日本は水素をエネルギーとして利用するための国家戦略である「水素基本戦略」を2017年に策定し、水素社会の実現に向け動いています。日本ばかりではなく、米国、欧州、英国、中国、韓国、インドなどでも水素社会の実現を目指しています。
水素はテーマとして取り上げられやすく、今後は株式市場をリードする可能性があります。本稿では、日本株の中でも水素関連銘柄に焦点を当てて解説します。
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目次
- 日本の水素戦略と目標
- 水素の活用分野
2-1.発電分野
2-2.燃料電池分野
2-3.製造分野 - 関連銘柄
3-1.INPEC(1605)
3-2.岩谷産業(8088)
3-3.川崎重工(7012)
3-4.千代田化工建設(6366) - まとめ
1.日本の水素戦略と目標
水素は水などの資源から生成できています。そのため、化石燃料のほとんどを海外に依存している日本にとって、水素をエネルギーとして活用できれば、輸入に頼る必要がなくなる可能性があります。
また、水素は電気や熱エネルギーとして変換する際に二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーであるため、2050年のカーボンニュートラルを目指して官民ともに水素社会に向けて取り組んでいます。
政府は水素導入に向け、安全性、エネルギー安全保障、経済効率性、環境適合を前提とし、2030年に最大300万トン/年、2040年に1,200万トン/年、2050年には2,000万トン/年程度の導入目標を掲げています。
参照:再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議「水素基本戦略」
日本においては、2033年までに、官民で150兆円超のGX(グリーントランスフォーメーション)関連投資を引き出すために、国が20兆円規模の先行投資支援を行う方針を示しています。また、支援制度としては、2030年ころまでに水素・アンモニアの提供を開始する予定である事業者に対し、基準価格(適切な収益を得る価格)と参照価格(既存燃料のパリティ価格)の差額の一部または全額を長期にわたり支援するスキームが検討されています。
参照:GX実行推進担当大臣「我が国のグリーントランスフォーメーション実現に向けて」
2.水素の活用分野
2-1.発電分野
水素発電は、水素火力発電とも呼ばれ、火力発電の原料を石炭や天然ガスなどの化石燃料から水素に代替し発電します。水素発電には、水素をボイラーで燃焼させて蒸気をつくり、この蒸気によりタービンを回転させ電力を起こす汽力発電、水素でガスタービンを燃焼させ発電するガスタービン発電のほか、水素と酸素の化学反応を利用した燃料電池による発電があります。
2-2.燃料電池分野
燃料電池は発電量を大きくするとコストがかさむため、家庭用燃料電池やFCV(燃料電池自動車)での利用が進められています。
FCVは、航続距離や燃料の充電時間が短いというメリットがあります。一方、デメリットとして、コストが高いこと、燃料を充填する水素ステーションが十分に整備されていないことが挙げられます。
2-3.製造分野
製造分野の例として、水素を活用した製鉄技術が進められています。
日本では国内の産業部門からのエネルギー起源二酸化炭素排出量の約4割を鉄鋼業界が占めているため(2020年)、脱炭素の流れから排出量削減が課題となっています。そこで、鉄鋼メーカーは、二酸化炭素排出量を減らす取組として、鉄鉱石を還元する際に水素で還元する水素直接還元の技術開発を推進しています。
参照:環境省「2020年度(令和2年度)温室効果ガス排出量(確報値)について」
3.関連銘柄
ここでは、水素関連の銘柄を解説します。
3-1.INPEC(1605)
INPECは日本最大級の総合エネルギー開発企業で、国際石油開発と帝国石油の統合で2008年に誕生した企業です。筆頭株主は経済産業大臣で、約20%保有しています。
水素事業の取組としては、2023年に川崎重工業と岩谷産業が共同出資する日本水素エネルギー株式会社(JSE)に、同社が資本参加しました。
同社は、日本最大級の総合エネルギー開発企業で、国際液化水素サプライチェーンの構築を推進しています。日本政府の掲げる水素導入量目標(2030年に最大300万トン/年、2040年に1,200万トン、2050年には2,000万トン/年程度)や、コスト目標(2030年に30円/Nm3、2050年に20 円/Nm3)を目指しています。
株価は1,998円、予想PER7.39倍、PBR0.60倍、配当利回りは3.70%です。PBRが1倍を下回っているため、株価の下値不安は小さい水準だと言えそうです。
3-2.岩谷産業(8088)
岩谷産業は、水素エネルギー実現に向けて、FCV(燃料電池車)向けに水素ステーションや水素製造拠点を建設しています。
2023年12月には、コスモスエネルギーホールディングス株式会社(以下「コスモ」)の株式19.86%を取得しました。同社とコスモは、2023年11月に水素関連プロジェクトのエンジニアリンング事業協業を目的とし合同会社を設立するなど、協業関係を強化しています。将来的にはコスモが展開しているガソリンスタンドが、水素ステーションに変換される可能性があります。
株価は6,621円、予想PER11.98倍、PBR1.19倍、配当利回りは1.43%です。
3-3.川崎重工(7012)
川崎重工は、日本で初めてLNG運搬船を建造した技術で、世界初の液化水素運搬船展開に取り組んでいます。世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を開発し、2022年には豪州で製造された液化水素の日本への長距離輸送に成功しています。
本格的な水素社会が実現したとき、海外で安価に製造された水素を日本に大量に運んでくる必要があり、同社の大型液化水素運搬船が活用されることとなるでしょう。また、水素の陸上輸送においても、LNG貯蔵タンク開発を通じて培った技術が液化水素輸送コンテナに転換されています。
このほか、圧縮水素トレーラの開発、ロケット用の浄化水素貯蔵タンクなど、水素の運搬から貯蔵まで水素のインフラともいえる分野で活躍が期待されます。
株価は3,285円、予想PER17.38倍、PBR0.98倍、配当利回りは1.22%です。PBRが1倍割れとなっているため、株価の下値不安は小さい水準だと言えそうです。
3-4.千代田化工建設(6366)
千代田化工建設は、石油・ガスといったエネルギーから、化学、環境、省エネなど幅広い分野において、プラントの設計・調達・建設を中心に、数多くのプロジェクトを世界中で展開しています。
同社は、水素サプライチェーン事業として、SPERA水素(水素を常温・常圧で貯蔵・輸送する技術)システムを開発しました。化学反応を用いて、水素をMCH(メチルシクロヘキサン)に転換し、水素の常温・常圧での貯蔵・輸送を可能にしました。このシステムにより、水素の大量貯蔵・長距離輸送におけるリスクを、石油製品並みに低減することができるようになりました。
なお、MCHは常温・常圧の液体のためハンドリングが容易で、消防法ではガソリンと同じ取扱いが可能です。既存の石油流通インフラの活用ができるというメリットがあります。
株価は337円、予想PER6.57倍です。
4.まとめ
水素は、2050年のカーボンニュートラルに向けた鍵となるエネルギーです。日本では、国家戦略として水素基礎戦略を策定し、水素社会の実現に向けて進んでいます。
水素社会の実現にはインフラの構築が急務となっています。安価な水素を海外から運ぶための運搬技術、陸路や貯蔵などの分野で、様々な企業が研究開発に取り組んでいます。
水素のインフラ関連銘柄としてINPECや岩谷産業、運搬・貯蔵分野としては川崎重工や千代田化工建設が挙げられます。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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