クラウドクレジットは2018年11月19日付けで、新興国通貨を中心とした通貨の分析調査を行う「通貨分析ラボ」を設置しました。海外のソーシャルレンディング案件を専門に取り扱うクラウドクレジットによる通貨分析ラボの設置は、どのような意味を持つようになるのでしょうか。その狙いや投資家に与える影響を探ってみました。
また、記事中では、クラウドクレジットの杉山智行社長のインタビューも掲載しています。海外ソーシャルレンディング案件にご興味のある方は、ぜひともお読みください。
目次
- 通貨分析ラボ設立の目的
1-1.新興国の通貨リスクを分析して軽減
1-2.多様な通貨がソーシャルレンディングで取り扱い可能に - クラウドクレジットの姿勢を他社と比較
- クラウドクレジット杉山智行社長に質問
- まとめ
1.通貨分析ラボ設立の目的
クラウドクレジットのリリースでは、通貨分析ラボ設立の目的を『新興国通貨の相場が割高であるのか、割安であるのかを判断し、得られた分析結果を投資判断の材料として提供すること』としています。
1-1.新興国の通貨リスクを分析して軽減
新興国通貨には、米ドルやユーロ、円などよりも多様なリスクが存在しています。米ドルやユーロなどの先進国の通貨に比べ、例えばトルコリラや南アフリカランドといった新興国の通貨はボラティリティ(価格変動幅)が高く、中でもトルコリラは2018年8月に大幅な下落を見せています。
この価格変動リスクの高さにより、投資家は新興国通貨を対象とした投資に慎重にならざるを得ない状態です。そこで通貨分析ラボでは、地域や国ごとに現在その通貨が割高であるのか、もしくは割安なのかの分析を行うとしています。
そしてその結果をもとに適切な金利設定を行い、通貨の暴落が起きたとしても中長期で投資家に利益を与えられる投資案件を提供することが通貨分析ラボの目的としています。
クラウドクレジットが現在取り扱っている通貨
2019年1月21日現在、クラウドクレジットでは米ドル、ユーロ、日本円などの安定した通貨だけではなく、以下のような新興国通貨建ての貸付ファンド案件を取り扱っています。
- ロシア・ルーブル
- ジョージア・ラリ
- メキシコ・ペソ
- ブラジル・レアル
- インドネシア・ルピア
- パキスタン・ルピー
- ケニア・シリング
- タンザニア・シリング
- ウガンダ・シリング
- モンゴル・トゥグルグ
こういった新興国の投資案件は、国内の個人投資家では国ごとの市況やリスクを把握することが難しく、投資先として妥当であるかどうかの判断がつかないため、敬遠する投資家も多いと考えられます。
そのように新興国への投資が敬遠される状況を避けるべく、『投資する通貨を分散しながらリスクを把握し、適切な判断の下で投資できるように』との想いで通貨分析ラボは設立されたのです。
さらに、クラウドクレジット杉山社長によると、同社では今後、以下の通貨も取り扱う予定です。
- ナイジェリア・ナイラ等のアフリカ諸国の通貨
- カザフスタン・テンゲ等のアジア諸国の通貨
ソーシャルレンディング投資家への影響
外貨建てのソーシャルレンディングでは、案件の運用が成功したとしても、最終的に為替相場の変動の影響を受けることになります。日本円に両替する時に対円レートが円安に進んでいれば、投資家は得られる利益が減ったり、損失を被ったりする可能性があります。この為替変動リスクは、特に新興国通貨で大きくなります。
しかし、相場変動リスクを吸収できるだけの金利を設定しておけば、相場の下落が起きたとしても、中長期の観点であれば利益を出すことが可能になるのです。
杉山社長が更新しているブログでは、「新興国通貨も分散投資をお願い致します」と銘打って新興国通貨について紹介しています。
あくまでもトラックレコードによる実績ですが、下図のように、高い金利を設定することで投資家は十分な利益を獲得できるとしています。
クラウドクレジットコミュニティブログ『新興国通貨も分散投資をお願い致します』より引用(出所:ロイターのデータをもとにクラウドクレジット作成)
1-2.多様な通貨がソーシャルレンディングで取り扱い可能に
通貨ごとに為替の下落を想定し、適切な金利設定ができれば、投資家も多様な国の通貨への投資機会が得られます。ソーシャルレンディング投資において投資家たちの安全志向が強まると、どうしても為替変動幅の少ない先進国の通貨建てに走りがちですが、金利=収益性が低くなってしまいます。
ローリスク・ローリターン型の投資案件だけではなく、ある程度リスクがあり高いリターンが得られる投資案件を投資家に提供すること、新興国への支援を行いたい投資家の意向に応えることも重要な取り組みです。杉山社長は『投資家に多様な新興国通貨案件の提供を積極的に今後も行っていく』と話しています。
2.クラウドクレジットの姿勢を他社と比較
このような通貨分析ラボと呼べる研究組織を社内に設けているソーシャルレンディング会社はクラウドクレジットのみと言えます。他のソーシャルレンディングと比較すると、クラウドクレジットは積極的に投資家にリスク開示をしていく姿勢が評価を受けていると言えます。
クラウドクレジットではカメルーンや東欧諸国での個人向け融資など、リスクの高い案件が存在し、残念ながら貸し倒れも発生しています。しかし、案件の運用状況については投資家に毎月連絡を行っており、投資家も状況を把握しています。そして、そういったリスクが高い案件でも、募集の勢いに衰えは見られません。
ソーシャルレンディング会社による投資家への情報開示が求められる中、クラウドクレジットは会社創設当時から積極的に情報開示を行っています。決してリスクが低いわけではありませんが、投資家としてもクラウドクレジットほど情報を提供してくれる会社であれば、安心して投資判断ができるでしょう。
3.クラウドクレジット杉山智行社長に一問一答形式で質問
今回の記事執筆にあたり、クラウドクレジット杉山智行社長と通貨分析ラボの担当者様にインタビューのご協力をいただきました。以下にその内容を記します。投資の際の判断材料としてください。
Q.クラウドクレジットではなぜ、これほど多くの新興国通貨建て案件を取りあげているのでしょうか
杉山社長(以下社長):我々も当初は、現地通貨建てファンドのリスクは高いため、投資家の方々への提供は限定的なものにすると考えていました。しかし、ロシア・ルーブル建てのファンドなどで円安が進行したことで、想定よりも大きな利益を得る投資家の方が現れ、リサーチをより深く行った結果、より幅広く現地通貨建てのファンドを取り扱うことにしました。
最近は現地通貨建て案件が人気を博しており、引き続き投資機会を積極的に増やしたいと考えています。
また、当社に投資いただいている投資家の方の中には、途上国への支援の意味での投資に関心をもつ方も多いです。そういった方の声に応えるためにも、今後も資金需要者が為替リスクを負わない現地通貨建ての新興国投資案件を増やしていきたいと考えています。
Q.通貨が適正な相場にあるのか、それとも割高/割安なのかを判断する材料には何を利用しているのでしょうか
社長:その通貨の実質実効為替レート(REER)と均衡実質為替レート(ERER)の比較を行っています。中期的には自社でERERを推定するモデルを構築して分析を行いたいのですが、短期的にはIMFやIIFといった国際機関や研究機関など信頼できるソースが公表しているデータを参照して分析を行っています。
Q.通貨分析ラボにはどういった人材が関わっているのですか
社長:自分以外に4人の担当者がいます。ゴールドマンサックス、JPモルガン、三井住友アセットマネジメントおよび新生銀行出身のスタッフであり、通貨分析にも長けている人材を揃えています。
Q.現状の相場が特に割高であり、今後、大きな暴落が予想できる通貨が現れた場合、どのように対応していくのでしょうか
社長:現在でいえば、たとえばケニア・シリングのREERがERERよりも18%程度割高になっているとの指摘がIMFからなされています。当社の活動が資金需要者のバランスシートに過度な負担をかけないよう、案件の組成を突然ストップするようなことは行わず、少しずつ投資の供給量を減らしたり、投資家の方に現状のリスクを伝えたりすることで、リスクが高い状況では自然とアンダーウェイト(資産配分比率を基準より少なくすること)されている状態を作ることを目指しています。
4.まとめ
クラウドクレジットが通貨分析ラボを社内に設立したことで、新興国通貨のネックであった高い為替リスクがヘッジされやすくなることが期待されます。これにより投資家が新興国通貨建ての案件に投資しやすくなったり、より多様な通貨建ての案件が取り扱われるようになったりする期待が持てます。
また、通貨分析ラボの設置は投資家への情報開示姿勢としても好感できます。ソーシャルレンディングがより健全な投資手法となり、より安心して投資できる対象となっていくためには、各ソーシャルレンディング会社がどのような考えの下、投資家に利益をもたらす仕組みを提供しているのかを、投資家はシビアに判断する必要があります。
その意味ではクラウドクレジットは業界内において、投資家のリスク減と情報開示に先鞭をつけた会社として評価することができます。
2018年はソーシャルレンディング業界で様々な問題が表面化した、激動の一年でした。そして、2019年に入ってもクラウドリース社で多数の返済遅延が発生しています。
2019年はソーシャルレンディング業界にとって安定の一年となり、これまで表面化した問題が解決に導かれ一般層に普及していく「ソーシャルレンディング投資元年」になることを願いたいものです。
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