日本株の上昇が続く。バブルが崩壊した1989年以降、初めての高値を更新するという急騰は、何が原因なのか。シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社は7月21日発表した「33年ぶりの高値を付けた日本株-でも、なぜ?」と題したレポートで、何が今回の上昇をもたらしたのかを考察、東京証券取引所が企業価値を高めることを要請した背景などについて説明している。
日本株の上昇は日本円ベースでは他の先進国市場を上回っているが、円安の進行により、海外投資家の実質リターンは相対的に小さくなっている。その中でも、海外投資家の日本株買いが4月以降の上昇を支えたのは事実だと同社は指摘する。
海外投資家による日本株に対する投資意欲が高まった背景はとして、同社は主に2つの要因を指摘する。一つ目は、景気サイクルの観点。コロナ禍による日本の経済活動の再開は、欧米諸国に対し出遅れた。一方で、これにより、日本の株式市場全体の魅力的なバリュエーションに加え、今年度の日本企業による利益成長に対する確信度が高まっているという見方だ。
二つ目は、企業の構造的な変化・進展。きっかけは東証が今年、全上場企業に対して持続的な成長の達成と企業価値の増大に注力するよう要請したこと。この要請は、特に株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回る企業に向けられた。PBRは財務指標であり、企業の株価とその1株当たり純資産を比較するもの。1株当たり純資産は、企業の資産から負債を差し引いたもの(=純資産)を発行済株式数で除したものになる。
基本的に、1倍割れのPBRは、投資家がその企業の将来的な収益性や成長力に大きな疑問を抱いていることを示しており、よって東証は、企業に対して資本コストを計測・管理すると同時にROEを高めるべきであると特に指摘している。これについて、同社は「世界中の投資家が企業経営陣に伝えたかったトピックであり、ようやく日本企業によって公に認識されたもの」と注目する。多くの日本の上場企業のPBRは1倍を割っており、同社は「もしこれらの企業が投資家の確信度を高めることができれば、企業に対する評価が見直される可能性がある」と捉えている。
企業がPBRを向上させるための方法は、「知的財産や、持続可能な成長に寄与する無形資産の創造をもたらすR&D(研究開発)や人材投資といった取組の推進、機器や設備への投資、事業構成の再編」など。配当や自社株買いといった株主還元策によって株主リターンを高める施策も有効とされる。
同社は「日本企業はこれらの施策の全てあるいは一部を行うことができる。日本企業における『ネット・キャッシュ(貸借対照表上の現預金が有利子負債よりも多い)』状態の企業の割合は50%を占めており、これらの企業には事業に投資をする、株主還元を高める、あるいはその両方を行える余力がある」と指摘している。
日本株式市場の上昇の背景に、同社はパンデミック後の経済再開が後ずれしたことを挙げる。インバウンド需要の回復で、旅行、レジャー、ホスピタリティといった業種における小規模で国内事業が中心の企業も恩恵を得ることができる。さらに、中国のパンデミックにかかる規制の解除が、日本よりもさらに遅れたこともある。中国向け事業、中国からの観光客などの経済活動の再開は、今年の日本株に一層の追い風になると同社は見立てている。
パンデミックからの経済活動再開による恩恵は一時的なものだが、日本の回復をサポートする他の長期的要因も存在するという。インフレの再来も要因の一つ。30年間続いた低インフレ、あるいはデフレの期間を経て、現在の穏やかなインフレは「日本にとって非常に歓迎されるもの」(同社)。デフレによって、企業や消費者は、投資を先延ばしにしたり、消費を控える傾向がある。これに対し、緩やかなインフレは、企業に将来への投資に対する自信を与え、消費者にも支出を促す傾向があるためだ。「日本はもはや負のデフレ・スパイラルではなく、企業による投資の増加、賃金上昇、それに伴う消費支出の増大が持続する局面に入ってきている」と同社は期待感を込めた。
もう一つの要因は、今年の株価上昇を経た今もなお、過去の推移や他の株式市場と比較して、日本株がまだ割安と考えられることだ。同社は投資家ウォーレン・バフェット氏の名を挙げて「日本株は今、投資家にとって魅力的な投資対象」と示唆する。
レポートは最後に「今後、市場で勝ち組となる可能性があるのは小型株」と主張する。理由の一つは、経済再開から恩恵を受けるであろう国内サービス・セクターとの関連性が高いことがある。また、パンデミックが過ぎて大型株偏重だった流動性が上昇したことで、小型株に恩恵が期待できる状況となった。
「全体として見れば、短期の景気サイクルによる側面と長期的な構造変化の側面の双方が、日本株の見通し、特に小型株に対する期待を高めることに繋がっている」と同社はしめくくっている。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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