老後資金の効率的な貯め方(運用方法)は?年代別にFPが解説

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20代・30代の若年層にとって老後はあまりに遠く、老後資金準備の必要性を感じないかもしれません。しかし、早く準備すると月々の負担を少なくしつつ必要資金を準備できるメリットがあります。この記事では、老後資金の目標設定や年代別の運用方法について解説しますので、参考にしてください。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 老後のために準備する資金額の目安
    1-1.夫婦世帯の目標額
    1-2.単身世帯の目標額
  2. 老後資金準備に投資を活用したほうがいい理由
    2-1.インフレリスク
    2-2.寿命の伸び
    2-3.超低金利
  3. 老後資金準備に活用したいiDeCoとつみたてNISA
    3-1.iDeCoのメリット
    3-2.iDeCoのデメリット
    3-3.つみたてNISAのメリット
    3-4.つみたてNISAのデメリット
  4. 20代の老後資金の運用方法
    4-1.20代に適したiDeCoとつみたてNISA運用
    4-2.少額でリスクの高い投資も
  5. 30代・40代の老後資金の運用方法
  6. 50代の老後資金の運用方法
  7. まとめ

1.老後のために準備する資金額の目安

まずは、老後資金として準備する金額の目標を設定しましょう。遠い将来のための資金準備に数値目標がないと、途中でモチベーションを維持できなくなるかもしれないからです。準備する金額の試算の方法は以下のとおりです。

  1. おおまかな老後の月間の家計収支をシミュレーションする
  2. 収支がマイナスの場合、不足分の約30年分を準備すべき老後資金の最低額とする

1-1.夫婦世帯の目標額

以下は、総務省家計調査のデータをもとにした、夫婦世帯の目標額算出例です。

社会保障給付(公的年金) 20万4,913円
消費支出 23万514円
非消費支出 3万3,148円
差額 △5万8,749円

出典:2020年総務省「家計調査」より筆者作成

1か月当たりの不足額5万8,749円の30年分を計算します。

5万8,749円×12ヵ月×30年≒2,115万円

リタイアまでに準備したい金額は約2,115万円となりました。

ねんきん定期便やねんきんネットから老齢年金の受給見込額を利用すれば、より精度の高い試算ができます。また、老後の住宅事情などでも支出は変わるので、個々の事情に合わせて見積もりましょう。

1-2.単身世帯の目標額

以下は、総務省家計調査のデータをもとにした、単身世帯の目標額算出例です。

社会保障給付(公的年金) 12万1,942円
消費支出 12万5,423円
非消費支出 1万1,541円
差額 △1万5,022円

出典:2020年総務省「家計調査」より筆者作成

1か月当たりの不足額1万5,022円の30年分を計算します。

1万5,022円×12ヵ月×30年≒541万円

リタイアまでに準備したい金額は約541万円となりました。老後1人で過ごす可能性の高い人は、病気や要介護の場合に夫婦世帯の人より費用がかかります。ゆとりを持った資金準備を心がけましょう。

2.老後資金準備に投資を活用したほうがいい理由

老後資金の準備には、投資で「お金を増やしていく」ことが望まれます。預貯金でお金を増やすことはほぼできません。なぜ、「お金を増やす」ことが必要なのでしょうか。

2-1.インフレリスク

電気料金
出典:資源エネルギー庁「日本のエネルギー2020」より

長期の資産形成においては、お金の価値が下がる(インフレする)リスクを考える必要があります。老後資金は、10年以上先の遠い将来のためのお金です。現在のような金利が将来も続いた場合、預貯金は額面では減りませんが、増えることもありません。

一方、上記の電気料金など生活に欠かせない支出は上昇傾向にあります。インフレによる資産の目減りが大きい場合は、将来の資金が不足することにも繋がります。リスクを取って運用することが資産価値を「守る」ことにつながるのです。

2-2.寿命の伸び

老後資金を準備するにあたり、日本人の寿命の延びを無視することはできません。厚生労働省が発表した「令和元年簡易生命表」によると、90歳まで生存する人の割合は男性27.2%、女性51.1%となっています。平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳です。

このような現状を考えると、男性は90歳、女性は95歳までのライフプランを考える必要があるでしょう。老後のために準備した資金を取り崩して枯渇させないために、投資の活用が必要になってきます。

2-3.超低金利

ここ数年、超低金利が続き、預貯金でお金を増やすことは期待できません。一方で国債の発行残高を考慮すると、将来にわたって金利が上昇することは考えにくい状況です。

高度成長期の日本では金利が上昇し、1974年には郵便貯金の1年満期の定期貯金の金利が7.5%でした。この金利の場合、元本が10年経過せずに2倍に増えます。しかし、超低金利下で老後資金を準備するには、預貯金でこのような金利は望めないため、インフレ率よりも高いパフォーマンス(利回り)を狙える運用を取り入れる必要があります。

3.老後資金準備に活用したいiDeCoとつみたてNISA

具体的に老後資金を準備するにあたり、活用したいのがiDeCoとつみたてNISAです。それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。

3-1.iDeCoのメリット

iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、加入者が拠出した掛金を自分で運用する、公的年金の上乗せとなる私的年金制度です。iDeCoには3つの税制優遇があります。

掛金が全額所得控除の対象

iDeCoの掛金は全額所得控除の対象です。毎月の掛金の限度額は下記のとおりで、個人の属性により異なります。(2021年8月時点)

自営業者、農業者など国民年金の第1号被保険者 6万8,000円
企業年金のない企業の会社員 2万3,000円
企業型確定拠出年金のある企業の会社員 2万円
確定拠出年金以外の企業年金がある企業の会社員、公務員 1万2,000円
専業主婦(夫)など国民年金の第3号被保険者 2万3,000円

所得税の税率は所得金額に比例するため、高所得の人ほどメリットの大きい税制優遇です。

運用益に対して非課税

iDeCoはNISAと同様に、運用中に生じた利益には課税されません。

受け取り時に所得控除の対象

積み立てた年金原資を受け取る際にも税制優遇があります。iDeCoの年金原資の受け取りは、一括受け取りと分割受け取りから選択できます。一括受け取りは退職所得控除の対象です。また、分割受け取りは公的年金控除の対象になります。

3-2.iDeCoのデメリット

iDeCoには、次のようなデメリットがあります。

60歳まで引き出し不可

iDeCoの資産は原則として60歳になるまで換金できません。また、加入後10年以上経たないと、60歳から年金を受け取れない仕組みです。50歳以降に加入する人は注意が必要です。

掛金額変更が年1回

iDeCoの掛金額は変更できますが、年1回までなので注意が必要です。無理のない範囲で金額を設定しましょう。

3-3.つみたてNISAのメリット

つみたてNISAは、投資信託への積立投資の運用益が非課税になる制度です。投資できる金額は毎年40万円で、最長20年積み立てられます。

運用益が非課税

つみたてNISAでは投資対象の売却益や分配金には課税されません。通常の投資信託では、運用益に対して20.315%の税金がかかります。つみたてNISAなら課税されないので、運用益全額が受け取れるのです。

運用資産は換金可能

つみたてNISAの資産は必要に応じて換金でき、使い道を問われません。iDeCoは60歳まで換金できませんが、つみたてNISAなら急にお金が必要になったときに対応できます(ただし、売却しても非課税枠は復活しない点に注意が必要です)。

3-4.つみたてNISAのデメリット

つみたてNISAには、次のようなデメリットがあります。

非課税投資枠の繰越不可

つみたてNISAの年間40万円の非課税投資枠は使い残しても問題ありません。しかし、翌年以降には繰り越せず、消滅してしまいます。

課税口座との損益通算不可

つみたてNISAで運用損が出た場合、非課税口座以外の運用益との損益通算はできません。損益通算とは、運用で得た利益と損失を相殺することです。特定口座などの課税口座では損益通算が認められており、利益から損失を差し引いて所得金額を減らせます。また、控除しきれない損失が残った場合、3年間の繰越控除ができます。

しかし、つみたてNISAでは損失が生じたときに利用できる制度がありません。(2021年8月現在)

4.20代の老後資金の運用方法

20代に老後資金を準備する場合の運用方法の一例を解説します。

20代は学生や就職したばかりで、老後のために回せるお金が少ない人も多いでしょう。会社員の場合、多い人で2万3,000円までのiDeCoの積立ができます。つみたてNISAと併用する場合、無理のない範囲でそれぞれの積立額を設定しましょう。

20代から老後資金を運用すると、長期でじっくり資産形成できます。運用期間が長い場合、株式などである程度リスクを取って一時的に損失を被ることがあっても、時間をかければ挽回が可能です。

4-1.20代に適したiDeCoとつみたてNISA運用

40年にわたって資産形成をする場合、リスクのある株式の投資信託が選択肢の中心になりえます。経済成長を予想するのは難しいため、全世界の株式に分散投資するという選択肢は無難です。iDeCoには定期預金のような元本確保型の運用商品もありますが、将来のインフレリスクを考慮すると長期で運用するのには適さないと考えられます。

忙しくて運用を見直す時間が取れない人には「ターゲットデートファンド」の活用も1つの方法です。ターゲットデートファンドとは、目標年に向けて保有資産の配分を自動で変えてくれるファンドです。ファンド名に「2050」など目標年が付いています。

老後資金を目的にする場合、ターゲットデートがリタイアの年に近いものを選びます。当初は株式中心の積極的な運用、ターゲットデートが近づくと債券の割合が多い低リスク運用になっていきます。

4-2.少額でリスクの高い投資も

運用期間が長期の場合、株式や債券と値動きの異なるオルタナティブ投資を取り入れてもよいでしょう。オルタナティブ投資とは、金などの商品や不動産、暗号資産(仮想通貨)のような、株式や債券などの伝統的な資産以外への投資をいいます。

たとえば、最近では数万円で不動産に投資できる不動産投資型クラウドファンディングなどの仕組みもあり、不動産は株式や債券とは値動きの傾向が異なることから、分散投資によるリスク軽減効果が見込めます。また、融資を受けて現物不動産を購入し、賃貸経営を副業とする人も近年では増えています。

5.30代・40代の老後資金の運用方法

20代に比べると収入が増え、家庭を持つ人も増えるのが30代・40代です。そのため、教育費や住宅取得などの大きな支出に対応しながら、老後資金を準備することになります。リタイアにはまだ長い時間があるため、iDeCoやつみたてNISAでの資産形成は引き続き有効です。投資対象も全世界の株式中心など積極的な資産形成ができる時期です。

また、この年代では、収入が大きく伸びて一括投資の資金が持てる人も少なくありません。その場合は、下落市場などの好機にETFなどで投資をするのも効果的です。

6.50代の老後資金の運用方法

リタイアが近づいてくると、老後資金準備に回せる金額は増えてきます。しかし、取り崩しがスタートする時期に資産が大きく減ることは避けたいため、資産配分は徐々に低リスクな内容に変える必要があります。iDeCoやつみたてNISAの資産配分でも徐々に債券の割合を増やしていくことが望まれます。

一括投資をする場合もあまりハイリスクな資産を狙わず、インフレに対応できる程度のリターンを目標にするとよいでしょう。

まとめ

老後資金の準備は時間をかけるほど、負担も少なく高いリターンを得る可能性が高くなります。他のライフイベントのための資金と並行して準備する場合、老後資金の優先順位が低くなることも考えられます。老後のための投資金額は少なくてもいいので、iDeCoやつみたてNISAをうまく活用して早いうちから準備するようにしましょう。

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松田 聡子

明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。 保有資格:日本FP協会認定CFP・DCアドバイザー・証券外務員2種 運営サイト : 経営体質改善のヒント