ロシアのウクライナ侵攻に対する金融制裁として、国際的な金融決済ネットワーク「SWIFT」からロシアの主要銀行を排除することが決まりました。今回のSWIFT排除にはどのような目的があるのか、そして世界経済や日本株にどのような影響があるのかについて解説します。
※2022年3月6日時点(日本時間)の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
1.SWIFTとは
SWIFT(国際銀行間通信協会)は、世界中の銀行が加盟する国際金融ネットワークです。国境をまたぐ送金や決済が行われており、毎日数兆ドルが行き交っています。2020年の年次報告では、SWIFTのプラットフォーム上で毎日約3,800万件の送金メッセージがやり取りされました。そして、年間では何兆ドルもの資金が送金されているのです。
ロシアも天然ガスや原油、金属の取引決済にSWIFTを活用しています。ですから、ロシアがSWIFTから排除されると、経済に大きなダメージとなります。大手行を中心に最大で約300のロシアの銀行が、海外での資金決済から締め出されるからです。
ロシアの金融機関は、相当の為替取引をしていますが、約8割を米ドルが占めています。SWIFTは1日あたり全世界で4,200万件の送金情報を扱っていますが、ロシアの金融機関は2020年時点で1.5%を占めています。これらの取引が、事実上できなくなるのです。
そして、ロシアと結びつきの強い欧州も打撃を受ける可能性があり、株安やエネルギーの高騰、物流の混乱など世界経済を揺らす恐れもあります。ロシアのSWIFT排除は、ウクライナ侵攻前からバイデン政権が主張していましたが、ロシアから天然ガスを輸入する欧州では反対論が強く、実現しませんでした。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻によって、これまでSWIFT排除に慎重だった欧州勢も本格的に検討するようになったのです。
ロシアは2014年のクリミア侵攻時に経済制裁を受けたので、SWIFTに代わる独自のネットワーク「SPFS」を立ち上げました。ただ、利用はほとんどロシア国内だけで、SWIFTの代わりになるものではありません。
2.SWIFT排除はルーブル急落が狙い
今回の制裁はロシア中銀の資産を麻痺させ、その取引を凍結させることです。そして通貨防衛の能力を奪い、ルーブルを急落させることが狙いです。ロシア中銀はGDP(国内総生産)の約4割に相当する6,306億ドルの外貨準備を持っていますが、制裁によりドルが引き出せなくなって為替介入が困難になるのです。
ロシアの銀行界全体への影響も大きくなります。欧州や日本の銀行はズベルバンクなど大手の銀行と米ドルを使った取引を行ってきましたが、制裁対象外のロシアの下位銀行に取引を移すことは簡単ではありません。下位の銀行と取引するには、国際規制によって自己資本を増やさなければいけないからです。
そして、2月28日(日本時間)の東京外国為替市場ではロシアの通貨であるルーブルが急落し、1米ドル=110ルーブル台と過去最安値圏で推移。前の週からの下落率は3割に達しました。ロシアの主要銀行を国際決済網から除外する経済政策を欧米が強め、ルーブルを保有している人が米ドルなど外貨に変える動きを急いでいるからです。
3.ロシア中銀は政策金利を2倍に
ロシア中央銀行は、2月28日(現地時間)に政策金利を9.5%から20%に引き上げると発表(参照:日本経済新聞「ロシア、金利2倍の20%に上げ ルーブル急落で防衛」。SWIFT排除によって通貨ルーブルが急落し、過去最安値を更新。通貨安によるインフレ加速を抑えるため、緊急利上げに踏み切ったのです。
ロシアの政策金利が20%台になるのは2003年以来19年ぶり。アルゼンチンの42.5%に次ぐ高さで、トルコの14%を上回る水準となりました。
チェチェン紛争が激化した1990年代に、ロシアの政策金利は210%まで上昇。その後20%まで下がる時もありましたが、1998年に財政赤字が膨らみ150%まで引き上げました。そして、通貨、株価、債券がそろって下落するトリプル安に見舞われ、1998年には「ルーブル危機」が起きたのです。
1999年にインフレ率は85%まで上昇しましたが、2000年以降にプーチン氏が大統領に就任してインフレの抑制に成功していました。しかし、SWIFT排除によってロシアのインフレ懸念が高まっています。プーチン大統領はインフレに対する警戒を強めており、中央銀行の協力を求めていたのです。
4.世界経済に与える影響
SWIFT排除は、ロシアへの制裁の効果を高めますが、ガスなどを輸入する買い手にも痛手になります。ガスの決済ができなければ輸出入が止まり、資源価格の高騰が一段と進むからです。
特にイタリアとドイツの天然ガスのロシア依存度は5割前後と高くなっています。また、ロシアは製造業製品の大口購入国で、オランダとドイツはロシアにとって2番目と3番目の貿易相手国です。米国はロシアのSWIFT排除に対してためらいが無いように見えますが、ドイツなど欧州諸国にとっては厳しい経済状況になりそうです。
また、原油価格も大幅に上昇しています。国際指標である北海ブレント先物は、2月28日に1バレル105ドル台まで上昇。2014年8月以来の高値水準105.79ドルに近づきました。米WTI原油先物も1バレル99ドル台になっています。SWIFTによる経済制裁で、世界有数の産油国であるロシアからの供給不安が高まったからです。
まとめ
ロシアのSWIFT排除による現地の日本企業への送金は影響が限られそうです。三菱UFJ銀行などメガバンクはロシアに現地法人を持っており、ロシアの銀行を利用しないでもグループ内で取引できるので、ロシアのSWIFT排除によって送金ができなくなるということはないからです。
ただ、ロシアは小麦や原油などの世界的な輸出国で、SWIFT排除による経済制裁により今後輸出が滞り、市場価格が上昇する可能性が高まっています。日本でもインフレ懸念が高まれば、私たちの生活に大きな影響を及ぼし個人消費が低下、株式市場にも悪影響を与える恐れがあるので注意が必要です。
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山下耕太郎
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