新型コロナウイルス感染症が収束に向かう中、ロシアによるウクライナ侵攻が株式市場を揺るがしています。米国では利上げも控えているため、株式市場にとってウクライナ問題は二重苦といえます。今回は、ロシアのウクライナ侵略による日本株への影響を過去の類似例と照らし合わせて解説します。
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※2022年2月25日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
1 日本の現状
日本では株式が下落基調にある中、原油価格は中東で石油施設の爆発や火災などが相次いだことやウクライナの緊張を背景に上昇基調にあります。国内では原油価格上昇にともないガソリン(レギュラー)1リットル当たりの全国平均価格が13年4カ月ぶりに170円台を超えたため、政府による価格抑制策が発動されました。その後も原油価格が上昇しているため、ガソリン価格は高止っています。
日本の2月の消費者物価指数(総合指数)は前年同月比1.0%と低水準で推移しています。一方、生産者物価指数は高止まりをしています。1月の生産者物価指数は前年同月比8.6%で、生産者物価と消費者物価がかけ離れています。
背景は、原材料価格や輸送費が増加しているものの、個人消費の低迷もあり、企業が原材料価格の上昇分を製品価格に転嫁できずにいるためです。
しかし、2022年4月1日から、冷凍食品やパスタ、食用油などに加え白物家電の価格の値上げが予定されています。このため今まで抑えられていた消費者物価が上昇に転じる可能性があり、消費者物価指数の上昇率次第では日銀の金融政策が転換する可能性があります。
2 ウクライナ問題と背景
今回のロシアによるウクライナ侵攻を理解するには、ウクライナやウクライナの現状を知る必要があります。
ウクライナの民族は、2001年の国勢調査によると、ウクライナ人(77.8%)、ロシア人(17.3%)、ベラルーシ人(0.6%)、モルドバ人、クリミア・タタール人、ユダヤ人等で構成されています。ウクライナの国民は、親ロシア派と親欧米派に2分されています。
親ロシア派は東ウクライナに住むロシア系ウクライナ人で、ウクライナからの分離・独立やロシアとの併合を求めています。両派の対立は2004年のオレンジ革命以降続いています。
今回のロシアによるウクライナ侵攻の要因は、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)への加盟を望んだことです。ロシアはソ連崩壊後に東側諸国が相次いでNATOに加盟したため、NATOの東方拡大を自国に対する脅威とみなしています。
特にウクライナとロシアは長い国境を接しているため、ウクライナのNATO加盟は超えてはならない一線としているのです。
3 過去の類似事例
過去の類似事件において、資本市場への影響をみてみましょう。ここでは、1990年8月のイラクによるクウェート侵攻と2014年3月に起きたクリミア統合を取り上げました。執筆時点における資本市場の動きは、イラクのクウェート侵攻時と似ています。
3-1 イラクのクウェート侵攻(1990年8月)
1990年8月2日にイラクがクウェートを侵攻した事件です。この影響で1バーレル20ドル台だった原油価格が10月には40ドル台に急騰しました。為替市場は円が買われ、ドル円は146円から136円台に円高が進み、日経平均株価は円高を嫌気し30,000円台前半から2カ月足らずで30%下落しました。
3-2 クリミア併合(2014年3月)
2014年3月のクリミア併合とは、ウクライナの領土とみなされているクリミア共和国をロシアが侵攻し、ウクライナから分離独立しロシアに併合されました。クリミア共和国には新ロシア派の住民が多いため、軍事衝突もなく併合が進みました。原油価格、ドル円、日経平均株価は大きな変化はみられませんでした。
4 ウクライナ侵攻の日本株への影響
今回のロシアによるウクライナ侵攻による日本株への影響は深刻です。
FRB(連邦準備制度理事会)が金融政策を引締めに転換しているため、株式市場は下落基調にあります。FRBは3月上旬に量的緩和を終了し、その後利上げに踏み切る方針です。最初の利上げは3月に実施される可能性が高まっています。消費者物価や賃金の上昇にともないインフレ率が高止まりしているためです(参照:日本経済新聞「FRB議長「量的緩和、予定通り3月終了」 会見要旨」。
今回の侵攻に伴い、原油価格を中心に一次産品価格が上昇傾向にあるため、消費者物価は下がる気配がありません。高インフレ定着に危機感をもったFRBが急ピッチで金融引締めを進めると株式市場には大きなダメージを与える可能性が高いでしょう。米国株式市場との連動制が高い日本株も引きずられるため、日本の株式市場は下値を模索する動きとなりそうです。
その他にも懸念材料があります。今回のロシアによるウクライナ侵攻は、台湾問題や尖閣諸島問題に発展する可能性を秘めているためです。もし、中国が台湾に侵攻した場合、日本も対岸の火事では済みません。その時、アメリカ軍が行動する可能性があります。
日本が複雑な立場に追い込まれてしまうと日本から資金が流出し、円安、債券安(価格)、株安のトリプル安となる可能性が高いと思われます。
まとめ
今回のロシアのウクライナ侵攻に対する資本市場の反応は、1990年8月に起きたイラクのクウェート侵攻の時と同様、原油高、株安が進んでいます。
西側諸国は今回のロシアによるウクライナ侵攻が、世界に飛び火する可能性があるため容認することはできません。今回の侵攻でロシアと西側諸国との間に大きな壁ができてしまいました。
ロシアは資源大国のため、問題が深刻化すればするほど資源価格が上昇し、世界各国でインフレが起きてしまう可能性があります。インフレ率の上昇は株価にはマイナス材料です。
泥沼化しそうなウクライナ問題を背景に、日本株は下値を試す動きとなりそうです。
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藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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