国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)

目次

  1. 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)とは
  2. UNEP FIが注目される背景
  3. UNEP FIの3つのフレームワーク
    3-1.責任銀行原則(PRB)
    3-2.持続可能な保険原則(PSI)
    3-3.責任投資原則(PRI)
  4. UNEP FIの今後の展望
  5. まとめ

1 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)とは

国連環境計画・金融イニシアティブ(The United Nations Environment Programme Finance Initiative、UNEP FI)は、持続可能な経済発展とESGの課題解決のために、金融システムの転換を促すグローバルなパートナーシップです。

1972年のストックホルム国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」や「環境国際行動計画」を実行に移すため、国連の補助機関として国連環境計画(UNEP)が設立されました。そして1992年、持続可能な社会の実現を目指し、金融セクターに行動を喚起するために設立されたのがUNEP FIです。

UNEP FIは、「責任銀行原則(Principles for Responsible Banking、PRB)」や「持続可能な保険原則(Principles for Sustainable Insurance、PSI)」などの金融フレームワークを提唱し、各金融セクターが持続可能で包括的な金融商品・サービスを提供できるよう支援しています。

また、「責任投資原則(Principles for Responsible Investment、PRI)」を立ち上げ、持続可能な国際金融システムの構築に取り組んでいます。

(※参照:UNEP FI「国連環境計画・金融イニシアティブについて」、「About Us」)

2 UNEP FIが注目される背景

持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためには、インフラ、クリーンエネルギー、水と衛生、農業などの分野で、2030年までに世界で年間およそ5兆から7兆ドル(約770兆円から930兆円)が必要だとUNEP FIは指摘しています。

SDGsの達成に資する金融システムの構築と投融資の加速を図り、UNEP FIは署名機関に対して、環境に配慮したビジネスモデルの提案や、サステナブルな金融業務に関する専門的な調査や情報交換、トレーニングの場を提供してきました。また、PRB、PSI、PRIといったグローバルな金融フレームワークの立ち上げも行いました。

こうした活動に賛同し、500以上の金融機関がUNEP FIに署名。署名機関の資産総額が170兆ドル(約2京6,600兆円)を超える規模にまで成長しています(2024年5月時点)。

UNEP FIに参加している日本の金融機関は、以下の通りです。

  • MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社
  • 株式会社滋賀銀行
  • ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント株式会社
  • 損害保険ジャパン日本興亜株式会社
  • 株式会社大和証券グループ本社
  • 東京海上日動火災保険株式会社
  • 株式会社日本政策投資銀行
  • 野村不動産投資顧問株式会社
  • 野村ホールディングス株式会社
  • 株式会社みずほフィナンシャルグループ
  • 三井住友トラスト・ホールディングス株式会社
  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ
  • 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
  • 三菱商事UBSリアルティ株式会社

(※参照:UNEP FI「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則 SDGs達成に向けた金融の共通枠組み」、「About Us」)

3 UNEP FIの3つのフレームワーク

サステナビリティの実現を金融面から支援するために、UNEP FIが立ち上げた3つの金融フレームワークを紹介します。

3-1 責任銀行原則(PRB)

銀行の投融資に関する戦略立案や意思決定が、SDGsやパリ協定が示すサステナビリティ目標達成に資するものとなるよう、持続可能な銀行業務の枠組みを示したものが責任銀行原則(PRB)です。PRBは2019年にUNEP FIの下で立ち上げられました。世界の銀行業界の半数を占める330行以上が本原則に署名しています(2024年5月時点)。

「銀行業務により提供される金融商品・サービスが社会・環境に対して与えるネガティブな影響を低減させ、ポジティブなインパクトを増加させるため、インパクトに関する目標を設定し公表する」など、6つの原則で構成されています。PRBに署名した銀行は、戦略レベル、ポートフォリオレベル、取引レベルなど全事業分野において、6原則を組み込むことにコミットしています。

また、PRBのアクセレレーターとなっているのが、「グラスゴー金融同盟(GFANZ)」の銀行部門の同盟である「ネット・ゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」です。NZBAは、2050年までに実体経済を温室効果ガス排出量ネットゼロに移行させるため、気候変動対策への資金提供に積極的に取り組む銀行の同盟です。NZBA加盟銀行の8割が、PRBに署名しています。

(※参照:UNEP FI「Principles for Responsible Banking」、「About the Principles」、「Net-Zero Banking Alliance」、「銀行セクターの脱炭素イニシアティブ(NZBA)」)

3-2 持続可能な保険原則 (PSI)

持続可能な保険原則(PSI)は、保険業界がESG関連のリスクや機会に対応し、リスクの理解、予防、低減に取り組むための枠組みです。PSIは、2012年にブラジルで開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)で発表されました。署名機関は160以上、世界の保険料の25%に相当する規模です(2024年5月時点)。

「保険事業に関連するESG課題を特定、評価、管理、モニタリングし、意思決定に組み込む」など、4つの原則で構成されています。

PSIによるイニシアティブは、気候変動に対して脆弱な国々の連合体である「V20」向けのサステナブル保険ファシリティの立ち上げや、保険会社向けのESGガイドの開発、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言の実施を支援するための活動にも携わっています。

また、PSIの原則は、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックスとFTSE4Goodの保険業界向け基準の一部としても反映されています。

(※参照:UNEP FI「Principles for Sustainable Insurance」、「The Principles」、「Net-Zero Insurance Alliance」)
(※参照:V20「The V20-led Sustainable Insurance Facility」)

3-3 責任投資原則(PRI)

責任投資原則(PRI)は、UNEP FIと国連グローバル・コンパクトと連携した投資家によるイニシアティブです。環境・社会・ガバナンスの観点を投資の意思決定や説明責任といった投資プロセスに組み込み、持続可能な国際金融システムの実現を目指しています。

PRIは、2005年、コフィ・アナン国連事務総長(当時)の呼びかけにより始まりました。より長期的な環境・社会全体への利益に資する責任ある投資行動を示した、6つの投資原則で構成されています。

  • 投資分析と意思決定のプロセスに ESG の課題を組み込むこと
  • 活動的な所有者として所有方針と所有習慣にESG の課題を組み入れること
  • 投資対象の主体に対して ESG の課題について適切な開示を求めること
  • 資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけること
  • 本原則を実行する際の効果を高めるために協働すること
  • 本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告すること

2021年時点で、60か国以上から4,000以上の署名機関が参加しています。署名機関の資産総額は120兆ドル(約1京8,500兆円)以上という規模です。

(※参照:PRI「PRI」、「責任投資原則」)

4 UNEP FIの今後の展望

UNEP FIの署名機関は500以上となり、PBRやPSIなどの金融フレームワークの署名機関も年々増加しています。しかしその一方で、様々なギャップも見られます。

例えば、途上国が気候変動に適応するための資金需要は年間3,870億ドル(約60兆円)程度と見積もられていますが、途上国に対する多国間または二国間投融資の規模は減少傾向にあります。2021年時点の投融資規模は前年から15%減少し、210億ドル(約3兆円)程度にとどまりました。資金需給のギャップにより途上国における気候変動適応計画実行が遅れ、気候変動や自然災害の被害がさらに拡大するリスクが懸念されています。

また、ウクライナ情勢をきっかけとするエネルギー危機などを背景に、2023年は化石燃料生産主要20カ国のうち17カ国で化石燃料採掘計画が拡大傾向にありました。化石燃料からの脱却が遅れる中、金融機関からは化石燃料企業への投融資を制限することが難しいという声も上がっています。

しかし、現状の生産計画を元にした試算では、産業革命以前と比べて気温上昇を2.0℃に抑える「2.0℃目標」シナリオや「1.5℃目標」シナリオと比較し、化石燃料生産量が69%~2倍増加する見通しとなり、「2.0℃目標」「1.5℃目標」の達成が困難になると予想されています。

こうしたギャップをいかに解消し、ESG課題解決に資するグローバルな投融資を加速させるか。UNEP FIを含め、企業・政策立案者・金融機関間の協働がますます求められています。

(※参照:UNEP FI「Adaptation Gap Report 2023」、「Production Gap Report 2023」)
(※参照:NRI「グラスゴー金融同盟(GFANZ)設立1年で壁に:段階的な移行をしっかりと助けることが金融の役割」)

5 まとめ

UNEP FIは、金融を通してESG課題解決を目指す国連と投資家・金融機関によるイニシアティブです。ESGの観点を投資プロセスに統合し、責任ある金融業務と投資行動を行うよう促しています。

目標に対する達成状況のギャップや、持続可能な取り組みに対する資金需給のギャップもみられる中、UNEP FIの各フレームワークのもと、世界中の投資資金がより多くポジティブなインパクトをもたらすよう、UNEP FI、金融機関、企業、各国政府によるさらなる連携が期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。