2024年11月に実施されるアメリカ大統領選挙に向けて、候補者選びが始まりました。民主党は、現職のバイデン大統領が党内の支持を集めており、最有力候補です。一方共和党は、トランプ前大統領が他の候補者を一歩リードしており、候補者に選ばれる可能性が高まっており、バイデン大統領とトランプ前大統領の一騎打ちとなる可能性が高まっています。
本稿では投資のプロである筆者が、アメリカ大統領選で注目される銘柄を解説します。
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目次
- バイデン政権の経済政策
1-1.CHIPSプラス法
1-2.インフレ抑制法(IRA) - トランプ氏の経済政策
2-1.関税の引き上げ
2-2.パリ協定からの再度離脱
2-3.移民規制の強化 - 大統領選で注目の4銘柄
3-1.マイクロン・テクノロジー(MU)
3-2.キャタピラー(CAT)
3-3.USスチール(X)
3-4.デボン・エナジー(DVN) - まとめ
1.バイデン政権の経済政策
バイデン政権の経済政策としては、CHIPSプラス法やインフレ抑制法による経済政策が挙げられます。バイデン大統領が再選すると、現状の経済政策が維持されるでしょう。
1-1.CHIPSプラス法
CHIPSプラス法とは、米国内の半導体産業を振興するため、米国内で半導体関連投資を行う企業に対しての資金支援プログラムであり、半導体エコシステムの再構築が目的です。法律が整備された2022年8月から5年間で、半導体分野に527億ドル(約7兆円)が拠出されます。
参照:ジェトロ「始動したCHIPSプログラム、サプライチェーンに与える影響は(米国)」
1-2.インフレ抑制法(IRA)
インフレ抑制法(IRA)は、物価の上昇を抑制するとともに、エネルギーの安全保障や気候変動対策の推進を目的とした法律です。
インフレ抑制法の気候変動対策として、歳出全体の8割にあたる約3,910億ドルが充てられました。これにより、2030年までに温室効果ガスの排出量を40%削減するとしています。
参照:アメリカ穀物協会「米国インフレ抑制法」
2.トランプ氏の経済政策
トランプ前大統領の経済政策は米国第一主義のため、大統領に返り咲いた場合には、経済政策が転換されるでしょう。具体的には、電気自動車やクリーンエネルギーに対する優遇措置の排除、気候変動対策関連の補助金の抑制や、米国内での石油・天然ガスの掘削拡大などが予想されます。
トランプ氏の言動から予想される経済政策やマイナス面を見ていきましょう。
参照:野村総合研究所(NRI)「世界の金融市場が警戒する「トランプノミクス2.0」」
2-1.関税の引き上げ
トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、国内産業保護の観点から、輸入品に10%の関税をかけることを検討しています。中国からの輸入に対しての税率は60%を超える可能性があります。
関税の引き上げは、世界経済の失速につながるほか、米国内での物価上昇の要因となります。
2-2.パリ協定からの再度離脱
トランプ氏は大統領の時に、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」から離脱しました。理由としては、温暖化対策は巨額の支出を迫られ、特に製造業でのコストがかさむことで、雇用喪失が予想されたためです。
世界で気候変動に関する問題が深刻化する一方、世界第二位の温室効果ガス排出国であるアメリカがパリ協定から離脱すると、気候問題がより深刻化する可能性が高まるでしょう。
2-3.移民規制の強化
移民規制の強化も予想されています。移民規制が強化されると、人件費の高騰を招き、インフレ率の上昇を導く可能性があります。
3.大統領選で注目の4銘柄
バイデン大統領が続投する場合には、経済政策への変化は予想されないため、半導体関連やインフラ関連企業が注目され、トランプ氏が大統領に返り咲く場合には石油発掘関連や日本製鉄が買収を予定しているUSスチールなどが注目される可能性があります。
3-1.マイクロン・テクノロジー(MU)
マイクロン・テクノロジーは、メモリーおよびストレージシステムを提供しています。メモリー半導体(DRAM)の売上高は、世界第3位です。AI用GPUに使うHBM(High Bandwidth Memory)や最先端DRAMの需要も伸びています。
米国は、国内半導体産業を育成しており、これまでも業界に対して小規模な金融支援をしてきました。ウォールストリート・ジャーナルによると、バイデン政権は、半導体メーカー向けに数十億ドル規模の補助金支給を発表するとしています。
参照:ウォールストリート・ジャーナル「米、半導体業界への補助金を発表へ 数十億ドル規模」
今回の支援は大型規模で、マイクロン・テクノロジーやテキサス・インスツルメンツなどが補助金を受ける可能性があります。
企業業績は好転しており、2024年8月期3四半期には黒字転換することが予想されています。なお、製品需要の高まりからインドや日本での工場建設を予定しています。株価は80.96ドルです。
3-2.キャタピラー(CAT)
キャタピラーは重機で世界一のメーカーです。バイデン大統領は、2021年に1兆2,000億ドル規模のインフラ投資法案に署名し、高速道路や道路、橋、公共交通、旅客鉄道の整備を進めています。
参照:BBC「バイデン米大統領、1兆2000億ドル規模のインフラ投資法案に署名・成立」
2023年通期の売上高は671億ドル(前年比13%増)でした。この期の決算では、営業利益率が19.3%と、前期の13.3%から大幅に上昇しました。会長兼CEOであるジム・アンプレビー氏は「キャタピラー98年の歴史の中で、最高の年」と述べるほどの好業績でした。
株価は321.91ドル、予想PERは15.2倍、配当利回りは1.61%です。
参照:Caterpillar「Caterpillar Reports Fourth-Quarter And Full-Year 2023 Results」
3-3.USスチール(X)
USスチールは、日本製鉄に2兆円で買収されることで合意しています。この買収は、鉄鋼取引業者や自動車業界の顧客、そして同社従業員までも歓迎していると伝えられています。
買収価格はUSスチール1株当たり55.00ドルと、買収が発表された2023年12月15日の終値39ドルに対し約40%のプレミアムが加えられています。
トランプ前大統領は、この合併に対して否定的で、大統領に返り咲いた際には阻止すると公言しました。同社の株価は、合併発表以来上昇傾向にあり、現在45ドル前後で推移しています。合併が解消されると株価は発表以前の水準まで下落する可能性があります。
3-4.デボン・エナジー(DVN)
デボン・エナジーは、主に石油・天然ガス、天然ガス液を探査・開発・生産するエネルギー企業で、北米における最大の独立系石油・天然ガス会社の一つです。
同社はシェールガス生産を拡大するために、2023年から2025年にかけて100億ドルの投資を発表しました。トランプ前大統領が当選すると、注目されそうな銘柄の一つです。
参照:Shell「Shell to deliver more value with less emissions」
株価は43.46ドル、予想PERが7.58倍、配当回りが6.65%です。
4.まとめ
米国では、11月に大統領選を控えています。現職のバイデン大統領が選ばれると、経済政策は維持されるため、半導体関連やインフラ関連企業が注目されるでしょう。
一方トランプ氏が返り咲いた場合には、経済政策が一転し、パリ協定からの再離脱や、電気自動車やクリーンエネルギーに対する優遇措置の廃止、気候変動対策関連の補助金の抑制や、米国内での石油・天然ガスの掘削拡大などが予想されるため、関連企業の株価が注目されることになる可能性があります。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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