アルケゴス問題はなぜ起きた?背景や株価への影響もわかりやすく解説

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3月26日に、米ゴールドマン・サックスが行った105億ドル(約1兆1,500億円)のブロック取引に、市場関係者は驚きました。過去に例がないほどの規模だったからです。そして、そのブロック取引で株式を売却したのは、「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」でした。

今回のアルケゴスによる大量の株式売却はどうして起きたのか、そして株式市場への影響は今後どうなるのかについて解説します。

※この記事は2021年4月29日時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。

目次

  1. アルケゴス・キャピタル・マネジメントはファミリーオフィス
  2. アルケゴス事件で金融機関が大きな損失を計上
  3. 個別銘柄は下落したものの全体への影響は限定的
  4. まとめ

1.アルケゴス・キャピタル・マネジメントはファミリーオフィス

今回、大量の株式を売却した「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」は、ファミリーオフィスです。ファミリーオフィスとは、資産を保有する個人や家族の資産運用を行う機関です。運用形態はヘッジファンドに近いものの、他の人の資金を扱うことはないので、顧客保護の規制が適用されません。つまり、運用を誰にも監視されないのです。

また、アルケゴスの資産は100億ドル(約1兆1,000億円)といわれていますが、実態はレバレッジ取引を利用することにより、運用規模を5~8倍に膨らませていたのです。

アルケゴス設立者のフアン氏は、かつて世界最大規模のヘッジファンドだったタイガー・マネジメントで働いていました。しかし、2012年にインサイダー取引の疑いで米証券取引委員会(SEC)から提訴され、金融機関で働くことを禁止されていました。しかし、2020年にその禁止が解除され、アルケゴスでの運用を始めたのです。

2.アルケゴス事件で金融機関が大きな損失を計上

資産運用会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントが巨額の損失を抱え、破綻のリスクが高まったことから、金融機関はディスカバリー・コミュニケーションズやバイアコムCBSといった、アルケゴス保有株をブロック取引により大量に処分しました。

ブロック取引とは、証券会社を通じた相対取引で、同じ銘柄を一度に大量に購入または売却することをいいます。大口投資家がマーケットへの影響を抑えるために利用することが多く「ブロックトレーディング」「ブロックトレード」とも呼ばれます。

アルケゴスは5~8倍のレバレッジ取引をしており、運用の失敗による担保不足のため追加の保証金(追証)を金融機関から要求されていたのです。

主な金融機関の推定損失額は、以下の通りです。

  • クレディ・スイス・グループ 約44億スイスフラン(約5,200億)
  • 野村ホールディングス 約20億ドル(約2,200億)
  • モルガン・スタンレー 約9.1億ドル(約1,000億円)
  • 三菱UFJ証券ホールディングス 約3億ドル(約310億円)

※各社発表による

大手金融機関のジェイピー・モルガン・チェースは、アルケゴスと取引していた金融機関の損失額は、全体で100億ドルになると推計しています(参照:モーニングスター)。

3.個別銘柄は下落したものの全体への影響は限定的

アルケゴスは「トータルリターンスワップ(TRS)」という手法を利用していました。トータルリターンスワップとは、金融機関が投資家の代わりに株式を購入。そして、株を買うのに必要な資金に応じて金利を受け取るという仕組みです。

金融機関は、投資家からある程度の資金(証拠金)を預かっておきます。しかしアルケゴスは運用に失敗して巨額の損失をだし、証拠金以上の損失をだしました。そして、アルケゴスは複数の金融機関と取引していたので、多くの金融機関が損失を計上する事態となったのです。

アルケゴスが保有していた銘柄は、大きく下落しました。メディア企業のバイアコムCBSやオンラインファッション小売りのファーフェッチ、インターネット検索のバイドゥなどは、アルケゴスが買い上げてどんどん上昇しましたが、処分に転じると大幅な下落となったのです。

今回、アルケゴスが証拠金不足に陥った直接のきっかけは、バイアコムCBSの株価下落でした。バイアコムCBSは増資を発表し、1株当たりの利益が希薄化(株数が増えて1株当たりの利益が薄まること)される恐れから、株価が下がったのです。

そして、金融機関の株価も下がりました。多額の損失を計上したクレディスイスは、3月29日に一時11%安となりました。日本の野村ホールディングスも株価が急落し、16%安となっています。

ただ、株式市場全体への影響は限定的でした。米国の代表的な株価指数であるNYダウは3月下旬から上昇の勢いを強め、4月には34,000ドル台を突破して過去最高値を更新。国内の日経平均株価も3万円前後での動きとなっています。

まとめ

2008年にはサブプライムローン問題をきっかけにリーマン・ブラザーズが破綻。世界的な金融危機となったリーマン・ショックの再来を危惧する声もありましたが、今のところ他社に広く波及するような問題にはなっていません。

ただ、他のファミリーオフィスがどのような運用をしているかわかりません。もし、第2・第3のアルケゴスがでてきたときには、より大きな問題になる可能性があるので今後も警戒が必要です。

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山下耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011