年金だけでは不足しがちな老後の生活費の補填に、金融資産からの運用収入を考える人は多いのではないでしょうか。中でも投資信託の分配金は投資信託を保有するだけで得られるため、選択肢の1つとして考えられます。この記事では、投資信託の長期投資の運用シミュレーションを通して、分配金の特徴や注意点を解説します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 投資信託の分配金の仕組み
1-1.普通分配金と特別分配金
1-2.分配金再投資または分配金なし - 分配金の受け取りと定額取り崩しの比較
2-1.分配金を受け取る場合
2-2.分配金なし型定額取り崩しの場合 - 分配金の注意点
3-1.分配金は毎月支払われる保証はない
3-2.分配金利回りが高い投資信託に注意
3-3.分配金支払いは基準価額を下げる要因になる - まとめ
1 投資信託の分配金の仕組み
投資信託の分配金とは、運用で得られた収益を決算時に投資家に還元するお金のことです。分配金が支払われる頻度は、ファンドの決算回数によって決まります(毎月・年2回など)。預貯金の利息はあらかじめ決められた利率によって支払われますが、分配金は投資信託の運用状況によって決まるため、決算後でないと金額はわかりません。
1-1 普通分配金と特別分配金
投資信託の分配金には普通分配金と特別分配金(元本払戻金)の2種類があります。
普通分配金とは、投資信託の運用によって得られた利益を投資家に還元するものです。そのため、普通分配金には税金がかかります。これに対し、特別分配金は元本の一部を取り崩して投資家に返還するお金です。利益ではなく、元本を払い戻しているため、非課税扱いとなります。
1-2 分配金再投資または分配金なし
分配金はどの投資信託にも必ずあるものではありません。分配金がないタイプの投資信託では運用益を投資元本に組み入れて運用していきます。そのため、分配金型に比べて投資効率が高く、複利効果が期待できます。
分配金が出るタイプの投資信託でも、分配金を受け取らずに再投資を選ぶことができます。分配金を再投資すると運用資金の減少を抑えられるため、分配金を受け取るよりも投資効率が上がります。ただし、分配金を一旦受け取ると、再投資の前に課税されることに注意が必要です。
2 分配金の受け取りと定額取り崩しの比較
老後の生活資金に分配金を活用するシミュレーションをしてみましょう。リタイア時の資産2,000万円を分配金型投資信託で年間運用利回り4.0%、運用期間20年で運用するとします。
2-1 分配金を受け取る場合
まずは、分配金型の投資信託で分配金を受け取る場合を考えます。
この分配金型投資信託では、運用益をすべて分配する前提条件での試算です(税金は考慮していません)。
- 投資元本:2,000万円
- 年間運用利回り:4.0%
- 運用期間:20年
分配型投資信託の経過年数別資産額合計
(単位:万円)
年数 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 6年後 | 7年後 | 8年後 | 9年後 | 10年後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
投資信託資産額 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
受取分配金累計 | 80 | 160 | 240 | 320 | 400 | 480 | 560 | 640 | 720 | 800 |
合計 | 2,080 | 2,160 | 2,240 | 2,320 | 2,400 | 2,480 | 2,560 | 2,640 | 2,720 | 2,800 |
年数 | 11年後 | 12年後 | 13年後 | 14年後 | 15年後 | 16年後 | 17年後 | 18年後 | 19年後 | 20年後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
投資信託資産額 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
受取分配金累計 | 880 | 960 | 1,040 | 1,120 | 1,200 | 1,280 | 1,360 | 1,440 | 1,520 | 1,600 |
合計 | 2,880 | 2,960 | 3,040 | 3,120 | 3,200 | 3,280 | 3,360 | 3,440 | 3,520 | 3,600 |
まとまった元本を運用していく場合、一定以上の運用成績で運用できれば、分配金も老後の生活費の不足分を充当できる可能性があると言えます。
2-2 分配金なし型定額取り崩しの場合
次にリタイア時の資産2,000万円を分配金のない投資信託で年間運用利回り4.0%、運用期間20年で運用するとします。利益は全部受け取らずに、老後の生活費のために毎月5万円(年間60万円)ずつ取り崩します。
分配金なし型投資信託の経過年数別資産額合計
(単位:万円)
年数 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 6年後 | 7年後 | 8年後 | 9年後 | 10年後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
投資信託資産額 | 2,020 | 2,041 | 2,062 | 2,085 | 2,108 | 2,133 | 2,158 | 2,184 | 2,212 | 2,240 |
取崩額累計 | 60 | 120 | 180 | 240 | 300 | 360 | 420 | 480 | 540 | 600 |
合計 | 2,080 | 2,161 | 2,242 | 2,325 | 2,408 | 2,493 | 2,578 | 2,664 | 2,752 | 2,840 |
年数 | 11年後 | 12年後 | 13年後 | 14年後 | 15年後 | 16年後 | 17年後 | 18年後 | 19年後 | 20年後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
投資信託資産額 | 2,270 | 2,301 | 2,333 | 2,366 | 2,400 | 2,436 | 2,474 | 2,513 | 2,553 | 2,596 |
取崩額累計 | 660 | 720 | 780 | 840 | 900 | 960 | 1,020 | 1,080 | 1,140 | 1,200 |
合計 | 2,930 | 3,021 | 3,113 | 3,206 | 3,300 | 3,396 | 3,514 | 3,593 | 3,693 | 3,796 |
分配金なしの投資信託でも、利益分をすべて取り崩してしまうと再投資に回せる資産がないため、分配型と同じ結果になります。また、運用期間が長くなったり、運用利回りが高くなったりするほど、分配金受取りと分配金なし型の差は大きくなります。
比較において注目していただきたいのが、投資信託の資産額の推移です。分配金型の場合は、分配金受取りのために投資信託の資産額は増えません。これに対し、分配金なし型の運用益の一部を残して再投資していく場合、最終的な資産額が596万円増えています。
投資信託の資産額と受け取り金の合計も、最初のうちはわずかな差が年数が経過するごとに広がっているのが読み取れます。複利運用では投資額が少ないうちはわずかな運用益しか出せないため、単利との差はほとんど出ません。しかし、運用益を組み込んだ運用を続けて資産が増大するにつれ、得られる利益も増えていきます。年数が経つと分配金型との差が大きくなるのはそのためです。
取り崩す金額は必要に応じて変えられるため、運用の結果が思わしくないときや必要がないときには取り崩さないこともできます。
なお、このシミュレーションは単純化した条件の比較であるため、結果を約束するものではありません。しかし、一般的には運用益を全部受け取ってしまわずに運用に回すことで複利効果が期待できる、ということになります。
3 分配金の注意点
老後のマネープランを考えるうえで、公的年金の不足分を準備することは重要です。上記のシミュレーションでは分配金なしタイプを取り崩す方法もあることがわかりましたが、分配金型を選ぶことが間違いということではありません。ただし、分配金型には注意すべき点がいくつかあります。
3-1 分配金は毎月支払われる保証はない
投資信託の購入時は分配金の実績を参考にすることがありますが、あくまで過去の実績であり、今後の支払いを保証するものではありません。分配金は運用の成果を投資家に還元する仕組みなので、運用成績次第では減額、もしくは分配金なしということもありえます。
将来的に分配金が支払われる可能性を判断する指標としては、「分配金余力」という指標を参考にするといいでしょう。分配金余力は現在の分配金を今後何カ月来払えるかを示しています。過去の分配金実績に加え、分配金余力の月数も十分な(目安として60カ月以上)投資信託を選ぶようにしましょう。
3-2 分配金利回りが高い投資信託に注意
分配金利回りは以下の計算式で求めます。
年間分配金利回り(%)=年間分配金累計÷直近月末基準価額×100
投資信託では、運用成績が思わしくなくて利益が得られず、元本を取り崩して分配金に充てる場合があります。これが先述した特別分配金です。この場合、資産が成長していないところから分配金を払い出すため、元本が一層目減りすることになります。つまり、基準価額が下がることになり、数字上の分配金利回りが高くなるのです。
投資信託の中には運用成績が良好で分配金利回りが高い商品もありますが、中には見かけの分配金利回りが高いだけのものもあることに注意してください。
3-3 分配金支払いは基準価額を下げる要因になる
分配金は投資信託の運用資産から支払われるので、支払った分配金の分だけ、基準価額が下がります。投資信託が分配金を支払っても基準価額を維持するためには、支払う分配金以上の収益を上げなければなりません。
上述したシミュレーションでは、資産額が変わらないことになっていました。しかし、実際には運用成績は一定でなく、利益以上の分配金を支払うことがある以上、運用資産が減少していく可能性は十分考えられます。
運用資産が減ると、市場が上昇局面になっても思うように収益が得られないという悪循環になりがちです。分配金を受け取る場合、デメリットも頭に入れて運用していきましょう。
まとめ
今回は老後資金のために分配金を受け取ることについて解説しました。分配金にはデメリットもありますが、投資信託を保有するだけで受け取れるため、投資スタイルに合う人には選択肢となりうるでしょう。この記事で紹介した分配金なしの投資信託の活用も参考に、自分に合ったマネープランを考えてみてはいかがでしょうか。
松田 聡子
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