アフターコロナの世界におけるキャッシュレス社会の未来とは?アクサIM

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新型コロナウィルス感染拡大で非接触型(キャッシュレス)決済の取引量が増加している。欧米ではロックダウン(都市封鎖)という強硬な措置をとったことで、小規模小売業にもキャッシュレス決済の導入が加速化した。アクサ・インベストメント・マネージャーズは「コロナがデジタル決済の導入を加速させている面はあるが、これは構造変化だ」として、感染が収束した“アフターコロナ”もキャッシュレス決済が定着すると推測する。6月29日付の同社のリサーチ専用ウェブサイト「Tomorrow Augmented」に掲載した。

「テクノロジーの進歩によって、消費者と金融機関の関係が劇的に変わった。リアルタイムでのシームレスな金融ソリューションを可能にしたフィンテック企業の登場により、銀行や現金の受け渡しがなくても決済が可能となっている」。フィンテック戦略ポートフォリオ・マネージャーのヴィンセント・ヴィナティール氏はこう前置きする。「eコマース(電子商取引)の継続的な成長と相まって、過去10年間では特に非接触型決済の取引量が増加傾向にある。年初来、新型コロナウイルスの感染拡大によってキャッシュレス決済が急増した。ロックダウンの結果、消費者はオンライン販売を活用するようになり、コロナ感染を恐れて現金に触るのを避けようとしている」。こうした状況は、日本の消費者も実感できるだろう。

電子決済・銀行取引ソリューションの世界的プロバイダーのACIワールドワイドによると、2020年4月の世界のeコマース売上高は、前年同期比209% と大幅に伸びた。アマゾン・ドット・コムは20年1―3月期に754億ドル(約8兆700億円)の売上高を記録、1時間当たりの売上高が3300万ドルを超えた。さらに、米国個人のオンライン消費は年初から5月29日までで前年同期比111% 増から142% 増以上で推移している。一方、感染を抑え込んだとされる中国の動向を見ると、オンライン食品市場は19年では前年比29.2%増だったが、アリババやテンセント傘下のJD.com等が牽引し、20年には同62.9%の伸びが予想されている。

さらに、パンデミック(世界的感染拡大)を受け、小規模小売業者も、例えばソーシャルメディアのプラットフォームを通じて顧客がオンラインで注文できるようにし始めた。フェイスブックは最近「ショップ」を開設、小規模小売業者がプラットフォーム上に商品を表示し、販売できるようにしている。「実店舗を閉めざるをえない業者への朗報。中国では、小規模小売業者が消費者への直接販売でライブ配信するようになり、eコマースのライブ中継セッション数は第1四半期に400万回に達した」と同社は注目する。

オンラインショッピングの増加はデジタル決済企業の需要を急増させる要因となっている。 米オンライン決済大手のペイパルは、5月1日時点では最高の取引高を記録、19年のブラックフライデーやサイバーマンデーの取引高を上回った。同社は20年第1四半期に1000万の新規アクティブ・アカウントをメインプラットフォームに追加し、その後4月だけでも740万の新規アクティブ・アカウントを獲得、月次記録を更新した。第2四半期には1500~2000万の新規アクティブ・アカウントの追加を予想している。

クレジットカード大手のVISA(ビザ)の場合、第1四半期にラテンアメリカのeコマース取引で初めて同社カードを決済に使った保有者数が1300万と過去最高となり、同地域では10人の保有者のうち約2人がeコマースで活用している。ビザではまた、米国の4月のデジタル・コマース決済(除く旅行)が前年比18%増となった。

繁華街でも、消費者はコロナ感染を極力避けるために、現金ではなくカード決済を増やしている。欧州連合(EU)の銀行監督機関も現金決済を減らすため、決済企業に対して、非接触型決済の限度額を1取引あたり30ユーロから50ユーロに引き上げることを促している。3月には、世界保健機関(WHO)がコロナ感染拡大を防ぐため、非接触型決済を奨励した経緯もある。

キャッシュレス社会は既に世界に広がっている。スウェーデンは世界で最も先進的なキャッシュレス社会で、市中に出回っている現金の比率はGDPのわずか1%程度。英国では19年に初めてカード決済が全体の決済量の半分を上回った。中国ではモバイル決済アプリの「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」が消費者に与えた影響は大きく、スマートフォンユーザーの81%がこれらの決済サービスを利用するまでになった。

世界的なキャッシュレス決済の年間件数は22年には1兆を超え、決済総額は5.7兆ドルに達すると予想されている。13年と比較すると、決済件数で3倍、決済総額で5倍という規模だ。

同社はベイン&カンパニーの最近のレポートから「世界的なデジタル決済の普及率が現在の57%程度から2025年には67%程度と、5~10パーセントポイント拡大する見込み。うち、4~8パーセントポイントが実店舗におけるデジタル決済の導入増加」という数値を挙げ、「コロナがデジタル決済の導入を加速させている面はあるものの、これは構造変化と言える」「この革命は継続し、引き続きデジタル決済の大幅な増加につながる。さらに、消費者がいったん非接触型決済を行い、そのシンプルさ、安全性および効率性に目覚めれば、現金決済に戻る可能性はかなり低い」と予想する。

一方、オンライン不正取引拡大につながる可能性が出てきた。同社は「決済企業およびオンライン決済を行う全ての事業者は、顧客保護のために必要な不正防止措置を講じることを求められている」と付け加えた。また、旅行やホスピタリティ(含むホテル)などコロナの影響を受ける分野の決済量が減少することで、一時的な落ち込みが予想されるが、20年通年としては緩やかな増加になり、その後は急速に拡大する可能性を見込む。

「世界的な事業基盤を持つデジタル決済企業がこのトレンドの恩恵を最大限に享受すると見られ、中でもキャッシュ創出力の大きい企業は、コロナ危機の環境下において強靭性を発揮し、選好される。今後こういった企業は、小規模な競合他社の消滅や買収によって市場シェアを拡大させると予想され、勝者企業にとってはより集中的で収益性の高い市場となる」と展望した。

日本では、19年の消費増税に伴いキャッシュレス・ポイント還元事業がスタート。経済産業省によるとキャッシュレス還元事業の最終的な登録加盟店舗は約115万店になり、キャッシュレス化促進が期待された。株式会社キュービックが5月、キャッシュレス決済を利用している全国20~50代の男女200名を対象に「コロナ禍のキャッシュレス事情」を実施、6割の人がキャッシュレス決済の利用が増加。実店舗での日用品の買い物が最も多いが、ネット販売や飲食店での利用も増えていた。理由に「お得感」「手軽さ」「安全性」が挙げられた。一方で、使い過ぎ防止や、操作性・案内に対するわかりやすさへの要望もあった。

キャッシュレス・ポイント還元事業は6月30日に終了、総務省主導の「マイナポイント事業」が消費活性化とマイナンバーカード・キャッシュレス決済の普及を目的とした施策として9月に開始予定。事前に登録したキャッシュレス決済サービスでのチャージまたは購入によって25%、上限5,000円分のマイナポイントが付与されるというもの。ただし一般の認知度は7月23日時点で高いとはいえず、キャッシュレス普及の鈍化を懸念する声もある。

【関連サイト】アクサ・インベストメント・マネージャーズ株式会社

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