スタグフレーションによる株価への影響は?日米市場と世界経済の動向も

※ このページには広告・PRが含まれています

世界中で原油をはじめ商品価格の上昇が続いています。日本では原油高によるエネルギー価格上昇に加え、食品や家電などの値上げが始まっています。賃金が伸びないなか、さまざまな商品やサービス価格の上昇は、家計を直撃します。また、給与所得が伸びないまま物価が上昇すると、スタグフレーションを招く危険があります。

そこで今回は過去のスタグフレーションを分析し、スタグフレーションによる株価への影響を解説します。

※2022年4月9日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。

目次

  1. スタグフレーションとは
  2. 第1次オイルショックと日米株式市場
    2-1.米国
    2-2.日本
  3. 消費者物価と金融政策
    3-1.米国
    3-2.日本
  4. 世界経済の動向
  5. 株価とスタグフレーション
  6. まとめ

1 スタグフレーションとは

スタグフレーションとは、持続的な物価上昇(インフレーション)と景気の停滞(スタグネーション)が同時に起こる状況のことです。一般的には、景気が減速するとインフレ率が低下します。しかし、不況においても原油価格の高騰などを背景とした原材料価格の上昇で、物価が上昇することがあります。これをコストプッシュインフレと言います。

スタグフレーションに陥ると、景気の低迷で賃金が上がらないにもかかわらず、物価が上昇するため、実質的な賃下げとなり経済が悪化します。

2 第1次オイルショックと日米株式市場

ここでは、1973年の第1次オイルショック後に日米ともにスタグフレーションに陥った当時の日米株式市場について見てみましょう。

2-1 米国

1970年代の米国は双子の赤字(財政赤字と貿易赤字)に苦しめられていました。背景には、1971年のニクソンショック(ドルと金の交換停止)でドルが下落し輸入物価が上昇したことに加え、第1次オイルショックにより原油価格が急騰したことがあります。

1972年12月に前年比3.4%だった消費者物価指数(CPI)は、1974年12月には同12.3%に上昇しました。この期間の原油価格は1バレル=2.89ドルから10.93ドルに上昇、ダウ平均株価は約1,000ドルから約600ドルに下落し、GDP成長率は年率プラス6.8%からマイナス2.1%とマイナスに転化しました。

FRB(連邦準備制度理事会)は、インフレ率の上昇を機に1972年末に5.5%だった政策金利を1973年8月には11%にまで引き上げました。

株式市場は、物価上昇と経済成長の鈍化により下落。このことから、スタグフレーションは株式市場にはマイナス材料と言えます。

米国の経済指標と原油価格、株価指数

年月 CPI(%) 原油価格(ドル) GDP成長率(%) ダウ平均株価(ドル)
1972年12月 3.4 2.89 6.8 1,020.02
1973年12月 8.7 3.42 3.8 850.86
1974年12月 12.3 10.93 -2.1 616.24

2-2 日本

株式市場は、物価上昇と経済成長の鈍化により下落。スタグフレーションは日本の株式市場にもマイナス材料です。

1973年2月にドル円相場が変動相場に移行して以降、円高が急速に進んだため、しばらくの間、日本経済は円高不況に苦しめられていました。景気が落ち込むなか、原油価格の上昇が重なったため、日本経済はスタグフレーションに陥りました。

こうした状況下で株式市場は低迷し、日経平均株価がスタグフレーション以前の水準を回復したのが1977年8月と、株価回復まで長い時間が必要でした。

インフレ率の上昇を機に日本銀行は、1972年末に4.25%だった公定歩合(政策金利)を1973年12月には9%にまで引き上げインフレを抑制しようと試みました。

日本の経済指標と原油価格、株価指数

年月 CPI(%) 原油価格(ドル) 輸入物価指数 日経平均株価(円)
1972年12月 5.7 2.89 45.4 5,207.94
1973年12月 18.3 3.42 61.4 4,306.80
1974年12月 21.0 10.93 94.9 3,836.93

3 消費者物価と金融政策

1970年代の事例を見てきましたが、日米ともに中央銀行がインフレを鎮静化させるために政策金利を引き上げました。

現在、米国ではすでに利上げが始まっています。一方、日本では消費者物指数は低水準で推移しているため、日本銀行は金融政策を変更する状況にはありません。しかし、今回の物価上昇に伴い日本銀行の金融政策が注目されます。

3-1 米国

米国では、コロナ禍で上昇した物価を抑えるために利上げが開始されました。

新型コロナ感染拡大以前の2019年末時点では消費者物価指数が前年比2.3%上昇でした。その後、新型コロナ感染拡大により、中央銀行が経済を下支えするため量的緩和政策を実施。消費者物価指数(CPI)は、コロナ禍の2020年5月には前年比0.1%上昇でしたが、2021年12月には同7.0%上昇し、2022年2月には同7.9%上昇と高い伸びとなりました。

CPI上昇を受け、FRBは金融政策を緩和政策から引締め政策に転換。2022年3月に政策金利を0.25%引き上げ0.5%としました。市場では、2022年末までに7回の利上げが予想されています。

失業率がコロナ以前の水準まで下落(改善)していることもあり、インフレ率が低下に向かわないようであれば、1回の利上げ幅が0.25%→0.50%に拡大される可能性もあります。足元で米国の経済は好調なため、現時点ではスタグフレーションの心配はなさそうです。

3-2 日本

日本銀行はインフレターゲット政策をとっており、「物価が安定的に2%ずつ上昇するまではマイナス金利政策を続ける」と宣言しています。2022年2月のCPIは前年比0.9%上昇と、物価安定目標までほど遠い水準です。

一方、企業物価指数(CGPI)は原油や原材料価格の上昇を背景に、2021年3月から上昇に転じ、2022年2月には同9.3%上昇と高い伸びを記録しています。賃金が上がらない状況下で製造コストの上昇を製品価格に転嫁しづらいこともあり、CPIは低く抑えられています。

しかし、足元では円安加速も相まって製品・サービスへの価格転嫁が始まっています。トイレットペーパーやティッシュペーパーなど家庭用紙製品は10%以上値上げするなど、値上げ幅が大きい例もみられます。4月以降も生活必需品、食料品等の値上げが実施されているため、消費者物価指数の上昇率が高まる可能性があります。

一方で、賃金の大幅増は期待できる状況にありません。東京商工リサーチの調査(2022年度「賃上げに関するアンケート」)によると、2022年に賃上げ実施予定企業は7割を超えるものの、実施企業の73.1%は賃上げ率3%未満にとどまっています。

このように、製品価格の上昇率が賃上げ率を上回っているため、可処分所得の増加は期待できず、日本経済はスタグフレーションに陥るリスクがないとは言えない状況です。こうした状況下で、日銀が金融政策転換に迫られる可能性もあります。

4 世界経済の動向

原油など資源高の影響により、世界では資源の産出国と資源輸入依存度が高い消費国との間で格差が広がっています。

資源高は、資源産出国である中東諸国やカナダ、ブラジル、オーストラリアなどの経済にプラスに働く一方、資源の海外依存度が高い日本や韓国ではコスト上昇が景気を圧迫しています。

株式市場も同様、資源国の株式指数は堅調ですが、資源の輸入依存度が高い国の株価は軟調に推移しています。資源国は豊かに、資源の輸入国の景気は悪化傾向にあります。

5 株価とスタグフレーション

スタグフレーションは、株式市場にとってマイナス材料です。株価は企業業績が良いと上昇し、悪化すると下落します。

スタグフレーションに陥ると、負の経済連鎖がおきてしまいます。物価上昇により実質所得が低下すると、消費者の購買力が鈍化し、モノ・サービスが売れなくなってしまうため、企業業績が悪化し株価の下落につながります。企業業績悪化は賃金低下、消費鈍化につながり、さらなる企業業績悪化をもたらすというスパイラルに陥ることになります。企業業績の回復には実質個人所得の上昇が必要です。

日本経済は、4月現在スタグフレーションに陥っていないものの、海外投資家はその可能性が強いとみているため、日本株の下落を警戒しています。

まとめ

1970年代のスタグフレーション時には日本株は下落、回復まで時間を要しました。

足元では、米国で金融引締めが始まったため、米国金利が上昇し、それにともないドルが買われています。日本では、円安進行と原油高が相まって輸入物価が急上昇しています。日本の個人所得が伸びないなか、スタグフレーションが起きる可能性があり、株価下落リスクが高まっています。

The following two tabs change content below.

藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。