投資信託の運用について、様々な手法が存在しますが、その中の一つにクオンツを用いた運用手法があります。近年では、テクノロジーの進歩によりヘッジファンドを中心としてクオンツ運用を採用するファンドマネージャーが増え、預かり資産が急拡大しています。近年はツーシグマなどが代表的なクオンツ系ヘッジファンドとして台頭しています。
リーマンショック以前は、クオンツ運用について懐疑的な見方はあったものの、現在ではその有効性や重要性について疑問を投げかける投資家は減少しています。
今回はクオンツ運用の概要の紹介や、日本の個人投資家が投資できるクオンツファンドについて紹介します。
1.クオンツ運用の概要
クオンツ運用とは、人間の判断が入らない数理・統計的なアプローチを用いてプログラムを構築し、一定のルールに従って運用することをクオンツ運用といいます。一方で、人間の勘や経験により独自の裁量によって運用することはジャッジメンタル運用と呼ばれます。
クオンツファンドは、ファンダメンタル分析を使用する伝統的なファンドとは異なり、定量分析を用いてポートフォリオの構築を行ない、時に個々のクオンツ戦略は秘匿性からブラックボックス化されていることがよくあります。
日本の運用会社でクオンツ運用を採用する会社は少ないですが、グローバルでは、ここ10年で伝統的なジャッジメンタル運用に代わってクオンツ運用を採用する運用会社が急激に増え、クオンツ系ヘッジファンド会社の「ブリッジウォーター」や「ツーシグマ」が、ヘッジファンドの中でも世界有数の預かり資産を保有するようになりました。
預かり資産が急増している要因として複数ありますが、ビックデータの活用と広範な市場データが迅速に入手できるようになった影響が大きく、テクノロジーやオートメーションの発展、及びイノベーションによるクオンツファンドの成長は目覚ましいものがあります。
クオンツ運用は、独自のモデルを使用することでマーケットに勝利する確率を上げることができますが、一方で、簡素で分かりやすいことを目的としているファンドのために公開されているプログラムも存在します。
2.クオンツ投資プロセスについて
クオンツファンドは、パッシブファンドとアクティブファンドの両方の特徴を持ち合わせているファンドです。パッシブファンド・アクティブファンドは、投資のタイミングをファンドマネージャーが決定しています。
一方でクオンツファンドは、事前に設定されたプログラムによって投資タイミングが決定されます。代表的なクオンツ投資プロセスは、主に以下のようになります。
1.過去の経済指標・市場データの解析 | 各国のGDPや金利、株価などの経済指標・市場データに基づいて、現在のマーケット状況を分析 |
2.各銘柄のカテゴリー付け | 対象の投資ユニバースにおける銘柄をバリューやクオリティ、モーメンタム、グロースなどのカテゴリーに分類 |
3.最適ポートフォリオの構築 | 機械学習のアルゴリズムなどを駆使し、今後アウトパフォームするファクターの組み合わせを特定 |
4.市場の方向性の決定 | 別の機械学習プログラムを使用して、最適ポートフォリオの今後の方向性(上昇もしくは下落)の決定 |
5.最適ポートフォリオの投資判断(買い・売り・ヘッジ) | 1-4を踏まえて、クオンツモデルが最適ポートフォリオの買い推奨・売り推奨を決定 |
上記のプロセスにおいて、広範な多様なデータや情報が格納されているデータベースを用いて、人口知能などの技術を駆使し、クオンツファンドはベンチマーク対比でアルファが出るようにファンドの運用を行ないます。
3.クオンツ運用が使われている投資信託
日本における公募投資信託は6,000本弱ありますが、クオンツ運用を採用している投資信託は限られたものとなります。
クオンツ運用を採用しているファンドの代表的なものとして、生命保険会社提供の変額保険商品の運用商品として使用されているマルチアセット戦略(私募投資信託)がありますが、今回は、個人投資家が投資できる公募投資信託の中から2つのクオンツ系ファンドを紹介します。
- 日興クオンツ・アクティブ・ジャパン
- テトラ・エクイティ
それぞれの投資信託について詳しく見ていきましょう。
3-1.日興クオンツ・アクティブ・ジャパン
日興クオンツ・アクティブ・ジャパンは、日本株を対象としたクオンツファンドで、日興アセットマネジメントが運用しています。主要の投資対象は東京証券取引所第一部上場株式を、コンピューターを用いた統計的手法により銘柄を選定するクオンツ運用を行なうことで、中長期的にベンチマーク(TOPIX)を上回る収益の確保を目的としています。
「潜在株価成長率」「ミスプライシング」「業績予想修正」という3つのアプローチから算出された魅力度(期待超過リターン)を合成し、銘柄を分散させながら投資することにより、安定的な超過リターンの獲得を目指しています。
基本的にロングオンリー(株式の買いポジションのみを構築)のファンドであり、ベンチマークに対しするアルファをクオンツ運用によって獲得するものの、ある程度株式市場のパフォーマンスに連動するため、日本株式に対して強気なビューを持っている投資家に向いている商品となります。
3-2.テトラ・エクイティ
テトラ・エクイティは、米国株式を対象としたクオンツ系ファンドで、三井住友DSアセットマネジメントが運用しています。JPモルガンが運用する外国籍ファンドに投資をしており、実質的にはJPモルガンが提供するクオンツファンドに投資しているファンドオブファンズ(※)の投資信託となっています。
※ファンドオブファンズ…複数の投資信託を投資対象としている投資信託
イントラデイ(場中)で発生するトレンドと月初・月中・月末を捕捉し、トレンドに応じて対象株式先物をロング・ショートする戦略であり、2008年金融危機や2020年コロナショック時のように株式市場が一方向に向かっていくときに高リターンを記録した商品となっています。
基本的にはマーケットがクラッシュしたときに上昇することが期待される商品であり、今後想定されていない暴騰や暴落(テールリスクイベント)が発生するという見方を持っている投資家が購入するファンドとなります。
一方で、株式市場が緩やかに上昇していく場合は場中でトレンドが観測されないことが多いため、そのような市場の見方を持っている投資家には不向きな投資信託となります。
4.まとめ
クオンツファンドはマーケットから発せられるシグナルを捉えて機械的にポジションを構築し、コストを抑えて俊敏に市場のアノマリーを捉える戦略となっています。近年の預かり資産の急増に伴い、マーケットに及ぼす影響も非常に大きくなってきております。
現在は、ヘッジファンドが中心的に活用している一つの運用スタイルではありますが、日本においてもテクノロジーが進歩し、クオンツの技術が日本の運用会社にも導入されつつあると筆者は感じています。そのような中で、今後の市場の動きを正確に捉えるためにも、クオンツ系ファンドの動きに注視してみてください。
HEDGE GUIDE 編集部 投資信託チーム
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