株式投資などにおいて企業分析を行う際、企業の経営状況を客観的に判断するために見る資料の一つが「キャッシュフロー」です。ただ、言葉は聞いたことがあるけれど、どんな役割があるのか、どうやって見ればいいのか、よくわかっていないという方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は企業分析には欠かせない「キャッシュフロー」の見方と分析方法について、わかりやすく解説します。
目次
- キャッシュフローの基礎知識
1-1.キャッシュフローとは?
1-2.すべての企業は決算書を作る
1-3.キャッシュフロー計算書は決算書の一部
1-4.キャッシュフロー計算書が必要な理由 - キャッシュフロー計算書から把握できること
2-1.キャッシュフロー計算書に含まれる3つのキャッシュフロー
2-2.もう1つ覚えておきたいフリーキャッシュフロー - キャッシュフロー計算書から企業を分析する方法
3-1.キャッシュフローを理解するための「+」と「-」の考え方
3-2.すべてのキャッシュフローが「+」がいいわけではない
3-3.3つのキャッシュフローで経営状況を分析しよう - まとめ
1.キャッシュフローの基礎知識
まずは、キャッシュフローがどんなものかよくわからないという方に向けて、基礎的な部分から解説したいと思います。
1-1.キャッシュフローとは?
キャッシュフローは、企業におけるお金の流れのことをいいます。キャッシュフローを英語で表記すると「cash flow」となり、文字通り「現金の流れ」という意味になります。
一般的に企業にお金などのキャッシュが入ってくることを「キャッシュ・イン」、キャッシュが出ていくことを「キャッシュ・アウト」といいます。そして、キャッシュ・インからキャッシュ・アウトを引いた収支のことをキャッシュフローといいます。
1-2.すべての企業は決算書を作る
キャッシュフローについて深掘りする前に、理解しておきたいことがあります。それは、すべての企業が決算書を作成するということです。
決算書というのは、会社の状態を数値で表した、確定申告や経営状態を判断するために作成される資料で、すべての会社には決算書を作成する義務があります。
決算書は複数の書類から構成されますが、なかでも重要視されるのが「財務3表」と呼ばれる3つの書類です。
資産や負債の状況を示す「賃借対照表(B/S)」、収益と費用(経費)の状況を示す「損益計算書(P/L)」、そしてもう1つが現金の流れを示す「キャッシュフロー計算書(C/F)」です。
1-3.キャッシュフロー計算書は決算書の一部
先述したように、キャッシュフローについて示す「キャッシュフロー計算書」は企業が作成する決算書の一部です。
キャッシュフロー計算書は、簡単にいえば「企業の家計簿」のようなものと考えることができます。つまり、企業にどれくらい現金があるのかを示す書類ということです。
ちなみに、キャッシュフロー計算書の作成が義務付けられているのは上場企業のみで、それ以外の企業は作成する必要はありません。ですが、自社の資金の流れを把握するために、キャッシュフロー計算書を作成している企業は多いといえます。
1-4.キャッシュフロー計算書が必要な理由
キャッシュフロー計算書が必要である理由は、その企業の資金状況を判断するためです。
例えば、会計上利益が発生していたとしても、その分のキャッシュがすぐに手元に入るわけではありません。利益が発生してからキャッシュ・インまではタイムラグが発生するケースがほとんどです。
また、サービスなどを提供する前に、仕入れや先行投資が必要な場合も多くあります。しかし、その投資額の全てが損失に計上されるわけではありません。
このように、会計上の損益と手元にある現金は必ずしも同じではないため、多くの利益が発生しているように見えても、仕入れの支払いやキャッシュの回収のタイムラグによって、実はキャッシュフローがマイナスになっているケースがあるのです。
手元のキャッシュがどれだけあるかによって、企業の資金繰りは大きく変化します。最悪の場合、税金や債務の支払いができなくなり黒字倒産といった事態が発生することもあります。そのため、企業の経営状態が健全かどうかを客観的に判断する資料として、資金の流れを示す「キャッシュフロー計算書」が必要になるというわけです。
2.キャッシュフロー計算書から把握できること
それでは、投資家がキャッシュフロー計算書を見ることで何がわかるのかについて解説していきます。計算書の見方を身につけて、キャッシュフローを分析できるようになりましょう。
2-1.キャッシュフロー計算書に含まれる3つのキャッシュフロー
大前提として押さえておきたいのが、キャッシュフローは以下の3つに分類されるということです。
- 営業キャッシュフロー
- 投資キャッシュフロー
- 財務キャッシュフロー
それぞれが何を表すのか詳しく見ていきましょう。
2-2.営業キャッシュフローとは
営業キャッシュフローとは、企業の本業の営業活動による現金の出入りを表します。つまり、「どれだけ儲かったのか」を示す数値ということになります。企業のキャッシュフローを表す上でベースとなる項目が営業キャッシュフローで、プラスなら本業でのキャッシュ・インが多くなっており、マイナスなら逆に現金支出が起きているということになります。
2-3.投資キャッシュフローとは
企業が有価証券への投資や設備への投資を行っている状況を表すのが投資キャッシュフローです。つまり、「どれだけ将来のためにお金を使ったのか」を示す数値となります。
企業は成長するために、さまざまなものに投資を行います。マイナスであればより多くの投資を行っていることを表し、プラスであれば投資対象となるもの(証券、土地など)を売却してキャッシュを入手しているということを表します。
2-4.財務キャッシュフローとは
財務キャッシュフローとは、企業の財務(ファイナンス)の状況を表します。わかりやすくいえば、「企業が借りたお金や返済したお金」を示します。
融資による借り入れを行ったり、社債を発行したりして資金を調達している場合はプラスとなります。一方、融資の返済や株主への配当金を支払っている場合はマイナスとなり、借入残高の多い企業や無借金経営の企業などでは財務キャッシュフローがマイナスになることもあります。
2-5.もう1つ覚えておきたいフリーキャッシュフロー
先述した3つの基本的なキャッシュフローに加えて、もう1つ覚えておきたいキャッシュフローがあります。それは「フリーキャッシュフロー」です。
フリーキャッシュフローは営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを合計したもので、「企業が自由に使えるお金」を表します。フリーキャッシュフローが多い、つまり手持ち資金が多ければプラスとなり、短期的に資金が不足している場合はマイナスとなります。
3.キャッシュフロー計算書から企業を分析する方法
それでは、キャッシュフロー計算書から企業の経営状態を分析する方法を紹介します。
3-1.キャッシュフローを理解するための「+」と「-」の考え方
キャッシュフローについて理解するために、自分を企業と置き換えて考え、お金が入るなら「+」、お金が出ていくなら「-」と考えましょう。
なお投資キャッシュフローでは、投資をすることでお金が出ていきますので「-」、資産を売却するとお金が入りますので「+」となります。財務キャッシュフローでは、融資を受ける(借り入れをする)とお金が入るので「+」、返済すると「-」となります。
3-2.すべてのキャッシュフローが「+」がいいわけではない
このように「+」と「-」の考え方を見ると、すべてのキャッシュフローが「+」であることが決していいことではない、ということになります。つまり、営業・投資・財務それぞれのキャッシュフローの「+」と「-」の組み合わせが大切になるのです。
では、それぞれのキャッシュフローの組み合わせによってどのように分析するべきなのか紹介します。
3-3.3つのキャッシュフローで経営状況を分析しよう
各キャッシュフローの数値の組み合わせによって、基本的には以下のように分析することができます。
項目 | 営業CF | 投資CF | 財務CF | 分析 |
---|---|---|---|---|
①健全 | + | - | - | 典型的な「安定志向の企業」 |
② | + | - | + | 積極的に投資をする「成長企業」 |
③ | + | + | - | 財政難を脱出した「成長企業」 |
④ | - | - | + | 積極的に投資をする「ベンチャー企業」 |
⑤ | - | + | - | 融資の返済が生命線の「不安な企業」 |
⑥不安定 | - | + | + | 経営改革が今すぐ必要な「不安定企業」 |
①では財務体質が良いことが多く、⑥に近づくほど不安定となります。
①の場合は、本業で利益を出し、投資にも積極的で、借り入れがないか返済を適宜行っていることになります。つまり、比較的財務基盤が安定している企業とみなすことができ、長期投資の対象企業となりやすいといえます。
②の場合は、本業で利益を出しながら、積極投資と融資により借り入れを行っていることから、目下成長中の企業であると判断できます。
③の場合は、利益は発生しているものの、融資返済のために資産を売却していると考えられるので、経営の立て直しを図っており、今後は回復すると見込むことができます。
④の場合は、利益はまだ発生していないものの、投資と借り入れに積極的です。経営的に攻めている企業で、本業が軌道に乗ると大きく成長する可能性を秘めているということになります。
⑤の場合は、利益が発生せず、資産の売却金を融資の返済に充てている可能性が高いといえます。この状況を乗り切れるかどうかに企業の存続が掛かっているため、やや不安な状態と判断できます。
最後に⑥の場合は、利益が出ておらず、借り入れと資産売却を同時に行っているため、資金の枯渇が推定され、経営方針の変革が求められます。つまり不安定な企業と判断できるわけです。
このように、企業のキャッシュフローを見ることで、企業の経営状態をある程度把握することができます。ただし、必ずしもこの通りになるわけではなく、キャッシュフローだけで企業のすべてを判断できるというわけではありませんので、他の指標などと組み合わせて判断することが大切になります。
まとめ
今回はキャッシュフローの見方や分析方法について解説しました。
キャッシュフローは企業のお金の流れを表したもので、利益だけでは測れない企業の健全性や将来性を推定することができます。そのためキャッシュフローがわかれば、株式投資などにおける企業分析で参考にできるといえます。本記事を参考に企業の経営状況を把握してみましょう。
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山本 将弘
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