ESG格付けの高い会社は株価も好調?日本の時価総額上位企業が世界に与えた影響も解説

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日本の大手企業は、海外に進出し現地工場を運営しており、地域の雇用創出など地域にとってはなくてはならない存在となっています。

株式投資は社会貢献にも繋がります。それは、投資先の企業の株価が上昇することで企業の資金繰りが良好になり、事業活動が活発し、企業は成長していきます。企業の成長は社会的地位の上昇に繋がる一方、社会的責任が重くなり、企業は社会貢献を意識するようになります。

今回は、日本の時価総額上位企業の取り組みが世界に与えた影響について解説します。

※2023年6月30日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 時価総額10位銘柄の時価総額とESG格付け
  2. 各社が世界に与えた影響
    2-1.トヨタ自動車(7203)
    2-2.ソニー(6758)
    2-3.キーエンス(6861)
    2-4.ファーストリテイリング(9983)
    2-5.第一三共株式会社(4568)
    2-6.信越化学(4063)
  3. ESGと株価
  4. まとめ

1.時価総額10位銘柄の時価総額とESG格付け

日本企業の時価総額1位はトヨタ自動車の30.4兆円で、2位がソニーで15.8兆円です。時価総額が10兆円を超える企業は、トヨタ、ソニー、キーエンス、日本電信電話、三菱UFG・FGとファーストリテイリングの6社です。

時価総額上位企業は、ESG格付けも高い傾向があります。ESGとは、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の略です。ESG格付けは、気候変動問題や人権問題など世界的な社会課題に対する企業の取り組みの評価です。

米国評価機関のMSCI ESG格付けはAAAがソニーとKDDIの2社、AAがファーストリテイリング、第一三共、オリエンタルランドの3社、Aがトヨタ自動車と日本電信電話、三菱UFJ FGの2社、BBBはキーエンスと信越化学の2社です。

ESG格付けと時価総額10位銘柄

銘柄 MSCI ESG格付け 時価総額(兆円)
トヨタ自動車 A 30.4
ソニー AAA 15.8
キーエンス BBB 15.4
日本電信電話 A 15.1
三菱UFJ FG A 10.9
ファーストリテイリング AA 10.1
KDDI AAA 9.8
第一三共 AA 9.1
オリエンタルランド AA 8.9
信越化学 BBB 8.0

(2023年5月2日時点)

2.各社が世界に与えた影響

ここでは、各社が世界に与えた影響を具体的に見ていきましょう。

2-1.トヨタ自動車(7203)

同社がつくりあげた生産方式は、世界のモノづくりに大きな影響を与えました。特に、在庫管理と業務工程の見直し(業務の効率化)に重点を置き、トヨタのカンバン方式、カイゼン方式として世界に広まりました。

カンバン方式は同社が深刻な財政難に陥った1950年前後に同社により開発された生産管理方法です。同方式は、製造工程での部品の在庫を最小限におさえる仕組みで、効率的な在庫管理ができます。製造工程で多くの過剰在庫を抱えていた企業が、カンバン方式を採用することで、顧客が必要なものを必要なだけ生産するジャストインタイムを実現し、最低限の在庫で顧客ニーズを満たすことが可能となります。

また、トヨタ式カイゼン方式も多くの企業に影響を与えました。トヨタ式カイゼン方式には、業務効率化による生産性向上、品質向上、従業員のモチベーション向上という3つの主要目的があります。大きな特徴として、経営側からの指示ではなく、現場で意見を出し業務内容やプロセスを見直すことで業務の効率化をはかるというボトムアップ方式であることが挙げられます。

トヨタ自動車は、上記の生産システムの導入により、1974年にはカローラが乗用車別生産台数で世界一を記録。2022年のグループ生産台数は約1,050万台で、3年連続で世界一となりました。

また、同社は環境維持への取り組みも強化しています。2035年までに世界中の自社工場の二酸化炭素排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、取り組んでいます。

同社の株価は20年間(2003年4月末から2023年5月2日まで)で約5.4倍に上昇しています。これは、日経平均の約3.6倍を大きく上回っています。

2-2.ソニー(6758)

ソニーは同社技術やサービスで世界中の人々の生活を便利に、そして豊かにしています。

1960年にソニー・アメリカを設立し、トランジスタラジオの取引を始めました。セールスだけではなく、アフターサービスまで手掛けることがソニーブランドのさらなる飛躍に繋がりました。

1979年7月に発表されたウォークマンは世界中の若者に大きな影響を与えました。音楽を聞きながら街を歩くスタイルは、若者を中心に拡がりました。近年ではプレイステーションの販売台数が伸びており、2022年末で3,200万台を突破し、ゲームの世界においてもソニーは世界に影響を与えています。

サステナビリティ活動としては、2040年までにバリューチェーン全体でネットゼロの達成目標を掲げ、2030年までに*スコープ1、2の排出量はカーボンニュートラルとすることを発表し、実行しています。

ソニーの株価は20年間で約5.1倍に成長しています。

*スコープ1:自社のCO2の直接排出、スコープ2:他社から受給して使用した電気に伴う間接排出

2-3.キーエンス(6861)

キーエンスはファクトリー・オートメーション(FA)の総合メーカーです。自社で企画・開発して、製品を外注生産し、販売しています。工場の自動化をサポートすることで世界のメーカーに貢献しています。

新型コロナウィルスの流行で、メーカー各社では生産ラインの自動化を進める動きが活発化していることもあり、海外市場でもキーエンスの製品需要は高まってきています。

サステナビリティ活動としては、商品における環境負荷低減を掲げ、環境にやさしく、効率の良い製品を提供しています。

キーエンスの株価は20年間で約18.5倍に上昇しています。

2-4.ファーストリテイリング(9983)

同社の主要事業であるユニクロは、ファストファッション業界で世界的な地位を確立しました。ユニクロは、高品質な製品を手頃な価格で販売し、他のファストファッションブランドとの差別化を図っています。ユニクロブランドは世界に広がり2022年8月時点での出店数は2,394店舗(海外:1,585店舗、国内:809店舗)にのぼり、2022年8月期の売上高は2.3兆円となっています。

ユニクロのブランド確立は、1998年~2000年にかけて「フリース」が大ヒットしたことにあります。当時一着5,000円~2万円程度で販売されていたフリースを1,900円で販売しました。カラーバリュエーションも豊富だったため爆発的にヒットし、誰もが知るブランドに成長しました。

環境への配慮としては、全商品をリサイクル・リユースし、リサイクル素材を活用した商品の開発と販売に取り組んでいます。

ファーストリテイリングの株価は20年で約35倍に上昇しています。

2-5.第一三共株式会社(4568)

第一三共株式会社は、医療分野で世界に貢献しています。2005年に三共株式会社と第一製薬株式会社の共同持ち株会社として設立され、29の国・地域に展開しています。

第一三共グループが2025年ビジョンを掲げ目指すゴールは「がんに強みをもつ先進的グローバル創薬会社」です。第一三共の開発した薬は世界中で使われ、世界に貢献しています。2020年には英国のアストラゼネカ社とグローバルな開発及び商業化契約を締結し、海外展開にも力をいれています。

第一三共の株価は約9.7倍(2005年9月~2023年4月21日迄)に上昇しています。

2-6.信越化学(4063)

信越化学グルールはシリコーンを生産しており、家庭用品や自動車、太陽電池などで使われており、それぞれの用途で世界の温室効果ガスの削減に貢献しています。

日本政府は2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン戦略を発表しました。その中で、成長が期待される重要分野であり、かつ温室効ガス排出削減の観点からカーボンニュートラルを目指す取り組みが不可欠な14分野をあげました。その14分野に占める信越化学グループ製品の売上高は約7割としています。ESGにおいても信越化学は世界に影響を与えていると言えるでしょう。

半導体製造に欠かせないシリコンウエハーのマーケットシェアは世界首位、半導体の製造工程に欠かせないマスクブランクスも世界首位、フォトレジストは世界シェア2位です。

2022年度の売上は2兆744億円であり、約8割が海外売上1兆6071億円です。半導体製造においても世界に貢献しています。

信越化学の株価は20年で約7.7倍に上昇しています。

3.ESGと株価

時価総額が高い銘柄のMSCI ESG格付けは高い傾向があります。パリ協定議案が発足した2020年1月以降の株価と指数の騰落率を表にしました。2023年4月17日時点では、すべての銘柄の騰落率が日経平均株価を上回っています。

株価と指数の騰落率(%)

MSCI ESG格付け 2021年12月30日 2022年12月30日 2023年4月17日
トヨタ自動車
A
44.8 27.9 29.4
ソニー
AAA
97.8 38.0 67.5
キーエンス
BBB
89.4 35.4 64.1
日本電信電話
A
23.2 51.9 62.8
三菱UFJ FG
A
16.0 72.1 71.6
ファーストリテイリング
AA
1.8 26.6 51.5
KDDI
AAA
11.1 35.8 40.9
第一三共
AA
23.5 81.0 103.1
オリエンタルランド
AA
30.8 29.4 61.9
信越化学
BBB
70.7 43.0 85.6
日経平均株価 25.2 10.3 20.5

4.まとめ

時価総額上位銘柄は、海外売上高の高い銘柄が多くあります。そうした企業の多くは、現地工場を運営しており、地域の雇用創出など地域にとってはなくてはならない存在となっています。また、MSCI ESG格付けで高格付け銘柄が多く、サステナブル経営を意識しています。

時価総額上位企業は世界に大きな影響を与えており、投資家は、こうした企業に長期投資することで、間接的に世界的な貢献ができます。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。