円安による日本経済への影響は?現状と今後、業種ごとの影響【2022年10月】

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9月になって円安が加速。1ドル=140円台に突入し、1998年以来24年ぶりの円安水準となっています。欧米の主要中央銀行が利上げに動く中、超低金利政策を続ける日銀の特異さが目立ち、円売りの材料となっているのです。

9月22日には政府・日銀が24年ぶりに円買い・ドル売りの為替介入を行ない、1ドル=145円89銭まで円安が進んでいたものが。 140円67銭まで5円も円高になりました。しかし。大きな円安の流れは変わっていません。

この記事では、円安が日本経済や株価に与える影響について解説します。

※2022年9月30日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。

目次

  1. 円安=株高ではなくなっている
  2. 円安倒産が増える
  3. 輸出企業にとって円安はプラス
  4. 円の実質実効為替レートは51年前の水準に
  5. まとめ

1.円安=株高ではなくなっている

円売りの理由は米国との金利差です。本来、為替相場の変動要因は貿易収支や景気動向など多岐にわたります。また、米国の物価高など、ドル安・円高になる要因もあります。しかし、最近では、金利差に着目したトレードが市場を賑わせているのです。

2008年のリーマンショック以降、日本株とドル円はほぼ連動して動き、2012年からのアベノミクス相場では、円安と株高が同時に進行しました。

この両者の連動性が崩れ始めたのが2020年です。2020年3月のコロナショックの急落後に株価は反転上昇しましたが、外国為替市場では円高・ドル安が進行したのです。2022年になって、連動性は完全に崩れました。8月末以降、日本株は下落基調、円安は一直線に進み、かつての「円安・株高」の関係は「円安・株安」に逆転しています。

円安にもかかわらず日本株が買われない理由の1つとしては、日本企業の業績の為替感応度が低下していることです。2011年に1ドル=80円を切る超円高に直面した日本の製造業は、海外での現地生産や部品の現地調達をすすめ、輸出に依存していた経営方針を転換。為替感応度を意識的に下げてきたのです。

2.円安倒産が増える

東京商工リサーチが2022年9月1日に発表した調査「8月に円安関連倒産が5件発生、累計7件、2021年の年間6件を上回る」によると、8月の円安関連倒産は5件で今年最多(前年同月1件)であったことがわかりました。これにより、2022年1月~8月の累計は7件となり、2021年(1月~12月)の年間累計6件を上回っています。

円安によって輸入材などの調達費用がかさみ、収益性が悪化したことで倒産の憂き目に合う企業が出てきているのです。

3.輸出企業にとって円安はプラス

ただ、2022年度(2023年3月期)期初の想定為替レートは、上場している主要メーカー122社のほぼ半数(58社)が1ドル=120円であることがわかりました。平均為替レートは1ドル=119.1円で、前年度より13.6円の円安となり、調査を開始した2011年3月期以降で最も低い水準となりました(参照:東京商工リサーチ「「想定為替レート」 平均は調査開始以来、最安値の1ドル=119.1円  ~上場主要メーカー 2023年3月期決算「想定為替レート」調査~」)。

企業は、為替レートによって業績が大きく左右されることを望んでいません。そこで、企業は、為替予約によって為替リスクをヘッジしたり、現地生産比率を高めたりと、為替変動の影響を軽減するためにさまざまな工夫をしているのです。

ただ、輸出比率の高いメーカーにとって、米ドルに対する円安は為替差益などの面で有利です。トヨタ自動車の2022年3月期決算では、為替変動の影響(プラス6,100億円)を営業利益の増加要因の一つとして挙げており、売上原価の増加分3,600億円を吸収しています。

これに加え、2022年度決算では、とくに海外に事業展開するグローバル企業において、円安による為替差益が収益を押し上げています。

一方、内需型産業では、円安の加速により輸入物価が上昇し、原材料の値上げなどコスト面でマイナスの影響を受けています。また、輸出の割合が多い製造業でも、価格競争が激しく販売価格へのコスト転嫁が難しい業種では、仕入コストだけが上昇し、円安のメリットを享受できないケースもあるのです。

4.円の実質実効為替レートは51年前の水準に

世界の主要通貨に対する通貨としての円の総合的な強さを表す「実質実効為替レート」は、51年前の水準まで低下しています。

BIS(国際決済銀行)の発表によると、7月の実質実効為替レートは58.7となりました。これは、1973年2月に変動相場制に移行する前の1971年8月以来、約51年ぶりの低水準となったのです(参照:日本経済新聞「円の実力50年ぶり低さ 実質実効値、円安進み購買力低下」)。

実質実効為替レートは、ドル、ユーロ、円、人民元など主要国・地域の通貨を比較し、貿易量や物価水準などを加味して総合的に通貨の強さを算出する指標です。円の実質実効為替レートは、急激な円高が進行した1995年4月に150.84円の高値をつけ、その後、長引くデフレの影響などにより低下が続いています。

実質的な円の実力は、ピーク時の半分以下まで低下しているのです。

まとめ

現在は、「米国のインフレによる円安」の状態にあります。インフレ対策を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)が急ピッチで金利を引き上げているのに対し、日本では日銀がゼロ金利政策を維持しています。そのため、日米の金利差が広がり、円が売られているのです。

円安で日本株が下がるのは、米国経済の低迷によって企業収益が悪化する可能性もあるからです。インフレによる実質所得の減少で米国の消費が冷え込めば、円安によって円ベースでの海外収益の押し上げ効果が吹き飛んでしまいます。

つまり、円安にもかかわらず日本株が下落する原因は米国経済にもあり、米国株の下落が日本株の下落につながっているのです。米国のインフレによる金利上昇は続いており、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げが続いている間は円安が進み、日本株の上値が重い状況は続く可能性が高いと考えています。

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山下耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011