「過去数十年で最も高いインフレ率を記録したことを受け、世界の大半の中央銀行が金融政策の正常化に乗り出した。コロナ禍が経済に与える影響に対処するために導入した緩和的措置はもはや正当化されず、中央銀行が経済成長を過度に損なわずに物価安定を取り戻せるか、言い換えれば、経済のソフトランディングを実現できるのか」。ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ株式会社は5月31日付でナティクシス・インベストメント・ソリューションズのインターナショナル部門グローバル・マーケット戦略責任者マブルック・シェトゥアン氏による欧米のマクロ経済見通しの日本語版を公表した。「ソフトランディング」を阻害するものは何か、実現は可能だろうか。
同氏は「ソフトランディングの実現は、最終的には、インフレ期待、景気循環、現在の金融情勢の3つの軸に依存する」と定義。金融政策を正常化する目的は、不均衡を是正し、景気循環をスムーズにして、経済を安定した成長ペースに乗せること。現時点で中央銀行の課題を特に難しくしているのは「インフレが複数の要因に起因しており、それが経済圏によってかなり異なっている」点にあると同氏は指摘する。
コア・インフレの構成要素(主に製造品とサービス)は現在、最近の米国の物価上昇のほぼ6割を占めており、これは非常に堅調な内需を反映している。実際、米国経済は経済活動の再開以来、底堅い内需に支えられ、堅調に推移している。この耐性が歴史的な米国の労働市場の逼迫をもたらし、米連邦準備制度理事会(FRB)が確固としたインフレ対策を実施するための十分な根拠を与えている。しかし、同氏は成長ファンダメンタルズに十分な余地があるにもかかわらず、パウエル議長はすでに米国経済のソフトランディングが実現する「可能性の高さ」に言及していることに注目。「FRBの実績からはあまり期待できない」と否定的だ。
理由として、インフレ率を4%ポイント以上引き下げるために中央銀行が利上げを実施するたび、景気はリセッション入りしてきたことを挙げる。しかし、経済成長の勢いは既に鈍化し始めており、インフレ率も4月に前年比+8.5%となり天井を打った可能性が高いにも関わらず、インフレ率が年間を通じて高止まりが予想されており、成長率も依然懸念するにはほど遠い水準にあるため、「FRBは金融引き締めを継続する」と予測。
一方、ユーロ圏では、22年に経済活動の回復が期待されていたが、ロシアのウクライナ侵攻によって後退した。欧州のインフレは輸入エネルギー価格の高騰に起因しており、HICP(ユーロ圏消費者物価指数)の上昇に占めるコア部分の割合はわずか33%だった。同氏は紛争の結果、インフレはより長期化すると予想し、欧州の物価上昇はまだピークに達していないとする。
欧州委員会(EC)の調査によると、ユーロ圏では最近、今後数カ月以内に販売価格の引き上げを計画していると報告した企業がこれまで以上に増加していることが指摘されている。欧州のインフレの性質により、欧州中央銀行(ECB)の政策立案者はFRBよりも複雑な挑戦に直面している。とはいえ、23年の経済見通しは、米国よりもユーロ圏の方が良好で、ユーロ圏のGDP成長率は米国を上回ると予想されている。
「ユーロ圏の経済見通しは、戦争による混乱で確実に悪化しており、ユーロ安も助けになっていない。米国とユーロ圏の成長率・金利差の拡大は、ユーロを米ドルに対して著しく下落させ、エネルギー輸入をさらに高くし、事実上の経済状況の引き締め要因として機能している」と同氏の見方は厳しい。政策金利の引き上げは、エネルギー価格の低下と家計の購買力にとって“息抜き”になるが、同時に不確実性が高まり、金融状況の引き締めも意味する。
金融・財政状況に関しては、「緩和的な金融」の終焉を特徴とする新たな金融政策体制を反映し、欧米ですでに顕著な引き締めが起こっている。しかし、「いかなるマクロ経済要因にもかかわらず、金融政策の引き締めを急すぎると割高な経済的コストにつながる可能性があり、引き続き留意すべき」と同氏は警告。「可能な限り柔軟性を維持しつつ、比較的スムーズに金融引き締めへ移行することが、中央銀行にとって望ましい」と締めくくっている。
HEDGE GUIDE 編集部 投資信託チーム
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