IPO動向から見たベンチャー投資のポイントや注目の業界は?5か年計画の影響も考察

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2022年は世界的な株価上昇の勢いが弱まり、世界経済の成長に鈍化が見られました。一方、IPOの市場動向は株式市場の影響を受けやすいものの、件数でみるとテック分野を中心に善戦が見られたのが特徴です。

この記事では、これまでのIPO動向を振り返り、今後のベンチャー投資のポイントや今後の注目分野について解説します。IPO投資やベンチャー投資に関心のある方は、参考にしてみてください。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年12月時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 2022年のIPO動向
  2. 2023年以降のIPO動向予測
  3. 知っておきたいベンチャー投資5つのポイント
    3-1 マーケットポテンシャル
    3-2 ビジネスモデル
    3-3 競争相手
    3-4 社会的課題の解決
    3-5 経営者
  4. 注目のベンチャー投資分野
    4-1 ディープテック
    4-2 AI関連分野
    4-3 宇宙関連分野
  5. まとめ

1 2022年のIPO動向 件数は善戦、調達金額は減少

2022年は世界経済の成長が鈍化した年でした。2021年に新型コロナによるパンデミックの実質的な収束から世界経済は回復を見せたものの、徐々にピークアウトしていきます。2021年後半にはアメリカを中心に物価上昇の兆しが見られ始め、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格や食料価格が高騰し、世界的なインフレが発生しました。

物価上昇への対応としてアメリカを中心とした世界の中央銀行は、それまでの低金利政策から金利上昇に政策変更の舵を切り、世界は金利上昇局面に入ります。金利の上昇は資金調達が難しくなることから成長企業への逆風になるため、世界の株式市場では成長企業を中心に株価が一時的に下落する調整局面を余儀なくされました。

日本においても物価の上昇が見られ始め、世界の株式市場につられてマザーズ市場を中心に成長企業の中小型株式は軟調な展開(相場が下がり気味の状態)となりました。

以下は帝国データバンクが調査した過去5年間の日本におけるIPO件数の推移です。2022年のIPO件数は91件と前年の2021年から減少しています。

年度 IPO件数
2022年 91社
2021年 125社
2020年 93社
2019年 86社
2018年 90社

※参照:帝国データバンク「2022年のIPO動向

株式市場が冷え込むとIPO市場は直接的に影響を受けます。そのような状況で2022年の91件という数字は2020年や2019年と同水準であり、2021年が突出して多かったことを考慮すれば、少ないというよりは善戦したといえる件数です。

一方、調達金額は前年から大きく減少しました。国際的な会計およびコンサルティング会社であるKMPGジャパン「IPOを目指すスタートアップを取り巻く環境変化」によると、2022年における91社のオファリングサイズ(公募増資額と売出額の合計金額)は、中央値が約11億円(前年比マイナス43.9%)、10億円未満が56社(約61.5%)と大幅な縮小となっています。

また、2022年のIPO動向として赤字企業の上場が増加したことも特徴的です。帝国データバンク「2022年のIPO動向」によれば、東証グロース市場に上場した70社のうち23社が、経常損益を赤字の状態で上場しました。赤字だから資金調達ができないということはなく、投資家は成長性を重視して投資の選別を行っている傾向が伺えます。

2 2023年以降のIPO動向予測

2023年はすでに上期を終えていますが、上期のIPO件数は44社で37社であった2022年を上回るペースで推移しています。好調な原因として挙げられるのは、日経平均が33年ぶりの高値を回復したことです。世界的な金利上昇が続く中、日本経済は日銀による低金利政策の堅持が見込まれました。

また、東京証券取引所がPBR1倍割れの企業(=株価が割安であるとみなされている企業)に対し、改善策の策定と実行を要請したことも株価の上昇材料となったと考えられます。さらには、著名投資家ウォーレンバフェット氏の日本株買いや、地政学リスクによる中国投資の見直しによる日本株買いなどいくつかの追い風が重なった結果、日経平均の上昇につれて東証グロース市場も上期はパフォーマンスが回復しています。

2023年上期以降を見てみると世界のインフレは落ち着きを取り戻しています。しかし米国の金利は当面高止まりが予測されており、世界における成長企業株式の本格的な反転はもう少し先になる可能性があります。

日本においてもこれまで堅持されていたゼロ金利政策の解除が示唆されるなど、国内の金利が上向きになる兆しが出ています。金利が上昇すれば成長フェーズにいるベンチャー企業には、資金調達において逆風となるため注意も必要です。

一方、岸田内閣は日本のスタートアップを育成する方針を掲げ、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。この計画では「スタートアップは、社会的課題を成長のエンジンに転換して、持続可能な経済社会を実現する、まさに『新しい資本主義』の考え方を体現するもの」とし、日本にスタートアップを育てるエコシステムを創出することを目標に掲げています。政府の支援により日本のベンチャー企業の資金調達環境は、今後さまざまな形で改善していくことが期待されます。

今後のIPO動向は、このような好材料と悪材料の混在する難しい期間に入っていくことが予想されます。このような時にIPO市場を牽引するのは、投資家の成長期待を受け止められるビジョンと確かな技術を持った企業です。革新的なビジネスモデルを持ったベンチャー企業には、資金が集まりやすい環境ともいえます。

3 知っておきたいベンチャー投資5つのポイント

上記のIPO動向を踏まえた上で、今後のベンチャー投資で重視したいポイントを見ていきましょう。

3-1 経営者

ベンチャー投資において重要なポイントになるのが経営者の資質や人柄です。どのようなバックボーンや強みを持っているのかをよく調べましょう。過去に何度か企業を立ち上げた経験がある経営者や、経営に失敗した経験のある起業家は他の人にはないストロングポイントを持っています。

また、経営者に重要なのはビジネスに対する想いや理念です。会社経営、特にベンチャー企業を成長させていくには困難な課題に直面した際にも簡単に諦めたりせずに、革新的なアイデアを打ち出したり、それを実現したりする力などが必要です。

共感性の高い理念を掲げて突き進むリーダーの下には優秀な人材も集まってきます。ベンチャー投資を行う際は経営者のリーダーシップやビジョンも調べることが大切です。

【関連記事】個人でスタートアップ企業に投資するには?ベンチャー投資のメリットやリスクも

3-2 ビジネスモデル

投資先企業のビジネスモデルを確認することも欠かせません。特にどのようにして利益を得るのかという点について慎重に調査する必要があります。魅力的な製品やアプリケーションを開発しても、マネタイズに失敗し成長できない企業は数多くあります。

例えば、多くの人が使っているアプリなのに儲からないという状況では、ビジネスとしては価値がありません。利用料を取るのか広告で収入を得るのか方法は様々ですが、企業側に明確なマネタイズ戦略がないと成長も頓挫する可能性があります

3-3 マーケットポテンシャル

優れた技術を持っていたとしても、それを利用する人が少ないのでは成長性が限られてしまうため、企業が行っているビジネスのマーケットポテンシャルを検討することは大切です。自社のマーケットやビジョンに対する戦略が不明確な企業への投資は、大きなリスクを伴う可能性が高まります。

自分たちのビジネスにおけるマーケットがどこにあり、誰がその商品・サービスを利用するのか、どのくらいのマーケットのポテンシャルがあるのかについて、しっかりと経営に落とし込んでいる企業を見極める必要があります。

3-4 競争相手

ベンチャー投資では、投資先企業の競合相手についても分析することが大切です。最先端な技術を持っていても、同じ分野に強力な競合相手がいると資金量の差で負け、撤退に追い込まれることもあります。

ベンチャー企業として目指したいのは、ブルーオーシャンと呼ばれる競合相手のいないニッチ分野や新しい分野でビジネスを展開することです。ベンチャー企業の優位な点は既存ビジネスのしがらみがないことなので、大企業では参入できない分野に挑戦している企業を検討することもポイントの1つです。

3-5 社会的課題の解決

日本政府がスタートアップを支援する目的として、企業による社会的課題の解決を挙げているように、今後のベンチャー企業には脱炭素やガバナンスなどをテーマに掲げる姿勢も求められています。

持続可能な社会の実現を目指す企業は、より多くの人の共感や期待を受けることができ、資金調達も行いやすくなる一方、ESG(環境、社会、ガバナンス)に全く配慮しないような企業は、どれだけ利益を稼げてもこれからは社会的なプレッシャーが強くなることが予想されるため、投資対象としては避ける必要も出てきます。

4 注目のベンチャー投資分野

ベンチャー投資では注目されている投資分野やトレンドをしっかりと押さえることも大切です。以下、詳しく見ていきましょう。

4-1 ディープテック

世界のベンチャー企業投資において、重要ワードの一つとなっているのが「ディープテック」です。ディープテックとは、経済産業省「ディープテック・スタートアップ支援事業について」によると、下記のように定義されています。

ディープテックとは、特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術であり、その事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術。

ディープテックは、研究開発に長い期間を要する、あるいは大きな投資を必要とするといった短期的には利益になりづらい特徴があります。また、研究の結果が既存のビジネスモデルに適応しないことも多く、企業として活用することに複雑な課題が多いのも特徴です。

しかし、カーボンニュートラルやサーキュラエコノミー等の社会的課題解決のためには、まだ生まれていない技術を研究し作り出すことが必要です。これらの課題を官民共同で解決して日本のディープテックベンチャーを生み出すべく、日本政府もディープテック企業の支援策を打ち出して盛り上げようとしています。

大学や研究機関と企業の協業によって設立されるベンチャー企業などは、今後の投資対象として期待の分野となっています。

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4-2 AI関連分野

ChatGPTをはじめとする生成AIの登場は、世界のAI開発分野において画期的な技術革新であり、世間に大きなインパクトを与えています。1つのブレイクスルーはその分野における全体のレベルを次のステージに持ち上げる傾向にあるため、今後のAI関連ビジネスにおける将来性も期待できます。

AI自体の開発も今後進展が期待されますが、AIを活用した新たなサービスも注視したいところです。アメリカが先行している分野ですが、今後の日本企業による巻き返しにも期待が集まっています。

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4-3 宇宙関連分野

宇宙関連の技術開発は、かつて国レベルで主導するのが当たり前の分野でしたが、現在では民間による参入が増え、これからの成長が大きく期待されています。

宇宙関連分野とは、宇宙空間で行われる商業活動事業全般のことです。ロケット開発以外にも衛星を活用した通信網の構築や、打上げ後の衛星のメンテナンス、そして宇宙旅行など様々なビジネスが生まれています。

すでに民間への支援体制が政府よって構築されているアメリカの企業が先行している分野ではありますが、日本の企業にも独自の宇宙関連ビジネスに取り組むベンチャー企業が生まれてきており、日本の技術力を活かして宇宙へ羽ばたく企業が生まれることも期待されています。

まとめ

2022年のIPO動向は、前年に比べてやや苦戦した印象があるものの、IPO件数を見れば過去5年間で平均的な水準でした。2023年以降は、世界的な高金利が継続すると予測されているので、株式市場の調整が続けばベンチャー企業の資金調達環境やIPO動向には逆風となる可能性もあります。

一方、日本政府はスタートアップ企業への支援を打ち出し、施策も実行段階に入ってきているなど、今後のベンチャー企業の資金調達環境は、改善することが期待されています。政策や経済動向による投資環境の変化はありますが、引き続き有望な技術や優れたビジネスモデルを持ち、成長が期待できるベンチャー企業へ投資家からの資金が集まるという流れが今後も続くと考えられます。

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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム

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