年間360万円の購入限度額の中で得た運用益が無期限で非課税になる「新NISA」では、投資信託以外にも株式に投資ができます。非課税になる運用商品の選択肢が多いのは喜ぶべきことですが、実際にどちらに投資すべきか悩む人も多いのではないでしょうか。
この記事では、新NISAで株式と投資信託に投資する方法と、それぞれ適した商品、運用時の注意点について詳しく解説します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2024年5月9日時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
目次
- 新NISAの概要
1-1.新NISAの投資枠と変更点
1-2.つみたて投資枠とは?
1-3.成長投資枠とは? - 新NISAのメリット
2-1.毎月100円から投資できる
2-2.ローリスク・ハイリスクどちらの運用も可能
2-3.さまざまな投資を試せる - 新NISAの注意点
3-1.非課税枠の繰越や再利用ができない
3-2.損益通算と損失の繰越控除ができない
3-3.課税口座に移す場合、その時点の価格が取得価格となる
3-4.リバランスがしづらい - 新NISAで株式と投資信託どちらを買うべきか
4-1.キャピタルゲインを狙う株式投資の場合
4-2.インカムゲインを狙う株式投資の場合
4-3.新NISAでの投資信託 - まとめ
1.新NISAの概要
NISAとは、「少額投資非課税制度」のことで、2014年(平成26年)に始まり、2024年1月1日からは新NISA制度がスタートしています。新NISAでは年間360万円の投資枠の中で、上場株式・ETF(上場投資信託)・REIT(不動産投資信託)・株式投資信託などの運用益が期間の定めなく非課税になるという制度です。
NISAを活用しない場合、売却益や配当金に対して20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。100万円の運用益なら、税引き後の手取りは約80万円になる計算です。運用益の約2割が課税されるということは、それだけ将来必要なお金を貯めるスピードも遅くなります。一方、NISAの口座内で発生した利益には課税されないので、運用益をまるまる収入とすることができます。
1-1.新NISAの投資枠と変更点
NISAは2024年1月1日に生まれ変わりました。年間投資枠は360万円、非課税保有期間は無期限、非課税保有総額は1,800万円にまで拡大し、従来のつみたてNISAは「つみたて投資枠」、一般NISAは「成長投資枠」に引き継がれる形となっており、いずれも18歳以上から利用できます。
新NISAは一括投資も積立投資もできます。購入した金融商品の換金時期に制限はなく、資金の使い道も問われません。また、非課税期間が無制限となったことで、翌年の非課税投資枠に移したり(ロールオーバー)、NISA以外の課税口座(一般口座・特定口座)に移したり、非課税期間終了前に売却する必要もなくなりました。
なお、これまで旧NISAで運用していた商品は、新NISAに移管することはできなかったため、同じ商品を新NISAでも運用したい場合、一度売却してから改めて買い直すなどの不便さもありました。さらに、未成年を対象としたジュニアNISA制度も2024年以降はすでに終了しています。
新NISA口座の開設は1人につき1つの金融機関のみで、金融機関は1年単位で変更することができます(ただし、前年の10月1日から当年の9月末までに手続きを終える必要があります)。また、つみたて投資枠と成長投資枠は併用可能です。口座の開設は1人につき1つの金融機関のみで、金融機関は1年単位で変更することができます。
1-2.つみたて投資枠とは?
つみたて投資枠は積立投資に特化した投資枠で、年間120万円まで投資でき、非課税保有限度額は1,800万円です。運用できる商品は288本と(2024年5月9日時点)、金融庁の厳しい基準をクリアした長期の積立・分散に適している投信に限られています。
つみたて投資枠 対象商品全288本の内訳
- インデックス投資信託 232本
- アクティブ投資信託 48本
- ETF(上場投資信託) 8本
1-3.成長投資枠とは?
成長投資枠は、高利回りや売却益を積極的に狙いたい方に適した投資枠で、年間240万円まで投資でき、非課税保有限度額は1,200万円となります。運用できる商品は、国内外の上場株式、投資信託、ETF、REITと非常に豊富です。非課税枠でありながら、高成長を見込める株式や投資信託に投資できるので、より効率的な資産形成を狙えるのが特長です。
2.新NISAのメリット
- 毎月100円から投資できる
- ローリスク・ハイリスクどちらの運用も可能
- さまざまな投資を試せる
2-1.毎月100円から投資できる
新NISAの非課税投資枠は年間360万円と旧NISAよりも大きく、一括投資も積立投資もできます。一括投資に対応している成長投資枠は株式も購入できるため、数万円程度の資金は必要になりますが、投資信託なら1万円あれば購入できます。なお、1株から購入可能な単元未満株に対応している証券会社の場合、数百円や数千円で株を購入できます。
また、つみたて投資枠なら100円から積立できる金融機関が多くあります。積立頻度は毎日・毎週・毎月などから好きに選べるので、非課税枠を使い切るのに必要な金額を調整しやすいのもメリットです。このように、新NISAは余裕資金のある人・ない人の両方に向いた制度となっているのです。
2-2.ローリスク・ハイリスクどちらの運用も可能
新NISAの成長投資枠では、投資信託以外に東証プライム市場やグロース市場に上場している株式などのつみたて投資枠では購入できない金融商品も投資対象です。そのため、株式でリスクを取って大きなリターンを得た場合の非課税メリットも大きくなります。
株取引では、市場の動向や企業の業績によっては、大きな売却益を狙うことが可能です。予測が外れれば大きな損失を被るリスクも伴うものの、短期間で数百万円以上のキャピタルゲインが手に入ることもあります。
NISA口座以外で取引している場合、株の売却で得られる譲渡益(売却益)には20.315%の税金が発生します。仮に株取引で300万円の売却益を得たとしても、60万円以上を税金で差し引かれることになります。株式投資でキャピタルゲインを狙う場合でも、非課税の恩恵が大きいNISAの成長投資枠を活用するメリットは大きいと言えるでしょう。
2-3.さまざまな投資を試せる
NISAでは一括投資・積立投資の両方ができて、運用できる金融商品も投資信託だけではありません。株式、ETF、REITとさまざまな投資にチャレンジしたい人にも適しています。ETFは株式のように上場しているので、投資信託でありながらリアルタイムに変動する市場価格を見て売買できます。また、不動産に投資するREITも株式のように上場していますが、その平均配当利回りは4%前後と株式(2%前後)と比べてずっと高いのが特徴です。
たとえば、投資信託を毎月2万円ずつ積み立て、残りの枠で複数の株式やETFを購入するなど、運用目的に合わせてポートフォリオを柔軟に作ることができます。
3.新NISAの注意点
3-1.非課税枠の繰越や再利用ができない
NISAでは1年間の非課税投資枠を使い切らなかった場合、未使用分を翌年に繰り越すことはできません。新NISAで1年間の投資額が100万円で260万円分が未使用だった場合、未使用分の非課税枠を翌年に繰り越すことはできません。。よって、翌年の非課税枠も360万円です。
また、NISAでは途中換金は自由にできますが、一度使った非課税枠は換金後でも再利用はできません。
3-2.損益通算と損失の繰越控除ができない
NISAで損失が発生した場合、特定口座など他の課税口座との損益通算はできません。株式や投資信託で損失が出た場合、課税口座では損益通算が行われ、控除しきれない損失は確定申告によって3年間の繰越控除が認められています。
株式や投資信託は元本保証でない金融商品なので、時には損失が生じることもあります。しかし、NISA口座で発生した損失については課税口座との損益通算も繰越控除もできないことに注意が必要です。
3-3.課税口座に移す場合、その時点の価格が取得価格となる
保有していた金融商品をNISA口座から特定口座や一般口座に移す場合、通常の課税口座においては移管時の時価が取得価格となります。
たとえば、50万円で買い付けた株式が移管完了時に30万円に値下がりしたとします。その場合の取得価格は30万円になります。その後、株式が70万円になった時点で売却したとすると、もともとの取得価格は50万円なので、NISA口座のままなら利益は20万円のはずです。しかし、移管完了時の取得価格は30万円なので、利益は40万円ということになり、40万円に対して課税されます。
3-4.リバランスがしづらい
NISAでは資産のリバランスをするとデメリットが生じることに注意が必要です。
リバランスとは、株式や債券などの資産配分が当初の割合から変化した時に、元の割合に戻すことを言います。例えば、株式と債券の配分を半分ずつに決めてそれぞれに投資する投資信託を1万円ずつ購入したとします。ある時点で株式が2万円に値上がりし、債券に値動きがなかった場合、株式を5,000円分売却して債券を5,000円分購入し、両方を1万5,000円にします。
NISAにおいてリバランスのために売却をすると、その分の非課税枠を失うことになります。失った非課税枠が復活するのは翌年以降となるため、不要なリバランスはなるべく行わないほうがいいでしょう。
なお、このようなNISAのデメリットを解消する方法として、投資サービスの「ロボアドバイザー」を活用するのも一つの方法です。例えば、ロボアドバイザーサービスの「ウェルスナビ」のおまかせNISAでは、成長投資枠をうまく活用し、世界の株式や債券、金、不動産を組み合わせてリスクを分散しています。また、投資した資産配分を定期的に組み替える「リバランス」の機能があり、ポートフォリオの最適化を自動で行ってくれるメリットがあります。
ウェルスナビのおまかせNISAでは半年に一度リバランスが行われ、さらに市場の変動によってポートフォリオの資産割合が投資開始時に設定した割合とかけ離れると、自動でリバランスを行ってくれます。
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【関連記事】ウェルスナビ「おまかせNISA」のメリット・デメリットは?投資信託との比較や口座開設の手順、必要書類も
4.新NISAで株式と投資信託どちらを買うべきか
以下の表は、NISAの商品別の買付額の内訳を示したものです(2023年6月末時点)。大多数が上場株式と投資信託で占められています。
商品 | 買付額 | 商品別比率 |
---|---|---|
総額 | 32兆7,518億9,255万円 | 100% |
上場株式 | 12兆4,535億7,247万円 | 38% |
投資信託 | 19兆2,655億2,121万円 | 59% |
ETF | 7,935億7,737万円 | 2% |
REIT | 2,392億2,151万円 | 1% |
※出典:金融庁「NISA・ジュニア NISA 口座の利用状況調査(2023年6月末時点)」より筆者作成
※2014~2023年の利用枠で買付があった金額(ロールオーバーによる受入額を含む)の合計
NISAの投資では、株式と投資信託のどちらで運用すればいいのでしょうか。先述した内容も踏まえ、考えていきましょう。
4-1.キャピタルゲインを狙う株式投資の場合
株式投資には値上がり益(キャピタルゲイン)を狙う投資方法と、配当金や株主優待などのインカムゲインを得る投資方法があります。
このうち、キャピタルゲインを狙う投資方法は、NISAの非課税メリットを最大限に活かすために高リターンを求めたい株式投資経験者の間で主流となっています。なぜなら、安く買って高く売るスタイルの投資では、銘柄選定や取引のタイミングが重要であり、自分なりの運用方針を持つ人でないと適切な投資判断をすることは難しいからです。
NISAで損失を出しても損益通算ができないことに注意
NISA口座での株式投資では損益通算ができないため、損失を出さないようにすることは重要です。課税口座で損失が出た場合は、損益通算や繰越控除(株の損失を最大3年間繰り越すこと)が可能なのですが、例えば課税口座で5万円の利益が出て、NISA口座で3万円の損失が出た場合は、損益通算ができないため、5万円に対してまるまる課税されます。
また、NISAには非課税枠の再利用ができないという特徴もあるため、非課税枠の活用にとらわれて利益確定のタイミングを逸するリスクも考えられます。NISAでは運用益がなければメリットも弱くなります。その点を理解し、通常の株式投資における利益確定の判断のとおりに取引をするようにしましょう。
IPO投資もNISAが利用できる
IPO投資がNISA口座でできる証券会社もあります(SBI証券、マネックス証券、SMBC日興証券、松井証券、岡三オンラインなど)。IPOとは新規株式公開のことで、IPO投資は主に、上場前の割安な公募価格で株式を購入し、上場後に値上がりしたらすぐに売却する投資方法を指します。一般的にIPO株は初値が公募価格より値上がりしやすいため人気が高く、購入は抽選になってしまうことがほとんどで、当選しないと購入できません。
そのため、IPO投資をする人は複数の証券会社に口座を開設し、NISA対応の有無にかかわらず当選しやすくする戦略を取ることもあります。しかし、NISA口座でIPO株を購入できて期待通りに値上がりした場合のメリットは大きいため、IPO実績の豊富な証券会社でNISA口座を開設するとよいでしょう。
ただし、IPO投資では値上がりを保証されているわけではなく、損失を被る可能性があることは理解しておいてください。
【関連記事】IPO投資に強い証券会社、少額からIPOに参加できるサービス
4-2.インカムゲインを狙う株式投資の場合
配当金などインカムゲインを重視する場合は、3年から5年の長期保有を想定して銘柄を選ぶ必要があります。配当は業績によって減額されたり、無配当になったりすることもありますので、単に配当利回りが高いことだけではなく、事業が成長しているか・今後も継続的な成長が見込めるかといった業績の動向まで含めて検討するようにしましょう。
たとえば、年間120万円分の株式を購入し配当利回りが3%の場合、1年分の配当は3万6千円で、5年分なら18万円です。特定口座などの課税口座であれば、約3万7千円とおよそ配当収入の1年分の税金がかかりますが、NISA口座であれば非課税となります。
なお、NISA口座では配当金を非課税にするために国内株式の配当金受け取り方式を証券会社の口座で受け取る「株式数比例配分方式」に設定しておく必要があります。それ以外の方法で登録している場合、NISA口座で株式を保有していても20.315%の課税対象となってしまいます。また、高配当株式にも値下がりのリスクはあるため、長期保有の場合でも値動きには注意するようにしましょう。
インカムゲイン狙いで株に投資をする場合は米国株式も選択肢に
NISA口座を開いている証券会社でNISAでの米国株式が取引できるなら、選択肢の1つになります。成長投資枠では外国株式の取引も可能なので、高配当株式投資は1銘柄に集中して投資するより、業種などが異なる銘柄に分散して投資したほうがリスク軽減につながります。
日本株の場合は100株単位で売買されるため、株価5,000円の銘柄の場合、最低でも50万円の資金が必要です。240万円の年間購入限度枠の中で多くの銘柄に分散投資するには株価の安い銘柄を探さなければなりません。その点、米国株式は1株から取引できるので、複数の銘柄への分散投資が簡単にできます。
また、米国の企業は株主への配当を重視する傾向にあるため、配当回数も年4回の銘柄も多く、保有中に配当を得られる機会も多くなっています。
4-3.新NISAでの投資信託
新NISAにおける投資信託では、運用初心者からリスクを取って利益を追求したい人まで、さまざまなニーズに応えられます。
新NISAの投資信託は従来のNISAと比べて年間投資枠や非課税限度額が拡大され、非課税保有期間も無期限となったことで、様々なリスク許容度に応じた商品が選べるようになりました。また、購入方法も積立・一括購入いずれも選択できます。また、長期間にわたって積立をする場合でも、つみたて投資枠・成長投資枠のどちらも選択可能です。毎日または毎週または毎月少しずつ積み立てることで、世界経済が成長する恩恵を受けつつ、将来必要なお金を無理なく作ることができます。
投資信託はバランスファンドを中心に
新NISAで投資信託を一括購入する場合はバランス型ファンドを選ぶのも戦略の一つです。バランスファンドとは、例えば株式のみに投資するファンドではなく、債券や不動産など異なる資産に分散投資する投資信託を指します。
株式のみに投資するファンドは、株式市場の影響を受けやすいため、基準価額(投資信託の値段のこと)の変動も大きくなります。一方、異なる資産に分散投資しているファンドは、株式市場が下落しても、不動産や債券など異なる値動きをする資産への影響は限定的です。1つの資産のみで構成されたファンドよりも、価格変動リスクを抑えられるのがバランス型ファンドの大きな特長です。
NISAでは損益通算ができないため、損失を出すのは好ましくありません。また、NISA口座内で複数の資産クラスを持ってリバランスしようとした場合、売却によって非課税枠が失われてしまいます。
このようなNISAの制度上の制約を考慮すると、ファンドの内部でリバランスされるバランス型ファンドで、リターンの振れ幅があまり大きくないものが選択肢となるでしょう。
また購入のタイミングの判断が難しい場合、毎月10万円ずつなど複数回に分けて購入し、購入単価をならすのも1つの方法です。
まとめ
新NISAは非課税で国内外の上場株式や投資信託の購入もできるため、さまざまなニーズに応えられる非課税投資制度です。非課税メリットを最大限に生かすためにリスクの高い株式の直接投資で大きなリターンを狙うのも1つの考え方です。また、NISAの非課税投資枠を不要に失わないためにも、あまり大きな値動きの幅にならないようなバランスファンドでの長期運用も選択肢に入るでしょう。
いずれにしても制度をよく理解して、自分の投資スタイルに合った方法で新NISAを活用してみてください。
松田 聡子
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