企業や事業に対する融資を小口化して、個人が少額で投資できるようファンド形式にしたものが融資型クラウドファンディングです。同商品は企業から支払われる金利支払いが収益源となるため、長期金利の上昇は同ファンドの動向にさまざまな影響を及ぼします。
その影響には投資家にとってネガティブなものも、ポジティブなものもあります。金利以外の状況も踏まえて、融資型クラウドファンディングにどのような影響が想定されるか見極めながら投資判断を行う必要があります。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 融資型クラウドファンディングの仕組み
- 長期金利の上昇による融資型クラウドファンディングの5つの影響
2-1.ポイント①:高い金利のファンドが組成されやすくなる
2-2.ポイント②:融資型クラウドファンディングの需要が減少する
2-3.ポイント③:融資型クラウドファンディングの組成の抑制要因に
2-4.ポイント④:貸倒れリスクが上昇する
2-5.ポイント⑤:「実質ベース」の魅力が低下する - 長期金利の上昇が融資型クラウドファンディングにもたらす影響の整理
3-1.高金利のファンド組成が進むのは主に景気拡大期
3-2.需要減少はファンドの金利上昇が出遅れると起こる
3-3.ファンド組成の抑制は景気後退期に起こる
3-4.貸倒れリスクの上昇も景気後退期に増える可能性
3-5.「実質ベース」の魅力低下はインフレが加速する局面で起こる - まとめ
1 融資型クラウドファンディングの仕組み
融資型クラウドファンディングと金利の関係性を考えるうえでは、まず融資型クラウドファンディングの仕組みを簡単におさえておく必要があります。
融資型クラウドファンディングとは、クラウドファンディング事業者が特定の企業に融資をおこなう目的で、ファンドを組成して投資家から資金を集める仕組みです。
ファンドにもよりますが、1口1万円~10万円程度で投資ができるファンドが多くみられます。投資家から集めた資金は事業者を通じて、融資に充てられます。融資を受けた企業は、定期的に利息を返済しますが、この利息が投資家へ支払われる分配金の原資となります。
ファンドはあらかじめ満期日が決められていて、満期日には企業から事業者に融資金が返済されます。(一部定期的に返済を進めていくファンドや、利息・元本を全て満期日に一括返済するタイプなどもあります)
貸倒れが起きない限りは、投資元本の価格変動リスクなどがなく、定期的に受け取る分配金が投資家の収益となります。
融資型クラウドファンディングは投資期間中の価格変動を心配する必要がないにもかかわらず、預金や国債などより高い利回りが得られる傾向にあるのがメリットです。一方で、充分な銀行融資を受けられない中小企業や新興企業など、相対的に貸倒れリスクの高い相手に融資をおこなうファンドも含まれているという点には留意しなければなりません。
2 長期金利の上昇による融資型クラウドファンディングの5つの影響
長期金利の上昇は融資型クラウドファンディングにさまざまな影響を及ぼす可能性があります。投資家にとってポジティブな変化とネガティブな変化が共に起きうるため、投資家はどの要因による環境変化が大きいかを見極めながら投資判断をしていくことが重要になります。
2-1 ポイント①:高い金利のファンドが組成されやすくなる
長期金利が上昇すると融資型クラウドファンディングの利回りには上昇圧力がかかりやすくなります。これは投資家にとってはメリットと言えるでしょう。
長期金利が上昇するということは、銀行の融資における金利も上昇しやすくなります。これは住宅ローンなど個人向けの貸付だけでなく、企業向けの貸付でも同様です。銀行の金利が高くなれば、銀行から多額の融資を受けるのを躊躇して、他の資金調達手法を模索する企業が増えることになります。
銀行借り入れを始め、他の資金調達にかかるコストが上昇すれば、融資型クラウドファンディングについてもこれまでより高い金利を受け入れて資金調達を実行する企業が増えると考えられます。そのため。クラウドファンディング事業者は、従来より高い金利を設定してファンド組成をおこなえるようになるのです。
2-2 ポイント②:融資型クラウドファンディングの需要が減少する
長期金利の上昇が急速な場合などには、融資型クラウドファンディングの需要が減少する可能性があります。国債や社債、もしくはそれらに投資する投資信託など、長期金利の影響を受けて金利が上昇する投資商品は多数存在します。
このとき、融資型クラウドファンディングも金利が上がらなければ、これらの商品と比較したときの相対的な収益性は低下する可能性があります。
仮に長期金利の上昇ペースが早く、金利の高い融資型クラウドファンディングの組成がなかなか進まない場合は、多くの投資家が融資型クラウドファンディング以外の投資商品を好むようになります。
需要の減少は、ファンド組成自体の減少にもつながる可能性があります。一方で、ファンドが短時間で売り切れる事例が減少し、投資家は投資先を選びやすくなるでしょう。
需要が加熱する時期にはファンドの投資口が数分も立たないうちに完売する案件も散見されますが、そのような極端なケースが減少し、融資型クラウドファンディング投資がしやすくなるでしょう。
2-3 ポイント③:融資型クラウドファンディングの組成の抑制要因に
長期金利の上昇や融資型クラウドファンディングの組成額にとっては抑制要因の一つとなります。ここには二つの背景が考えられます。
一つはファンドを通じて資金調達を行う企業サイドの事情です。長期金利が上がるということは、全体的な資金調達コストが高くなることを意味します。そうすると、一部の企業は投資やビジネス規模の抑制により資金調達を減らして、利払いなどのコストを抑制しようと考えるようになります。結果として融資型クラウドファンディングを通じた資金調達ニーズが少なくなり、ファンド組成も減少する可能性があるのです。
また、投資家側の需要減退が組成を抑制する要因となる可能性もあります。融資型クラウドファンディングの投資家需要が減ると、ファンドを組成しても組成に必要な金額が集まらない恐れがあります。需要が見込めなければファンド組成は活発に行われなくなるため、やはりファンド組成が抑制されます。
2-4 ポイント④:貸倒れリスクが上昇する
金利上昇によりファンドから借りる資金の返済コストが高くなれば、ビジネスが立ち行かなくなり、貸倒れや元利金支払いの遅延などが発生するリスクは高くなります。
ファンドから資金を借りた企業は、その資金を原資にビジネスを展開しています。ビジネスからしっかりと収益が上がることで、その一部が利息支払いや返済に充てられているのです。返済コストが高くなれば、企業収支が圧迫され、さらに状況が悪くなると元利金の支払い遅延や貸倒れに至るのです。
最近は不動産事業に融資する案件も多くみられますが、その場合ファンドの利息・元本返済の原資は主に不動産から得られる賃料収入です。個人の不動産投資と考え方は同じで、返済コストが高ければそれだけ不動産事業の収支を維持するのが難しくなります。こうしたタイプのファンドも、金利上昇が貸倒れリスクの上昇につながる可能性があるのです。
2-5 ポイント⑤:「実質ベース」の魅力が低下する
金利上昇が継続し、さらにインフレが同時に進行している場合には、融資型クラウドファンディングの金利が高く見えても、投資期間全体で見ると魅力が低下するケースも考えられます。
インフレは物価が上昇する現象のことを言います。例えば、1年間のインフレ率が10%の場合、今1万円で購入できる商品は、来年には1万1千円支払わなければ買えなくなります。同額で購入できる商品の種類や量が減るため「現金の価値が減退した」と考えることもできます。
インフレが加速する局面では、毎月のように物価が上昇する場合もあります。最近でも2022年上半期までのアメリカなどでは、毎月のように物価が上昇する現象がみられました。
融資型クラウドファンディングの商品のほとんどは、一定期間同じ利率の金利が適用されます。もし投資開始時点からインフレが加速したとしても、支払われる金利は変わらないため、投資しているうちに「買える商品の種類や量」でみた時の実質的な魅力が低下する可能性があるのです。
例えば、金利5%で1年間運用する融資型クラウドファンディングがあったとします。投資開始時点のインフレ率が2%だったとすれば、その時点では一定の魅力があるように見えます。
しかし、このファンドの運用開始後にインフレ率が10%まで急進してしまったら、ファンド投資を通じて受け取る収益よりも、物価の上昇ペースの方が早くなります。その結果、満期を迎えるころには実質的な資産額は減少してしまうでしょう。
3 長期金利の上昇が融資型クラウドファンディングにもたらす影響の整理
長期金利の上昇は融資型クラウドファンディングにさまざまな影響をもたらすため、その変化が投資家にとってポジティブ・ネガティブどちらになるかは一様に決まるものではありません。
そこで、どのような状況・背景において、ここまで紹介した5つの変化が発生しやすくなるかを簡単にまとめました。
3-1 高金利のファンド組成が進むのは主に景気拡大期
高い金利を払ってでも企業が資金調達をしようとするのは、それだけビジネスにおいて高収益が期待できるからです。
金利上昇と景気拡大が同時に発生しているときには、企業は高い金利を払ってでも融資型クラウドファンディングを通じて資金調達し、ビジネスを積極的に展開しようとします。つまり、金利上昇と景気拡大が同時進行しているときは、高い金利のファンドが増える可能性があります。
3-2 需要減少はファンドの金利上昇が出遅れると起こる
市場の金利と比較して、融資型クラウドファンディングの金利上昇があまり進まない時には、融資型クラウドファンディングの投資需要が減少する可能性があります。
融資型クラウドファンディングは資金調達ニーズのある企業をクラウドファンディング事業者が見つけて、その後金利水準を設定するための調整・交渉などを行うために、長期金利の上昇がすぐに融資型クラウドファンディングの利率に反映されるとは限りません。
高金利の融資型クラウドファンディングが組成される前に世の中の国債や社債、投資信託などの利回りが上昇すれば、融資型クラウドファンディングの需要が減退するでしょう。
3-3 ファンド組成の抑制は景気後退期に起こる
金利が上昇しているのに景気は頭打ち、もしくは景気後退に突入しようとしている場合、企業は高い資金調達コストに見合うだけの収益性が期待できるビジネスを実行するのが難しくなります。このような時には、融資型クラウドファンディングを通じた資金調達ニーズが減少し、ファンド組成も減る可能性があります。
3-4 貸倒れリスクの上昇も景気後退期に増える可能性
こちらも景気後退局面で金利上昇が進む場合に想定される影響です。景気後退局面では、ファンドを運用している間にビジネス環境が悪化して、企業が当初期待通りの業績を上げられず、ファンドの利払いや元本返済が滞ってしまう可能性が高まります。
将来の景気後退リスクが高まっている局面で融資型クラウドファンディングへ投資する場合は、普段以上に投資先の事業や不動産などのリスクを確認し、満期返済の実行可能性が高いファンドへの投資を検討しましょう。
3-5 「実質ベース」の魅力低下はインフレが加速する局面で起こる
実質ベースの魅力低下は、金利上昇とインフレが同時進行しているときに起こります。固定金利のファンド組成後もインフレ率の上昇が続いてしまうと、当初魅力的に見えたファンドが実質ベースで見ると収益性のないものだった、という事態になることもあります。
インフレの状況を考える時は、絶対値だけではなくインフレ率が上昇傾向にあるのかどうかも確認しましょう。先進国の消費者物価指数など、主要なインフレに関する経済指標は毎月発表されるので、動向をチェックして変化の方向性を掴んでおくとよいでしょう。
4 まとめ
長期金利の上昇が融資型クラウドファンディングに与える影響には、投資家にとってポジティブなものもネガティブなものもあります。投資家にどのような影響を与えるかは金利以外の要因にも左右されるので、景気やインフレ動向なども同時にチェックしておくと良いでしょう。
上昇する金利やインフレリスク、貸倒れリスクに見合うだけの魅力的な金利を提供する融資型クラウドファンディングをうまく選び、自身の資産運用の投資対象の一つとしてうまく組み込んでいきましょう。
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伊藤 圭佑
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