2018年上半期(1月~6月)、ソーシャルレンディング業界では数多くの大きな変化がありました。順調に市場が拡大する一方で、これまで顕在化していなかった事業者による数々の問題も起こってきています。
そこで今回は、2018年1月から2018年6月までにソーシャルレンディング業界ではどのような出来事があったのか、それぞれのニュースをまとめてみました。ぜひ投資を始める際の参考にしてみて下さい。
目次
- ソーシャルレンディングの市場規模が順調に拡大
- ソーシャルレンディング会社への行政処分が相次ぐ
- ソーシャルレンディングの融資先情報開示へ
- グリーンインフラレンディングの案件停止問題
- 2018年下半期のソーシャルレンディング業界はどうなるのか
- まとめ
1 ソーシャルレンディングの市場規模が順調に拡大
まず注目したいのは、ソーシャルレンディング業界の市場規模は大変順調に推移している点です。
ソーシャルレンディング情報サイト「クラウドポート」の調査によれば、2017年1月から12月のソーシャルレンディング業界の市場規模は1,316億円(※1)。そして2017年4月から2018年3月までの2017年度のソーシャルレンディング案件にかかる募集金額は総額1,581億円(※2)に達しました。
※参考記事1 HEDGE GUIDE「クラウドポート「2017年ソーシャルレンディング業界レポート」公表、市場規模1,300億円突破」(2018年2月5日付け)
※参考記事2 HEDGE GUIDE「日本のソーシャルレンディング市場規模が1500億円突破、クラウドポート調査」(2018年5月8日付け)
クラウドポートの調査によると、2016年度の市場規模が533億円程度であったことからすれば、その市場規模は2.5倍以上に拡大。2015年度から2016年度の成長も310億円から533億円であったことを考えると、毎年倍々に市場規模が急拡大、急成長していることになります。
ソーシャルレンディング投資がテレビや雑誌で取り上げられる機会も増え、どのソーシャルレンディング会社も順調に会員数を増やしています。
2 ソーシャルレンディング会社への行政処分が相次ぐ
一方で、市場規模の拡大という良い面だけではなく、ソーシャルレンディング会社に対して金融庁から行政処分が下されたことも話題となっています。
2017年にはみんなのクレジット、そしてクラウドバンクの2社に対する行政処分がありました。そして2018年2月には、ラッキーバンクに対して行政処分が下されました。(※3)
※参考3 関東財務局「ラッキーバンク・インベストメント株式会社に対する行政処分について」(2018年3月2日付け)
2-1 ラッキーバンクへの行政処分
2018年2月、投資家から150億円以上の募集実績を持つソーシャルレンディング会社の一つ、ラッキーバンクに対して金融庁から行政処分が下されました。その主な内容は以下のようになっています。
- 担保とする不動産の価値が自社基準による査定で行われていた
- 融資先がほぼ一社、X社という会社に限られている
- その融資先の会社に融資するための書類の改ざんを行っていた
- X社はラッキーバンク田中翔平社長の親族が経営する会社であり、田中社長がX社の会議にも頻繁に出席していた
これらの点が問題視されましたが、事業停止処分には至りませんでした。しかし2月20日以降ラッキーバンクは案件の募集を停止しており、投資家に対する償還や分配金の振込も5月以降はほぼストップしています。
一方で6月末にラッキーバンクから金融庁に対して事業に関する改善の報告を行ったという旨がウェブサイト上に掲載されました。(※4)
※参考4 ラッキーバンク・インベストメント株式会社「業務改善命令に対する再発防止策等について」(2018年6月29日付け)
まだ案件の募集は再開されておらず、投資家への償還もわずかしか行われていない状況ですが、ラッキーバンクでは事業を見直し、再度ソーシャルレンディング案件の募集を再開したいとしています。
2-2 2017年に行政処分を受けたみんなのクレジットの対応
また2017年に処分を受けたみんなのクレジットですが、投資家への返済が滞っていた30億円超の金額がサービサーにわずか1億円弱で譲渡されました。その結果、投資家には投資資金の3%程度しか返済が行われませんでした。(※5)
※参考5 みんなのクレジット「投資家の皆様へ、大切なお知らせ」(2018年2月23日)
みんなのクレジットの行政処分に関する内容の中には、投資家から集めたお金をみんなのクレジット白石社長が個人的な用途に流用していた、また担保内容に虚偽があった、さらには複数の会社への融資に見せかけてグループ会社への融資を行っていたという点が理由として取り上げられていました。
みんなのクレジットも行政処分後は案件の募集を再開できず、現在はほぼ業務停止状態に陥っています。
ソーシャルレンディングのリスクの一つとして、案件の貸し倒れが発生した際にどれほど担保を処分して資金が回収できるかという点があります。みんなのクレジットに関しては不動産担保があると謳っていたにも関わらず、担保が未公開株式で事実とは全く異なっていたもの、担保自体が全く用意されていなかったものもありました。
結局は債権をサービサーに譲渡するしかなく、1億円弱しか返済されなかった投資家達にとっては望まない結果になってしまいました。この結末に対し、投資家達がみんなのクレジット白石元社長を訴訟するという動きも見られ、決着はまだまだつかないようです。
3 ソーシャルレンディングの融資先情報開示へ
6月17日、日本経済新聞が、金融庁がソーシャルレンディングにおいてこれまで匿名だった融資事業者の開示をできるようにする、と報じました。(※6)
※参考6 日本経済新聞「ファンド型のネット小口資金、融資先を開示」(2018年6月17日付け)
2018年6月15日に閣議決定された「規制改革実施計画」においても、ソーシャルレンディングに関して下記のような記載があり、今後は情報開示に向けて議論や検討が進んでいくものと考えられます。
融資型クラウドファンディング(貸付型クラウドファンディング、P2Pレンディング、ソーシャルレンディングとも呼ばれる。)に関して、借り手の匿名化・複数化が必須ではないことを前提として、提供される金融サービスの果たす機能に即し、融資型クラウドファンディングのプラットフォームを運営する事業者、投資家、登録行政庁などの関係者の意見も聴取しつつ、金融商品取引法(昭和23 年法律第25号)上の投資家保護と貸金業法(昭和58年法律第32号)上の借り手保護を図る観点を踏まえ、投資家に個別の貸金業登録を不要とするため従来の考慮の一要素とされてきた匿名化・複数化と並存する運用上の新たな方策を、借り手の属性なども含めて検討する。
この背景としては、みんなのクレジットやラッキーバンクの行政処分の内容に共通している「融資先が複数の会社であるかのように見せかけながら、事実上は一社のみ融資を行っていた」という点が問題視されたのではないかとみられます。
今後、融資先の事業者名の開示が可能になった場合、ソーシャルレンディング各社の方針によって融資先の名前を明らかにする、もしくは匿名のままにするといった選択が行われることになると考えられます。投資家の安全を守るという意味では、融資先の名前を明らかにすることは大変大きな意味があり、投資家側でも開示を望む人が多くなることが予測されます。
一方で融資を受ける側としては、自分たちの名前を明らかにしたくないという会社があってもおかしくありません。ソーシャルレンディング各社の情報開示の方針が、問われるところです。
4 グリーンインフラレンディングの案件停止問題
maneoマーケット経由で投資家から資金の募集を行っていたグリーンインフラレンディングが、6月上旬に急遽案件の募集を停止しました。(※7)こちらも現在進行形で大きな問題となっています。
※参考記事7 HEDGE GUIDE「ソーシャルレンディング、不適切運用の疑いで資金の流れの調査続く」(2018年7月1日付け)
maneoマーケットに対して行政処分の勧告
この問題は、NHKや朝日新聞、日本経済新聞といった大手メディアでも連日報道され、2018年7月6日には証券取引等監視委員会から、「取得勧誘を行ったファンドのウェブサイト上の資金使途の表示と実際の資金使途が同一となっているかについて確認せず、事実と異なる表示のまま取得勧誘を継続している」とのことで行政処分の勧告が出されました。
証券取引等監視委員会「maneoマーケット株式会社に対する検査結果に基づく勧告について」(2018年7月6日付け)
状況としては、maneoマーケットがグリーンインフラレンディングの募集を停止。そしてグリーンインフラレンディングは7月の投資家への分配金と償還金を用意したが、maneoマーケットの方でその資金がどこから集めたのかを確認するために一旦、返済や分配を停止。さらにmaneoマーケットはグリーンインフラレンディングと協力して、これらの問題を調査中であるという発表が行われている段階です。(※8)
※参考8 maneoマーケット株式会社「「グリーンインフラレンディング」における償還及び分配の実施留保のお知らせ(続報2)」(2018年7月11日付け)
日本のソーシャルレンディング業界の先駆者であり、事業規模も国内最大手と言えるmaneoマーケットに対する行政処分の勧告が下されたことは投資家心理にも大きく影響しています。
今後のソーシャルレンディング業界の先行きを占う上で、2018年は正念場となることも考えられます。
5 2018年下半期のソーシャルレンディング業界はどうなるのか
それでは2018年7月以降のソーシャルレンディング業界がどうなるのかを考えてみましょう。
5-1 maneoマーケットに対する行政処分の行末とその影響について
下半期で注目されるのは、maneoマーケットに対する行政処分が下るかどうかという点や、行政処分が行われる場合は、その処分の内容となるでしょう。
過去の事例を振り返ると、証券取引等監視委員会から行政処分の勧告がなされてから、実際に行政処分が下されるまでに1週間~2週間程度となっています。
会社名 | 行政処分の勧告があった日 | 行政処分の発表日 | 行政処分の内容 |
---|---|---|---|
株式会社みんなのクレジット | 2017年3月24日 | 2017年3月30日 | 業務停止命令および業務改善命令 |
日本クラウド証券株式会社 | 2017年6月2日 | 2017年6月9日 | 業務改善命令 |
ラッキーバンク・インベストメント株式会社 | 2018年2月20日 | 2018年3月2日 | 業務改善命令 |
maneoマーケットは、これまでソーシャルレンディング業界を牽引してきた存在であるだけに、今回の行政処分の勧告に関する動向には注意を払っておきたいポイントです。
5-2 融資先情報の開示の動向と各社の対応について
2018年下半期のソーシャルレンディング業界を占う上で、今後注目しなければいけないのは、年内に融資先の情報開示が可能になるかどうかという点と、ソーシャルレンディング会社が融資先の事業者名を開示するかどうかという点です。
現状、金融庁はあくまで「融資先の名前を明らかにすることを可能にする」ことを検討しているのであって、「融資先の明示を義務づける」というものではないと考えられるため、情報の開示をするかどうかはソーシャルレンディング各社の判断に委ねられる可能性が高いと考えられます。
投資家として、融資先を知りたいという人も多いでしょう。しかし融資を受ける側の都合を考えれば、ソーシャルレンディング各社はそれぞれの案件別に、融資先の名前を公開する・しないという選択を取る可能性もあります。
またそれ例外の可能性としては、全案件で融資先を公開する、もしくはこれまでと変わらず公開しないという3パターンに分かれてくるものと考えられます。
いずれにせよ、投資家としてはこれまで以上に慎重な姿勢で、融資先は返済能力が高い企業か、その会社のこれまでの実績はどうか、また案件の貸出金利から収益性が妥当かつ返済が可能かといった部分まで見ていくことが重要です。
5-3 返済遅延・貸し倒れの発生や各社の対応について
上記以外のトピックの中で、特に注目されるのは返済遅延や貸し倒れの発生とそれに伴う各社の対応です。
ソーシャルレンディングが投資である以上、利益が100%発生することはありません。一般的な金融機関でも、融資を行う場合には、すべての案件で完済されることを見込んではいません。貸し倒れが一定の確率で発生するという想定の中で、最終的に利益を出すにはどうしたらいいかという視点で、融資金利を設定しているのです。
これまでは5%~10%というソーシャルレンディングの利回りの高さに対して、返済遅延や貸し倒れが発生する件数は非常に少なかったのですが、今後もその傾向が続くとは限りません。
ソーシャルレンディング投資を行う上でも、「これまで貸し倒れがほぼなかったから、これからも貸し倒れは起きないはず」と考えるのではなく、貸し倒れがある程度起こることを前提とした上で、貸し倒れが起きた際に損失を最小限に抑えられるように備えておくことが必要です。
ソーシャルレンディングでは、投資期間中に何か起こることを前提として備えることが大切ですので、投資する会社を複数社に分散する、一社の中でも複数案件に分散する、不動産担保がついている案件を中心に投資する、などを意識してリスクを分散・軽減していくことが大切です。
6 まとめ
ソーシャルレンディング業界は、2017年から2018年にわたって行政処分を受ける会社が相次ぎ、ある意味では転換期に差し掛かっていると言えるでしょう。
ソーシャルレンディングは新しい領域ということもあり、今後も様々な出来事が起こると考えられます。つねに最新の情報にキャッチアップしながら、投資先や投資タイミングを見極めていきましょう。
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