株価は好業績の企業ほど上昇しやすいため、好業績企業を見つけて投資すると効率の良い資産運用ができる可能性が高まります。
今回は、日銀短観など経済統計と経済政策を分析し、好業績業界を絞り込むトップダウン・アプローチという方法を解説します。
※2022年8月8日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
- 業績好調・不調の業界を探す
1-1.日銀短観を活用する
1-2.貿易統計を利用する
1-3.経済金融政策を精査する - 岸田内閣の経済戦略
2-1.科学技術・イノベーション
2-2.デジタル田園都市構想による地方活性化
2-3.カーボンニュートラルの実現
2-4.経済安全保障 - まとめ
1 業績好調・不調の業界を探す
業績が好調な業界を探すには、日銀短観の業況判断や貿易統計などの経済データを活用したり、日本の経済政策に沿った業界の中から探したりする方法が考えられます。
1-1 日銀短観を活用する
日銀短観(全国企業短期経済観測調査)は、調査対象企業数が多く速報性も高いため、日本の景況を判断するうえで重要視されています。企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについての見方のほか、収益、設備投資額といった企業活動について回答しています。企業業績を占ううえでは特に、需給・在庫・価格判断、想定為替レート等を見ると良いでしょう。
業況判断DI(ディフュージョン・インデックス)は、回答数の集計に対し「良い割合」から「悪い割合」を差し引いた値で、プラスであれば景況は良い、マイナスならば景況は悪いと判断します。大企業、中堅企業、中小企業のそれぞれについて、製造業18業種、非製造業12業種が公表されています。
2022年7月に公表された6月調査結果をみると、大企業業況判断DI(最近)は、化学、石油・石炭製品、はん用機械、生産用機械、電気機械、不動産業、物品賃貸、卸売、情報サービス、対事業所サービスがプラス20を超えており、これらの業界は景況が良いとみることが可能です。
一方、宿泊・飲食サービスはマイナス31と大幅なマイナスとなり、新型コロナ感染拡大の影響もあって、この業界の景況は改善していないことがわかります。
事業計画の前提となっている2022年度下期のドル円想定為替レートは、1ドル=119.12円(全規模・全産業)です。この水準よりドル高であれば、輸出企業の業績アップに繋がる可能性があります。一方、原材料を輸入に頼っている企業にとっては、ネガティブ材料となります。
1-2 貿易統計を利用する
財務省が公表している貿易統計では、輸出入の増加品目が確認できます。輸出が伸びている業界は好業績が期待できるため、多くの投資家が注目しています。
貿易統計では、輸出入品目が食料品、原料品、鉱物性燃料、化学製品、原料別製品、一般機械、電気機器、輸送用機器、その他の9つに分けられ、品目別に金額や前年比伸率が確認できます。
輸出が伸びている品目に関連する企業は、業績が好調である可能性が高い一方、原材料を輸入している企業は、原材料価格の上昇が利益の圧迫材料となるため、コスト増による業績悪化の可能性が高いと言えそうです。
2022年6月速報では、輸出額は鉱物性燃料が前年同月比341.5%、鉄鋼が44.2%、半導体等電子部品が29.6%上昇しました。一方、輸入は原粗油の伸率が145.9%、鉄鋼が75.9%、石油製品が36.2%、石炭が305.0%、繊物用糸・繊維製品が34.0%、半導体等電子部品が71.9%上昇しました。原材料の高騰が輸入価格を押し上げています。
1-3 経済金融政策を精査する
業績好調の業界を探すには、国の経済金融政策を精査することも必要です。
岸田内閣の経済政策の柱は成長戦略と分配戦略、全ての人が生きがいを感じられる社会の実現です。これらの政策には国家予算がつけられたり、税制の優遇措置が設定されたりするため、そうした業界は活性化する傾向があります。
2 岸田内閣の経済戦略
ここでは、経済金融政策、特に現政権の経済政策についてみていきます(参考:首相官邸「#経済対策 記事一覧」)。
岸田内閣の経済政策に、成長と分配の好循環の実現を目指す新しい資本主義の実現があります。新しい資本主義の実現を目指すための成長戦略、分配戦略の2つの戦略と、全ての人が生きがいを感じられる社会の実現が骨格です。
特に重要視されるのは成長戦略で、関連する業界は国策により予算が割り当てられるため、業績が伸びる可能性が高いと言えそうです。
成長戦略は4本の柱から成り立っています。それぞれ見ていきましょう。
2-1 科学技術・イノベーション
科学技術によるイノベーションは、スタートアップ企業を支援する政策です。シリコンバレーのようなスタートアップ企業の拠点都市を形成し、付加価値が高い企業を育てる方針です。
2-2 デジタル田園都市構想による地方活性化
デジタル田園都市構想とは、デジタル技術の活用により地方を活性化することで、持続可能な経済社会を目指しています。
都市と地方の情報格差を縮めるため、インフラ整備をし、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する方針です。光ファイバーについては、2027年度末までに世帯カバー率99%を目指し、5Gについては2023年末に人口カバー率95%、全市区町村に5G基地局を整備し、2030年度末には99%を目指しています。
地方のデジタル化は一から構築されるため、多くの業界が携わることになります。また、デジタル化にともないハード、ソフト面で従来型のアナログ関連業界は淘汰されることとなるでしょう。自動配送サービス・自動運転、GIGAスクール、オンライン医療、スマート農業などが推進されると予想されます。
2-3 カーボンニュートラルの実現
政府は二酸化炭素排出量を2030年度に46%削減、2050年にはカーボンニュートラルの目標実現に向け取り組んでいます。
カーボンニュートラルを実現するためには、エネルギーの大転換が必要です。従来の化石燃料を原料とする火力発電から、洋上風力・太陽光・地熱、水素・燃料アンモニア、次世代熱エネルギー、原子力への転換が必要です。
電力インフラを根本から見直すこととなるため、莫大な費用が必要となります。安定的な電力供給のためには、複数の電力源を整備する必要があります。また、次世代型蓄電池の開発も欠かせません。
このほか、自動車、半導体・情報通信、船舶、物流、食料、航空機、住宅・建設物といった14分野がカーボンニュートラルに伴う成長戦略として策定されています。
2022年度予算の脱炭素化予算は約5,855億円となっています。長期的なプロジェクトのため、関連業界の業績には長期にわたりプラスに働きます。
2-4 経済安全保障
日本の経済構造の自立化を目指し、サプライチェーン強靭化、電力・通信・金融など基軸インフラにおける海外依存から脱却、重要技術の研究開発促進、安全保障上機敏な発明の特許非公開制度の整備が進められています。
新型コロナウイルス感染拡大により、サプライチェーンがひっ迫し経済が混乱しました。特に、半導体不足で自動車などの業界で生産調整を余儀なくされたため、戦略的な産業基盤を国内に確保するため半導体の国内立地法案が成立し、新たに設置された基金から助成金が実施されることになりました。
人口知能・量子・バイオ・宇宙・海洋といった先端的な技術に係る研究開発を支援する基金も設けられ、研究開発を後押ししています。
まとめ
業績が好調な業界を見つけるには、日銀短観や貿易統計といった経済統計を分析したり、政府の経済金融政策を精査したりする方法が考えられます。
日銀短観は企業の経営状況のほか経営者の心理状況が分かり、貿易統計では輸出を分析することで売上が伸びている業界が把握できます。政府予算が割り当てられる業界に関連した業種では、好業績を維持する期待もあります。
こうした業界の中から有望株を見つけて投資できれば、将来的に株価が上昇する可能性は高そうです。関連銘柄の中から利益率が高い銘柄や業界シェアが高い銘柄を選ぶと良いでしょう。
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藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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