様々な業界で、サステナビリティ経営を実現するためのデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させています。それはメディア業界も同様です。
中でも、老舗メディアのニューヨーク・タイムズ(ティッカーシンボル:NYT)は一時経営危機に陥りましたが、DX戦略を遂行することで、見事に「デジタルファースト」な企業へと変貌を遂げています。
そこで今回は、タイムズが如何にしてデジタルファーストな企業へと変貌を遂げたかを知る手掛かりとなるDX戦略、業績・株価動向、組み入れるファンドなどを紹介します。
目次
- 米国で最も影響力のあるメディアの一つ
- タイムズのDX戦略
- タイムズの業績・株価動向
- タイムズを組み入れるファンドは?
4-1.グローバル・サステナブル・サービス関連株式ファンド
4-2.アムンディ・次世代教育関連ファンド(愛称:みらいエデュケーション)
4-3.個別株でも投資が可能 - まとめ
1 米国で最も影響力のあるメディアの一つ
タイムズは米国で最も影響力のある新聞の一つです。1851年、前身の「ニューヨーク・デイリー・タイムズ」を創刊しました。元々、ニューヨーク市民が読む小規模な地方紙の一つでしたが、現在では「ワシントン・ポスト」、「ウォール・ストリート・ジャーナル」と並ぶ高級紙3紙として位置づけられています。
リベラルな論調として知られており、モノクロの紙面を伝統とし、記事の品質の高さから「A Gray Lady(灰色の貴婦人)」とも称される老舗メディアです。メディアや文学などの分野で最も権威のある賞とされるピュリツァー賞を130回以上獲得しています。
※画像引用:ニューヨーク・タイムズ「ESG」
次項で、タイムズが如何にしてデジタルファーストな企業へと変貌を遂げたかを知るためのDX戦略を見ていきましょう。
2 タイムズのDX戦略
伝統と格式ある老舗メディアのタイムズは、紙面の発行部数と広告収入の落ち込みにより、2009年には経営不振に陥りました。
そこで、まずは2011年に電子版の有料化に踏み切きりました。2014年には、現在のタイムズの発行人かつ創業家のアーサー・グレッグ・(A.G.)サルツバーガー氏を中心とする社内チームが、新興メディアに押される現状を徹底的に分析し、社内変革を強く求める「イノベーション・レポート」をまとめました。同レポートをきっかけに、タイムズはDXの取り組みを加速させます。
※画像引用:バズフィード「Exclusive: New York Times Internal Report Painted Dire Digital Picture」
「イノベーション・レポート」は96ページにも及び、タイムズがデジタル・ファーストな企業へと変貌していくための社内資料です(バズフィードがスクープしメディア業界に衝撃をもたらした)。
まず始めに行った競合他社の分析においては、伝統的メディアでなく、「ハフィントンポスト(現ハフポスト)」や「ビジネスインサイダー」、「ESPN」といったデジタル企業を対象としていたことから、タイムズがデジタルファーストな企業へと生まれ変わろうとする強い意志を伺い知れます。
同レポートを基に、タイムズはデジタル時代のメディア企業として、「読者開発(AD)」と「編集局の強化」に取り組みます。
「読者開発」では、良質な記事を提供することだけに終始するのではなく、如何にしてそのコンテンツを届け、読者を獲得し、そしてマネタイズしていくかが求められます。
読者開発の重要性について同レポートでは、タイムズが過去に、自由黒人から奴隷になった回想記「12 Years a Slave(それでも世は明ける)」の原作者のソロモン・ノーサップにインタビューを行い、それをツイートして紹介したことを挙げています。タイムズのツイートを見たGawkerが一部を引用してストーリーを再構築した記事を書いたことで、それがその年の最も読まれた記事の一つになりました。
同レポートでは、ジャーナリストが良質な情報を掴んでいるものの、それを確実に読者に届けられていないと指摘しています。そして、タイムズが有する「エバーグリーンコンテンツ(長期間に亘り価値が失われないコンテンツ)」を活用し、それら優良コンテンツを読者へ積極的にアピールする必要性を訴えています。
現状分析を踏まえ、読者開発の成功例として、紙面で人気のコンテンツであった料理のレシピを紹介する「NYT Cooking」のサブスクリプション化が挙げられます。2022年には1億人以上がサイトを訪れるまでに成長しました。これは、単に紙面をデジタル化するのではなく、他のメディアでは読めない、タイムズならではの情報を有料の電子版で提供することで、読者の獲得およびマネタイズ化できた事例の一つと言えます。
2023年時点、良質なニュースに加え、ゲーム、レシピ、スポーツ情報専門サイト「ジ・アスレチック」、製品レビューサイト「ワイヤーカッター」をバンドル(パッケージ化)した独自性あるサービスも好評で、読者開発に繋がっています。
「編集局の強化」では、編集局がビジネス部門(マーケティング、広告、デジタルデザイン、プロダクトなど)と協働することを提案しています。同レポート内では、「教会と国家の分離(メディア業界であれば、編集局とビジネス部門との間にある壁を飛び越えて緊密な関係を持つと、ジャーナリズムの独立性が損なわれる可能性がある)」を乗り越えて読者体験の向上に注力しなければならないと訴えています。
たとえ、読者体験の向上に繋がる部門と協働したとしても、それはジャーナリズムの独立性を損なう恐れはないとも指摘しています。
※画像引用:ニューヨーク・タイムズ「Journalism」より引用
また、編集局が真にデジタルファーストな組織へと変貌するために、人材の採用・昇進から、組織構造、コンテンツ作成、ワークフローに至るまでの戦略を再考することも求めています。その際は、紙面を優先する従来の考え方・手法を改め、デジタルニーズを踏まえた上で、変革を遂行していかなければならないと指摘しています。
これらの「顧客体験」および「編集局の強化」に取り組んだ成果を次項で見ていきましょう。
3 タイムズの業績・株価動向
2023年時点で、タイムズは「イノベーション・レポート」で指摘された課題を踏まえたDXの取り組みが奏功し、デジタルで稼ぐ事業モデルへの変革に成功しています。
2015年には、電子版の有料購読者数が、新聞社としては初めて100万人を突破しました。その後も順調に電子版の購読者を増加させ、2022年第4四半期のサブスクリプションは、全購読者955万人のうちデジタルのみ(883万人)が90%超を占めました。(※参照:タイムズ「The New York Times Company Reports Fourth-Quarter and Full-Year 2022 Results」)
有料化にかじを切った2011年には13%台だったことから、デジタル分野が大きく伸長していることが分かります。日本経済新聞の朝刊販売部数(2022年12月)と電子版有料会員数(2023年1月1日時点)を合計した約247万人に占める電子版有料会員数の割合が約33%です。日本経済新聞の電子版有料会員数は約82万人と、タイムズと約11倍の開きがあり、タイムズがいかにデジタルファーストな企業へと変貌を遂げたか伺い知ることができます。
また以下の図表の通り、通年で見ても、タイムズのサブスクリプション(購読者数)はデジタルがプリント(紙)を圧倒的に上回っています。サブスクリプション収益についても、2020年時点でプリントを逆転し、着実にマネタイズ出来ていることが分かります。2022年通年のサブスクリプション収益は、デジタルのみが全体の63%を占め、広告収益でもデジタルが61%とプリントを上回りました。
※参照:ニューヨーク・タイムズ「2021 Annual Report」より筆者作成
収益性については、5年平均の営業利益率が10.4%、自己資本利益率(ROE)は10.5%と、ウォール・ストリート・ジャーナルを傘下におさめるニューズ・コーポレーション(ティッカーシンボル:NWSA、営業利益率6.5%、ROE-3.6%)を上回る水準です。
株価パフォーマンスは、2022年12月31日までの5年間(2017年12月31日を100として指数化)の株主総利回り(値上がり益+配当金、TSR)は、タイムズが、S&P 400ミッドキャップ指数、 S&P 1500パブリッシング&プリンティング指数、S&P 1500 メディア&エンターテインメント指数のいずれも上回っています。
※参照:ニューヨーク・タイムズ「2022 Annual Report」より筆者作成
また、向こう3~5年間でフリーキャッシュフローの最低50%を配当の支払いと自社株買いに充てることを目指す資本政策も発表しており、更なる株主価値の向上が期待できそうです。
バリュエーション面は、予想PER(株価収益率)が39倍台と、5年平均の91倍台と比較すると大きく低下していますが、前述したニューズ・コーポレーション(19倍台)と比較して割高な水準です。デジタルファーストな企業へと変貌を遂げたタイムズは、「潜在読者は少なくとも1億3,500万人」と述べており、今後も世界中でサブスクリプション収益を拡大していくことが期待されます。
4 タイムズを組み入れるファンドは?
4-1.グローバル・サステナブル・サービス関連株式ファンド
タイムズを組み入れるファンドとしては、大和アセットマネジメントの「グローバル・サステナブル・サービス関連株式ファンド(愛称:サブスク)」が挙げられます。
同ファンドは、中長期的に堅調な成長が期待される「サブスクリプション型ビジネス」に注目し、サブスクリプション型ビジネスが企業収益の増加に大きく寄与すると見込まれる企業に投資を行います。
設定(2022年1月21日)から日が浅いため1年間のみトータルリターンは、同一カテゴリー(国際株式・北米)を若干下回りますが、設定来のパフォーマンスは+3.06%です。コスト(信託報酬率)はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均的となります。
その他の組み入れ銘柄としては、会員制量販店の米コストコ・ホールセール、米指数算出会社MSCI、米会計ソフト大手インテュイットなどが上位に組み込まれています。取扱い販売会社は東洋証券になります。
4-2.アムンディ・次世代教育関連ファンド(愛称:みらいエデュケーション)
また、アムンディアセットマネジメントの「アムンディ・次世代教育関連ファンド(愛称:みらいエデュケーション)」にも組み入れられています。同ファンドは、教育エコシステム(「教育」を中心とするヒト・モノ・ビジネスなどの様々な広がり・成長を助成するプロセス)の発展で成長が期待される3つの投資テーマ(教育プロバイダー、教育ツール、教育サービス)に関連する企業群から、ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する評価が低い企業を除外したものを投資対象とします。
1年、3年のトータルリターンは、同一カテゴリー(国際株式・グローバル・含む日本)を下回る苦戦を強いられておりますが、設定来のパフォーマンスは+9.42%です。コスト(信託報酬率)はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均的となります。
その他の組み入れ銘柄としては、IT大手の米マイクロソフト、専門家向け職業教育や意思決 定支援ツールなどを提供する情報サービス会社の蘭ヴォルタース・クルーワー、医学や法律の職業教育コンテンツや情報サーチに定評のある英レレックスなどが上位に組み入れられています。
販売会社はSBI証券、楽天証券、りそな銀行などです。たとえば、楽天証券であれば、「アムンディ・次世代教育関連ファンド(愛称:みらいエデュケーション)」は積立、100円投資、NISA(ニーサ)に対応しています。
4-3.個別株でも投資が可能
なお、個別株として投資する場合、割安に米国株式投資を実践できるSBI証券、楽天証券、マネックス証券のいずれの証券会社でも取り扱っています。
たとえば、SBI証券は業界最安水準の手数料を実現しているほか、総合口座開設後、口座開設月の翌月末までの最大2ヵ月間、米国株式の取引手数料が無料となる「Wow!株主デビュー!米国株式手数料Freeプログラム」も実施中です。
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まとめ
タイムズはデジタルファーストな企業へと変貌を遂げるべく、組織から、コンテンツ作成、ワークフローの変革に成功しました。世界中の多くの潜在読者にアプローチできる環境にある中、更なる業績拡大と株主価値の向上を図ることに今後も期待されます。
フォルトゥナ
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