割安株を判断する場合に、PBR(株価純資産倍率)が良く使われます。PBR1倍割れの株価は企業の解散価値を下回るとされ、株価は割安と判断されます。しかし、銘柄選択の際に注意する点があります。
本稿では投資のプロが、株価が割安でも投資に適さない条件と、割安でも注意したい日本株を解説します。是非参考にしてみてください。
※本記事は2023年12月28日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 株価が割安でも投資に適さない条件
1-1.衰退産業に属する企業
1-2.特需に沸いた企業
1-3.業態の変化に乗り遅れる企業 - 割安でも注意したい銘柄
2-1.ワールド(3612)
2-2.KNT-CTホールディングス(9726)
2-3.日本郵船(9101) - まとめ
1.株価が割安でも投資に適さない条件
株価が割安だからといって投資に適さない銘柄には、衰退産業や特需に沸いた企業があります。特徴を3つ確認しましょう。
1-1.衰退産業に属する企業
衰退産業のひとつに、学習塾などの教育関連企業が挙げられます。
日本では少子化が進んでおり、定員割れの大学等が増加傾向にあります。厚生労働省によると、2022年年間の出生数は77.74万人で、前年の81.16万人から約4.1万人減少し、統計上初めて出生数が80万人を下回りました。
参照:厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
今後も人口減少、少子化が進むと予想されており、学習塾や私立学校などは業界規模が縮小する可能性が高いと言えます。
アパレル業界も衰退産業のひとつと言えます。低価格を売りにするファストファッション業界が拡大しており、百貨店や大型商業施設などに出店しているアパレル企業の売上は減少傾向にあります。
日本百貨店協会の発表では、1991年に3.92兆円だった百貨店での衣料品売上高は2020年には1.1兆円にまで減少しています。一方で、流行を取り入れながら低価格で商品を提供するワークマンやユニクロといったファストファッション企業は、売上を伸ばしています。
参照:経済産業省「第1回百貨店研究会事務局説明資料(百貨店の現状と課題)」
このほか、テレビ業界や、新聞・テレビ広告業界も規模が縮小傾向にある業界に挙げることができます。インターネットの普及に伴い、「You Tube」や「Netflix」などの動画配信サービス市場が拡大しています。テレビを見るよりも、こうした動画配信サービスを利用して、映画や動画、さらにはテレビ局が配信するドラマやニュース情報番組も鑑賞する人が増えています。若者の間ではテレビを全く見ない人もいるほど、テレビ離れが進んでいます。
テレビ業界の衰退とともに、広告業界においても、従来のテレビ広告などからネット広告などへの移行が進んでいます。電通グループによると、2022年の日本の総広告費は前年比4.4%増の7.10兆円でした。インターネット広告が前年比14.3%増の3兆円台に乗せており、広告のデジタル化が進んでいます。
参照:電通「2022年 日本の広告費」
1-2.特需に沸いた企業
特需に沸いた業界に属する企業の株価にも、注意する必要があります。例えば、海運業界は、新型コロナの感染拡大でコンテナ船やタンカーの需要急増から、空前の利益を計上しました。
しかし、新型コロナの収束とともにバルチック海運指数(イギリスのバルチック海運取引所が算出するばら積船運賃の指数)は、2021年に付けた約5,500ポイントをピークに低下傾向にありました。足元では、ロシアによるウクライナ侵攻やパレスチナ問題など不安材料から、再びバルチック海運指数が上昇傾向にあるものの、これらが収まれば海運特需が終わり平静時の水準に可能性があります。
1-3.業態の変化に乗り遅れる企業
業態の変化に乗り遅れてしまう企業にも、注意が必要です。
具体例としては、旅行業界が挙げられます。昭和の時代は団体旅行が主体で、観光地は多くの団体客で溢れていました。しかし、旅行の形態はパッケージツアーから個人ツアーに移行しています。また、インターネットの普及により、OTA(オンライン旅行会社)の市場規模が拡大し過当競争がおきています。
2.割安でも注意したい銘柄
ここでは、割安でも注意したい銘柄を3つ解説します(データ基準日は全て2023年12月6日)。
2-1.ワールド(3612)
ワールドは、日本有数の大手アパレルメーカーで、衣料品、雑貨の企画、生産、及び販売を手掛けています。販売拠点としては、百貨店をはじめ、ショッピングセンター、駅ビル、ファッションビルを中心に展開しています。
2023年3月期(第65期)の売上高は2,142億円と前期比25.03%増、純利益が56.8億円と前期比2,376%%の大幅増でした。売上高や純利益は前期比で大きく上昇したものの、新型コロナの感染が拡大する以前の水準を回復するに至っていません。また、第65期の利益率は2.65%と新型コロナ感染が広まった2019年3月期(第61期)の3.68%から大きく低下しています。
参照:ワールド「2023年3月期(第65期)通期決算説明会」
日本では、人口減少や高齢化が進むなか、国内アパレル市場が成熟していること、消費者の需要がファストファッションブランドに流れていることから、既存のアパレル業界は縮小傾向にありそうです。
ワールドは、PBRが0.71倍、PERが9.64倍と、ファストファッションのファーストリテイリングのPBR6.18倍、PER36.31倍と比較し割安ですが、業界が縮小傾向にあるため、投資したとしても株価の大きな成長は期待できないでしょう。
2-2.KNT-CTホールディングス(9726)
KNT-CTホールディングスは、2013年に近畿日本ツーリスト株式会社とクラブツーリズム株式会社が経営統合して設立された持ち株会社です。
2023年3月(第86期)の売上高は2,521億円(前期比80.16%増)、純利益は前期のマイナスから117.9億円の黒字に転換しました。売上高は前期比では大きく成長したものの、新型コロナ感染拡大前の水準を大きく下回っています。
参照:KNT-CTホールディングス「決算短信」
国内旅行は、学生団体旅行が回復しているものの、一般団体旅行の取り扱い額が減少傾向にあります。海外企画旅行においても、円安が進んだ影響もあり、取扱い額は2018年度の水準を回復していません。
訪日旅行の取り扱い金額が伸びているものの、取扱額の11.3%(2023年9月取扱実績)と低い水準にとどまっており、全体を押し上げるに至っていません。
参照:KNT-CTホールディングス「2023年9月 取扱額実績 【KNT-CTホールディングス】」
観光庁によると、国内旅行に占めるパック・団体旅行の割合は、年々低下傾向にある一方、個人旅行が増加しています。2010年には22.4%だったパック・団体旅行は2020年には7.3%に低下し、個人旅行は同77.6%から92.7%に増加しました。
また、社員旅行はバブル期以降減少傾向が鮮明となっています。1994年には88.6%の企業が実施していた社員旅行ですが、2009年には51.6%まで縮小しました。
株価の水準は割安ではあるものの、市場規模が縮小する企業の株式に投資しても株価の成長は期待できないでしょう。
参照:観光庁「関連データ・資料集」
2-3.日本郵船(9101)
海運業界は、新型コロナウィルスの感染拡大による世界的な海運需要の急増による運賃高騰の恩恵を受け、過去最高益を更新しました。
新型コロナが騒がれ始めた2019年12月末時点のバルチック海運指数は、1,000ポイント前後でしたが、2022年10月には5,650ポイントの史上高値を付けました。その後は、下落に転じ2023年2月には600ポイントを割れ込みました。足元では中東情勢の緊迫したこともあり、2023年12月には3,000ポイントを回復しています。
第136期(2022年4月1日~2023年3月30日)の売上高は2.61兆円と、新型コロナ感染拡大以前の第132期(2018年4月1日~2019年3月30日)の43.01%増に成長しました。純利益は第132期のマイナスから1.01兆円に回復しました。
参照:日本郵船「業績ハイライト」
四半期ベースでみた売上高は、ピークが2023年3月期第2四半期の6,928億円で、その後は減少傾向にあります。2024年3月期第2四半期(2023年4月1日~2023年9月末)の売上高は6,008億円と、ピーク時より13%減少しました。純利益のピークは2023年第2四半期の3,626億円で、2024年第2四半期には398.8億円に低下しています。
参照:日本郵船「2023年3月期 第2四半期決算説明会」
参照:日本郵船「2023年度 第2四半期決算説明会」
利益は減少傾向にあるものの、株価は2023年9月に高値4,446円を付け、2023年12月現在も4,000円をはさんで推移しています。この水準は、新型コロナウィルス感染拡大前の2019年12月末比で約6倍に上昇しています。
2023年12月6日時点の株価は4,060円、PERが8.9倍、PBRが0.75倍、配当利回りは5.67%と割安感があります。一方、利益は縮小傾向にあるため、もう一段の株価上昇期待は持ちにくくなっており、この水準での投資には注意する必要がありそうです。
3.まとめ
株価の水準がPBR1倍を下回っていても、株価の上昇が期待できそうにない銘柄もあります。株価上昇期待が小さい銘柄としては、企業が属している業界全体が縮小傾向にある銘柄や、一時的なバブル発生により業績が押し上げられた銘柄などが挙げられます。
投資対象銘柄は、市場規模が拡大基調にある業界の中から銘柄を絞り込むようにしましょう。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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