個人が理想のライフプランを実現するためにも活用できます。経済的自立と長期的な計画を立てる能力が、個人の目標達成にも関連しているからです。

たとえば、家を購入したい、子どもを大学に進学させたい、安心してリタイアメントを迎えたいといった人生の大きな目標は、適切な人生設計によって初めて達成可能になります。金融教育によって身につけた知識とスキルは個人が自らのライフプランを具体化し、それを実現するための基盤となります。

1-3.消費者トラブルに巻き込まれないために

金融教育は消費者トラブルに巻き込まれないためにも必要です。金融市場の複雑化が進む中で、適切な知識がなければ不利な契約や詐欺に遭うリスクが高まります。

金融教育によって契約書の内容を理解する、悪質な勧誘に惑わされない、クーリングオフ制度の活用といった知識を身につけられます。

1-4.社会全体の活性化のために

社会全体が金融についての理解を深めていけると、より健全な経済活動が促進されます。一人一人が金融リテラシーを身につけることで健全な金融行動が拡散され、経済全体が活性化されるからです。金融教育は個人の利益にとどまらず、社会全体の発展と安定化に役立つものといえます。

2.英国の金融教育の特徴

英国の金融教育はその総合的なアプローチと政府、教育機関、民間セクターの連携という特徴があります。以下にて、英国の金融教育の主な特徴を解説します。

2-1.国家戦略と金融ウェルビーイング

英国では、金融能力と金融ウェルビーイングの向上を目的とした国家戦略が展開されています。この戦略では学校教育だけでなく、家庭や地域社会も含めた包括的な金融教育の推進を目標としています。

2-2.金融教育を推進する組織

金融教育推進の中心的組織は、マネー・ペンションサービス(MaPs)です。MaPsは関連省庁、学校、NPO、民間企業などと連携しながら、金融教育の推進に取り組んでいます。

2-3.金融教育の内容

英国の学校教育では金融教育は独立した教科ではなく、数学、シティズンシップ、PSHE(個人・社会・健康教育)などの教科の中で横断的に扱われています。各学校が創意工夫を凝らしながら、子どもの発達段階に応じた体系的な金融教育プログラムを実施しています。

また、学校だけでなく家庭や地域社会も含む幅広いセクターでの連携が促進されている点も特色の1つです。

2-4.効果の検証と改善のサイクル

英国では金融教育に関する綿密な調査が行われ、その結果が政策立案に活用されています。データに基づく効果検証と改善のサイクルが重視されており、エビデンスに基づく金融教育の質的向上が図られています。

3.日本の金融教育の特徴

以下にて、日本の金融教育の特徴を解説します。

3-1.2012年に「金融経済教育研究会」が設置される

日本の金融教育は、金融庁の金融経済教育研究会が2013年に公表した報告書「金融経済教育研究会報告書」において、国民の金融リテラシーを向上させていくことの重要性が説かれています。

この報告書では、最低限身につけるべき金融リテラシーを4分野・15項目で整理しています。

3-2.金融教育を推進する組織

金融教育の推進体制としては、有識者、関係省庁、金融関係団体などからなる「金融経済教育推進会議」が中心的な役割を担っています。

2024年4月には、政府主導の「金融経済教育推進機構」が設立され、金融庁と日本銀行の連携のもと、官民一体で金融経済教育を推進する方針です。

3-3.金融教育の内容

日本の学校教育では金融教育は主に社会科、公民科、家庭科などの教科の一部として扱われています。中学校では社会科・技術家庭科に金融に関する内容が盛り込まれています。2022年4月からは高校で金融教育が義務化され、家庭科の授業で金融教育が始まりました。

学校教育では「家計管理」、「生活設計」、「金融知識および金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」、「外部の知見の適切な活用」の4つの分野にわたる金融リテラシーが指導されます。

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3-4.効果測定

金融教育の効果測定として金融広報中央委員会が、18歳以上の個人の金融リテラシー調査を3年ごとに実施しています。金融経済教育を推進する研究会が、中学生・高校生とその教員を対象とした実態調査の実施といったエビデンスの収集も進められています。

4.日本と英国の金融教育の比較

以上の内容を踏まえ、日本と英国の金融教育を比較します。

4-1.日英の金融教育の違い

英国(イギリス) 日本
国家における金融教育の位置づけ 「金融ウェルビーイング」の向上を目標 金融リテラシーの向上が目標
推進体制の整備 MaPSが中心となって、関連省庁、学校、NPO、民間企業などが連携する体系的な推進体制 民間団体との連携は個別的で途上
学校教育とのつながり MaPSによる教員支援などを通じた学校と外部組織との連携 外部からの体系的支援は限定的

国家戦略における金融教育の位置づけ

英国では「金融ウェルビーイング」の向上という明確な目標のもと、金融教育が将来の健全な金融行動の「基礎」として位置づけられています。一方、日本では金融リテラシーの向上が目標とされているものの、国家戦略全体の中での金融教育の位置づけは相対的に不明確です。

推進体制の整備

英国ではMaPSが中心となって、関連省庁、学校、NPO、民間企業などが連携する体系的な推進体制が整備されています。日本でも金融庁や日本銀行による推進体制の整備が進められていますが、民間団体との連携は個別的で完成途上といえます。

学校教育とのつながり

英国の学校教育では金融教育が教科横断的に実施され、MaPSによる教員支援などを通じて学校と外部組織との連携が図られています。日本では金融教育は特定の教科の一部として位置づけられており、カリキュラム開発や教員の指導力向上に関する外部からの体系的支援は限定的です。

4-2.日英の金融教育の共通点

日本と英国の金融教育には、以下のような共通点があります。

社会の変化への対応

日英ともに金融商品やサービスの多様化、少子高齢化といった社会変化を背景に、国民の金融リテラシー向上の必要性を認識しています。金融教育は、このような変化に対応するための重要な方策と位置づけられています。

学校教育における扱い

両国とも金融教育は独立した教科ではなく、主に社会科、公民科、家庭科などの関連教科の中で部分的に扱われています。また、体系的なカリキュラムや専門の担当教員は存在しないという共通の課題を抱えています。

官民連携

両国とも金融教育の推進には政府や公的機関だけでなく、民間団体の参画が不可欠であると認識しています。日本の金融広報中央委員会や英国のMaPSなど、官民が連携して金融教育を推進する枠組みづくりが進められています。

資産形成の重視

日英ともにライフステージに応じた適切な資産形成が金融教育の目標の1つとして掲げられています。そのため、金融商品の選択や投資に関する知識・スキルの習得が重視されています。

5.家庭でできる金融教育の具体例

これまでは子どもの金融教育のほとんどの部分を家庭が担ってきました。家庭外で金融教育の体制が整備されても、家庭での教育の重要性は高いと言えるでしょう。最後に家庭でできる金融教育の例を紹介します。

5-1.お小遣いの管理

いつの時代もお小遣いは金銭教育の基本といえます。例えば、子どもに定期的に一定額のお小遣いを与え、計画的に使うことを学んでもらうのも良いでしょう。お小遣い帳をつけて、お金のやりくりを身につけるようにしましょう。

5-2.買い物体験

買い物の予算を決め、事前に予算内で買いたいものをリストアップし、実際に店舗での価格と照らし合わせながら買い物をしてみます。予算管理、品質と価格の比較のような生活していくうえで大切な意思決定を学べます。

5-3.ボードゲームを楽しみながら

「人生ゲーム」や「モノポリー」といったボードゲームを家族でプレイすると、楽しみながら金融の基礎を学べます。また、家族のコミュニケーションの手段としても良いでしょう。

5-4.ニュースや新聞で経済情報に触れる

日常的に金融に関連するニュースや記事を子どもと一緒に読み、話し合います。経済の動きや金融商品についての知識を深めるとともに、判断力を養います。わからないことを調べるように促すのもよいでしょう。

まとめ

日本も英国も金融教育を国家戦略と位置づけ、意欲的に取り組んでいます。日本は今後英国の体制を参考に省庁、学校、NPO、民間企業などの連携を強化し、全国的な推進体制の整備が求められるでしょう。

金融教育は子どもの将来へ重要な影響があるため、家庭でもできる範囲での取り組みをしていくことが大切です。

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松田 聡子

明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。 保有資格:日本FP協会認定CFP・DCアドバイザー・証券外務員2種 運営サイト : 経営体質改善のヒント