ファンドを選ぶ際に注目することの一つにコストがあります。ファンドには、購入、解約手数料や信託財産留保額などさまざまなコストがありますが、なかでも「信託報酬」は、ファンドを保有している期間ずっと負担し続けるもので、長期投資を意識した投資家が増加する中、主要なコストとして注目されています。
そして、ETFはコスト重視で投資信託を選ぶ人たちのニーズにマッチした低コストファンドの代表として挙げられます。今回は、ETFの信託報酬の目安について、投資信託と比較しながら解説していきます。
目次
1.ETFとは
ETFとはExchange Traded Fund の略で、日本語では「上場投資信託」といいます。日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)、NYダウや金価格など「特定の指標」への連動をめざすように運用されている投資信託の一種で、株式同様リアルタイムに手軽に売買できます。例えば、日経平均株価と連動をめざすものであれば、日経平均株価に似た運用成果が期待できます。
特定の指数への連動をめざすため、運用方法はインデックス運用となります。非上場の投資信託のインデックスファンドと中身にほとんど違いはありませんが、投資家の取得方法が株式と同じという点が、非上場の投資信託と大きく異なる点です。市場の変動をリアルタイムに反映する点や取引の自由度が高い点がETFの大きな特徴といえます。
※インデックス運用:対象指数と同じ銘柄・比率で株式や債券を保有する方法や、定量的な分析によってその株式や債券の保有比率を工夫する方法、また派生商品を使う方法で、指数の動きに連動する投資成果を目指す運用手法。市場平均並みの投資収益の確保を目標としている。
2.ETFと投資信託の比較
投資信託は、投資家から集めたお金を運用のプロが株式や債券、REITなどに投資・運用し、その運用成果が投資家に還元される仕組みの金融商品で、ETFも投資信託の一種といえます。一般的に投資信託は、ETFを除いた「非上場投資信託」を指すことが一般的です。
2-1.ETFと投資信託の仕組み
通常の投資信託は、運用会社の運用方針に基づいて銘柄を構成しており、購入する際の取引価格は1日1回算出される基準価額(前日分)を使用します。一方でETFの場合は、運用会社が設定した投資信託を証券取引所に上場させることで、株式と同様にリアルタイムの市場価格で自由に売買することができます。
一般的にETFが連動を目指す指数は複数の銘柄で構成されているため、ETFの投資対象も複数の銘柄になります。したがって、個別企業の株を売買する株式投資と違って、複数銘柄で構成されているETFを1銘柄として取引するので、1銘柄に投資するだけで分散投資が可能となります。この点は投資信託と同じです。
このように、ETFは株式と投資信託それぞれの特徴を併せ持った金融商品です。
2-2.ETFと投資信託の信託報酬
信託報酬は投資信託を運用管理するための費用で、投資信託を保有している間ずっとかかり続けます。信託報酬は投資信託に関わっている販売会社と運用会社、信託銀行に分割して支払われます。
信託報酬の料率は、通常ファンド紹介ページなどにある「目論見書」で確認できます。通常は年率で記載されていますが、実際には日割りされて、毎日1回基準価額が計算されるときに、費用として投資信託の純資産総額に一定の割合をかけた金額が自動的に差し引かれます。
日本国内で売買できるETFは、日経平均株価などの指数をベンチマークとして運用しているインデックス型となっていますが、インデックス型ETFは運用会社で銘柄を選定する際の調査や手間が省けることから、信託報酬は低く設定されている特徴があります。
また、一般的にETFの信託報酬は投資信託より低く設定されています。主な理由は、投資信託は証券会社や銀行などの販売にかかわった会社も信託報酬を得る仕組みとなっていますが、ETFは証券会社などの販売会社に信託報酬を支払わないからです。 運用にかかわる運用会社と資金を管理する信託銀行だけが信託報酬を得るため、低コストでの運用が可能となっています。
リターンは毎年不確定ですが、信託報酬は毎年決められた額が差し引かれます。信託報酬は数字で見るとわずかな差に見えますが、これを長期的に運用していくと支払う信託報酬も大きな金額になってしまいます。次の項目でモーニングスターの検索機能を使って、信託報酬の傾向をカテゴリーごとに分析したいと思います。
※モーニングスター社:投資信託の格付け評価を中心として、アナリスト等による世界規模の金融・経済情報の提供を機関投資家およびセミプロな個人投資家向けに手がける企業
3.ETFの信託報酬目安
ETFの信託報酬について、カテゴリーごとの目安は以下の通りとなります(モーニングスター情報より、2020年6月ヘッジガイド編集部調査。以下数値は全てパーセンテージを示す)。
カテゴリー別・ETF信託報酬一覧
項目 | リターン | 信託報酬平均 | ||
---|---|---|---|---|
国内株 | 上位10ファンド3年リターン平均 | 6.64 | リターン上位10ファンド平均 | 0.25 |
国内債 | 3年リターンの実績あるファンドなし | – | 2ファンドのみ | 0.08 |
国内リート | 上位7ファンド3年リターン平均 | 2.83 | 全14ファンド平均 | 0.24 |
海外株 | 上位10ファンド3年リターン平均 | 6.15 | リターン上位10ファンド平均 | 0.49 |
海外債 | 上位5ファンド3年リターン平均 | 2.95 | 全12ファンド平均 | 0.26 |
海外リート | 3年リターンの実績あるファンド1つ | -4.55 | 全4ファンド平均 | 0.41 |
バランス型 | 上位2ファンド3年リターン平均 | -1.82 | 全2ファンド平均 | 0.38 |
コモディティ | 上位5ファンド3年リターン平均 | -10.64 | 全5ファンド平均 | 0.61 |
5星獲得ファンド平均(全部で19ファンド)
3年リターン平均 | 信託報酬平均 |
5.53 | 0.24 |
リターンと信託報酬の関係(上位10ファンド平均)
リターン | 上位10ファンド平均 | 信託報酬平均 |
---|---|---|
1年平均 | 22.46 | 0.42 |
3年平均 | 9.09 | 0.47 |
5年平均 | 6.06 | 0.45 |
10年平均 | 10.95 | 0.29 |
インデックスファンドの信託報酬
項目 | リターン(3年)上位10ファンド平均 | 信託報酬 | リターン(3年)平均 | 信託報酬低い上位10ファンド平均 |
---|---|---|---|---|
国内株 | 5.59 | 0.35 | 3.28 | 0.16 |
国内債 | 0.53 | 0.24 | 0.31 | 0.19 |
国内リート | 2.72 | 0.42 | 2.69 | 0.31 |
先進国株(為替ヘッジなし) | 7.14 | 0.60 | 5.17 | 0.09 |
先進国株(為替ヘッジあり) | 5.12 | 0.59 | 4.92 | 0.52 |
新興国株 | -2.17 | 0.81 | -6.68 | 0.29 |
先進国債(為替ヘッジなし) | 2.75 | 0.40 | 2.74 | 0.24 |
先進国債(為替ヘッジあり) | 2.54 | 0.51 | 2.14 | 0.25 |
新興国債 | 0.09 | 0.58 | -1.15 | 0.56 |
海外リート | -2.60 | 0.54 | -3.21 | 0.36 |
バランス型 | 2.74 | 0.47 | 2.40 | 0.17 |
4.まとめ
ETFの信託報酬の傾向をまとめると、以下のようなことが言えます。
- 国内よりも海外資産向けの方が信託報酬は高め
- コモディティファンドは信託報酬が高い
- 債券の方が株よりも信託報酬は低い
- 高くても0.50%が一つの目安
- 信託報酬が低く設定されている非上場のインデックス型投資信託と比較してもETFの方が若干信託報酬は低い
- 長期間良好なパフォーマンスを継続するファンドは信託報酬が低い傾向がある
ETFの信託報酬は基本的に低く設定されていることから、それぞれのファンドの信託報酬の差は微々たるものです。しかし、リターンと信託報酬の関係をみても分かる通り、長期間運用する場合は、信託報酬の小さな差が積み重なって、最終的なリターンに大きな違いを生んでしまっているように見えます。
一方で、ETFは普通の株式の様にリアルタイムで取引できることがメリットの一つでもありますが、売買するとブローカレッジ・フィーがかかる点には注意が必要です。頻繁に売買すると、このフィーが嵩み、低い信託報酬というメリットと相殺してしまうことがあります。
以上のような傾向を鑑み、ETFへの投資戦略を練ると良いでしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 投資信託チーム
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