日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにするカーボンニュートラルを目指しています。
国土交通省によると、不動産分野(業務部門や住宅部門)における二酸化炭素排出量が、日本全体の三分の一を占めており、不動産業界がどれだけ二酸化炭素排出量を抑えることができるかが排出量削減のカギとなっています。
参照:国土交通省「環境価値を重視した不動産市場形成にむけて」
今回は、不動産業界の主なESG課題とサステナビリティの取り組み、日米企業の動向を解説します。
※本記事は2023年7月13日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 不動産業界
- 不動産業界の主なESG課題と取り組み
2-1.太陽光パネル設置義務化の流れ
2-2.新築物件をZEH/ZEBに
2-3.建築省エネ法の公布
2-4.都市部におけるヒートアイランド現象 - 日米各社の環境への取り組み
3-1.住友林業(1911)
3-2.三菱地所(8802)
3-3.大和ハウス工業(1925)
3-4.Howard Hughes(HHC) - まとめ
1.不動産業界
不動産業界とは、土地・建物などに関わる業界で、地域の開発を手掛けるデベロッパー、注文住宅や建売住宅などを手掛けるハウスメーカー、不動産の仲介業を営む不動産仲介業者、マンションや一戸建て販売を手掛ける住宅販売会社、不動産を管理する管理会社などがあります。
2.不動産業界の主なESG課題と取り組み
不動産業界のESG課題のなかでも注目されているのが二酸化炭素排出量の削減です。政府も省エネ法を公布し、二酸化炭素排出量の削減を後押ししています。また、都市部におけるヒートアイランド現象も大きな問題となっています。
2-1.太陽光パネル設置義務化の流れ
東京都は、新築住宅などへの太陽光発電設備の設置や断熱・省エネ性能の確保など義務付けなどを含む「環境確保条例」改正案が可決され、2025年4月から施行されます。
この流れは、京都府や群馬県などでも義務化が進んでおり、2030年には全国で義務化されるのではないかという可能性が浮上しています。
2-2.新築物件をZEH/ZEBに
ZEHはNet Zero Energy House、ZEBはNet Zero Energy Buildingの略です。断熱性を向上させ熱効率を高めることで、再生可能エネルギーと年間エネルギー消費量を釣り合わせることを目的とした住宅や商業系ビルのことです。
2-3.建築省エネ法の公布
建築物省エネ法の公布により、2025年から非住宅・住宅については新築時に省エネルギー基準*の適用が義務付けられます。省エネルギーの判断は、性能基準*と仕様基準*の2つで、環境に配慮した住宅が建設されることになります。
*省エネルギー基準:建築物エネルギー消費基準等を定める法制に明記されている建築物エネルギー消費性能基準、省エネ基準に沿った住宅には、ZEH住宅、LCCM住宅、認定長期優良住宅、認定低炭素住宅、性能向上認定住宅、スマートハウスがある。
*性能基準:外皮性能、冷房機の平均日射熱取得率、一次エネルギー消費量などをもとに判断する方法
*仕様基準:外皮や開口部などの性能と一次消費エネルギー量をもとに省エネ基準に適合しているか判断する方法
2-4.都市部におけるヒートアイランド現象
ヒートアイランド現象は都市部ではアスファルトやコンクリートは太陽放射による熱の蓄積が多く、温まりにくく冷めにくいという性質があります。日中に蓄積した熱を夜間になっても保持し、大気へ放出するため、気温の低下を防ぐ要因となり、都市部の気温が周辺郊外と比較し高くなる現象です。
気象庁によると、東京都の気温は100年当たり2.0℃上昇と、日本の平均の1.3℃と比べ高い上昇率となっています。ヒートアイランド現象により、熱中症の増加など健康への悪影響や、動植物の生態系への影響が深刻化しています。
参照:東京管区気象台「東京都の気温」
参照:気象庁「気温の変動2」
ヒートアイランド現象を改善するため、保水性舗装、壁面緑化、屋上緑化が行われています。
保水性舗装とは、水を吸収し蓄えておける道路の舗装です。吸収した水がアスファルトの熱を奪いながら蒸発するため、気温上昇を防ぐことができます。
側面緑化や屋上緑化は、建築・建造物の側面や屋上を植物で緑化することで気温上昇を抑制します。植物が太陽光を遮断し、水分を発散することで、気温の上昇を抑えることが期待できます。また、建築物の内部においても気温上昇を抑えることができるため、冷房の設定温度を下げることが期待でき、節電にも繋がります。
3.日米各社の環境への取り組み
3-1.住友林業(1911)
住友林業グループは、2018年7月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクホース)の提言への賛同を表明しました。木造建材事業と住宅事業を対象にTCFD提言に基づいた取り組みが進んでいます。
同グループは脱炭素化へ向けた長期ビジョンの「Mission TREEING 2030」を発表しました。「森と木の価値を最大限に生かした脱炭素化とサーキュラーバイオエコノミーの推進」を掲げ、森林や木材資源のもつCO₂の吸収・固定や削減の効果を訴求し、事業を通じた社会の脱炭素化に貢献するとしています。
目標は、2040年までに自社グループの事業活動で使用する電力と発電事業における発電燃料を100%再生可能エネルギーで賄うことです。
2022年度のスコープ1*、2*の温室効果ガス排出量は、355,928t-CO₂eです。2019年比で約6.5%削減されました。エネルギー消費量のうち、再生可能エネルギーの導入が2019年の72.2%から75.7%に増加したことが寄与しています。
*スコープ1:自社での燃料使用などにより温室効果ガス排出
*スコープ2:導入した電力・熱による温室効果ガス間接排出
参照:住友林業「住友林業グループ中期経営計画サステナビリティ編2024」
参照:住友林業「気候変動への対応」
3-2.三菱地所(8802)
三菱地所はオフィスビル・商業施設の開発、賃貸、管理などを手掛けている大手デベロッパーです。
温室効果ガス削減への取り組みとして、中長期排出削減目標を掲げ、グループ全体で2050年までに「ネットゼロ」を達成することを目標にしています。中間目標は、2030年までにスコープ1+2を70%以上、スコープ3*については50%以上削減することを掲げています。
スコープ1:熱供給事業、非常用発電機の運転などによる燃料(ガス、重油)の直接的な燃焼
スコープ2:購入した電気、熱、蒸気、冷温水などの使用による燃料の間接的な燃焼
スコープ3:その他事業活動に伴う排出(建築工事、販売した不動産の使用等)
参照:三菱地所「CO2等温室効果ガス排出削減目標について」
2020年1月には、事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする共同イニシアティブであるRE100へ加盟し、2025年度までにグループ全体でRE100達成を目指しています。2022年度の再生可能エネルギー率は50%程度に達成する見込みで、2021年の30%程度から大きく前進しました。
参照:三菱地所「東京都内・横浜市内に所有する全てのオフィスビル・商業施設の全電力を再生可能エネルギー由来に」
また、廃棄物排出量を2019年比で、2030年までに㎡当たり20%削減、廃棄物再利用率を2030年までに90%にすることを掲げています。
参照:三菱地所「三菱地所本社における取り組み」
同時に、同グループは地球環境への負担軽減に貢献するため、「三菱地所グループグレーン調達ガイドライン」を設定し、環境負荷の少ない資材の調達や工法の採用に取り組んでいます。
3-3.大和ハウス工業(1925)
大和ハウス工業は、戸建住宅を事業の中心に、賃貸住宅、分譲マンション、商業施設などの事業を手掛けています。日本の建築業界の大手企業です。
同グループは、ライフサイクルにおける「環境負荷ゼロ」を目指し、バリューチェ―ン全体の温室効果ガス排出量の「見える化」に取り組んでいます。同グループの特徴は、自社以外の間接排出(スコープ3)が約99%と大きい点です。
環境負荷ゼロを目指し、環境長期ビジョン「Challenge ZERO 2055」を策定し、サステナブルな社会の実現を目指し、4つの環境重要テーマとして、気候変動の緩和と適応、自然環境の調和、資源循環・水環境保全、化学物質による汚染の防止を掲げ、それぞれ調達、事業活動、商品・サービスの3段階を通じて環境負荷ゼロをめざしています。
特に、需要な7つの目標を「チャレンジ・ゼロ」とし、2050年ゴール(一部2055年)と2030年のマイルストーンを明確にしました。
7つのチャレンジ・ゼロと2050年ゴール
まちづくりにおけるCO₂のチャレンジ・ゼロ | 目標:2050年までに、住宅・建築物の使用時温室効果ガス排出量ネットゼロ |
事業活動におけるCO₂のチャレンジ・ゼロ | 目標:2050年までに事業活動における温室効果ガス排出量ネットゼロ |
サプライチェーンにおけるCO₂のチャレンジ・ゼロ | 目標:2050年までにサプライチェーンにおけるカーボンニュートラルを達成 |
森林破壊のチャレンジ・ゼロ | 目標:2055年までにサプライヤーと協働で、材料調達にともなう森林破壊ゼロを実現する |
生物多様性損失のチャレンジ・ゼロ | 目標:2055年までに、生物多様性に配慮した持続可能な事業活動の実践と、住宅・建築・まちづくりにおける緑の量や質の向上により、生物多様性のノー・ネット・ロスを目指す |
資源利用・廃棄物のチャレンジ・ゼロ | 目標:2055年までに、住宅・建築関連事業において、再生可能な材料とリサイクルされた素材を使用する。全事業におけるサプライチェーンを通じ、廃棄物のゼロエミッション(循環利用)を目指す |
水リスクのチャレンジ・ゼロ | 目標:2055年までに全事業におけるサプライチェーンを通して、水使用量の削減と循環利用、水環境の保全に取り組み、水資源の持続可能な利用を目指す |
参照:大和ハウス工業「環境長期ビジョン」
3-4.Howard Hughes(HHC)
Howard Hughesは、テキサス州ダラスを拠点とする不動産デベロッパーです。
環境への取り組みとして、2027年目標(2017年対比)を設定し取り組んでいます。
エネルギー | 2027年目標48.83kBtu/ft²(2017年62.17kBtu/ft²) 超過目標-42.0% |
水 | 2027年目標22.38gal/ft²(2017年27.98gal/ft²) 超過目標-20.7% |
カーボンエミッション | 2027年目標0.0051MT CO₂e/ft²(2017年0.0064MT CO₂e/ft²) 超過目標-46.0% |
リサイクル | 2027年目標50%(2017年20.7%) 超過目標+11.3% |
参照:Howard Hughes「2020-21 ESG Annual Report」
4.まとめ
不動産業界の二酸化炭素排出量は、日本全体の三分の一を占めています。不動産業界が今後、どれだけ二酸化炭素排出量を削減することができるかが重要です。
不動産業界の裾野は広く、開発を手掛けるデベロッパー、ハウスメーカー、不動産仲介業者、マンションや一戸建て販売を手掛ける住宅販売会社、不動産を管理する管理会社などがあります。各分野の取組がそれぞれ二酸化炭素排出量の削減に努める必要があります。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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