2023年10月現在、インドは米中対立を背景に、中国に代わる「世界の工場」「デジタル経済大国」を目指しています。
特に半導体産業に力を入れており、世界の半導体サプライチェーンにおいて、インドを重要な位置づけることを目標としています。半導体製造の外資系企業を誘致するために、補助金や研究開発費を提供しています。半導体製造装置のマイクロン等がインドでの生産に向け工場建設に動き始めました。
半導体産業以外においても、インド市場の成長が拡大傾向にあることから、アップルやアマゾンなどの企業もインド市場での投資拡大を予定しています。
今回は、インドがアメリカから誘致した企業や、次の市場としてのアフリカを見据えた企業の展望を解説します。
※本記事は2023年10月31日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- インド市場
- インドの経済政策
2-1.生産連動型インセンティブスキーム(PLI)
2-2.インド半導体ミッション(ISM) - インド進出/投資拡大する米国企業
3-1.マイクロン
3-2.アップル
3-3.アマゾン
3-4.テスラ - インドからアフリカ市場へ
- まとめ
1.インド市場
インドの2022年名目GDP(ドルベース)は、約3.38兆ドル(約490兆円)と英国を抜き、世界5位の経済大国となりました。国際通貨基金(IMF)の予想では、2027年には日本とドイツを追い越し、世界第3位になると予想しています。購買力平価ベースの1人当たりの収入は2021年が7,333ドルと低いため、今後の所得の伸びが期待されます。
さらに、平均年齢が27.9歳と若く購買力の高い層が多いこと、中間所得層が増加していることから消費拡大も期待できる市場です。
参考:NHK「7月11日は「世界人口デー」 インドが世界最多 人口の増加続く」
2.インドの経済政策
2-1.生産連動型インセンティブスキーム(PLI)
モディ政権が推進する政策として、「メイク・イン・インディア」や、国内製造業復興のため、生産連動型インセンティブスキーム(PLI)を導入しました。PLIは、輸入品への依存度を減らすため、国内品の売上高増加分を補助金として支払うスキームです。このスキームを通して外国企業のインド拠点・設立を引導し、インドの輸入依存度を減らすことを目指しています。
対象分野には、携帯電話、繊維、太陽光発電、エレクトロニクス、医薬品、特殊鋼、先端化学・セル電池、白物家電、医療機器、通信機器など幅広い分野が対象です。
参考:ジェトロ「主要10分野で生産連動型優遇策(PLI)を導入」
2-2.インド半導体ミッション(ISM)
インド政府は、半導体の国内事業化計画を進めています。2021年に「インドにおける半導体とディスプレイ製造エコシステムのための支援プログラム(インド半導体ミッション=ISM)を発表しました。インドを半導体や電子機器などの一大生産拠点に育て上げる政策で、半導体工場建設にかかる費用の最大50%をインド政府が助成し、半導体産業の育成に力を入れています。
鴻海精密工業とインドのベダンタは、グジャラート州に総額200億ドル規模の半導体及びディスプレイ製造工業に関する基本合意を取り交わしました。
参考:TECH+「鴻海とVedantaによるインドでの28nm半導体工場建設が具体化、用地確保にめど」
3.インド進出/投資拡大する米国企業
テスラやアマゾンなどのCEOは 、2023年6月にモディ首相が国賓として訪米した際にインドへの投資を表明しました。ここでは、インドへの投資を表明している企業を見ていきましょう。
3-1.マイクロン
半導体大手マイクロンは、最大27.5億ドル投じて、インド・グジャラート州サナンドに半導体組み立て・テスト工場を建設しました。今後は、川上分野のより高度な半導体製造事業を展開していく可能性があるとしています。実現されれば、インド国内で川上から川下までの半導体製造チェーンが構築されることになります。
参考:ジェトロ「インド電子・IT相、米マイクロンによる半導体製造への展開可能性を示唆(インド、米国)」
3-2.アップル
アップルは、中国リスクの高まりを受けて、中国からインドへの生産シフトを始めています。
インドでの中間所得層の増大を背景に、アップルのスマートフォン市場シェアの拡大を想定しています。アップルはニューデリーとムンバイに2023年4月に直営店をオープンしました。インドでのiPhoneの市場シェアは、2022年時点で5%未満と低く、シェアの拡大が出来ます。
参考:NRI「中国からインドへのシフトを進めるアップルiPhone」
3-3.アマゾン
アマゾンは2030年までにインドに150億ドルの追加投資を明らかにしました。インドでの顧客需要の増加傾向のため、クラウドインフラ向けに150億ドルのうち127億ドルの投資を予定しています。
参考:ブルームバーグ「アマゾン、インドに2.1兆円追加投資-グーグルは技術センター開設へ」
3-4.テスラ
テスラが、インドでの国内市場と輸出向けの低価格EVの生産工場建設に前向きで、自動車産業の集積地であるインド西部マハーラーシュトラ州プネに、インド初となる事務所を設立することを発表しました。インド政府がEVシフトを進める中、今後のテスラのインド国内生産の動向に注目されます。
参考:ジェトロ「米テスラ、マハーラーシュトラ州プネにオフィスを設置」
4.インドからアフリカ市場へ
アフリカビジネスにおける、インドの活用が注目されています。地理的に近いこと、市場の類似性、東南部アフリカにインド系住民が多く居住していることからインドを生産拠点とし、アフリカへの販売拡大が期待されています。
すでに日本企業のダイキンやクボタは、インドで製造した製品をアフリカに輸出し実績をあげています。
5.まとめ
米中対立を背景に、インドが注目されています。インドは、中間所得層が増加傾向にあるため、消費拡大が期待されています。PLIスキームの導入により、インド生産拠点を構築する企業や、投資を拡大する外資企業が増加傾向にあります。米国企業ではアマゾンやマイクロンなどの企業がインド進出や生産規模の拡大を表明しています。
インド市場の成長が期待されていますが、インドに生産拠点やサービス拠点をもつことで、次の市場と期待されているアフリカへの架け橋という側面もありそうです。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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