2020年7月現在、日本には約6,000本の投資信託があります。膨大な投資信託の中から好みのファンドを探すのはかなり困難な作業となりますが、中でも判断尺度の一つとして馴染みやすいのが信託報酬の料率です。
今回は、投資信託を選ぶ際に注意しておきたい信託報酬の料率について、その傾向をカテゴリーごとに分析したいと思います。
目次
- 信託報酬とは
- ファンドの探し方
- カテゴリー別の平均信託報酬
3-1.インデックスファンド
3-2.アクティブファンド
3-3.その他ファンド集計 - まとめ
1.信託報酬とは
信託報酬とは運用会社等に対して「報酬」として支払う運用手数料のことで、投資信託保有期間中はずっと払い続けることになります。 毎日、投資信託の財産のなかから支払われています。
信託報酬がどのくらいなのかは、「投資信託説明書」で確認することができます。通常、年率で記載されていますが、実際には日割りされて、毎日1回、基準価額が計算されるときに費用として支払われています。
リターンは毎年不確定ですが、信託報酬は毎年決められた額が差し引かれます。一年では小さなことでも、長期間保有すれば手数料負担が重くのしかかってきてしまうことから、投資信託を選択する際の重要な一つの項目になります。
2.ファンドの探し方
上記の信託報酬から購入する投資信託を選ぶという方法は一般的ですが、全ての投資信託の中から比較検討するための手段は限られます。取扱金融機関を限定しないでファンドを検索する方法としては、例えば投資信託協会やモーニングスター社(投資信託の格付け評価等を行っている会社)等のホームページを使うと簡単に検索ができます。
投資信託協会のホームページは個人投資家が国内で購入できるファンドを網羅しており、モーニングスター社についてもほとんどのファンドを網羅しています。加えて、どちらも投資対象やリターン、リスクなどのかなり詳細な条件を指定できるため、信託報酬の額はもちろん、自分の投資アイディアに近い条件でファンドを相当程度絞り込むことが可能になると考えられます。
3.カテゴリー別の平均信託報酬
自分でファンドを検索する際に、何となくでも信託報酬のレベル感を持っていただくためにカテゴリー別の平均信託報酬を調べてみました(2020年6月、モーニングスター社の情報をもとにヘッジガイド編集部調査。下記表の数値は全てパーセンテージを表す)。
3-1.インデックスファンド
リターン(3年)上位10ファンド平均 | 信託報酬 | リターン(3年)平均 | 信託報酬低い上位10ファンド平均 | |
---|---|---|---|---|
国内株 | 5.59 | 0.35 | 3.28 | 0.16 |
国内債 | 0.53 | 0.24 | 0.31 | 0.19 |
国内リート | 2.72 | 0.42 | 2.69 | 0.31 |
先進国株(為替ヘッジなし) | 7.14 | 0.6 | 5.17 | 0.09 |
先進国株(為替ヘッジあり) | 5.12 | 0.59 | 4.92 | 0.52 |
新興国株 | -2.17 | 0.81 | -6.68 | 0.29 |
先進国債(為替ヘッジなし) | 2.75 | 0.4 | 2.74 | 0.24 |
先進国債(為替ヘッジあり) | 2.54 | 0.51 | 2.14 | 0.25 |
新興国債 | 0.09 | 0.58 | -1.15 | 0.56 |
海外リート | -2.6 | 0.54 | -3.21 | 0.36 |
バランス型 | 2.74 | 0.47 | 2.4 | 0.17 |
インデックスファンドには以下のような傾向が見られます。
- 新興国株ファンドは信託報酬が高い
- 国内債ファンドは信託報酬が低い
- 外国資産への投資は為替ヘッジの有無で信託報酬の差はないが、リターンについてはヘッジ“なし”の方が有利
- 海外リートのリターンがマイナスになっていることからすると、海外資産向けを選択する場合はよく吟味する必要がある
- 大きなリターンが欲しければ先進国株か国内株
- 安定したリターンを狙うなら先進国債
- 信託報酬が低いものから優先的に選ぶとするなら先進国株(ヘッジなし)
- バランス型は、リターンについては株のメリットが消えているが信託報酬が高め
3-2.アクティブファンド
リターン(3年)上位10ファンド平均 | 信託報酬 | リターン(3年)平均 | 信託報酬低い上位10ファンド平均 | |
---|---|---|---|---|
国内株 | 15.81 | 1.68 | 0.84 | 0.66 |
国内債 | 1.28 | 0.34 | 0.33 | 0.16 |
国内リート | 4.02 | 0.95 | 2.96 | 0.86 |
先進国株(為替ヘッジなし) | 16.72 | 1.82 | 1.45 | 0.47 |
先進国株(為替ヘッジあり) | 14.56 | 1.82 | 0.58 | 1.17 |
新興国株 | 9.92 | 1.9 | -3.64 | 0.95 |
先進国債(為替ヘッジなし) | 4.28 | 1.07 | 2.3 | 0.46 |
先進国債(為替ヘッジあり) | 2.69 | 0.82 | 1.25 | 0.4 |
新興国債 | 1.54 | 1.56 | -1.23 | 1.11 |
海外リート | 3.74 | 1.62 | -2.9 | 1.08 |
バランス型 | 6.28 | 1.22 | 3.43 | 0.17 |
アクティブファンドの傾向は以下の通りです。
- 信託報酬が低いものから選ぶとリターンが悪い
- アクティブの場合は、信託報酬とリターンの相関性はあまり見られない
- インデックスと比較して圧倒的に商品数が多く、信託報酬の分布もかなり幅広く設定されている
- 大きなリターン重視なら先進国株か国内株
- アクティブであれば国内債でも預金対比良好なリターンが得られる
- 新興国株や新興国債は、信託報酬が高い割にリターンは少ない。為替リスクがコントロールできていないと思われる
- 海外リートも信託報酬が高い割にリターンが低い
- 安定したリターンを重視するなら先進国債(為替ヘッジ“なし”)
- アクティブのバランス型は、株と債券の中間程度で上手くコントロールできている
- 最近人気があっただけに、バランス型の信託報酬が低い商品をかなり開発した模様
3-3.その他ファンド集計
全ファンド中、モーニングスター5星獲得ファンド
リターン(3年)上位10ファンド平均 | 信託報酬平均 | リターン(3年)平均 | 信託報酬低い上位10ファンド平均 | |
---|---|---|---|---|
5星獲得ファンド | 16.46 | 1.8 | 2.95 | 0.22 |
全ファンド中、リターントップ10ファンドの信託報酬平均
リターン平均 | 信託報酬平均 | |
---|---|---|
1年 | 51.29 | 1.41 |
3年 | 18.44 | 1.82 |
5年 | 17.64 | 1.8 |
10年 | 20.66 | 1.81 |
全ファンド中、純資産総額トップ10ファンドのリターンと信託報酬
リターン10年 | リターン5年 | リターン3年 | リターン1年 | 信託報酬平均 |
---|---|---|---|---|
9.52 | 5.06 | 5.88 | 4.13 | 1.61 |
まとめ
各投資信託の信託報酬を分析した結果、全体としては以下のようなことが言えます。
- 信託報酬が低いからと言ってリターンが高くなるわけではない
- 外国に投資をする際に為替ヘッジをつけると信託報酬は上がりリターンは下がる傾向
- アクティブの方が信託報酬は高め
- 海外資産が含まれている方が信託報酬は高め
- 5星獲得ファンドを見るとアクティブもインデックスも多数混ざっている
- 5星獲得ファンド、リターン、純資産総額と様々な観点から見た上位10ファンドを比較すると信託報酬は高め
ポイントは、信託報酬が低いからと言ってリターンは必ずしも良くならないということです。理論的には信託報酬は資産から引かれていきますので、低いに越したことはないのですが、結果を見ると、あまり信託報酬は気にしなくても良いように思えてしまいます。
ただし、注意しなければならないのは、今回はあくまでもリターンの上位10ファンドを選んで比較しているため、その他多くのファンドが苦戦しているという現実があるということにはご注意下さい。
昨今、投資信託の手数料が低下しています。販売手数料はゼロとなる商品が増えてきましたが、信託報酬にも引き下げ圧力がかかっています。また、信託報酬が高めのアクティブファンドの多く(60%~70%)が同じカテゴリーのインデックスファンドよりも成績が低迷していることから、信託報酬が低いインデックスファンド人気が高まっています。
上述のリターンの表からは、1年では爆発的なリターンを獲得しても、それを長期にわたって継続させるのは難しいことがわかります。ただ、既に実績があるファンドはどうしても基準価額が高く、購入できる口数が少なくなってしまうのが難点です。一方で、掘り出し物の若いファンドを探し出すのはなかなか難しいものです。
しかし、ファンド全体を比較してみると、長期にわたって人気がある、つまり過去色々なショックを生き抜いてきているファンドの多くがアクティブファンドであり、信託報酬も高めに設定されたものばかりであることを考えると、勝ち組アクティブファンドを探し出して投資をする価値も認められます。
信託報酬は投資信託を選ぶ際の重要な要素の一つですが、その高低だけにとらわれず、総合的な視点で良いファンドを見つけることが望ましいと言えます。
HEDGE GUIDE 編集部 投資信託チーム
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