日本のインバウンド復活期待銘柄は?プロが選ぶ5社の強みとリスク【2022年7月】

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2022年6月1日から水際対策が緩和され、1日当たりの入国者数の上限が1万人から2万人に引き上げられました。また、6月10日からは団体ツアー客など限定で観光目的の入国も認められ、徐々に外国人観光客の増加が見込まれます。

観光庁によると2019年の外国人旅行客(3,188万人)の消費額は約4.8兆円でした。しかし、新型コロナの影響で外国人旅行者数が2020年には411万人に激減。それに伴い、消費額は0.7兆円と、2019年と比較すると4兆円も減少してしまいました。

今後、外国人観光客の増加が見込まれることで、インバウンド消費の拡大が期待されます。なお、為替市場で円が下落していることも外国人観光客にはメリットです。そこで、今回はインバウンド関連銘柄5社の強みやリスクについて解説します。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※2022年6月29日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。

目次

  1. ドル高メリット
  2. コロナ前の消費動向
  3. インバウンド復活期待5銘柄
    3-1.三越伊勢丹HD(3099)
    3-2.ビックカメラ(3048)
    3-3.パン・パシフィック・インターナショナルHD(7532)
    3-4.東海旅客鉄道株式会社(9022)
    3-5.資生堂(4911)
  4. まとめ

1 ドル高メリット

ドル高はインバウンド消費を押し上げる要因です。

各国の物価を比較する指数の1つに、イギリスの経済専門誌であるエコノミストが考案したビックマック指数があります。2022年1月末時点のデータによると、ビッグマックの円換算価格(1ドル=115.23円)はアメリカが669円(5.81ドル)、ユーロ圏が571円(4.95ドル)、タイが443円(3.84ドル)、日本が390円(3.38ドル)でした。

その後、ドル高が進んだため日本のドル換算価格(1ドル=135円)は米国の49.5%に相当する2.88ドルに低下しています。

円安効果は高額商品ほど割引金額が大きくなるため、高額商品の動向が注目されます。

首都圏のマンション価格は毎年上昇しているものの、ドル高が進んだためドル換算では下落しています。3億円のマンションは、1月時点で260.3万ドル(1ドル=115.23円)でしたが、ドル円が135円台に上昇したため、執筆時点では222.2万ドル(1ドル=135円)と約15%下落しています。

2 コロナ前の消費動向

日本百貨店協会のインバウンド推進委員店(91店舗)の2019年12月(コロナ感染拡大前)の免税総売上高は、約299.2億円、一般物品売上高が約177.2億円、購買客数が約43.7万人で、一人当たりの購買単価が6.8万円でした。当時の人気商品は、1位化粧品、2位ハイエンドブランド、3位食品、4位婦人服飾雑貨、5位子供服・雑貨でした(参照:日本百貨店協会「2019年12月 免税売上高・来店動向【速報】」。

先日発表された2022年4月の資料によると、インバウンド推進委員店(88店舗)の免税総売上高は約66億円、一般物品売上高が約60億円、購買客数が約1.3万人で、一人当たりの購買単価が47.6万円でした。2019年12月のデータと比較すると、購買客数は減少したものの高額商品が好調で、購買単価が7倍の47.6万円に上昇しました。

なお、人気商品は1位化粧品、2位ハイエンドブランド、3位婦人服飾雑貨、4位食品、5位紳士服・雑貨です。人気商品の1位、2位は2019年12月と同様です。インバウンドの回復は化粧品関連やハイエンドブランドの売上増に繋がりそうです。

3 インバウンド復活期待5銘柄

ここではインバウンド消費により復活が期待される5銘柄を紹介します。

3-1 三越伊勢丹HD*(3099)

三越伊勢丹HDの2022年3月の通期業績では、百貨店業が営業損失63億円を計上し、2期連続の赤字でした。前期から239億円改善したものの新型コロナの影響で客足が遠のいたことが要因です。

しかし、新型コロナの終息に伴い国内消費は回復基調にあり、6月15日に発表された5月の売上高は首都圏を中心に売り上げが伸び、前年比160.3%(国内百貨店)でした。

一般社団法人百貨店協会によると、2022年4月のインバウンド需要は免税店売上高が約67億円と前年同月比47.61%増、購買客数は約1.3万人(同24.4%増)、一人当たりの購買単価は約47.6万円(同18.6%増)と回復基調が鮮明です。

三越伊勢丹も銀座や日本橋と外国人に人気のエリアに店舗を構えているため、外国人旅行者の増加に伴う売上増が期待できそうです。

リスクは、株価がすでに割高な水準なため下落する可能性があることです。株価がインバウンド消費の拡大期待からすでに新型コロナ感染拡大以前の水準を回復しています。

6月29日の株価(終値)は1,093円、予想PER(株価収益率)が28倍と、TOPIX(12倍)と比較すると株価に割高感があります。そのため、企業業績が市場予想以上に伸びなければ株価が下落する可能性もあります。

3-2 ビックカメラ(3048)

ビックカメラは家電量販チェーンの展開をしています。2022年6月7日に発表されたビックカメラ+コジマの売上高(5月)は、前年比93.5%でした。

ビックカメラは免税デスクを設置したり、購入希望商品の予約をオンライン上で可能にしたりするサービスなどの提供でインバウンド需要を取り込んできました。

日本政府観光局(JNTO)が発表した5月の訪日外客数は14.7万人と、2カ月連続で10万人を上回りました。政府は6月1日から入国者の規制緩和措置を実施し、10日からは、外国人旅行者について添乗員付きパッケージツアーの受け入れが再開されたため、インバウンド消費の増加が期待できます。

リスクは、株価がすでに割高な水準まで上昇しているため、業績が市場予想を下回ると株価が下落してしまう可能性があることです。予想PERは昨年末(2021年12月)が18倍程度でしたが、株価が上昇したため6月29日時点では21倍です。年初来の株価上昇率は23.15%と、TOPIXのマイナス4.9%を大きく上回っています。

3-3 パン・パシフィック・インターナショナルHD(7532)

パン・パシフィック・インターナショナルHDはドン・キホーテを展開しています。ドン・キホーテは外国人観光客に知名度が高く、人気のディスカウントストアです。訪日前に商品予約ができること、すべてのお店で免税手続きができること、外貨が使えること、外国語で対応可能なこと、夜遅くまで店舗が開いていることなど、外国人観光客にとって使いやすいことが人気のようです。

新型コロナ感染拡大時においても売上高は順調に伸びているため、外国人旅行者が増加することでさらなる成長が期待できそうです。

リスクは株価の下落です。株価は昨年末比34.7%(2022年6月29日時点)上昇しています。

3-4 東海旅客鉄道株式会社(9022)

東海旅客鉄道株式会社(JR東海)のメイン事業としては、東京、名古屋、大阪間を結ぶ新幹線の運営です。

新型コロナの感染拡大に伴い、旅行や出張などが控えられたため、2021年3月期決算では営業収益にマイナス約1兆円程度の影響が出ました。主因は運輸収入の約マイナス9,160億円です。

新型コロナが収束に向かっていることや、外国人旅行者の増加は、直接売上増に繋がります。株価の年初来上昇率は2.3%(2022年6月29日時点)、予想PERが16倍です。

主なリスクは、新型コロナやサル痘などへの感染などにより人の移動が止まってしまうと、株価が下落する可能性があることです。

3-5 資生堂(4911)

資生堂の魚谷社長は、6月からの外国人観光客の入国が段階的に再開され、入国時の免疫措置も緩和されることは、インバウンド需要の回復には大きいことだとコメントをしました。

2021年12月期の連結決算では、売上高が前期比12.4%増の1兆351億円でした。特に中国事業の売上高は同16.5%増の2,747億円と好調でした。

日本百貨店協会のインバウンド推進委員店が公表した、人気商品の1位は化粧品です。ドル高・円安効果も期待できるため、インバウンド需要に伴う売上増が期待できそうです。2021年度の中国事業の売上高はすでに2019年度(2,162億円)を上回る2,747億円と好調です。

6月29日時点の株価は5,479円、予想PERが58倍と割高感があります。業績が伴わないと株価が下落する可能性があることがリスクです。

まとめ

外国人観光客の受け入れが緩和され、東京などでは徐々に街中でも外国人旅行者の姿が見られるようになりました。円安が追い風となり、外国人旅行者にとって日本の製品は割安感があるため消費が期待できそうです。インバウンド消費が日本経済回復の呼び水となる可能性もあります。

今回インバウンド復活期待5銘柄を解説しましたが、投資にはリスクがつきものです。投資はご自身でよくリスクを精査し、慎重に判断してください。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。