2023年10月現在、トルコの株式指数の年初来騰落率は、50.41%*と大きく上昇しています。特に、エルドアン大統領が再選した6月上旬以来、急伸しています。
*騰落率は2023年1月1日~2023年10月13日
株高の背景として、トルコのインフレ率が政策金利を下回っているため、行き場を失った資金が株式市場に流れていることが挙げられます。トルコ中央銀行が引き締め政策を取るなかでの株高であり、投資のプロである筆者としては、継続的な株価の上昇は厳しいと考えています。
一方で、利上げに伴いインフレ率が落ち着けば長年トルコを悩ませてきたリラ安が止まり、リラが反騰する可能性もあります。リラが反騰すれば、円貨換算の株価が上昇する可能性を秘めています。
今回は、トルコ株に投資する際のメリット・デメリットなどについて解説します。
※本記事は2023年10月27日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- トルコ・リラと金融政策
- 貿易面
- 資本市場動向
3-1.通貨
3-2.債券
3-3.株式 - トルコ株投資のメリット
4-1.通貨高期待
4-2.株高期待 - トルコ株投資のリスク
5-1.トリプル安のリスク
5-2.エルドアン大統領のリスク - 日本からトルコ株に投資するには
- まとめ
1.トルコ・リラと金融政策
トルコの消費者物価指数は、2023年9月時点で61.5%です。一方で2023年10月現在、政策金利は35.0%であり、インフレ率を25%以上下回っています。
金利が物価水準を大きく下回っているということは、貨幣の価値が減価することを意味しています。インフレになると、現金や預金の保有は実質的な資産の棄損に繋がるため、リラは下落傾向にあります。
2023年5月のエルドアン大統領再選後、中央銀行は政策金利を8.5%から段階的に引き上げられ10月26日時点では35%となり、インフレ率との差は縮小しています。
2.貿易面
トルコは、鉱物性燃料を輸入に頼っています。2022年は鉱物性燃料高に加えて、リラが下落したため、鉱物性燃料の輸入額は前年比92.5%に増加しました。その結果、輸入額が3,637.1億ドル(前年比34.0%増)と、輸出額2,541.7億ドルを大きく上回り、貿易赤字は1,095.3億ドル(2021年4623億ドル)に上りました。
参照:ジェトロ「2022年のトルコの輸出は前年比12.9%増も、貿易赤字は倍増(ロシア、トルコ)」」
3.資本市場動向
3-1.通貨
通貨リラは長期にわたって下落傾向にあります。2000年には170円程度だったリラ円は2023年10月26日時点で5.3円です。この23年間で約98.6%下落しています。
2023年は、年初来の下落率は円に対し約32%でしたが、2023年6月の利上げ以降の下落率は約5.6%となり、落ち着いてきました。
3-2.債券
トルコの消費者物価が61.5%(9月)に対し、国債金利は2年債が27%と、インフレ率を大幅に下回っています。2023年10月現在の政策金利である35%が基準金利となるため、利回りが抑えられています。
トルコ国債やリラ建て預金金利の利回りや利率が他国よりも高いと言って投資したとしても、トルコのインフレ率がそれよりも高いため、実質的にはリラ建ての資産は減ってしまうことになります。
3-3.株式
株式のメリットとしては、インフレに強いということが挙げられます。2023年10月現在、トルコの政策金利がインフレ率を大幅に下回っているなか、行き場を失った資金が株式市場に流れ、株式指数は堅調に推移しています。
4.トルコ株投資のメリット
ここでは長期投資を前提としたトルコ株投資のメリットを考えてみましょう。
4-1.通貨高期待
エルドアン大統領は、金利引き下げによりインフレ率を低下させるという持論を持ち、インフレ率が上昇しているにもかかわらず、利下げを中央銀行に強要してきました。その結果、リラは下落傾向にあります。
2023年5月のエルドアン大統領再任後に金融政策が転換され、政策金利は8.5%から徐々に引き上げられ2023年10月現在は35%です。インフレ率とのかい離から、リラは弱含んで推移しているものの、金融引き締めによりインフレを落ち着かせることができればリラの反転が期待できそうです。
4-2.株高期待
トルコは平均年齢が若くかつ経済成長が見込まれるため、株高が期待できそうです。
人口は8,477万人(世界保健統計2023年版)で、ドイツを上回る規模です。トルコの総人口における年齢の中央値は33.1歳(2022年)、とヨーロッパ周辺国と比較し若年層の比率が高い傾向があります。
2022年の実質GDP成長率は前年比5.5%(IMF統計)と、ドイツの同1.8%や日本の同1.05%を大きく上回る伸びとなっています。今後も経済成長が見込まれるなか一人当たり家計収入が1,847.72ドル(2022年)と低いため経済成長が期待できます。
参照:CEIC「1人当たりの家計収入」
5.トルコ株投資のリスク
トルコ株に投資した場合のリスクを見ていきましょう。
5-1.トリプル安のリスク
インフレが落ち着き、通貨が反転しなければ、財政赤字が拡大します。財政赤字の拡大に伴う国の破綻リスクが高まるため、トルコの資本市場はトリプル安(株安、通貨安、債券価格安)に追い込まれてしまう可能性があります。
5-2.エルドアンリスク
エルドアン大統領は再選後の経済政策として、利上げに踏み入りました。それまでは、インフレや物価高騰の要因を高金利とし、政策金利の引き下げを続けていました。
一度は利上げに踏み切ったものの、再びインフレ率を無視した利下げ政策に転じる可能性もあります。その場合、通貨が下落し、トルコ経済を苦しめることになりそうです。
6.日本からトルコ株に投資するには
日本からトルコ株への直接投資ができないため、米国預託証券(ADR)か投資信託が投資する手段となります。
投資信託としては、SOMPOアセットマネジメントが運用する、トルコ株式オープンが挙げられます。トルコ株式オープンは、成長セクターのほか、成熟度の高いセクターで地位を確立した企業、商品性・サービス・販売網で優位性のある企業、バランスシートが健全で株価が割安な企業に投資しています。
為替ヘッジはありません。2023年9月29日時点での純資産総額が50.74億円であり、40銘柄に投資しています。ファンドの騰落率は過去1年で77.64%、過去3年で178.53%、過去5年では126.73%(基準日2023年9月29日)です。
7.まとめ
エルドアン大統領が金融政策を転換し、正常化させたことで、トルコのインフレ低下が期待できます。その結果、下落傾向にあるトルコ・リラが反騰する可能性もあります。長期的な目線でトルコ・リラの反騰に期待する場合には、トルコ株への投資が良いと思われます。
日本からトルコ株に直接投資できないため投資する方法として、ADR銘柄と投資信託が挙げられます。トルコ株はリスクが高いため、リスクを抑えるためにも投資信託を利用した分散投資を検討してみてはいかがでしょうか。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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